「△△〜!」
教室に着いてそうそう。クドが飛びついてくる。おいおいなんだい今日は私が死ぬ日かな? 正直抱きつかれるだけでもうお風呂の一件思い出しちゃって入れんな場所から滝汗なんだけどそれはそれとして飛んできたワンコは受け止めなければならないので手を広げます。
あー!! すっごい柔らかいすっごい可愛いすっごいいい匂いする!! 飛びつかれると丁度クドの頭頂部か私の顔にーー!!
「撫でてくーださいっ」
「勿論ですとも!!」
サラッサラだ……もう一片の悔いもない。可愛い。五感全てに可愛さが入り込む。一体どうすればこんな天使が世界に爆誕してしまうんだ。世界の摂理が解らない。もうちょっと他の人にも分担してあげれば良いのにとすら思えるほどの可愛さだ。
「わふ〜っ、ありがとうございました!」
とてとてと自分の席へと戻っていく。な、なんだったんだ今の積極性は……。
「○○おはよ……どうしたのそんな所で立ちすくんで」
「理樹、もしかしたら今日が私の命日かも」
「縁起でもないこと言わないでよ。本番明後日なんだからさ」
__
昼休み。
「△△〜、学食行きましょー!」
「良いよ〜〜!」
椅子に座る私に手を差し伸べる。クドは優しい子だなぁ……と、手を取ると、そのまま握って私を引き上げて、手を握ったまま歩き出す。
待って、色々追いつかないから待って?
なんで私は今クドと手を繋いでいるんだ? どういうこと?
私から握った訳でもなく、先導するクドをただ追っていく。周りから「あれ? いつもと逆じゃね?」とか声が聞こえる。そんなの私が一番言いたい。
「? △△、どうかしましたか?」
「いや……なんでも」
「そうですか、お昼何食べましょうねー」
腕をぶんぶんするも、手は話す気配が見えない。胸の高鳴りが止まらない。今日やっぱ不整脈で死ぬんじゃないかな。
__
「△△、ここですよっ」
学食に着くと、当然の如くクドの隣に座らせられる。前は空いてるし前以外も空いてると言うのに何故か隣に。
どういう事だ!? ファンサにしたって過剰だぞ!! このままでは色々と壊れてしまう!?
クドの様子はと見てみれば、プレートに収まったお子様ランチを頬張ってご満悦だった。なんでお子様ランチがあるんだこの学食高校だぞ。
あっ、クドの口元にスパゲティのケチャップが。私はいつも通り(とは言ってもこの距離感は初めてだが)ハンカチを取り出してクドの口元を拭う。
「わふっ? わ……えへへ、ありがとうございます。△△」
「どっ、ど……どういたしまして」
なんか今日のクド凄く色っぽくない!!!!??? いや、私が邪な目で見てるだけだ。間違いない。少し赤らんで上目遣いでほんのり目が細められてる気もするけど全部気のせいだそうに違いない。
……今日の昼ご飯は味がしなかった。クドの一挙手一投足が可愛すぎる。一体何があったのだろう。心境の変化? 来ヶ谷さんの入れ知恵? 西園さんからの悪影響という線もある……。
わ、私はいつも通り接するで良いのだろうか?
__
それから、放課後の練習時間まで、ずっとクドと過ごした。
練習後のみんなが何となく居る時間。私は夕焼けに照らさらながら、今日のことを思い出す。
ことある事に手を繋いできたり、撫でることを要求したり、何故か距離感の近い一日だったな。家族と離れて久しいらしいし、寂しさが爆発した日なのだろう。そういうふうに思っておくことにした。とすれば、この甘えたな態度も有り余る母性で受け止めることが出来る。今日の私は最強だ。
そう考えていると、部室の方からクドがやってくる。いいよ今日はなんでも受け入れてあげる。
「△△ー、今から部室でお菓子パーティーやるんですけど、良ければどうですか?」
「行きましょう。何か準備するものある?」
「小鞠さんが概ね準備しているので大丈夫です。楽しむ気持ちだけ持てばおっけーですっ」
と、部室の中に招かれる。当然手は繋いだまま。
部室内には、三枝が居た。着替えている途中らしい。
「キャー! っ、てなんだ□□か、驚いて損した」
「お菓子パーティーと聞いて。お茶とかいれるの?」
「それは私がしますっ。△△は座っていてください」
クドに席へと着かされる。なんか今日はお世話されてるなぁと思った。
しばらく待っていると、次に小鞠さんが到着した。
「じゃじゃーん、沢山お菓子持ってきたよ〜」
「わふー! れっつぱーりー、なのです!」
「姉御も来るかな〜っと」
三枝も着替えが終わったようで、席へと着いて菓子を物色し始めた。そこにクドがいれてくれたお茶が到着する。
「ふー、今日の練習を頑張ったね〜」
小鞠さんも着替えを初めた。練習中はスパッツを履いてるようで。いちいち大変そうだなぁ。
「みんなもう何も気にしないんだね」
「そりゃあクド公以外興味ないんでしょ?」
「勿論だけどさ」
「ふっふーんっです」
「よかったねぇクーちゃん」
そう言って、小鞠さんはスパッツに手をかける。そこでノックの音。
「みんないる?」
理樹の声だった。
「あー、入っていいデスヨ」
「えっ良くなくない?」
そんな私の声は小鞠さんの悲鳴で掻き消される。
どすんっ。ばたんっ!! がたたたたーっ!!
