好きな人を選んでね!
一つため息をつく。今日の英語ムズくない? まぁまぁしんどかった。クド大丈夫だったかなぁと目線を向けると、小鞠さんと頭をつきあわせてさっきの授業の復習をしていた。
「This little pocket watch is geared to our style. はい、続いてぷりーず」
「でぃすりとるぽけっとうおっちいずぎあーどぅとぅーあうあーすたいるー」
「この場合の gear はぴったりとか調整された、っていう意味合いで使われているんだよー。じゃあ、慣用句としての in top gear の意味はなんでしょー?」
「はい!」
「うん、元気元気。じゃあクーちゃん、答えをどうぞ」
「だいぶおあーだい、ですーっ」
うん。絶対に違う。しかし、こうして学ぶ事へ意欲的なのは盛大に褒められるべきことである。クドも外国っぽくなる為に努力しているのだ。にしたってあいつら可愛いな。
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授業の途中でルーズリーフが切れてしまった。落書きしすぎたかな。授業中に横目で見えるクドを模写していたらいつの間にかそこを着いていた。
しゃーないので休み時間に購入。在庫ラストで運が良い。などと思っていれば、見知っためちゃんこきゃわいい顔が購買部から出てくる。
「ハロー、クド」
「はい、はろーです。お買い物ですか?」
クドも何やら買っていた様子。注文票について聞くと、家庭科部のストックと答えた。結局家庭科部は引き継ぐことにしたらしい。……何故か和食?が多い。干ししいたけ、かつおぶし、昆布など
「昆布はですねぇ、昆布巻き用です」
「昆布巻き? なかなか渋いところを」
「そうですそうです。マルテン堂の昆布はとても美味しいので、北の本場で採れたものはミネラル食物繊維たっぷりですっ。ん一っ、思い出したら食べたくなってきましたっ」
どうやら学食の昆布が物足りなく、得意料理なので作ってみようかと、ということらしい。
「クドは和食得意なの?」
わくわくと声を弾ませているクドに意識が緩んで、そんなことをふと口に出してしまう。
「え、あ……はい」
クドは小さく微笑んだ。その笑みを見て、直ぐに後悔した。あまりに意外そうに笑ったように見えたのだろうか?
でも、クドは私の内心に気がついてないかのように、にこにこしながら続けた。
「オムレツ焼くより、だし巻き玉子作るほうが得意ですよ。自分で言うのもなんですが、クドリャフカお手製玉子焼きはお昼の時間引く手あまたなのです」
まさにメジャーをねらえますよっ! とクドは嘯いた。可愛い。
クドの手料理食べてみたいなーなんて言いながら、私達は教室に戻って行った。
__
休み時間、教師に呼ばれた。何の用だってんだい藪から棒に。
「今日の日直……は頼花か」
「はいはーい、なんでしょう」
「教卓の上にある申し込み用紙を配っておいてくれ。本当なら説明をしないといけないんだが、帰りのHRにする臨時の職員会議がこのあと入っているんだ」
「……はい、了解です」
頷くと、教師は足早に出ていく。
「☆☆。どうかしたの?」
「会議があるから用紙配っておいてって」
「うーん? そうなんだ。配るの手伝うよ」
日直のペアだった小鞠さんに半分渡して、二手に分かれて配り始める。教室がざわざわ。ごめんな。なんの申し込み用紙かは、すぐに分かった。実力テストらしい。
この学校のテスト制度については割愛するが、まぁやるだけやっといた方がいいテストだ。
「☆☆は受ける?」
「受けようかなとは思ってるけど……クドが受けないなら受けない」
「☆☆らしいね」
周囲を見渡せば、真人は突っ伏してて、謙吾は既に片付けて瞑想? 鈴は難しい顔をしていて、理樹は迷っているようだ。
来ヶ谷さんは我関せず、西園さんは申込用紙に書き込んでいる。クドは……。
「……ど、どうしたの?」
「せしや〜(試験だ〜)」
その場でフリーズしていた。
「どうもです、△△……」
「具合悪い? 救急車呼ぶ!?」
「い、いえ。さっきまで何ともなかったのですが」
クドは用紙に視線を落とす。
「……今はちょっとゆううつです」
「なるほど、これか」
「はい……あんまりテストは好きではないのです……」
「私も好きではないけどね」
編入試験の方では、レポートの方で評価して貰えたようだ。それと、やはり英語への苦手意識なので辟易しているそう。じっさい英語の授業も散々だった。
このしょんぼりしたクドをそのまま抱きしめてやりたい衝動に駆られるが、教科担任が入ってきたのでそれも叶わず、また後でと言い残して自分の席に戻った。
__
昼休みの学食。クドは申込用紙を見ながらため息をつく
