色々あって、休日が凄く久しく感じる。
私は出来る限り思いつくオシャレを施して商店街の方へと向かった。
これって……これってデートじゃん? 休日にお呼ばれして遊びに行くなんてそんなのデートじゃん?
なんて期待は既に捨ててきた。買い物に行くと言うのであれば、クドの体躯では荷物持ちもなんにんか必要だろう。多分理樹とか真人とかも居る。あくまでも私はうんぱんマンとしての任務を果たすだけだと胸に留める。
『ノーヴィ・バイコヌール基地よりの映像でした』
『では次のニュースです』
『西アジア紛争による原油高に端を発した経済不況は主に無資源国を直撃しており』
『一部地域においては政情の不安定化が加速……』
『……国連安全保障理事会はナウル共和国をはじめとするオーストロネシア諸国の請願を受け……』
リビングのテレビからそんなニュースが聞こえた。いつも通り、興味の無い内容だったが、何故かそのニュースをひとしきり聞いてから私は玄関の戸を開けるのだった。小雨が降っているから、折り畳み傘でも持っていこう。
__
集合時刻の少し前、既にクドは来ていた。もう少し早めに家を発つべきだったなと反省する。
「おはよクド。今日も可愛いね」
「あっ、△△。おはようございますーっ」
「随分早いね。他の人はまだ来てないの?」
「他の人?」
クドは少し考えて、納得いったようにして口を開く。
「今日は二人だけです、お付き合いありがとうございます!」
……天を仰いで顔を手で覆う。もう無理なんだけどマジでもうどれだけ私にこんなに都合が良い。ここって夢の中何じゃないだろうか。この亜麻色の妖精はどれだけ私の心を掴めば気が済むのだろう。
じゃあ行こうか。そんな声は出る訳もなく、私は手を差し出した。なんで手出したんだろうあっ手繋がれたヤバい毒されているこの状況が普通な事に。
そうして私がひとしきり悶えまくって居ると、何かに気がついたようにクドが口を開く。
「あ、ちょっと待っててください」
クドは上着のポケットから封筒と切手を取り出と、舌をちょこん、と出して二枚の切手を軽く舐め、封筒の右上にぺたり、と貼った。切手になりたいと思った。
葉書に使う50円切手。 それから右隅が紫色な鳥の絵柄切手。あまり見たことのない切手だ。
「手紙出してきます」
クドは集合場所から少しだけ離れたところにある郵便ポストに向かって走っていった。
「ただいまです、△△」
「おかえり、クド。どこ宛?」
「……お母さんにです」
「お母さん?」
「はい。日本には居ないので、こうして手紙で」
なるほど、あれはエアメールと言うやつなのだろう。送っている所は初めて見た。海外に知り合いのいる人と言うのも、周囲では余り見かけない。
「では、行きましょうっ」
それから、しばらく雑談をしながら街を歩く事になる。何故か手を繋ぎながら……。
「それで、何をお買いに?」
「枕ですー。やっぱりおじい様の木の枕は首が疲れますので……」
「あれは……そうだろうね。クドはどんな枕が好み?」
「そうですね__」
枕への拘りを熱く語るクドが可愛いと思いながら聞く。ないふ・ぴろ〜! じゃないよキュン死しちゃうよ。
そうして生活用品店に足を向けて、枕を見繕ってきた。
「ちょっとかさばるな、私持つよ」
「すみません、本当に。ありがとうございます」
クドが買ったのは、そば殻の袋と枕カバーだった。それとは別に紙袋を抱えているところを見ると、何か買ったらしい。私はそれには触れずに言った。こういう買い物は色々聞くと藪蛇ということを姉との会話からよく知っている。
