試験がとうとう間近となった日。HRが終わって、今日はなんの教科にしようかと鞄に教科書を詰めている時の事だった。
「ねぇ、頼花くん」
クラスの女子が話しかけてきた。私は八方美人に人と接しているつもりだが、だからこそこうして話しかけてくることは珍しい。
「何? 用事なら暫く無理だけど……」
「あのね、訊きたいこおがあるんだ」
「……なに」
凄く、嫌な予感がする。
「最近能美さんと一緒にいるのよく見るけど、テスト勉強してるんだよね?」
「うん。クドも頑張ってるよ」
「それって、英語も? 赤点回避出来そう?」
「もちろんだけど……それが?」
「クラスで能美さんが出来るか出来ないか、を賭けててさ。オッズは今のところ8対2ってとこ」
クラスを見渡す。瞬時に目を逸らした奴らの名前は覚えておこう。
「……8ってどっち」
「出来ないほう、かな。で、いつも一緒みたいだから」
女子生徒は、面白おかしいようにまくし立てる。
「見てると面白くってさ。誰かを相手に英単語繰り返してるとか」
「ツッコミ入れられてるし。漫才みたいだよねー。それでどうかなって……思った……んだけど……」
相手は私の険しい顔に気がついたのか、口を閉じた。
「邪魔だからどいてくんない」
「えっ? あぁ、ごめんごめん。でも出来ちゃったら面白くないよねー」
「でも逆に出来ちゃったら面白くないよねー」
後ろの女子たちも頷く。そうそう、英語が赤点ですーとかさぁ___
そんな声が続いた。
「おもしろハーフなんだから、そのままのほうが可愛いんだからさ。『はろー』とか。あはは……は……あれ? どうしたの?」
誰も、それを止めない。やめない。面白い人の事を話すだけみたいな。そんな一つの話題として、クドは消費されている。
今、この女子をはたいたらどうなるどろう。学校の視線は私に向いて、停学にでもなるだろうか。それで、私が話題として消費されたら、クドは開放されるだろうか。
それも悪くない、と思った。私が数ヶ月学校から離れるだけで、クドへ向く視線が無くなるなら、悪くない取引だと。でも、どうせならこの目の前の女も、嘲笑するクラスメイトも、クドをそんな目で見る者が同じように暫く学校に来れないのなら、もっと良いんじゃないか。
悪意のない悪意が罰せられないのであれば、理由の無い裁きがあってもいいんじゃないか。
そう思った時、扉を開けようとしたままの姿で固まっている小さな白いシルエットが見えた。クドだ。
腕に力が込められて、身体が冷えて、頭に血が上っているのを感じた。
私がしなければならないことは、そんな事じゃない。目には目をと返せば、それはただの逆恨みなんだ。そう、飲み込んだ日を思い出した。
私は席を立つ。何も言わないまま、また笑顔を作って、小さくなったクドへ近づいた。
クドは私に気がつくと、力無く笑みを浮かべた。
「今日も頑張ろっか」
そう微笑む。クドは黙って着いてきてくれた。
__
「ごめんなさい、△△」
理由が分かりきった沈黙を破ったのはクドだった。こんな時にまで気を使うクドが切なくてたまらない。
「どうしてクドが謝るの? クドは何も悪いことなんてしてないのに」
「でも、私と一緒にやってるから、笑われてます」
「そんなことない」
「そんなことありますっ」
足を止める。クドの顔は、今まで見た中で一番寂しそうな顔をしていた。
「△△まで、笑われるのは……私、嫌です。それは、嫌です」
私は、その言葉に返す言葉が見つからなかった。
力無く、一度だけ頷いた。
__
いつの間にか下校口まで来ていた。
「今日も部室が良いかな」
今日も、いつも通り。そうしていれば気にならなくなるかなと、思ってそう言った。
でも、クドは首を振る。
「今日は、する気分じゃありません……△△に迷惑かけてしまいます」
「迷惑な訳無いよ」
「……ごめんなさい」
クドは深々とお辞儀をした。
「さよならです、△△」
「……うん。また、明日。絶対ね」
「はい。また、あした」
引き止めるだけの力も、声を掛けるだけの勇気も。私には無かった。
__
「頼花さん。邪魔です」
「むり……ちょっとむり」
「足の踏み場が無くて奥に行けません。退いてください」
私はやっとの思い出大の字から北の字の左っ側の様な形に変わる。
「今日は一体なんの能美さんの話なんですか、賭けでも持ちかけられましたか?」
「えっ!? 西園さんもやってんの!?」
「そもそも私に話しかけて来る人がいません」
「それもそうか……」
「しばらく前から話題に上がっていましたね。放課後でしたから、頼花さんや能美さんは居ませんでしたが」
「後で藁人形と五寸釘買ってこないと。私許せないよ。クドが頑張ってることも、自分のことにコンプレックスを持ってるのも知ってるはずなのに……」
悔しくてたまらなかった。だけど私に出来ることはクドといつも通り過ごすことしか……今日はそれも出来なかったせいでなお悔やまれる。
「とは言え、能美さんも自分のことは理解していると思います。外国っぽい行動をしようとしている事も今更ですし、英語が出来ないのも、事実です」
「そりゃあそうだけど……クラスメイトから賭けの対象にされてたのが嫌だったりとか」
「それよりもっと嫌なことがあるじゃないですか」
「それより?」
……検討するものがない。言われてみれば、英語とか外国っぽいとかはもはや今更なのかもしれない。本当にそう言われるのが嫌なら、私たちの前でもそういう所を見せないように矯正しているはずだ。
他に思いつくこと……?
