ステッキを拾った。魔法少女になった(30代男性)。   作:稲荷竜

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第44話 ネタバラシ

「ホンマにこんな段階から話すのん?」

 

 ということで『マジか……』みたいな顔はされたものの、せっかくだから、最初の最初から話してもらうことになった。

 

 まず、世界は一柱の泥の神により生み出された。

 泥の神の一部が乾いて大地ができ、大地の上に生命が繁茂し、繁茂しすぎたので泥の神は『死』の概念を作り、その概念は『鋼の神』が司った。

 鋼の神は大地を上下に切り分け、その結果、空ができた。

 

 大地(色)、鋼、空。泥から生み出されたこの三つと、原初の混沌たる泥の神を合わせて四柱が、いわゆる『大神』と、妖精(妖精!? このピンクの熊が!?)の世界で呼ばれているものらしい。

 

 その後、『大神』に対して『小神(しょうしん)』と呼ばれる概念が生まれた。

 

 その『小神』の中でも現代、もっとも有名でもっとも崇められている神が『世界樹』と呼ばれるものらしい。

 その世界樹の実から妖精は生まれる。

 

 妖精本人は世界樹のことを『母』『工場』などと表現するので、クローン生産とかが彼らの感覚だと近いのかもしれない。そう聞くと途端にディストピアでなんか草生えてしまった。

 

 で、こちらの世界で言う『人類』が、向こうの世界だと『妖精』なわけだが……

 

 妖精たちは妖精たちで文明を発達させた。

 

 こちらの世界だと土器→金属→機械みたいな感じで文明の発展とともに人類の身近にある道具は変わっていき、我々人類は今日(こんにち)、基本的には『化石燃料』を費やし、電気を消費して文明を維持・発展あるいは衰退させていっているわけだが……

 

 妖精たちの世界では、『化石燃料』の代わりに『魔素(マナ)』が使われた。

 

 この魔素というものと我々の世界の化石燃料との違いは、『個人が勝手に大気中に漂う(有限の)魔素を取り込んで、魔法という現象を起こせること』だろう。

 俺たちの世界でガソリン呑んでもケツがエンジンになったりはしない。でも、妖精の世界なら魔素を取り込んで正しい術式を使用すれば、人はケツから火を噴ける。

 

 もちろん手からも火を噴ける。

 が、化石燃料文明の我々が古代でとっくに『燃料を使って火を熾す』程度のことは通過し現代はもっと高度で複雑なことをしているように、魔法世界の人たちもまた、魔素を使って、『火熾し』なんかとはくらべものにもならない、高度で複雑なことをするようになった。

 

 術式の発展、という形で様々なことができるようになった世界だが、魔素というのは有限のエネルギーであり、そして、それまでの『人体を通して魔法を使う』というのは、とてつもなく燃費が悪く、大気汚染(こちらの世界とはまた別な意味の汚染らしい)などの問題を孕む方法だった。

 

 そこで文明の高度成長期に、『魔法は道具を使って使用すること』という法律と、魔法を使うための道具が生み出された。

 

 俺たちの世界が『大気汚染に気を付けよう』『エネルギーを使いすぎないようにしよう』『地球を大事に。限りある資源を丁寧に使おう』という感じになっているのと、ほぼ同じことが起きたわけだ。

 

 しかしこれまで自分の体を通して魔法を使っていた中には、この流れに反発する者もいた。

 そういう連中が古代の創造神信仰(古代の創造神は信仰対象としてポピュラーではなく、世界樹信仰がポピュラーだった)と結びついて生まれたのが、『自分の体で魔法を使う派』の『魔術師(マギ)』という連中だ。

 こちらの世界で言う『自然派』みたいな連中らしい。

 

 とはいえ魔術師は全体としてはさほど過激とも言えず、その一派が過激で、『魔道具生産工場襲撃』みたいなことをしていたらしい。

 そこで、そういう過激派を、妖精の世界では弾圧・排除の方針で進めた。

 

 そうしたら魔術師たちは、信仰する神の欠片(泥のようなもの)を用いて『異世界』へつながる穴を空け、そちらに逃走した。

 

 その結果としてまず、俺たちの世界が見舞われた『第一次常識改変』が起こったらしい。

 

