ステッキを拾った。魔法少女になった(30代男性)。 作:稲荷竜
ヒロイン名をクレリックからとってくれあにしたら某アニメと被ったことに気づいた。
直すのも何か違うのでこのままでいきます。
「お願い……私たちには、戦う力と、情報が必要なの」
大きな鎌を使う黒い魔法少女。
突然現れた彼女は、どこか疲れ果てた、人を拒絶するような目つきをしていた。
人形のようにかわいらしい子なのに。
まだ、十歳かそこらにしか見えない、幼い子なのに──まるで何十年も戦い続けたみたいに、心そのものがすり減っているみたいだった。
路地裏で倒れていた彼女の寝顔はあどけなかった。まるで、長年の苦しみから解放されたかのように。
でも、こうして目覚めると、この顔だ。……全部を信じていない、すり減った戦士の顔。こんなに小さいのに、今までどれほどの裏切りに遭ったんだろう。そんなことを思ってしまうような顔……
少なくとも、自分には想像もつかないような人生を送ってきたんだろうな、と
黒髪の子は黙ったまま、ずっとくれあを見ていた。
視線の奥にはなんらかの感情があるのはわかる。でも、くれあには、その感情がどんなものだか、想像もつかない……
ひたすら重くて、苦しくて、それから、暗い。深海を思わせる何かが、真っ黒な瞳の奥にあるのだけが、わかった。
「教えられることはない」
ぽつりと、空間に置くような声だった。
小さい。でも、はっきり聞こえる。そしてはっきり、拒絶の意識がそこに乗っていることも、わかった。
でも、くれあは退けない。
「
「……」
「『おかしい』っていうことにさえ、気づいてない。でも、確実に、おかしくなってる。……私と……それから、もう一人にだけ、『おかしい』ことがわかるの」
誰も気づいていないが、世界は少しずつおかしくなっている。
常識、認識が知らないあいだに書き換えられて、昨日まで当たり前じゃなかったことが、今日にはいつの間にか『当たり前』になっている。
魔法少女という存在が、怪物と戦う──これだって、くれあが小さかったころには、番組の中でしかなかったことだ。
でも、今はもう、ビジネス街で怪物が出て、魔法少女が出て、戦っても、それはみんなにとっての『当たり前』になってしまっている。
警察なんかも呼ばれない。怪物の相手は魔法少女がするのが当たり前だから。
ほかにもたくさんの、『昨日まで当たり前じゃなかったこと』が、『当たり前』に変化していた。
くれあは、『当たり前じゃない』ことがわかる。
でも、ほかの人たちはわからない。……常識はだんだん、捻じ曲げられて行っているのだ。
「世界を『普通』に戻すために、私たちは、異神を倒さなきゃいけないの。そのためには……力が、足りない。私たち二人だけじゃ、力も、知識も足りない。……あなたにも、力を貸してほしいし……異神を斬り裂いたあの力の使い方を、教えてほしいの」
「教えらえることはない」
女の子の言葉はさっきまでよりもずっとずっと冷たくなっていた。
視線に混じる突き放すような感じも、増えている。
黒髪の女の子はベッドから起き上がった。
そして、自分の体を見下ろして、少し固まった。
「……あ、服、私の小さいころのを着せたの。その……裸だったから……そばに落ちてたものは、一応拾って持ってきたけど……」
黒髪の女の子は部屋の隅に置いてあるスーツとバッグを見た。
どう見ても、こんな小さな子の持ち物じゃない。お父さんか、お兄さんか……社会人の服と、バッグだ。
無関係な人のものかもしれないとも思った。でも、スーツに絡まるように倒れていたから、無関係だった勝手に持って行ってごめんなさい、と思いながら、女の子と、スーツと、バッグを回収した。
「着替えさせたの? あなたが?」
「え、うん。着替えさせたっていうか、着せたっていうか」
「感謝はする」
「……うん」
「でも、教えられることはない」
「…………」
「そもそも、あなたたちが戦う必要もないと、私は思っている」
「どうして?」
「力が足りない自覚があるなら、大人しくしていたらいい。あなたたちみたいな子供が、命懸けで世界のために戦う必要はない。あなたたちには普通に生きる権利がある」
その言い方はまるで、『自分には、普通に生きる権利なんかない』と言っているかのようだった。
くれあは立ち上がった。
見つめあうと、頭半分ぐらいの身長差があった。本当に小さくて、華奢な子だ。
でも、すり減り切っていた。表情にも声にも、おおよそ、感情みたいなものがなかった。
この幼さで、どのぐらい戦い続けてきたのかは、言葉を重ねても、やっぱりわからない。
「普通に生きるために、私たちは、戦ってるんだよ」
「そう」
関心なんかなさそうだった。
でも、くれあは、彼女に自分たちが戦うことを、認めさせてやりたかった。
だから言葉を重ねようとする──のだけれど。
「っう……!?」
女の子が急に、胸をおさえて苦しみ始める。
くれあは思わず、女の子に向けて踏み出し、その小さな体を支えようとした。
「大丈夫──」
「触らないで!」
これまでにない強い拒絶に、くれあの動きが止まってしまった。
女の子はくれあの横を通り抜けてスーツとバッグを持つと、
「助けてもらったこと、感謝はする。それじゃ」
「ちょ、ちょっと待って……」
女の子が変身する。
黒いドレス。大鎌は今は出していない。
魔法少女としての姿──
──それになると、その場から一瞬にして消えた。
「…………テレポート!?」
くれあに力を与えた者によると、そういう魔法が『ある』とは聞かされていた。
でも、誰も使えない──『魔法使い』の適性がある子が見つかっていないから。
いない、と言われていた『魔法使い』の技術を使う、謎の子。
「…………名前、聞きそびれちゃったな」
くれあはため息をついた。
でも、彼女はくじけない。彼女には『力』がある。
だから、まずは……
名前を教えてもらえるぐらい強くなろう、と拳を握りしめた。