「このそば殻を詰めるんだよね」
「はい、そうです。数年でぺちゃんこになっちゃうので、入れ替えしなくちゃなのですよ。あとは虫干しとかも必要です」
「植物だからな、虫も湧くのか……」
枕の中身にわっさと虫がいる所を想像してゾッとする。
「パイプ材が中身だとそういうのも必要ないんですけど。△△はお好みの枕、ありましたかっ? ボディピローをいくつか見てたみたいですけど……」
ボディピローとは抱き枕のこと。最近の抱き枕って腕枕の形したやつとか色々あるんだなーとか思いながら見てた。
「面白いのが多くてさ。あぁ言うのよく眠れるのかな」
「ど、どうなんでしょう?」
「……?」
「い、いえ、抱きつきながら寝たことがないのでわからないです……」
「クドは抱き枕どう? 好き?」
「あ、いえ、好きじゃないこともないこともないのですが、というより、やったことがないのでやっぱり好きか嫌いかもよくわからなくってっ。あぁぁ、でもやってみたいです、是非っ」
なんだかまくし立てるクドが可愛い。なんだこいつずっと可愛いな私が抱き枕になるよ」
「ふぇっ!? い、いいんですか、じゃなくてえーと……」
あっやべぇ口に出てた。まぁ隠すほどのことでもないか。
「良いよ、遠慮しなくても。何時でもウェルカム……」
「じゃあっ、その……こんどよろしくおねがいします……」
……冗談を真に受けることが増えたね! いやあながち冗談でもないし全部本気何だけどさ。純粋で可愛いから良いや。
少し前からずっとクドはこの調子な気がする。顔赤いし熱でもあるのだろうか。そいつぁまずいな。
__
商店街の出口へ向かおうとした時、クドの手につられて足が止まる。
「クド、何見てるの?」
立ち止まったそこは家電屋だった。携帯のパンフを見ているよう。
「△△。すみません」
「最近また新しい機種が出たのか。直ぐ出るな」
こうもサクサク新しくなってくとどのタイミングで機種変すればいいのか分からなくなる。
「実は先ほど、水没させてしまったのです……」
「あちゃ。顔洗ってる時とか?」
「はい……電源入らなくなってしまいました。新しいの買わなくちゃです」
クドは載っている写真を指差す。
「△△が使っていたのはこれですよね」
「そうだね。よく見つけた」
「どうしてこれなんですか?」
「どうして……か。高校の入学祝いで貰ったものだから、特に理由は無いかな」
「そうなんですか……」
「クドは手ちっちゃいから、持ちやすい方がいいかな」
「例えばどれですか?」
「結局見た目が一番な気はするけど……ここ、パンフレットに手を当ててみて?」
「こうですか?」
「そうそう、実物大だからわかり易い」
「なるほど〜」
「前使ってたやつは?」
「ええと、ええと、こういうやつです」
指を指した先はストレート型だった。
「うん、大体このくらいか。申し込みって確か購買部でも出来たから、今度申し込もうね」
「はい、そうですね」
と、そこで横断歩道に差し掛かる。信号は赤のまま。
しかしクドはパンフレットに夢中で歩みを止めずに居る。
私は反射的な繋いでいる手を引っ張って抱き留める
「わふっ!? な、なんですかまだ日の高いうちでー……」
ぶおん、と風切る音がして車が目の前を通り過ぎる。
「信号赤だったから。ごめん急に」
自分の危機察知能力に感服。よくやった天才すぎる。尋常じゃないくらい動いている心臓を落ち着けるため、一息吐く。
「す、すみません……ありがとうございます」
「危ないから、帰ってから読もうか」
「そ、そうですね、はい、そうします」
