青い空が黒に染まっていく様を見た。
天に伸びる光の柱。生きとし生ける全てのエネルギーを費やされた魔法。
それを打ち砕いて地球を覆っていく次元の狭間。
雲が弾け飛んで見えなくなった。瞬く間に太陽は消えた。希望と共に。
ビルは崩れ、文明の遺構は塵と化していく。
地面がめくれて瓦礫を飲み込む。
目の当たりにした光景に膝をついて嗚咽を漏らす。
《終わりだよ》
否定はできない。戦いは終わった。人類は負けた。
この日、世界が滅んだ。
遠くない未来の話だった。
◇ ◇ ◇
昔、世界が滅びました。滅んじゃったので、タイムリープすることにしました。
忌々しい小動物の助けを借りて過去に跳びました。五歳でした。五歳なので保護者同伴です。家から出ることも出来ません。なんも出来ません。
「舐めてんのか?」
《僕に言わないでほしいなあ》
念話で会話する。
小動物、もとい精霊。姿を消して顔の横に浮いている。言ってしまえば、世界が滅んだ元凶。
《具体的な日時の指定はできないって言ったよね?》
「聞いた気がする」
《成功するかどうかも分からないって言ったよね?》
「聞き流した気がする」
《だから、僕に言わないでくれるかな?》
「言わずにはいられない。だって、お前のせいだもん」
《僕だけのせいじゃないよ》
「そうだね。お前らのせいだったね。死ね」
園庭の中ほどを歩きながら話をする。
記憶よりもちゃちな遊具に五歳児たちが群がっていた。
日光を避けて木陰に移動する。植えられている大きな木の根元にしゃがみこむ。足元で蟻がうごめいていた。足を動かして踏まないようにする。よじ登られたくもなかった。
「魔法少女たちに会いに行きたいのに、行けねえじゃねえか」
《行ったところで意味もないよ。何が出来るの? 大体君と同い年じゃないか》
「信頼を得ておくのは大事だと思うんだよね。それに子供だから、いくらでも洗脳できるじゃん」
《さすがだね。反吐が出る》
「ありがとう」
溜め息を吐く。あまり吐きすぎると不幸を呼ぶと聞いたことがある。だから世界は滅んだのだろうか。強烈過ぎる。
「親の目って言うのはどこにもあるんだなあ。どこにも行けないもんなあ。まいっちゃうなぁ」
《果たして、君の親は過保護なのか。そこから突き詰めていく必要があるね》
「突き詰めた先には何がある?」
《知らないの? 大人の目があるんだよ》
五歳児が一人で歩いていたら保護されるだろうか。
少なくとも迷子の疑いは付きまとう。電車なんて乗ってたら親切な人に声をかけられそうだ。そう言うのって大体人の良さそうなおばあちゃんの印象がある。
《世界が滅びる瀬戸際だって言うのに、悠長なもんだよねえ》
「まだ誰も知らねえからな」
《あと八年だよ》
「まだ時間はある」
《何も出来ずに過ぎていきそうだけど》
「それなあ……」
四年後に精霊が現れる。そうして魔法少女が生まれ、奴らが来る。
三年の戦いの後、世界は滅ぶ。
「大人を味方につけたい……」
《諦めろん》
「このくそったれな小動物を捧げれば信じてくれるだろうか」
《やめてくれ》
結局、事態が動き始めるまで出来ることはほぼない。
魔法はありまぁす、なんて主張しても五歳児の妄想でしかない。それを覆すための力を、今の俺は持っていない。
「ろくに魔法も使えないのはどういう理由ですか?」
《タイムリープで力を使い果たしましたからね。完全回復まで四年ほどお待ちください》
「まじでくその役にも立たねえじゃねえか、ゴミくそがよっ!」
《しょうがないでしょ。まだ次元が繋がってないんだ。魔力がないんだよ、この世界》