おーすっごい倒れてる。そんなことを思っている間に扉が開き、理樹とパンツが全てまろび出ている小鞠さんが対面した。
「……えーと。ごめん」
パタン。
「う、うああああーーーーーんっ!! 見られたぁーーーっ!!!」
取り敢えず中の散らかった物を片付けて、もう一度理樹を呼ぶ。
「はるちゃんひどいよっ!!全然入ってよくなかったよっ!!」
「あ、いやー。私が全然オッケーだったから、つい。まあ理樹くんもラッキーだったってことでどうかひとつ」
「ひ、ひとつもどうもしないーっ!! 今度は全部見られたぁーー一っ!!」
「こ、今度はですか?」
「理樹……お前再犯なの?」
「いやまぁ」
「え……前にみせたの?」
小鞠さんがわっかりやすく狼狽える
「え、ええっ? み、みみ見せてないよ〜っ」
「ちょっとした事故で」
「……ほんとにごめん」
「あ、うん……」
こいつら大概アバンチュールなことしてるのね……見直したぜ理樹。
「うん……見なかったことにしよう」
小鞠さんが続ける。
「見られなかったことにしよう。うん、おっけー」
「今日は水玉でしたネ」
「いやあれはいちご柄なんじゃ」
「あっ馬鹿理樹引っかかるな」
「うあああああーーーーんっ!!」
「だ、大丈夫ですよ小毬さんっ!! 私には見えませんでしたっ!!」
……何のフォローにもなっていない。
「まあいいじゃんいいじゃん。ぱんつくらいさつ。元気出してっ」
「……じゃあはるちゃん平気なの?」
「え? そんなんヤに決まってんじゃん。めっちゃ恥ずかしいし」
「うああーーんっ!! やっぱり恥ずかしいーーっ!!」
__
お菓子を食べてなんとか小鞠さんは落ち着きを取り戻す。どうやら理樹は絵本のことについて聞きに来たようだ
「私もちっちゃい頃大好きでした〜」
「じゃあ現役で好きなんだ」
「はいっ、今でも好きですっ」
……違う、クド。額面通り受け取るんじゃない
「……今のは『現役でちっちゃい』ってバカにされていましたかっ!?」
「いやいや馬鹿にはしてませんヨ。ただまあ、ミニマムだなぁと」
「うぅ…ちーさいことはいいこともあるのです……わんだふぉー・すもーる・じゃぱんですよー……」
「いい事って、例えば?」
「それはですねー」
クドは私の方をチラリと見る。すると、クドは自分の席から立ち上がり、私の膝元へと腰をかけた。
「人を椅子にしても怒られません!」
「いや……あ、あの……クドさん……」
「やめてあげなよクド公! もう□□のライフはゼロよ!」
「怒らないのも○○はってだけだしね」
「積極的になったねぇクーちゃん」
アァっ……クドの臀部が……私の腿にダイレクトで……ぐ、ぐおっあ……。
この拷問はクドが満足するまで続いた。すっかりへとへとになりながら私は帰路に着くのだった。
__
夜になると、またメールが届く。どうやら恭介からのようだ。『至急、リトルバスターズ集合。渡り廊下にて待つ』
……あっやしー。
とはいえまぁ、バスターズ集合と書かれているということで、クドに会いに行くため、私は制服へと着替え校舎に向かった。
__
「よし、揃ったな」
恭介は言いながら、私達の前に立つ。
「はいっ、恭介さん、質問ですっ」
「何だ、小毬」
「私なんで集まったのか聞いてないのです」
「まあ、そのほうが色々盛り上がるだろ」
「うーん?」
昨日のメールみたいに場合によっちゃ直帰も辞さないぞ。
恭介と理樹が横断幕を広げると、そこには『第一回リトルバスターズ肝試しでホラー・NO・RYO! 大会』と、書かれていた。まぁなんと夏っぽい。5月だっつーの。初夏だろ。
あと何故か謙吾が乗り気だ。もうこいつの存在がおばけだろ。
「はい、恭介さん、私も質問ですっ」
「なんだねクド君」
「キモ試しとはなんでしょうか?」
「クーちゃん、それはあれだよ。こう、キリで指の間をだんだんだんってつついて見たり、タバコ の火を目にどれだけ近づけられるか試すんだよ」
そこで小鞠さんがハッとしたように口を隠す。
「って恭介さんそんなのやるですかー!?」
「やるですかー!?」
「いや……やらんが……」
