兄が愛を知ってしまった件 作:匿名みー
わざわざ評価付与、コメント、ブックマークありがとうございます。
当然の末路だ。全て兄さんが悪い。
「10,000ポイントはお前の口座から引いておく。修理費用だ。次からは倍になる。二度と故意に破壊したりしないように」
放課後の職員室。
Dクラス担任、
黒髪ロング、ポニーテール。
顔は堀北タイプ。キツめの顔の美人だ。ただしスタイルは茶柱先生の方が勝っている。どっちも人格が終わっているのが悲しいな。
「おい、聞いてるのか」
「聞いてます聞いてます。すみませんでしたほんと、これからは気をつけます」
「全く……こんなつまらないことに対応させられる、私の身にもなれ。まさかお前、テロリスト予備軍だったりしないだろうな?」
「無差別破壊行為に興味はありませんね。大丈夫です」
「だといいがな」
俺は新しい端末を受け取った。連絡先を再登録しなきゃいけないのが面倒くさい。とりあえず連絡頻度の高い相手だけでいいか。言うまでもなく兄さんは放置で。
「
茶柱先生はパソコンのエンターキーを強く叩くと、肩肘をついてこちらを見た。
顔を少し傾けて、半笑い。他人に不快感、あるいは圧迫感を与える薄笑いだ。喋るなら普通に喋って欲しいなぁ。
「どう思うって……
さて、聞かれたことには答えないとね。
俺は思ったことをそのまま述べた。
「……? この高校は名門だぞ?」
茶柱先生は呆れた顔に変わった。
たしかに、実績は名門呼ばれるに相応しい。
国主導のこの学校は徹底した指導を行い、生徒の希望する未来にほぼ100%応えてくれる。事実として、学校側はその部分を大々的に宣伝しており、卒業生の中にはこの学校を出たことで有名になった人物も数多くいる。
「お前、誰かから陰謀論でも聞いたのか? この学校はお前たちにとって最高の場所だと思うが、まさか不満だなどと言わないよな?」
「ははは、不満ではないですよ」
隣の席の女子はレベル高いし、他の女子も可愛い子が多くて超満足。その点について不満はないよ。
冗談はさておき、先生が言ってる最高の場所っていうのは、ポイントや施設のことを含めてだろう。
敷地内はさながら学園都市で、カラオケやシアタールーム、カフェ、ブティックなど、生徒達が不自由しないよう数多くの施設が入っている。敷地面積はなんと60万平米超。頭おかしいだろ。
そして、入学初日に支給された10万円相当のプライベートポイント。この学校では現金の代わりにポイントを使うことになっている。
ポイントは学校独自のSシステムを介して利用可能で、学生証カードを専用機器にかざせばそれでオッケー。プリペイドカードみたいなものだな。金銭感覚を破壊するにはもってこいだ。
「この学校の生徒は日本の未来を担う人材だ。評価と価値がある。くく……もう少し舞い上がったらどうなんだ。10万円も貰えるなんて破格だろう?」
「その10万円がやばいって言ってんですよ。一部の金持ちは除いて金銭感覚バグりますから。知ってますか先生、一度上げた生活レベルって元に戻せないんですよ。卒業したら苦労しますよ」
そこまで待たなくても苦労は始まるわけだが、ここでそれを口にしてはいけない。確信に切り込むのは俺の役目じゃないからだ。
「ふむ。お前は保守的な男だな。そんなことだとモテないぞ。もっと豪快になってみたらどうだ」
「ははっ、いいんですか? 豪快にスマホを壊しても」
「何かを破壊しろって言ってるわけじゃない。はぁ……どこまでが冗談なのかわからないのが怖いな。もういいぞ、出ていって。繰り返しにはなるが破壊行為はご法度だからな」
「はい。このたびはほんと申し訳ございませんでした」
俺は真摯に謝罪をして職員室を出た。
不良品うんたらについてもっと深掘りされるかと思ったけど、アッサリ話が終わったな。別に言ってやってもよかったから残念だ。
不良品を量産するどころか、これじゃ正常な良品まで腐りますよね──ってね。まあ、俺は三年後にどうなるのか知らない。だから決めつけはできないけど、現時点の情報だけで考えると答えはひとつだ。
一部を除いてはゆるやかに腐っていく。能力も精神も両方。学校側は端から全員掬い上げるつもりなんてないんだろうから、こんなこと言っても仕方ないけどね。
「ん? メッセージ……?」
教室まで戻ってきたところで、ポケットの中に振動を感じた。端末のバイブだ。
新しい端末を取り出すと新着メッセージの通知が……端末を壊したところで相手側の登録が消えるわけじゃない。それは当然のことで、俺は顔をしかめながら内容を開いた。
『カラオケって楽しいなw みんなウェーイとか言ってるぞw ウェーイってw オレらしくないと思ったか? w 何を隠そう、読書と会話は心を豊かにしてくれるんだ\( ´°ω°` )/ ああ、すまないw お前に天使はいないだろうが、まあガンバレwwww ──きよたか』
きーんと耳鳴りの音がした。
少し顔が熱い。心臓が脈打っている。この感覚はホワイトルームで度々感じた、戦いの波動的な何か……!