「なるほど……しかし……アレですね」

「なんやねん」

「関西弁、長い説明にはまったく向いてないな」

「そらアカンわ。ヘイト発言っちゅうやつやで。キミらが関東弁使っとるからわかりにくいだけで、関西弁に罪はあらへんやろ」

「それもそうか。すいません」

「ええで、許したる」

 

「このやりとりなんですか」

 

 なんか、俺と妖精、奇妙になんか、うん。

 世代が合うんだろうな、会話の……

 

 閑話休題(ともあれ)。

 

 異世界転移されたとはいえ、一応、魔術師は排除できた妖精の世界は、ますますの文明発展のために技術を進めた。

 が、限りある資源を使っている文明はどこも、『資源の確保』という問題を抱える。

 

 そこで、目の前の妖精に曰く『しょーもない、おもんない上層部』は、画期的な、エネルギー問題解決方法を思いついた。

 

 神を切り分け、資源とすることである。

 

 科学が発展すると信仰がそのぶん減じる、みたいな現象が、魔素とかいう不思議エネルギーを使っている世界でも、だいたい同じように起こったらしい。

 

 彼らにとって魔素はずいぶん前から『世界に漂う自然エネルギー』だったし、神というのは、宗教こそあり、実在が確信されていようとも、『長いこと、祟りも恩恵ももたらさず、ただ存在だけが観測されているもの』だ。

 

 だからこれをエネルギーにしよう、と思った者がいた。

 

 さすがに、かなりの反発があった。

 

 しかし民衆、宗教、学者などの反発は、政治家や活動家には無視されるのが常だった。

 

 かくして断行された『神を魔道具に封じ込める』という試みは、半ばまで成功した。

 

 妖精は『神器』と呼ばれることになる特別な魔道具の作成に成功した。

 そうしてまず、空の神を封じ込めることに成功した。

 

 続いて鋼の神を封じ込めようとしたが、空の神に対して発揮したような奇襲効果はなかったため、すべてを魔道具の中に封じることには失敗した。

 大地(色)の神もまた同じように失敗したし、この時、大地の神は、泥の神を異世界に逃がしてしまった。

 

 とはいえ妖精の発展もすさまじいものだった。

 空の神を欺くための方法は、泥の神の体を切り分け、その半分ほどを純エネルギーとして確保することに成功した。

 

 だが代わりに、神を封じた神器と、これから泥の神を封じるはずだった神器を、俺たちの世界に持ち逃げされてしまった。

 

 ……が、もともと『神を封じる神器』を持って逃げたため、泥の神は逃走中に、神器に封じられてしまう。

 

 どうにかすべてを封じられないようにギリギリで己の力を切り分け、俺たちの世界に広く散らばらせた。

 

 その『散らばらせた神の欠片』が、魔術師(マギ)どもに見つかり、第二次常識改変が起きた。

 これが、聖(ひじり)さんが経験した、『両親が消えた現象』を含むものになる。

 

「すいません、いいですか」

「はい鬼林(きばやし)くん、どした」

「第二次が最近の常識改変なら、第一次の常識改変って、聖さんたちが関知してないやつですよね。……この世界って、そんな昔からなんらかの常識を改変されてたんですか?」

「ボクも歴史で学んだだけやねんけど、この世界、ちょっと前までは『オカルト』が結構市民権持っとったやろ?」

「……まあ、そうかもしれません」

 

 アメリカで宇宙人を捕らえたとかいう話があったり、UFOの目撃談が多かったり、黒魔術が流行したり、そういう時代は確かにあったらしい。

 まあ俺も生まれる前の、本当に昔の話だけど。

 

「ああ、この事件やな。『1999年、恐怖の大王云々』ってあるやろ。いわゆる『終末の予言』や」

「そうみたいですね」

「それやねん」

「……え?」

「1999年、最初の魔術師がこっちに入植して、魔術師どもは、この世界にあふれるほぼ手つかずの魔素を独占するために、『魔法、超能力、宇宙人などはデタラメである』って常識改変をしたんやな。その結果、世界は終わった。ある意味で──ま、『オカルトがなかったことにされる』っちゅう終焉、世界の形の変化に伴う、それまでの形状の終焉やな。んなもん予言できるぐらいには、オカルトが実在したんやけど……連中の宗派が古くから継承してきた『神の飛沫』を全部使った、デッカイ常識改変の結果、オカルトはデタラメ扱いされるようになった」