「まだわからないのですか?」
「……うん。わからないや」
「貴方のことです」
「…………私?」
え、何が?
「頼花さんは、自分が原因で能美さんが笑われたりしたらどう思いますか?」
「笑ったやつの首をへし折りにいきたいし。それに……」
凄く傷つくだろう、と思った。
「そういう事です」
「いや待ってよ。それじゃあクドが私の事好きみたいじゃん」
「そういう事ですよ」
「……はぁ?」
嫌でも、好きって言ってもそれは友人とか家族とか兄弟姉妹とか、そういう好きであって恋人になりたいとかそういう話では……。
「最近アプローチ頑張っていましたね。教室でも積極的にスキンシップしていたり、歩く時は手を繋いだり。あれはもうやめたんですか?」
「いやっ、あんまりべたべたしても気持ち悪いかなーとか、テスト期間もあるしあんまりしないようにはしてたけど」
「でしたらそれもあるんじゃないんですか?」
「うっそじゃん……西園さんもベタベタしてるの気持ち悪いって言ったくせに」
「あれは私の感想です。能美さんがどう思っているかは分からない、と、申し上げたではありませんか」
それでも、クドが私の事好きなんてそんな夢みたいな事があるとは未だに信じ難い。確かに最近の反応が恋慕によるものだとすればぜーんぶ納得いく。好きな人を選んでねじゃないよ私は馬鹿か。
「きっと、能美さんは頼花さんが考えてくれたことがいちばん嬉しいと思いますよ」
「そーかなぁ……」
「はい。きっと、頼花さんが思っているよりもずっと、能美さんは頼花さんのことが好きなので」
「そんなことないって」
「頼花さんが能美さんのことを好きな気持ちよりは大きいと思います」
「いーやそこは譲らないが」
「色々考えることが多くて大変ですね」
「クド程じゃないよ」
「どんぐりの背比べのように感じられますが」
「……まぁありがとう。西園さん」
「はい。お礼は本で構いませんので」
「あのうっすいやつね」
そうして、私は考えをまとめようとする。まぁ纏めようとするだけで纏まらないんだけど。クドが私の事を好きだとか、そんなの未だに信じられないし、じゃあこれまでの行動ってなんだったのとか、それよりもまずクドが辛そうにしてるのをどうにかしてあげたいとか……。
眠れそうにない……。
__
休み時間の騒がしい教室。最近はいつも、授業が終わるとクドがてぽてぽ私の机まで来ていた。だが、今日は自分の席から動こうとしない。
結局一晩考えて、特別にしてあげられることは思いつかなかった。私に、特別なことが出来るだけの器用さも、自然と物事が解決する糸口が見つかるだけの観察力も、理樹みたいに人を惹きつけるカリスマも無い。
だから、結局私にできることは一つだけだった。
クドの席まで行って、単語帳を机に広げる。
「授業終わったから今日も頑張ろうか」
「で、でも」
「ここじゃない方がいい?」
クドはあちこちに視線を彷徨わせた。
「△△、でも……」
「大丈夫」
「……」
「私がしたいんだもん。クドは私と一緒に居るの、嫌になっちゃった……かな」
クドは首をぶんぶん横に振る。
「そんなこと……そんなこと、ないです」
「よし、じゃあやろー、テストも、もう間近だから」
「……△△」
クドの顔から戸惑いと遠慮の色が消えていく。
「……はい。そうですねっ」
頼る場所はクドが決めるべきだけど、私は促すのをやめないし、自分で考えるという手段を奪わない。私がなんでも知ってる訳でもないけど、それでも、クドがより良く生きていけるように。私は尽力したい。私は単語帳を眺めながらそう思った。
__
部室からの帰り道。いつも通りの夕暮れが落ちていく。
「明日のテストさ」
沈黙が気まずくて、私は何か話題を探そうと躍起になって、そんな言葉が飛び出していた。
「頑張ろうね。お互いに。みんな沢山勉強してたし、私もこんなに頑張ったの受験以来だよー。クドも、きっと大丈夫だから、自信もっていこうね」