「クド、パスタ伸びるよ?」
「はぁ……」
大きなため息。吸いたい
「クドーっ?」
少し近づいて呼ぶ。
「は、はい……ええと、どうかしましたか?」
「パスタ伸びちゃうから。食べさせる?」
「はい、そうですね……はぁ」
あぁ完全に上の空だ。仕方ないから自分のどんぶりを先にかき込む。天丼はよく見るけどコロッケ丼はあまり見ないな。
「あの、△△」
「うん、どうしたの?」
「これに申し込みをしないとどうなるんでしょうか」
「直ちにどうにかなるってことはないかな」
ただ、期末考査が一発勝負になったり色々面倒なことになるのは間違いないと伝える。来ヶ谷さんのような規格外の人なら、わざわざこんなテスト受ける必要はないのだが。
「そうなんですか……」
オンラインで問題が配布されるので、申し込みから実施日まで時間もなく、申込用紙の期限は明日までとなっている
「……一発勝負だとさらに泥沼にはまり込みそうです」
「滑り止めと言う意味もあるし。受けるに越したことはないと思う」
一発勝負はあまりに危険だ。それで留年が決まるとかシャレにならない。
「☆☆とクーちゃん、こんにちはー」
「ありゃ、もう食べ終わっちゃった?」
「あれ、今からお昼ご飯?」
「うん、いっしょに食べよ~」
理樹と小鞠さんが一緒にくるこいつら最近ずっと一緒にいるな。
それから次第にテストの話になる。小鞠さんも理樹も受けるようだ。
「クーちゃんは?」
「……」
クドはしょんぼりしたまま、申込用紙をわきにおいてパスタを箸で食べる。器用だな。
「クーちゃんすごいね一。箸ですごいきれいに食べてるよー。でもフォーク使わないの?」
「箸のほうがいいらしい」
クドが箸を使ってパスタを食べている、という姿は一般的には非常に違和感を覚える光景だった。
「っくん……受けたほうがいいですよね……やっぱり」
「うーん……」
小鞠さんはスプーンの柄を自分の顎に押し当てて考え込んでいる。
「どうしても嫌だったら、無理に受けることもないんじゃないかなあ」
「その代わり期末考査が余計大変です……」
「先送りしてるようなものだからね」
「今の大変さを取るか後に託すか……」
クドは再び箸を止め考え込んでいる。
「そういや小毬さん、朝、日直日誌先に取りに行ってくれてありがとうね」
「ふえ? あ、ううん。それくらいだいじょうぶだよ」
それから考えてる間。小鞠さんと理樹と適当な談笑を繰り広げていると、クドが顔をあげる。
「……ぅーん……決めました」
「って、パスタがでろんでろんになってますっ!?」
「ごちそうさまでした」
意外とお腹にたまるコロッケ丼を平らげる。
「しかも△△が食べ終わってますっ!?」
「あ、クーちゃん決めたの? ……ほわー、フルーツヨーグルトサンドはやっぱりおいひいねぇ」
「小毬さんがいつの間にか隣にっ!?」
「随分考え込んでたみたいだからねぇ」
「リキもいます!?」
「は、はろ〜、小毬さん。リキ。はう・あー・ゆー?」
「はい、はろー、クーちゃん。I'm fine thank you」
「いや、挨拶のところから会話しなくていいから」
「で、どうするんだいクド?」
「あ、はい。受けることにします……」
クドはさっきとは別次元の悲しさをたたえた表情でずるずるとパスタを食べている。口元をハンカチで拭ってやる。
「あんまり難しく考えないほうがいいよ、クーちゃん。……あ、そうだっ」
小毬さんがぽむ、と手を叩く。
「いいこと思いついたよ~」
「いいこと?」
「クーちゃんが、勉強したい教科を誰かといっしょにやるんだよー。私は英語ならいっしょにできるよ。ゆいちゃんはなんでも得意だし。真人君も保健体育ならきっと得意だと思うよっ」
「えっ、あいつそんな得意科目なんてあったの?」
「ひとを送り込むのは慣れてそうだけど、自分ではからっきしじゃないかな……」
「☆☆達も勉強色々できたよね」
「得意科目は無いけど……」
「うん、不得意科目もないよ」
我ながら情けない。一点特化よりは安定して点取れんだい。
「どうかな、クーちゃん?」
「でも、みなさんもテスト勉強があるのではないでしょうか?」
「だいじょうぶ、教えながら復習もできるし、一石二鳥だよ」
「確かにそういう部分はあるね」
「クドと勉強できるなら効率は二倍だ」
「それは○○だけだから」
「寮の誰かの部屋に集まってやるのも、きっと楽しいよ」
「せっかくの寮生活なんだし、そういうことやらないともったいないと思うんだ」
寮生活はそう言うのが便利だな。友達が目と鼻の先にいると言うのは良いものだ。私は身を引きましょうかね。
「☆☆もお家緩かったよね、お泊まりで一緒にしようよ〜」
身は引きません!!