「……え、つまり……この世界にも宇宙人未来人超能力者が実在したってこと!?」

「いや未来人は知らんけど」

 

 ……本当か、それ。

 いや……すごい。本当なのか、それ。すごいな。言葉が出ないよ、ちょっと。

『だからどうした』って言われると超困るけど、すごいよ。それ。感動してる。

 

「話戻すぞ」

 

 この世界で封印されかけた泥の神が苦し紛れに分離した飛沫は、そこらに散らばった。

 だが第一次常識改変でオカルト、不思議を『なかったこと』にされた俺たち現地人の多くは、その泥の存在感知どころか、目の前にあっても発見さえできない。

 

 が、常識を改変した側の魔術師たちは別だった。

 

 魔術師たちは自分たちが大昔に消費しきったはずの『神の飛沫』がこの世界にばらまかれているのを見て、『神が我々に力をもたらしてくださったのだ!』と誤解したらしい。

 そしてこの『力をもたらしてくださったこと』を理由に、神の意思が『この世界を手中に収めろ』というところにあるとさらに勘違い。

 維持していた異世界とのゲートから異世界のモンスターを呼び出し、それに神の泥を込めることで操作できる尖兵(もともと、魔術師たちは神の泥の扱いには習熟していたし、その使い方を伝承していた)とした。

 

 そして残る泥で、どんどん、この世界の常識を改変していった。

 

「くれあの両親が消えたりしたのは、『くれあの両親消したる』っていうことやなくて、連中が『なんか』をした結果、くれあの両親の存在が不都合やったから、『なんか』の帳尻を合わせるために消えた感じやな。個人が消えてる件のほとんどは、魔術師どものやったことの『余波』やねん」

 

 余波で両親を『なかったこと』にされたり、自分自身を『なかったこと』にされたら、たまらねえよな……

 

 魔術師は魔術師でしっかり悪だ。

 

「……が、くれあとか、いさみとかは、特別な才能があった。『神の似姿』っちゅうふうに呼ばれてる、スーパーギフテッドやな。そういう才能の持ち主は、神の権能、つまり泥を使った常識改変の影響が薄い。だから神器とも相性がいい。そういう理由で神器に選ばれて、変身能力を持ったわけやな」

 

 聖さんを見た。

 変身は、まだ、誰も解いていない。俺も──だいぶ、変身が長持ちしている。

 

 でもこれは、油断するべきじゃないから臨戦態勢を維持しているっていうわけじゃなくて、ただ、変身を解くのも忘れているだけだった。

 ……いろいろ、思うことがあるんだろう。絶対に、俺以上に。

 

 思うことがありすぎるからか、聖さんも、渚さんも、一言も発せられないようだった。

 

 だから俺が、続きを促すことにした。

 

「それで?」

「……ああ、スマンな。そんで──ボクらが派遣された。神器回収班の登場や。が、三つ、デッカイ問題が発生した。一つは、神器の回収が不可能だったことやねん」

「不可能?」

「キミらはアイテムとして使っとるけど、その神器な、キミらの魂にくっついてって、とれへんねや」

「ああ、俺の左腕のもとれなかったな……」

「なんで、とるにはキミらを殺さなあかん。……でもただ殺しただけでとれるほど甘くもないねん。神による魂への癒着やから、神の泥を集めてその癒着のはがれた形に常識を改変せんと、とれんのよ」

「……」

「そこで、魔術師たちがため込んどる『神の飛沫』を狙って、魔術師の工房を探した。弱っとるとはいえ神そのものによる『世界の形状の継ぎ足し』をどうにかするには、それなりの量の『神の飛沫』が必要やからな」

「魔術師たちがこの世界を侵略しようとしてたのは、こっちに派遣される前から知ってた?」

「いや、それが二個目のデッカイ問題やってん。知らんがな。何しとんの、あのボケら? 人様の世界に来とんねやったら大人しくしとけや。野望見せんな。マジおもんないわあいつら」

