ステッキを拾った。魔法少女になった(30代男性)。   作:稲荷竜

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この話は三人称


第7話 三人目(二人目)の魔法少女(三人称視点 青の魔法少女寄り)

 (みぎわ)いさみは、通話を受けてすぐさま駆け付けた。

 大事な(ひじり)くれあが悲しそうにしていたからだ。

 

 渚いさみは『二番目』の魔法少女だ。

 この世界の異変に気付いていなかった。でも、聖くれあの戦いを見て、世界の違和感に気付いて、魔法少女の適性を得た。

 

 もしもくれあがいなければ、ずっと、このおぞましく常識の書き換えられた世界で、何も気づかず生きていただろう。……そう考えると、恐ろしい。

 だからいさみは、くれあにとても感謝している。くれあのためであれば、なんだってできる。命を懸けてもいい。そのぐらいに。

 

 そのくれあが怒り、悔しさ、それから悲しさをないまぜにした声で通話をしてきたものだから、いさみはすぐに家を飛び出して、くれあの家をたずねた。

 お土産に、くれあの好きなプリンを持っていく。お高いやつだ。いさみは、このように、くれあが遠慮しない範囲を探りながら、くれあに貢ぐのをライフワークにしていた。

 

 家に上がってくれあの部屋へ招かれる。

 

 ……知らないにおいがした。

 

「『黒い魔法少女』ね」

「うん」

 

 くれあはへたりこんでいた。せっかくのプリンにも、まだ手をつけていない。

 

 いさみは、くれあを見下ろした。

 栗色の髪の毛がふわふわしたかわいい子だ。

 背はちょっと低いけど、スタイルがいい。手足が長い。それから、胸が大きい。

 

 寂しそうな背中がどうにも抱きしめたくなっていけなかった。

 でも、我慢している。いさみは、クールだという評価をくれあから受けている。その他大勢からも、クールで、まじめで、頼れる、みたいなことを言われることが多い。

 その他大勢のイメージはどうでもよかったが、くれあからのイメージを崩すわけにはいかない。

 

 だから、クールに考え、クールに意見する。

 

「何があったかは知らないけど、くれあの誘いを断るなんて、許せない」

 

 クールに怒りをあらわにし、クールに憤怒をたぎらせた。

 表面上クールだが、くれあを悲しませるものは、子供だろうが子猫だろうが許せるものではなかった。

 

「いさみちゃん、ちょっと怖いよ……」

「えっ」

 

 くれあが笑っていた。

 冗談を言ったと思われたのかもしれない。冗談のつもりはなかったけれど、いさみは、のっかることにした。くれあが笑顔でさえいれば、そのほかのことは、どうだっていい。

 

「……くれあは、その子と協力したいの?」

「うん。強いし……きっと、私たちの知らないことを、知ってると思う」

「……」

「それに、すごく、寂しそうだった」

「寂しそう?」

「……何かを言われたわけじゃないんだけど……ずっと、一人で、誰も信じられない状態で戦ってきたんだなって、わかっちゃった」

「くれあ……」

 

 くれあは、人の感情をわかりすぎるところがある。

 いさみはそこに救われた。でも、くれあの『そういうところ』が自分以外の人に向くのは、あまり面白くないし……くれあの心がもたないとも、思う。

 

「くれあ、あんまり、人の気持ちを感じすぎても疲れるだけよ。適度に、やらないと」

「わかってるんだけど……でも、助けてあげたいよ、やっぱり。……一人じゃないんだって、教えてあげたい。……そりゃあ、『常識』が変えられてるから、誰も信用できなくなるのは、わかるよ。でも、私たちなら、わかってあげられるって……それを、教えてあげたいんだ」

 

 ここで、くれあの顎をつかんで『私のことだけ、考えてくれたらいい』と言えたら、どれほど楽だろうと、いさみは思った。

 でも、そんなことができても、きっと、くれあの心そのものを変えることはできない。心を変えられないなら、意味はない。

 

 くれあは優しすぎる。

 だから、くれあの優しさが実を結ぶように手助けするのが自分の『恩返し』だと、いさみは考えている。

 

「……わかったわよ。くれあの好きにするといいわ。私も、手伝うから」

「いさみちゃん……!」

「それで一つ知りたいんだけど」

「なに?」

「その子、かわいいの?」

「え」

「……いや変な意味じゃなくてね?」

 

 変な意味じゃなくてね? とは言ったものの、どう考えても変な意味にしかとれなかったし、実際、変な意味だった。

 いさみは『かわいいもの』が好きだ。というか、『かわいくないもの』が嫌いだ。おじさんとか。

 なので、くれあが助けたい対象が『かわいい』かどうかは、かなり、モチベーションにかかわる。

 

 くれあは首をかしげていた。

 でも、深く考えるのをやめてくれたらしかった。

 

「すごくかわいいよ。お人形さんみたい」

「西洋? 東洋?」

「ええ!? え、えーっと…………市松人形みたいな……?」

「うーん……まあ、実物を見る価値はありそうね」

「いさみちゃん、相変わらずだね」

「なにが?」

「なんでもない」

 

 くれあが笑った。何かをごまかす笑顔だった。

 でも、かわいいので、いさみも笑った。

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