ステッキを拾った。魔法少女になった(30代男性)。 作:稲荷竜
大事な
渚いさみは『二番目』の魔法少女だ。
この世界の異変に気付いていなかった。でも、聖くれあの戦いを見て、世界の違和感に気付いて、魔法少女の適性を得た。
もしもくれあがいなければ、ずっと、このおぞましく常識の書き換えられた世界で、何も気づかず生きていただろう。……そう考えると、恐ろしい。
だからいさみは、くれあにとても感謝している。くれあのためであれば、なんだってできる。命を懸けてもいい。そのぐらいに。
そのくれあが怒り、悔しさ、それから悲しさをないまぜにした声で通話をしてきたものだから、いさみはすぐに家を飛び出して、くれあの家をたずねた。
お土産に、くれあの好きなプリンを持っていく。お高いやつだ。いさみは、このように、くれあが遠慮しない範囲を探りながら、くれあに貢ぐのをライフワークにしていた。
家に上がってくれあの部屋へ招かれる。
……知らないにおいがした。
「『黒い魔法少女』ね」
「うん」
くれあはへたりこんでいた。せっかくのプリンにも、まだ手をつけていない。
いさみは、くれあを見下ろした。
栗色の髪の毛がふわふわしたかわいい子だ。
背はちょっと低いけど、スタイルがいい。手足が長い。それから、胸が大きい。
寂しそうな背中がどうにも抱きしめたくなっていけなかった。
でも、我慢している。いさみは、クールだという評価をくれあから受けている。その他大勢からも、クールで、まじめで、頼れる、みたいなことを言われることが多い。
その他大勢のイメージはどうでもよかったが、くれあからのイメージを崩すわけにはいかない。
だから、クールに考え、クールに意見する。
「何があったかは知らないけど、くれあの誘いを断るなんて、許せない」
クールに怒りをあらわにし、クールに憤怒をたぎらせた。
表面上クールだが、くれあを悲しませるものは、子供だろうが子猫だろうが許せるものではなかった。
「いさみちゃん、ちょっと怖いよ……」
「えっ」
くれあが笑っていた。
冗談を言ったと思われたのかもしれない。冗談のつもりはなかったけれど、いさみは、のっかることにした。くれあが笑顔でさえいれば、そのほかのことは、どうだっていい。
「……くれあは、その子と協力したいの?」
「うん。強いし……きっと、私たちの知らないことを、知ってると思う」
「……」
「それに、すごく、寂しそうだった」
「寂しそう?」
「……何かを言われたわけじゃないんだけど……ずっと、一人で、誰も信じられない状態で戦ってきたんだなって、わかっちゃった」
「くれあ……」
くれあは、人の感情をわかりすぎるところがある。
いさみはそこに救われた。でも、くれあの『そういうところ』が自分以外の人に向くのは、あまり面白くないし……くれあの心がもたないとも、思う。
「くれあ、あんまり、人の気持ちを感じすぎても疲れるだけよ。適度に、やらないと」
「わかってるんだけど……でも、助けてあげたいよ、やっぱり。……一人じゃないんだって、教えてあげたい。……そりゃあ、『常識』が変えられてるから、誰も信用できなくなるのは、わかるよ。でも、私たちなら、わかってあげられるって……それを、教えてあげたいんだ」
ここで、くれあの顎をつかんで『私のことだけ、考えてくれたらいい』と言えたら、どれほど楽だろうと、いさみは思った。
でも、そんなことができても、きっと、くれあの心そのものを変えることはできない。心を変えられないなら、意味はない。
くれあは優しすぎる。
だから、くれあの優しさが実を結ぶように手助けするのが自分の『恩返し』だと、いさみは考えている。
「……わかったわよ。くれあの好きにするといいわ。私も、手伝うから」
「いさみちゃん……!」
「それで一つ知りたいんだけど」
「なに?」
「その子、かわいいの?」
「え」
「……いや変な意味じゃなくてね?」
変な意味じゃなくてね? とは言ったものの、どう考えても変な意味にしかとれなかったし、実際、変な意味だった。
いさみは『かわいいもの』が好きだ。というか、『かわいくないもの』が嫌いだ。おじさんとか。
なので、くれあが助けたい対象が『かわいい』かどうかは、かなり、モチベーションにかかわる。
くれあは首をかしげていた。
でも、深く考えるのをやめてくれたらしかった。
「すごくかわいいよ。お人形さんみたい」
「西洋? 東洋?」
「ええ!? え、えーっと…………市松人形みたいな……?」
「うーん……まあ、実物を見る価値はありそうね」
「いさみちゃん、相変わらずだね」
「なにが?」
「なんでもない」
くれあが笑った。何かをごまかす笑顔だった。
でも、かわいいので、いさみも笑った。