ステッキを拾った。魔法少女になった(30代男性)。   作:稲荷竜

6 / 8
第6話 おじさんに戻る

 やばいやばいやばい戻る戻る戻る。

 うおおおおおお体がおじさんに戻るうううううう!!!

 

 ふー、焦った。

 

 どうにか駅近くのトイレの個室を使うことができた。服も脱げた。

 全裸でトイレの個室に入るおじさんが誕生してしまったけど、少女の目の前で少女の服をビリビリ破きながらおじさん還りする姿を見せずに済んで本当によかった。

 

 流れで着せてもらってた少女の服をパクッてしまった。今度洗って返そう。

 

 うわ、パンツも畳んである……おじさんの洗ってないパンツを少女に畳ませてしまったのか……本当に申し訳ないな……

 

 えーっと。

 

 状況を整理しよう。

 

 まず、俺は路地裏でピンク色のステッキを拾った。そしたら魔法少女に変身した。

 黒系の魔法少女。拾ったステッキの色は間違いなくピンクのはずだ。でも、当たり前のように俺の左手首に巻いてあるこの腕時計みたいなやつ、まず間違いなくステッキの成れの果てだよなこれ。すごい念じたら変身できそうな感じがある。

 色は黒になってる。まあ、おじさんがピンクの腕時計(宝石つき)を手首に巻いてるよりは、黒の方が救いがあるカラーリングだけど……外れねえなコレ。手首とかどうやって洗ったらいいですか? 隙間はあるから頑張れなくはないか……

 

 で、変身してー……

 

 力を使いすぎる? それとも時間? で変身が解ける。

 返信が解ける際には気絶不可避の虚脱感がある。

 

 んで、変身が解けると、変身前に着てた服装に戻るらしい。バッグとかも、持ってたものは変身時はどこかに行ってるけど、解けると戻る……

 

 だけど、『変身が解ける』には段階がある。

 

 第一段階。少女の姿に戻る。

 戻るっていうか……誰? 俺の人生どこをひっくり返しても少女だった時代なんかねえんだよな。

 まあ魔法少女前の想定少女姿に戻る。

 俺は十代前半ぐらいだと思ってたんだけど、どうにも普通の女の子から見ると小学生ぐらいっぽいよな、扱いが。中学生だか高校生だかわかんない子に子供扱いされてたもんな、めちゃくちゃ。

 十歳ぐらいに見えるのかな? 腰の位置高い美人な女の子のせいで実際の年齢より大人びて見えるのかもしれない。

 

 で、第二段階。元の姿に戻る。

 今、その段階で戻った。

 

 この姿に戻れなかったらどうしよう……とか後から思うとゾッとするんだよな。

 今後の人生、女児として生きていくの、かなりハードだよ。戸籍とか。貯金も下ろせないだろうし……

 

 んで、どうにも魔法少女としての俺には、一般魔法少女にはない力があるっぽい。

 あの泥っぽいのを吸収した力と、その泥っぽいので武器強化した力だな。

 

 どうやるの? 教えて! って言われても、俺もなんも知らんので教えられることが本当にない……

 

 ただ……

 

 俺には、力があるらしい。

 あの子よりも、強い力が。

 

 わけは、まだ、わかってない。なんで魔法少女になったのか。なんであんな場所にステッキが落ちてたのか。

 世界に怪物とか魔法少女が出て、それが戦うのが当たり前──みたいな空気感の理由はわかった。怪物が悪い。なんか出ると常識改変? するらしい? すごいな怪物。

 

 で、あの女の子は、おかしくなった世界をもとに戻すために戦っているみたいだ。

 一人じゃないっぽい口ぶりだったけど、二人とか、まあ、多くても『部隊』って感じの数には到底足りないだろう。

 

 あんな女の子が。

 普通に、学生をしてていい、そのぐらいの年齢の子がだ。

 

 間違ってる。

 

 押し付けかもしれない。『大人』っていうのを勘違いしてるだけかもしれない。

 でも、あの子よりも俺の方が力があるなら、それはちょうどいい。

 

 あんな子に、危ない目に遭わせながら、『世界』なんていうものを背負わせる必要はない。

 俺がやればいい。大人が、やればいい。子供にすべてを背負わせるのを見過ごすのは、大人じゃない。そう思う。

 ちょうど、仕事を辞めて、時間もあるし。

 

 ……まあ、正直、全然なんにもわかってはいないんだけども。

 戦うのだって怖いし、好きってことも、ないんだけどさ。

 

 それでも、あんな子供を戦わせるよりは、俺が戦った方がずっといい。

 力がないなら任せるしかないんだろうけど、俺には力があるんだから。あんな小さな双肩に、世界を背負わせることはない。俺がやれば、それでいい。

 

 ……っていう意味のことを言ったつもりでいるんだけど、どうかな、伝わったかな。

 伝わってない気配がするんだよな。

 

 魔法少女の肉体でいる時、俺の意思は俺の方法で出力されてくれない。

 入力はできるけれど、実行は肉体任せ、っていう感じだ。そのせいでコミュニケーション能力に多少の不全が見られる。戦いの方は、セミオートの方が助かるんだけども。

 

 ……あー、うん。考えても何もわからん。

 とりあえず怪物を倒す。あの子らより早く、多く。

 そんで、世界がおかしい? って言うんなら、その原因を取り除く。

 できれば今月中に。……あんま間が空くと再就職が難しいんだよな。

 

 方針は決まった。

 ササッと敵の親玉を見つけてブッ倒そう。

 

 そのために、まずは、情報収集。

 

 ………………情報収集。

 

 とりあえずネットで検索するか。

 それしかできることがない。なんて無力な大人なんだろう、俺は。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。