俺は端末を握り締め、ブワッと腕を振り上げた。
「ちょいちょい! ひなりんどしたん! 先生にムカつくことでも言われた!? スマホ壊そうとしちゃダメだよ!」
異変に気付いたのは長谷部だ。
泡を食った様子で走ってくると、振り上げた腕に掴まって静止してきた。
両手でしがみついてきたものだから、うん。
女子ってなんでいい匂いするんだろうな。おかげで頭が冷えたよありがとう長谷部。ポイントあげるからもうちょいそのままで、延長を求める。
「ははは。あの先生の存在が気に食わない。ほらほらもっと背伸びしないと取れないぞスマホ」
「いや、私はスマホが欲しいわけじゃないから」
俺が冷静になったのを確認するやいなや、おっぱいはすうっと離れていった。
残念。それにしても泣きぼくろがエロい。新しいフェチが生まれそう──とか気を逸らしてみたものの、やっぱりあの清隆はイラッとするな。
「ウェーイじゃないよ! なんでもかんでも草を生やすなうっとうしい! 顔文字混ぜたってダメなんだよ!」
「!? なんのはなし!?」
長谷部がうろたえる中、クラスメイトたちはナンダドウシタとこっちを見ている。
ほんと、どうしたんだろうね。
綾小路清隆、おまえどうした。仮にロールプレイを楽しんでいるんだとしても、あまりにも気味が悪い。
俺は兄をブロックすることを真剣に検討してみることにした。精神的ブラクラだろこんなん。
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この学校は社会の縮図をちょっと歪めて、法律とか倫理観を取っ払い、そこにヤバそうな生徒を詰め込むことで完成している。
……それは言い過ぎだとは思うけれども、学校側を信頼してはいけない。時が進めば進むほど信用できる人間が減っていくのも特徴の一つだ。
本当に世紀末だね。ろくでもないよ。
さて、第一の不信イベントはもうすぐそこまで来ている。それは、ポイント支給0事件。
5月に入ったら追加で10万だと多くの生徒は信じているが、支給されるには条件がある。支給可能であっても額はクラス毎に異なる。支給にあたっては計算式が存在するのだ。
この情報は俺が持つ数少ないチートだ。事前情報は兄さんも知っているが、あの人は何もしない可能性が高い。今のところ、天使とお話出来ればそれで満足みたいだからね。5月以降は嫌でも何かしらしなきゃいけないようになるだろけど、今はまだ静観を決め込むはずだ。
『あの、彼女できないんすけど……』
帰宅後、俺は送られてきたメッセージを確認していた。差出人はうちのクラスの男子。俺の立場は
端末にちょちょっと細工をして、新しいアカウントを手に入れた俺は、一人の男子生徒をターゲットに匿名でやり取りを続けている。
端末は壊れてもアカウントは消えないが、これまでのやり取りは消えてしまった。バックアップ取っておけば良かったな。
「彼女ができないのは仕方ないだろ。まだ4月だよ4月。山内は何を焦ってるのかね」
ここまでの流れはこんな感じ。
入学式の日に、匿名でメッセージを送信。『ミカだけど元気してる?』って。山内は『誰だよ? 良かったらフルネーム教えてくれよ』と返信。
ミカは送信先を間違ったと説明。山内は信じた。そこから会話が広がり、ミカは
この学校は外部と連絡を取るのは禁止だが、それについては『ミカの在学中もやってる人いたよ〜』と安心感を与えた。山内は信じた。
「焦らなくていいよ。ミカの言う通りにすればハル君なら彼女できるし、人気者にもなれるよ! これでよし」
ミカに扮した俺は山内を励まし、助言を与え、今は少しずつ行動を変えさせている。
たとえば、上手くいかなかったと感じた会話の内容を聞いて、こうすれば良かったとアドバイスして実行させたり。効果は明確に出ていて、山内はそこそこ女子と話せるようになっている。単に話かけるだけなら前からできてたけど、俺が言ってるのは『マトモに』ってことね。ノンデリなことは言わずに、こいつウザいなとかこいつキモイなとか思われない、そんな会話のやり方を教えている。