そんな意味の無い言葉が次々溢れ出す。
違う。こんな事じゃなくて、私が、私が聞かなきゃいけないこと。自然と片手が伸びていて、クドの頭を撫でていた。
「……あ……△△……?」
こんなに小さくて、こんなに可愛い子が……。感情が混ざって、ぐちゃぐちゃな顔は夕日が隠してくれていた。
「私、楽しかったよ」
「……え?」
「クドと勉強してるの楽しかった」
「△△……」
「私の知らないことを沢山知れたし、何よりクドのことを沢山しれたから」
「本当ですか?」
「うん。本当。これは私がしたかった事だから。クドと一緒にいたくて、放課後の時間を独り占めしちゃった。私はなんて悪い子なんでしょうかね」
照れくさくて顔を背けていると、左腕に軽い衝撃。
クドが私の制服の袖を掴んで、抱え込んでいる。
いつもの照れよりも、愛しさとか、安心感を強く感じた。
「……△△、ありがとうです」
「うん」
「ありがとう、です」
「うん……どういたしまして」
クドの体が離れると、クドは顔をごしごしと擦り、いつもの笑顔を浮かべた。
「頑張りましょうっ」
「もちろん。お互い最高の結果を残しに行くぞ!」
私はクドに微笑みかけた。
__
テスト当日、早く目が覚めた私は、準備をして早めに行くことにした。クドも心配だし。西園さんも同じく起きていたので、先に行くことを伝えて行く。
廊下の途中で、教室のドアの前に立つクドを見つけた。
「クドおっはよー」
「ぐっどもーにんぐです、△△」
「クド今日は早いね」
「なんだか落ち着かなくて」
クドはマントから両の手を出すと、もじもじと組み合わせた。ちっちゃいおててが今日も可愛いね
「クドが沢山頑張ってるところ、見てたから。大丈夫だよ。」
私は、ぽんぽん、とクドの頭を帽子越しに叩いて元気づける。
「そうでしょうか……」
沢山見てきたぶん、クドが本番に弱いことも知っている。不安そうなクドに私は何か元気づける方法がないかと口を開いた。
「テストが終わったらさ、何処か遊びに行く?」
「え?」
クドは一瞬きょとんとした。
「そ、それは、その、で一とのお誘いですかっ」
手をばたばたと振り回しながら、クドはつま先立ちして僕に迫ってくる。全然みんな誘ってどっか行こうと思ってたとか言えない雰囲気。仕方ないので頷く。
「う、う、うん……そ、そうなる……のかな?」
「で、で一とですか……」
「お、おぉう……」
「でーと……でーと? ですか」
「で、ですねぇ……」
その返答を聞いて、クドの顔が明るくなる。
「がんばりますっ」
クドは、ぐっと拳を握って断言した。
「赤点回避で、で一とですかっ」
雑魚い。もうちょっと高いハードルを見るだけしておいて欲しい
「赤点回避なんて当たり前さ。そのためにみんなで勉強したんだし」
「そ、それもそうですね……私が頑張らないと皆さんの厚意がうおーたーばぶるです」
水の泡のことだろうか。
クド
「が、がんばるぞっ。えい、えい、おー」
クドは意気盛んに教室へ。
「わふっ!」
そして教室の入り口で躓く。私は何とかその腕を掴む事ができた。
「大丈夫? 気をつけないと……」
「い、いえ! 大丈夫、です! わふ……」
体制を立て直し、右手を挙げてなんでもない事をアピールする。やっぱ可愛いわ。
私は自分の机に鞄を置と、ふと思いついて、クドを呼んだ。
「クドー」
「はい? なんですか?」
「ちょっとこちらへ」
畳んだマントの上に帽子を置いたクドはトコトコと私の席まで来た。不思議そうなクドを私の席に座らせる。
「……ちょっと、変な感じです」
首を巡らしてクドは言う。
「いえ、違います。どちらかというと……不思議な感じです」
小さな違い。座る位置を変えるだけで見えるものは違ってくる。それは視界だけの話じゃない。
「ここからだと……私の背中が見えますね」