「布団持ってくから理樹の部屋貸してもらえる?」
「一人部屋の余ってるところ貸してもらいなよ……西園さんとか来ヶ谷さんとか」
「じゃあ西園さんだな」
「即決だね」
「い、良いんですか!?」
「土下座して頼み込む。手土産も持っていこう」
西園さんは……まぁ、なんか適当に薄い本持っていけばいいか。さて、話を戻して勉強会だが、こうなってしまえば反対する余地もなし。元から反対しようともしていなかったが。クドはどうだろう?
「……で、では、ご迷惑でなければ、お願いしたいです」
クドはぺこん、と頭を下げる。撫で回したい。
「うん、おっけーだよ」
「ありがとうございます〜っ」
小鞠さんがそういうと、クドはようやく笑顔を見せた。やっぱりクドにはその顔が一番似合うよ。
__
それから教室に戻り、なんやかんや女子達全員も参加する事に。
放課後。早速テスト対策をしよう。
「さて、テストは1週間後。効率よくやっていこうか。クド」
「はい、宜しくお願いしま……いえす、まい・べすと・りがーず」
「おーけーおーけー。さて、クドは誰と勉強したい?」
本当はもう全部独り占めしてやりたいところだが、私一人では教えられる範囲も少ないので、あと一人か二人程居ると助かる。このためにしこたま勉強しておくべきだったとすら思った。
「はぇ!?」
おやビックリマーク。自分の意見が聞かれるとも思っていなかったのか。私が選ぶと偏りが出そうだしな。
「えっ、わ、私が選んでいいのですかっ…だ、誰、と言われましても…」
「誰でも良いよ。クドの好きな人で」
「す、好きな人!? え、そ、それはその、そんなこと訊かれても困るとゆーかっ。いえ、困るというか別に困りはしないのですが、しかしでもその何故!?」
「何故……と言われれば、クドの好きな人の方が捗るかなって」
「はか!? はかどりゅ!? 墓まで!? どぷりゃー効果!?」
「どういうこと……? い、一旦落ち着いて?」
「私の……好きな人」
「そーそ」
「……」
クドはそろそろと指を伸ばす。私の背後には振り返っても誰もいない。なんなら教室にも居ない。あっクドの指がプルプルしてて可愛いね。指を合わせてみる。
「わふー」
しっぽと耳が見える。鼻先に指を当てた犬みたいで可愛い。
「あ、私?」
クドはこくこくと頷く。選んでもらえたのは凄く嬉しいのだが。
「私は元から手伝うつもりだから大丈夫。他に誰か好きな人でいいよってことだったんだけど……」
「え! わ、わわ、わわわっ。す、好きな人ってそういう意味でしたかっ。すみません、また勘違いですごめんなさいーっ」
クドは深呼吸をする。勘違いとはいえ、いの一番に私を選んでくれたことがとにかく嬉しい。しかし勘違いとは何を勘違いしたのか? まあいいや。
「……落ち着きました」
「そんで、誰かいい人見つかった?」
「佳奈多さんにお願いしてみましょう」
昨日も、問題集を開いていたら教えてくれたとかでなかなか懐いている様子。二木さん良いね、頭も良さそうだしクドに優しいし私には何故か厳しいが。
それから、クドが二木さんに連絡を入れて、即レスで寮長室まで行くこととなった。
__
寮長室まで着くと、二木さんが一人居た。寮長は別の用事らしい。
素っ気ないようにも見えるが、クドとの勉強には随分前向きだった。というか仲良いなこいつら。
二木さんはテストを受けないらしい。同じものを何度も受けるのは無駄だと彼女は言う。
「佳奈多さんは普段から予習復習ばっちりですからねぇ」
「こう見ええ努力家なんですよ」
「こう見えてって何よ。どう見えるのよ」
クドは笑ってごまかす。こいつら本当に仲良いな……。安心した。
そうして3人で問題集を解いていった。
__
「とぅーわな・おうわ・てぬわ・あうわ・にまうわ」
クドが変な拍子をつけて正解を数えている。
「おのうわ・いすわ・わぬ一わ・るあいわ・てゔぃーな」