『ありがとう! 俺、元気でたよ! でもほら、高校生って短いじゃん?』
『その前に敬語を使おうか。ミカは大学生だぞ☆』
『すみませんでした。あの、高校生活って短いと思うんで、早目に結果が欲しいなって……w』
お前も草生やすんかい。
草は長谷部や須藤も生やすけど、今はやめて欲しい。特定の清隆のニヤケ顔が頭に浮かんできて、端末を破壊しそうになるから。
閑話休題。
俺がなぜこんなことをしているのかというと、自分の代わりに操作できる人形を作るためだ。俺はリーダーになってチヤホヤされたいわけじゃないし、早いうちから目立つのはなるべく避けたい。冗談抜きでろくなことがないからね。
『焦っちゃダメ。ミカは君を信じているよ。とはいえ、そろそろいいタイミングかもしれないね。前に教えた情報、うまく使ってみようか』
山内にはミカのことを信用させ、ミカが教えたことを実行してもらう。完全に騙しているのだが、罪悪感はあんまりない。だってこれ、山内が得られるメリット半端ないからね。
ひとつ、人間関係が円滑になる。
ふたつ、周りからの評価があがる。
みっつ、上手くやればクラスのお荷物どころか、中心人物として君臨できる。
たしかに俺は全ての知識は持っていない。知っているのは原作知識のごく一部だ。だから先の未来はほとんど教えられないけど、それでも山内が山内のまま進んでいくよりは良いだろう。山内が誰の指示も聞かずに突き進んだ場合、ろくでもない未来しかない。だって嘘つきだしすぐ仲間を裏切るし、成績は三馬鹿と言われるくらい酷いしね。
『ポイントの話ですよね。でも、俺がそんなこと言っても信じて貰えないんじゃ……』
『知り合いの大学生が高校のOGで、教えてもらったってことにしたらどうかな? 今まで言い出せなかったのは、こんな話は信じて貰えないかと思って怖かって泣けばいいよ』
『いいアイデアですけど、泣くんですか!?』
『迫真の演技でね。みんなへの罪悪感を全力でかもしだして、とりあえず謝ればいいよ』
『俺、悪くないのに……』
『あは☆ 演技だって言ってるでしょ☆』
なぜ山内なのかという点については、焼きサバ定食の恩があるから、とでも言っておこう。
あれは入学二日目。学食の焼きサバ定食が売り切れて落ち込んでいた俺に、山内は気前よく食券を譲ってくれたのだ。俺は恩は返す男だから、山内の未来を明るくするお手伝いをすることにした。
一番チョロそうで操りやすそうとか思ったわけじゃないよ。本当だよ。
「ノンデリは根本的には直らないけど、隠すことはできる。すぐ剥がれるメッキはダメだけど、ガチガチに塗り固めれば嘘も本当になるんだ。てなわけで頑張れ山内。多少なりともポイントが残ればもうけもの。既に0だったとしても、来月からお前が堀北ちゃんと協力するんだ」
期待しているよ山内。
人生変えられるといいね。これは俺の本心で、この学校に対する挑戦でもある。期待値はいまのところ30くらいだ。最高値は500。がんばれ山内。
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「ポイントが支給されない可能性がある……それは由々しき事態だね」
翌日の昼休み。
屋上から青空を見上げながら、
平田はDクラスの真面目枠。髪は染めておらず顔は綺麗め、優等生という言葉がよく似合うイケメンである。
彼は山内に話があると呼び出され、今はポイントについての秘密を聞かされたばかりだ。山内はまずは平田だけに話すことにしたらしい。いきなり教壇の前に立って発表、とかそういうアホなことをしなくて本当に良かった。
「グスッ……ひ、平田。お前ってやつは、信じてくれるのか!? 俺、自己紹介の時に須藤達と一緒に、お前に酷いこと言ったのにっ」
山内は平田を拝んでひれ伏している。
目と鼻からは大量の液体が……おいおい額を床に擦り付ける必要はないぞ。う、うーん……どの程度泣けばいいか具体的に指示しなかった俺のミスだな。俺が悪い。
「ああ、やりたい奴だけでやれって言ってた……いいよいいよ。あれは僕が勝手に始めたことだし、山内君たちが気にする必要はないよ」