私の腕に抱き止められる身体。これまでは直ぐに思考が飛んで行ってしまって何も思い浮かばなかったが、危機を乗り越えた安堵感が私に落ち着きを持たせた。
(……やっぱりちっちゃいな。力込めたら折れちゃいそうなくらい)
愛しい体温と可憐な髪。それに私はずっと魅了されていたんだ。こんなにも素敵で可愛らしい妖精のような存在がこの世に存在していることが疑わしい。手を離したら直ぐにでもどこかへ飛んでいってしまいそうな程の儚さすら感じる。
「そ、その……△△。もう青です」
「えっ、あ。ごめんね?」
直ぐに解放して歩き出す。願わくば、私の気持ちが伝わりませんように。もう二度と失いませんように。この子の行く末が幸せでありますように。切り取った日常の風景に、ふとそんなことを思った。
「……そういえば△△。青信号で緑色ですよねぇ?」
「そうだねぇ」
「でも赤信号は赤ですよねぇ……」
なんか面白いですよねーと笑う彼女を心底愛おしいと思った朝だった。
__
さて、今日はホットケーキパーティの日。3時から開催という事なので、前もって準備にでも向かおうも思う。その辺で材料を買い、着いた時刻は2時半だった。
学食のテーブルでは、ボウルやなんかの調理器具が広げられていた。さすがにキッチンは使わせてもらえなかったのか、カセットコンロがいくつか用意されている。
その前で小毬さんとクドのふたりが、準備を進めているようだ。
「よぅしっ、沢山頑張るぞー」
「頑張るのですー!」
「お疲れ二人とも」
「あっ☆☆。材料買ってきてくれてどうもありがとうございますっ」
「いえいえ、私も準備手伝うよ」
「えぇ? いいよいいよ。材料も買ってきてくれたんだからさっ」
「クドが手伝ってるのに私が座ってるなんて許せない」
「☆☆はいつも通りだねぇ、じゃあクーちゃんと一緒に、そっちのボウルでたまごまぜてー」
「心得た」
「はいっ」
「あせらないでいいから、ゆっくりね〜」
もうすぐだからがんばろー、といつも通りまったりした雰囲気。小鞠さんはこういう所が癖になる。
「もうすぐだからがんばろー」
「あ、はいっ、急ぎますっ」
クドはどさどさ音を立てて粉をボールに入れていく。
「は、は……」
いかんクドがくしゃみの予備動作をハンカチやティッシュを出してる暇は無い仕方ないから腕でいいや。私はクドの眼前に腕を出す。
「くちゅんっ」
あっ、クドの唾液とか……いややめとこ、全年齢だし。私はクドの体液で濡れた腕をハンカチで拭く。
「わっ、びちゃびちゃです! ごめんなさい……」
「いやいやむしろありがとうと言うか」
そんなところで理樹と真人もやってきた。流石気遣いのできる男だ。
「僕も手伝うよ」
「助かる理樹」
私は新しいボウルを理樹へ渡す。
「んじゃ、オレは何をすればいいんだ?」
「うん、じゃあ真人君はみんなの分のお皿用意してきて〜」
「おう、任しときな」
そんな感じで、私達五人で準備することになった
__
理樹と小鞠さんがなんか良さげな雰囲気の中、横を見るとクドが泣きそうな顔で顔中にホットケーキミックスをつけていた。舐めとってやりたいところだがその気持ちを全力で抑えて、洗ったハンカチで顔を吹く
「おてんばさんで可愛いねぇ」
「か、かんたんなこともできません〜」
「え、えーと……ほら、だいじょうぶだよっ」
「だいじょうぶですかっ」
「うん、だいじょうぶっ」
「はい、だいじょうぶですっ!!」
仲良いなこいつら。癒し空間が生成された。
それからしばらくして、初期バスターズのメンバーが揃う。鈴が手伝ってれるらしいお前本当に成長したな!