クドの故郷数え歌なのだろうか。ともかく上機嫌そうに数を数えるクドが可愛い
「てゔぃーまとうーわな、てゔぃーまおぅーわ、てゔぃーまてぬわ!」
「ん一……大体いいんじゃない?」
クドの解答欄をチェックして二木さんが言う。思っていたよりも出来そうで少し感心した。
クドの解答欄をチェックしながら二木さんが言う。
「佳奈多さんと△△は全問正解ですね」
「必須のやつだし、これくらいは出来なきゃ」
「それとクドリャフカ、余白に要らないこと書くのやめなさい。テスト中に余計な事思いつかなくてもいいでしょ。メモは別のとこ書くとかしなさい」
「でも書かないと忘れちゃうのです」
「だからといって」
クドの額を小突く。ずるい
「わふっ」
「解答欄がずれていることもチェックできてないのに時間の無駄でしょ」
「え、ずれてましたか……わっ! ほ、ホントです一っ」
解答はあってるけど注意しないとと二木は続ける。クドはしょげてお茶を入れに行ってしまった。
問題の解答集と比べると……確かにズレている。これはテストでは致命的だ。
「思考が時々明後日の方向へ飛んじゃうのが問題なのよ、あの子は」
独り言のようにそう二木さんが呟く。結構ちゃんとクドの事を見てくれているようだ。
解答と見比べていると、クドが残したと思われるメモが残っていた。謎の化学式が大量に並んでいる。
余白には化学式が大量に並んでいる。
「NH4C104…… N2H4……」
「過塩素酸アンモニウムとヒドラジンね」
私の呟きに二木さんがぼそっと答えた。助かる
「ちなみに猛毒。ロケットの燃料とかに使われるんだけど腐食性を持つ毒物よ」
「ロケット……か」
その他にもさらに色々。ΔV=から始まるよくわからん記号が並んでいたり。……これはロシア語?
『Новый Спутник План(新スプートニク計画)』
他にも読めない字で走り書きがある。
「危険物取扱者試験のことでも考えていたんじゃないの? 暇な時はいろんな資格試験の本、見てるし、あの子。ねぇクドリャフカ?」
「はい? なんですか、佳奈多さん。あ、△△、お茶どうぞ」
それからお茶の話しやら、クドの趣味が資格試験参考書を流し読むことだとか。そんな会話をしながら続きを再開する。教えるのは二木さんの方が上手だし、私にできるのはお茶を飲んだクドの口をハンカチで拭うくらいだった。
__
「では、あとは女子寮で皆さんと勉強会をすることにします。今日はありがとうございました」
「まだまだ序の口。明日もやるんだから」
「そうでした……」
「お昼休みもやった方が良いかな。出来そう?」
「良いんですか、△△」
「クドがやる気なら全力で応援したいからね」
せっかくクドが頑張ってるし、ついでに私もやづておこうと言うのが一割くらいはある。少なくともあと一年以上は学生だし。
「そ、そうですか……。あ! では、お昼休みに付き合って頂いたお礼に、お弁当を提供しますっ」
「えっ本当に!? マジ!? 良いの!?」
「はいっ! お礼はきちんとしなければっ。……あまり舌を満足させるものは出ないかもしれませんけど。でもっ、自信があるメニューもありますっ」
「クドの手料理なら土でも美味しく食べられる自信がある……。とはいえ、そんなに凝ったものじゃ本末転倒だから大丈夫。なんなら私が作ってこようか?」
「い、いえいえ。そこまでして頂く訳にはいきませんから」
楽しみにしてるね、と伝えて、私達は別れた。いや本当に楽しみなんだけどあまりにも嬉しい食べた途端に喜びのあまり半径2キロ圏内を焦土とかしてしまう可能性もある。
……最近は勉強も忙しいし、クドの反応が少し前から違うのもあって、一緒にいる時間は多くても少し近付く事を避けてしまう。体調が悪いようには見えないが、あまり構い散らかして負担になるのも悪いし、暫くはこの距離感で良いだろう。テストが終わったら沢山撫で回そう。そうしよう。