仔細を聞いてみれば、昼間のうちに色々学校に仕掛けたから、それを回ってこいとの事。チェックポイントの札を持って帰ってくればゴール。西園さんが怖がってる。こういうの平気そうなイメージがあったから意外だった
「……まあ、そういうわけでメンバー編成な」
「どうやって決めるの?」
「あ、わりい、考えてなかった」
「おまえ、必ずなんか忘れるよな…」
「俺含めずに10人だからな、2.2.3.3で別れるか、2.4.4で別れるか」
「で、出来れば人数の多い方に……」
「じゃあ2.4.4にするか。チーム分けは……」
正直ホラーは平気な方。びっくり系でも無ければ何とかなる。西園さんが四人組に入った以上、残る席は2.4.3。つまりクドと共に居れば確定的に一緒に回れるということだ。よし早速誘いに行こう。
「クド、一緒に行こう」
私は自然にサラッと手を差し出す。「はい、一緒に行きましょー!」と、手を取ってくれたらミッションコンプリートだ。あとは理樹でも連れていくか。
さて、クドの反応はと言うと、その手をぽかんと見つめたあと、私の顔をよく見て、そっと私の手を取る
「……はい」
……あれ思ってた反応と違うな(二回目)
「じゃあそこがペアだな。後はどうする」
「いや、ちょっと待て恭介」
「それで大丈夫ですっ」
「クド!?」
「どうせこうなると思ってたし、後はアミダ作って決めようか」
「理樹!?」
「クーちゃんっ、ふぁいとー!」
「ふぁいとー、なのですっ!」
……2人、デスカ。いや、前より色々あって耐性が着いてるはず。大丈夫だ、私。今日を無事に乗り越えるんだ。
そう、どれも等しくミッション。自分にかせろ。
ミッション……スタート!
__
というわけで探索開始。真っ暗な校舎内に侵入する。
勿論手は繋いだままだ。どうしてこうなった。
暗い校舎を恭介から支給された懐中電灯で進んでいく。私は暗闇とかそんなんじゃなくて今日のクドがいちばん怖いよ。なんでこんなにくっついて来るのさ。今も、繋いだ手を折りたたんでいくように少しずつ少しずつ距離が詰まっていく……。
だが、私のクド耐性はこれまでの経験で格段に上がっていると言っても過言ではない(少々荒療治な気もするが)。その証拠に、手を繋いで居るというのに体がカクつかないのだ。
そうして余裕が出来ると、逆に心配になってきた。だってそうじゃん、普通に考えて暗い校舎は怖いもの。このスキンシップが恐怖によるものであるとすれば、同行人として立候補してしまった以上私が気張る必要がある。
私は一度歩みを止めて、クドの目線までしゃがむ。
「……△△? どうしましたか? なにか着いてますか?」
「クド、私が隣に居るからには誰一人クドには近づけさせない。こうして一緒の間は、あらゆる恐怖からクドを守るからね。安心して」
そう言って、繋いだ手を見せて、いつも通り頭を撫でる。これで少しでも恐怖が紛れたら幸いだ。
クドは撫でられたまま私をじっと見つめると、途端にもじもじしながら話を切り出す。
「だったら……その、お願いなのですが」
「なんだいなんだい。何でも言いな?」
クドはつないだ手と私を交互に見ながらこう言った。
「腕を抱きしめても、よろしいでしょうかっ」
マジか。いやマジか。
「おっ、ぐ……え、ええよ」
振り絞った声でそう言う。やっぱり今日が命日かもしれない。
「本当ですかっ!」
パッと明るくなった顔のクドは、遠慮なしに私の腕を抱き込む。少々歩きにくいが構わない。むしろ構うのはクドの胸が思いっきり腕に当たってるのとそこから鼓動が伝わってくることだすっごい早いよこれどっちの鼓動かわかんない、いや私だろうけどさ。
「これでくらやみも怖くありませんっ」
私はクドが太陽に見えるよ。太陽って本当は触れちゃ駄目なんだよクド。私は今現在ジリジリ焦がされてる最中なんだ。
と、そこで恭介からメール。『一枚目は理科室。後は札にヒントが書いてある』
私たちは傍から見たらまるでカップルのような格好のまま、理科室へ向かった。
__
「ここか」
「ふんいきがありますね……ぷるぷる」
「いくら恭介でも、下校時刻からそんな凝った仕掛けが作れるとも思えないけど……あれか」
私は机の上にあったお札に手を伸ばす。瞬間。
がだがたっ
がこんっ!!