「……」

「つーか、ウィッチがブチ切れて魔術師ぶっ殺したのも、その野望のせいやろ。『おどれら、ワシの肉片使って何勝手さらしとんねん。死んで償えやボケカスぅ!』いうことやんな」

 

「そんな汚い言葉遣いはしない」

 

 自我が反論した。

 妖精は「そらスンマセン」と素直に謝った。

 

「……でもま、魔術師が侵略企てとった件は報告の結果、『連中の軍備工場そのまま乗っ取って再利用せえ』いう命令になってな、問題としては解決しとらんけど、ボクらの利にはなる展開にはなった。んで、三つ目の大問題や。……この世界に手つかずの魔素があふれとることを、ボクらの上層部が知ってもうた」

「……」

「そもそも、神器を創ったとこからして『エネルギー問題解決』のための仕儀やからな。当然、手つかずの資源が山盛りの場所とか見つけたら、そら目の色変わるわ。……あーおもんない」

「……」

「新しい命令(オーダー)の発生や。『神と神器すべてを回収、なおかつ、その世界の魔素をすべて回収せよ』言うてな。アホすぎやろ。魔素のある世界は初めてか? 魔素はコンビニのビニール袋に入るようなモンちゃうねんぞ。魔素全部回収言うたらそら──世界征服するしかないやんけ」

「……」

「言うてボクも下っ端軍人やからな。命令には逆らえんわけよ。んでまあ、向こうが戦略立てて、ボクらは条件がそろうたびにフェイズを進めて、ほんで最終フェイズの今や。こうして魔法少女に取り囲まれて尋問されとる。誰がどう見ても作戦の失敗、根本的な戦略設計のミスや」

「……」

「これで全部。なんかほかにあるか?」

「ブラック企業って異世界にもあるんだな……」

「せやで。お仲間やろ」

「で、なんであなたは命令に逆らったんですか?」

「逆らっとらんわ。失敗と反逆は明確にちゃうもんやぞ」

「断片的にしか情報を知らないんですけど、あなたがわざと、作戦遂行に不利になるような戦術をとった、みたいなのは、あなたの部下? の愚痴からなんとなくわかります」

「……」

「そうしたのは、なぜ?」

「そらアンタ、クソムカついたからに決まっとるやろ」

「……」

「ボクらは世界のために戦っとんのやぞ。……よその世界の子供不幸にして、侵略するために戦っとんのやないわ。欲張らんかったらボクらは充分生きていけんねん。技術の進歩と新エネルギーの発見を待つ程度の時間はあんねん。……それを欲かいて、アホンダラが。ほんまにおもんないわ」

「……」

「でもな、立場が弱いから、直接言えへんねん。それにボクにも生活があるしな。だから──できる範囲でクソミソにしたろ思って、こうした」

「…………」

「理解できひんやろ」

「いえ、気持ちはわかります」

「そか」

 

 妖精はふー、とため息をついた。

 それから、俺を見た。

 

「オッサン、頼みがあんねんけど」

「なんでしょう」

「ボクを殺せ」

「……」

「子供にやらせたない。でも、ボクがオッサンの立場なら、ボクみたいのは生かしておかん。あんたもそう思うやろ」

「ところで」

「?」

「泥の大部分を回収したので、ご褒美に、神様が願いを叶えてくれるらしいんですよ」

「…………」

「『世界改変まで含む願いを叶えてもらうなんて、恐れ多い……』と、以前までの私なら思ってたんですが、辞職してから、言われたんです。『働きにはふさわしい報酬があるべきだ』って」

「……」

「だから、戦いの報酬として、『願いを叶える権利』をもらい受けることにしました。リソースの範囲内で全部都合よくしてみせます。私に任せてくれませんか」

 

 妖精はため息をついて、自分の顔をぺしんと叩いた。

 それから、口元をニヤッとさせた。

 

「そんなんあるなら、はよ言え!」

 

 それはまあそうなんだが、俺もこの特典知ったの最近なんですよね。

 なあ『自我』。必要な情報ぐらい、くれてもいいんじゃないでしょうか。

 ねえ『自我』。最近わかってきたけどあんた、結構いい性格してるよな。

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