「うん。とても良く見える」
クドの席から二つ後ろの横の席は、なんの障害物もなくクドの姿がよく見える。
「△△は、いつもこの風景を見ているんですね。ここから見える景色はどうですか?」
私は直ぐに答えを出す。
「とっても頑張り屋さんで、人のことをよく見てて、誰にでも分け隔てなく接して……」
「……?」
それから少し考えて、やっぱり、口に出した。
「私の大好きなとっても可愛い子が見える」
「そうですか……」
クドは頬を赤らめて、私に微笑む。
「……恥ずかしいです。なんとなくですけど」
「試験中にできることは無いけど、がんばれーって念はずっと送ってるね」
テスト中にそんな余裕があるかは分からないけど、とにかく、応援していることを伝えたかった。私の思いがクドに伝わって、少しでも力になれるなら、それに超したことはない。
「あの、△△」
「なあに、クド?」
「……えっと……その。やっぱり、いいです」
クドは何か言いかけて、小さく頭を振った。
「なんでもないです。時間、まだありますよね。おさらいをしましょう。単語帳のチェック、手伝ってもらえますか?」
「よしきた、一つでも多く詰め込んでいこう」
私は隣の席から椅子を寄せて、クドの隣に座った。
「ええと、では慣用句表現から……」
クドがカバンからどさどさ取り出すのは、積み重ねた努力の証。その擦り切れた単語帳を手に取って、覗き込むクド相手にチェックを始めた。
そして、テストが始まる。
__
「調子はどう? クド」
「疲れましたー……」
「まだまだあるからね。気を抜かずに」
「はいですっ」
__
「ちょっと難しかったかな……」
「うう、頭が……あたまがー」
「まだ次もあるから、力尽きるのは早いぞ」
「はいですー……」
__
チャイムが鳴ると同時に解答用紙が回収されていく。それと同時に、クドが私のところまで来た。
「△△、お昼ご飯どうしますか」
__
今日は学食も心なしかいつもより騒がしくない気がする。
要点をまとめたルーズリーフを前に、あれやこれやとやっていると、バスターズの面々も集まってくる。こうして、クドが頑張っていることを知っている人達が集まってくれていると心強い。みんなも、なんだかんだクドを気にかけていてくれてとても嬉しかった。
__
「午後の部、開始〜。えいえいおー」
拳を振り上げるクド。
「えいえいおー」
「えいえいおー!」
理樹と私も付き合う。
「クーちゃんがんばるよー! おー!」
「おー!」
ご飯を食べたからか、すっかり消沈していた鈴も復活していた。
「次の時間がいわゆるひとつの関ヶ原だよー」
「つまり天王山ですか一つ」
「よくわからないけど、きっとそうだよー」
残念ながら小毬さんの国語力は低い。テストの時もこんな調子なのかこいつらは
「みんなもがんばろ一っ」
「ふぁいとーおっ!」
「おー! ってあれ?」
クラスの女子たちもクドの周りの妙な盛り上がりのせいで、手をあげてしまっていた。あいつは……私の名簿に書かれてるやつか
「頑張りましょうっ」
「う、うん、……そうだね」
一瞬口ごもった女子たちは、クドの笑顔につられて頷いた
「能美さんも、頑張って!」
数人の子がクドを励ましている。私が見ていることに気がつくと彼女たちはささっと席に戻った。よかろう名簿からは除外してやる。
「△△もふぁいとですっ」
「もちろんだとも。頑張るぞクド」
じゃあ午後も気合い入れていきますかね
__
「よし、あと一科目。頑張るよ」
「うう、頭がだいぶ熱っぽくなってきました」
「ほんと? そりゃ大変かも……」
咄嗟に手のひらを額に当てる。そこで自分がしたことに気がついて手を離した。
「ま、まぁ確かに熱っぽいかも」
「おーばー・ひーてぃんぐ・なう〜」
とはいえ知恵熱のようなものだろう。終わったら久しぶりにスポドリでも作るか。