「ひ、平田ぁ!」
そして、俺はなぜかここにいる。長谷部は面白そうだと思ったらしくついてきた。俺と長谷部は少し離れて静観中。山内の泣きっぷりが尋常でなかったので、少し離れたくなったのだ。
「うわぁ……全部混ざって顔がやばいことになってる……てか、山内君ってあんな情熱的な人だったの?」
「みたいだねー。長谷部さんポッキー欲しい」
「いいけど最後のひと袋だから、これが終わったら補充するの付き合ってね。それから思ったんだけど、呼び方が友達っぽくないから呼び捨てにしてよー」
「はるか?」
「いきなり名前かい。まあいいけど」
俺は、長谷部をはるかと呼ぶことを許された。
順調に仲良くなれてるのが嬉しいね。この調子で友達レベルをあげていこう。最大がいくつなのかは知らないけど、まだまだ先は長い気がするなぁ。この子、一見フランクだけどハッキリ線引するタイプみたいだし、これで結構ガードが硬い。
「平田ぁ! 俺は感動しているよぉ! あんなこと言った俺に、平田ぁ!」
「うわぁ!? 待って山内君、鼻水が……いや大丈夫! まずは落ち着いてくれ。これからのことをちゃんと話そう。協力しよう!」
平田君、嫌なことは嫌と言っていいんだからね。ズボンに顔をスリスリされたりしたら、俺だったら首根っこを掴んで背負い投げする。あーあベチャベチャになってるじゃん、平田の太もものあたり。
「二人とも、放課後は時間ある? 山内君を中心に作戦会議を開こうと思うんだけど、どうだろう?」
と、ここで、平田は俺達に話を振ってきた。
作戦会議ね。まあ妥当な流れだな。内容はいかにしてクラスの私生活を正させるか、って感じか。
山内が平田に話した内容はこんなところだ。
知り合いにミカっていう高育──高度育成高等学校の略──のOGがいて、その人からポイントについての秘密を聞いた。その秘密とは、ポイントはそもそもクラスポイントとプライベートポイントの二種類があって、俺達が貰ったのはプライベートポイント。
プライベートポイントは毎月支給されるが、支給額は変動制で、クラスポイントに応じて決まる。
クラスポイントの初期値は1000だが、授業中の私語や居眠り、スマホを触った回数などに応じて減点されていき、このままだとDクラスは0になってしまう。大変だ。どうしようと焦っていたんだが、嘘つき呼ばわりされるのが怖くて言い出せずにいた。
以上。ナイスだ山内。平田君はちゃんと信じてくれているぞ。
「俺はいいよ。そこにいるだけなら。
「私もいーよ。大した意見とかは言えないけど、そこはひなりんが何とかするっしょ」
「発想力に乏しい人間なんで無理です。何とかできません。俺はいるだけだって言ってるでしょ」
「あ、あはは……助かるよ。それじゃ、僕の方でも何人か声をかけてみるから、放課後は合流しよう」
平田は爽やかな顔ではにかんだ。
よっDクラスの貴公子。甘いマスクってこのことだな。俺もキラキラした顔が欲しいよ。
「平田ぁ!」
「うわっ! 山内君、ハンカチ貸すよ! 涙を拭いて!」
「ズズーッ」
「あっ……」
平田が差し出したハンカチを、山内は真っ赤な瞳で受け取った。そして鼻をかんだ。平田は一瞬、ちょっぴり悲しそうな顔になった……。
そういうところだぞ山内。君ね、今の相手が女子だったら一発でアウト
「うっ……ないわ」
「
「むぐっ」
ほらみろ。
「ポリポリ、おぃひぃね」
「ねー。イチゴ味いいよね」
ちょっと頭を下げてるの可愛いな。ちょうどいい所に青い髪があってワシャワシャしたくなる。怒られるのは確定だし引かれてもやだからしないけど、これは見てるだけでも中々……。
「……んっ」
完食でございます。よくできました。
最後、ちょっと唇が当たって凄く柔らかかったんだけど、女子って凄いね。
「あー、苦しゅうない苦しゅうない。余は満足じゃ」
「またよくわかんないこと言い出したな。美味しかったみたいでなにより」
(それにしても……)
ポッキー食べさせるの楽しいかもしれない。
次は指突っ込んでやろう。