別次元から漏れ出してきた魔力でもって、人間は魔法を扱うことが出来るようになった。
ただし、新エネルギーの利用方法は一から確立していく他ない。だからより簡単な方法として、精霊と契約するというものが選ばれた。唯一の難点は、契約には相性があり、大体は十歳前後の女の子が選ばれると言うこと。
なぜ十歳前後の女の子かと言うと、精霊の琴線にドストライクだからだ。
「ロリコンが……」
《その辺の感覚が分からないんだよねえ。可愛い子に力を分け与えて何が悪いの? いいじゃん。かわいいよ。人間の女の子。まだ穢れを知らなくてさあ。穢れを知っていく過程を間近で味わえるって言うのがさあ》
「薄汚い精霊どもは全部俺と契約すればいいんだよ。そうすれば世界救えるから」
《僕もそれが一番だとは思うけど。でも、皆さんにも自由意思って言うのがあるからさ》
「ロリコンに自由と意思が必要ですか?」
《必要だと思います》
「必要ありませんね」
断言できます。必要ありません。
「俺に出来ることは何がある?」
《ない》
「おいおい、足搔いて行こうぜ。みんな死んじまうよ」
《魔力がないからなあ》
「宝くじの当たり番号知らねえか?」
《しらないね。万馬券は知ってるかい?》
「知らねえ。となると株かあ?」
《目指すはおくりびとか。わくわくするじゃないか》
「八年後には全部消えるんだけどな」
《まるで花火みたいな人生だなあ》
「たーまやー」
《かーぎやー》
溜め息を吐いて立ち上がる。
「ま、足搔くしかないわな」
《頑張れ頑張れ。マジ応援してるから。なんとかできたら感謝するから。マジ感謝》
「貴様の息の根を止めるその日まで、俺は足搔くことをやめない」
《人間如きに後れを取る僕じゃないんだなあ》
「OK。じゃあ今から自殺するから。お前も一緒に来てもらうと言うことで」
《落ち着けよ相棒。一蓮托生じゃないか。命を粗末にするなよ。僕の命でもあるんだぞ》
「他人の物は大事にするけど、お前の物だと思うと途端に汚損したくなる」
《まあ、君はそう言う奴だ》
園庭にチャイムが鳴り響く。
昼休みが終わった。保育士のおばさんが園児を室内に呼んでいる。
《目標は将来の魔法少女と接触する。大人の助けを借りる。その二つでいいのかな?》
「主に前者。後者はおいおい考えよう。魔法少女も今のうちに接触と言うか、助けとかないといけない奴がいるから、そいつをなんとかする」
《北海道だぞ、そいつ》
「ここは関東です。どうすればいいんだ……」
前途多難すぎて泣けてくる。
五歳児に出来ることがない。まじでない。
切実なほどに協力者が欲しい。誰か一人ぐらい連れて来れなかったのか? あ、全員死んでたわ。
「なんとかならないかなあ。誰かの家族がさあ、このタイミングで死んじゃうからさあ、それを予見して助けて恩を売るとかさあ。誰でもいいから財力のある奴隷が欲しいんだよねえ」
《そう言うところが好みなんだよなあ。なんで女の子じゃないかなあ。惜しいなあ》
昼休みが終われば室内で工作を行う。
折り紙でなんか作れってさ。得意です。
「なんも思いつかねえ」
《焦っても仕方がない。ゆっくり考えていこう》
手を動かしながら頭も動かす。
何も浮かばないが、考えるのを止めたらそこで命も終わる。
出来た花を隣にいた女の子に渡したら、凄く喜んで先生に見せびらかしに行った。
《かわいいなあ……》
「あれを見てると頑張ろうって思えるから、人間って言うのは不思議な生き物だ」
《これからどんどん汚れていくんだろうなあ。たまらないなあ》
朝日奈日向。五歳。
不愉快な小動物と一緒に、世界を救うべく一生懸命頑張ります。