「ひやっ……!!?」
咄嗟に何かに抱きつく。何か小さくて柔らかいもの。
「え、えっと……△△……?」
直ぐに抱きしめた物がクドだと言うことに気がついた。私がさっき居た場所には、ロッカーから飛び出してきたガイコツの標本が落ちていた。
……び、びっくりしてねーけど。
【○○は『自称ホラー耐性高い』の称号を得た!】
「……ごめん」
「い、いえっ、突然だったので驚いただけで……いやではーではーではー……」
その場で膝を着く、
私は自分が情けないよ。突然のびっくり系にこんな醜態を晒してしまうなんてさ。情けないったらありゃしない。申し訳が経たない。
「大丈夫ですよっ、そ、それに……△△にもこんな一面があるなんて……その……」
クドが口元を隠す、が、にやけが隠しきれていない。くそう可愛いな。笑いたかったら盛大に笑ってくれたまえよ。そうして話のネタになるんだ、三枝に一生バカにされる所が目に見える。
「今度は私が△△を守ってあげますねっ」
私を立ち上がらせると、もう一度クドは私の腕に抱きついた。可愛い。そして安心する。そして可愛い。クドなしでは生きていけないことが痛感してしまう。
「ありがとう、クド」
私からも少し抱き寄せて、次の札がある音楽室へと進んだ。
__
音楽室。部屋に入るとどこからとも無く謎の音楽が流れ始める……!
まぁテープか何かかな。
「わふーっ! なんだか不気味な音なのですっ!!」
「テープかレコーダーかラジオか……あ、ラジカセだ」
「と、止まりましたかっ!?」
クドは器用に私の腕と自分の手を使って耳を塞いでいる。もうこの距離感も違和感なくなってきたよ。
「これで大丈夫っ、と」
ピアノの裏に貼ってあったお札を剥がす。
こういうのは得意なんだけどな、私。
__
美術室。デッサン用のブルータスの目が光る……!
「わぁあー!!」
クドがいっそう強く私の腕を抱きしめる。
「画鋲だねこれ……クドー?」
あぁフリーズしてますねこれ。一先ずお札は取れたので、落ち着くまで待って次へ。
__
4階、恭介の教室。
「流石に自分の机以外って事はないだろうな……」
恭介の机を漁ると直ぐにお札が出てきた。
ぴちゃ……ぴちゃ。
おん? 何か赤い液体が垂れてきている。上を見ると、そこには人の腕が……!!
これはちょっとクドには見せれないものかもしれない。だが今から目を隠しに行っても間に合わない……とすれば、やむを得まい……!
私はクドを正面から抱きしめるように顔ごとそれを隠す。今までに無いくらいの距離感に私の心臓は直ぐにでも爆散してしまいそうだが背に腹はかえられない。
「……△△っ!? な、一体、ななな何を……!」
「すっごい怖いから見ちゃダメ。お札は取れたからこのまま帰るよ」
「は、はは……はい……っ」
鳴り止まない心臓の音。私はどれだけドキドキしてんだ。それこそ、まるで音が二重に聞こえる程に。
私たちは恐る恐る出口へ向かっていった。
__
「お、早かったな」
「言うても2人だからね。効率よく取ってきたよ」
と、強がってみる。
「楽しいのと怖いのが半分半分でしたっ……でも、たまには良いですね」
「随分楽しそうじゃないか」
恭介が腕に絡みついたクドを指摘する。それでようやく気がついたのか、クドは私から離れて、照れくさそうに皆の方へ戻っていく。
結局チーム分けは旧バスターズと女子会に別れたようで、女子会チームが最後に到着した。
「小鞠達のチームが最後か」
「す、すすすすっごいこわかった〜」
「小鞠ちゃんがあのカップル追いかけようとか言うからデスヨ。反省しろー」
「だって〜、校長室にあんなのがあると思わなかったんだもん〜」
「あぁそうだ恭介氏、あのトラップは破壊してしまったが問題は無いか?」
「は?」
恭介が不思議そうに来ヶ谷を見る。え、何怖い。
「いや、は? では無いが。小鞠君が壁から生えてくる腕に捕まって手間取ってしまったんだ」
「……」
「……何青ざめてるのさ」
「……俺、そんなとこに何も仕掛けてないんだが」
全員が沈黙し、この肝試しは終わりを告げる。
見なかった方が良いものもあるものだ。