「でも大丈夫ですっ。△△が後ろからぱわーくれますから。わふー」
いつもと違うわふーの声色にどきっとする。
「う、うん。落ち着いていこう」
「らじゃー!」
よし、ラスボスを処理しに行きますかね。
__
シャーペンを置く。目痛い。マークシートがゲシュタルト崩壊してよく分からなくなってきたところで、終わり、の号令が掛かった。
もう一度名前が書いてあることを確認し、解答用紙を前に回す。
教室を見渡せば、顔は多種多様だが、クドは分かりやすく机にほっぺたをくっつけてぐったりしていた。
「おつかれクド。どうだった?」
「なんとか、全部埋めてみました……」
「よしよし。よく頑張りました」
クドの目線までしゃがみ込むと、頭を両手で優しく撫でた。
「わふ〜……。みなさんのお力添えがあったからこそなのですー。ありがとうございまふゅ……ぐすっ」
少し涙声のクド。思わず抱きしめてしまいそうになって足を一歩前に出してすぐに戻した。
__
寮まで行く途中、答え合わせをしながら歩いていると、あっという間に分かれ道だった。お互いが示し合わせたように声を上げて気づき、どちらともなく笑い合う。
「なんだか大きなことをやり遂げた気分です」
「ほんとにね」
「……結果はまだわからないですけど」
「心配しなくても大丈夫だよ。それだけ頑張ったんだから」
勉強した分、達成感はあった。クドもきっとそうだろうし、そのこともわかっているはずだ。
「あ、あと週末……」
「もちろん、覚えてます、△△っ」
クドは私の手を取ると、両手で掴んだまま、ぶんぶん、と上下に振った。
「一緒に遊びましょうっ。是非是非っ!」
「お、おう」
クドの小さくて暖かいタオルのようにふわふわな手は、ぎゅっと私の手を掴んで離さない。
……他の人の話とかしない辺本当に二人きりらしい。緊張する。しばらくぶんぶんと振り続ける手に身を預けていた。
「明日は、テスト明けで半日で終わるし……その後からでいい? あんまり遠くにはいけないけど」
「いえ、問題ありませんっ」
「何かしたいこととか、ある?」
「したいことですか?」
「そうそう。クドがしたいことならなんでも叶えるよ。出来る範囲ならだけど……」
「な、何でもですか!?」
「え、おう、うん。なんでもいいよ?」
クドはそっぽを向いてなにやら考え込む。一通り腕を回して考えたあと、私の方に振り返った。
「△△、朝ご飯を食べながら考えるというのはどうですか」
「明日の朝ご飯?」
「はい、そうです」
クドと二人きりで遊ぶ相談なんてなんと心躍る事か。とはいえ、であるならば余計な邪魔の入らない方がいい。
「じゃあ、朝の混む時間は避けよう。早めの時間なら運動部の人ぐらいしかいないし」
「六時半ぐらいですか?」
「うん、それぐらいかな……テストが終わった次の日に早起きはしんどい?」
「そんなことないです。早起きは三文の得なのです」
クドはにっこり笑って僕の提案を了承すると、胸元から携帯を取り出して何か入力した。
「忘れないようにアラームを掛けておこうかと……ヘンですか?」
「んなこたないさ。私も設定しておこっと」
携帯を取り出して、カレンダーにメモを入力する。
「はい、入れました。では、△△」
クドは手を揃えて、ぺこん、とお時期をした。
「しーゆー、△△」
「ばいばい、クド」
名残惜しいまま、私はクドと別れる。ふと、振り返ると、クドはそこに立っていて、振り返った私に手を振っていた。
私は何をしているのか、クドの元へもう一度歩き出していた。
「あれ? △△、どうしたんですか? 忘れ物でも……わふっ!?」
気づけば、私はクドのことを抱きしめていた。ただ、ぎゅっと、クドの温もりを感じる。数秒立って、ようやく正気を取り戻して離れた。
「ご、ごめん。なんでもない。じゃあねクド」
逃げるようにして部屋へと戻った。クドは手を振っていた形のまま固まっていた。