理樹からボウルを奪い取った鈴の手腕を見て、クドもコツを掴んだようだ。この調子なら準備もすぐに終わるだろう。
程なくしてメンバーも全員揃い、焼き始めにコンロは小鞠さんが用意したふたつと、理樹が持ってきたふたつを合わせて4つだ。小鞠さん、クド、凛、私とで焼き始める。
作ったのは小学生以来だが、美味かった記憶はあるんだ。
__
「じゃ、とりあえず開催の音頭を取っておくか」
「うん、恭介さんお願いします〜」
「いや? 今日は小毬の主催だからな。当然、音頭も小毬が取るべきだ」
「ふええっ!? わ、私っ!?」
確かにそう。小鞠さんが企画する事は珍しいし、丁度いい機会だ。恭介の言葉に皆が小鞠さんを注目する。
理樹が何やら励ましているぞ。いい感じなんじゃないかあそこ。
「え、えーと……えーと……。こ、これより、第一回みんなでホットケーキパーティを開催しますっ。みんなでいっぱい食べちゃってくださいっ」
わー、という歓声と拍手。みんなに愛されてます。小鞠さん。
「はぁ……こういうのは緊張するよ〜」
「いや、よく出来たんじゃないか」
「えへへ、そうかなぁ〜」
「こまりちゃん、がんばった」
「うん、ありがと〜」
愛されてます。小鞠さん。
それからさらに待つこと数分。クドのフライパンに置かれたホットケーキが頃合いらしい。小鞠さんはフライパンのフタを開けると、箸を刺して焼け具合を確かめる。
「うん、だいじょうぶ」
「わかりましたっ」
クドはテーブルに突っ伏している程に待ちわびた真人へ駆け寄る。
「井ノ原さんっ、焼けましたっ」
私も焼けました、ヤキモチっつって。クドの手料理をいのいちに食べる事が出来た真人に並々ならぬ嫉妬心を放ちつつ、こちらの焼き具合も確認する。そろそろ良さそうだ。
「これ焼けたかな」
と小鞠さんに聞いてみる。
「うん、おっけーだね。私のも出来ましたっ」
一足先に小鞠さんがみんなにホットケーキを振る舞う
「それ全部貰ったーっ!」
三枝が駆け出し、小鞠さんのホットケーキをひったくる。
「おいこら待てぇっ」
そこに謙吾の一喝。
「そいつは俺も楽しみにしていたんだぞ」
「はぁ。じゃどうすれば」
私のやつを食べればいいんじゃないか?
「こうだ」
しゅばっ、しゃきーんっ!
謙吾は包丁を構えると、フライパンのホットケーキを翻し、華麗に空中でホットケーキを八等分にした。
いやだから私の食えってば。
「フレンドシップ……みんな、仲良くだ」
今の謙吾にはツッコミどころが満載されている。やっぱこいつ変になっちゃったんだ……。
しゅっ。
そのうちの一枚を放り、葉留佳さんの皿に見事に載せる。
「おおっ……」
「わ~」
ぱちぱちと拍手をする。
「できたぞ」
ぶっきらぼうに鈴が理樹へとフライパンを差し出す
「あ、うん」
「お、じゃあ俺もご相伴に預かろうか」
ふたつに切り分け、それぞれ理樹と恭介の皿に乗る。棗兄弟も仲良く素敵な事だと思った。とと、私の方もいい加減仕上げなければ。と、思いきやいつの間にか私のホットケーキは何処へか。探してみれば、当分されていないホットケーキがクドの皿に乗っていた。
「クー公お前ばっかデカイの持ってズリぃぞ!」
「井ノ原さんにも一枚丸々あげたじゃないですかっ」
「くそ……○○、俺にももう1枚くれ!」
「しゃーないな、しばし待たれよ」
クドもそんなに食べたかったか。まぁ頑張って準備してたからな。いっぱい食って大きくなれ……。ちっちゃいままでも良いけど。
数にも余裕が出てきたから私も食べる。久々に食ったら美味いものだ。ここにある添えるジャムは小鞠さんのお手製らしい。クオリティが高い。
手作りのジャムと聞いて、クドのお礼に頂いたコケモモのジャムを思い出した。私もなにかお礼するべきかなとか考えつつ、騒がしい周りを無視しながらホットケーキパーテイは続いていく。おい三枝クドを回すなお前を縦軸に回してやろうか。さあさクド、こちら全種トッピング大盛りついでに家から持ってきたホイップもかけたスペシャルホットケーキですぜ。おあがりよ。
……あ、小鞠さんが理樹を追っていったぞ。理樹には新しい称号を着けてやる
【理樹は『なんか良い雰囲気』の称号を得た!】