「いきなりだけど私がクドのルームメイトになるにはどうすればいいか知ってる?」
「ふむ、本当にいきなりだな◇◇」
「いきなり過ぎるよ!」
「わふ?」
理樹の教室の前、来ヶ谷さんをとっ捕まえて事情聴取。なんでこんなことをしてるかと言われれば、理樹が「そういえば、来ヶ谷さんがルームメイト募集のやり方を知ってるかもしれない。鈴が言ってた気がする」という事で身柄を取り押さえた所だ。
次は移動教室なので、人にもみくちゃにされたクドが自分の名前に反応したので、来ヶ谷に回される前に確保する。
「えーと、取り敢えず事情を説明すると」
私が昨日あったことを理樹が詳しく説明してくれる。こいつ本当におせっかい焼きだな。頼ってる私が言えたことではないが。
「なるほどな。おねーさん自体はいつでもウェルカムだ。と、言いたい所だが、そんなことをしてしまったら◇◇が『僕のクドたんに手出す気だなこのクソアマめぶっとばしたるぞバッキョマロウ』とでも言い出してしまいそうなのでここは身を引いておく」
「僕のクドたんに手出す気だなこのクソアマめぶっとばしたるぞバッキョマロウ!!」
「いや乗らなくて良いから」
流石来ヶ谷さんだ、私の言いたいことを先読みして何処ぞの波紋使いのようなことまで成し遂げるとは。
「さて、能美女史のルームメイトになりたいという話だが」
「そこに対しては、僕ももう何も突っ込まないことにするよ……」
本題に入り、身を引き締める思いでクドを後ろから強く抱き寄せる。私の手を握りしめ、一緒に何となく真剣な顔をしているクドが可愛い。ワンテンポ遅れて、私がクドのルームメイトに立候補したことに気がつくと、不思議そうな顔で私の顔を見上げた
「まぁ、作法というか手続きは確かにあるが」
ようやく自体に気がついたのか、クドが目をキラキラさせてこちらを見つめる。
「君はそもそも自宅通学だろう? 無理がないか?」
「だよねぇ……」
「寮通学になります」
「引き下がんないの!?」
当たり前だ。クドが寂しがってんならそれを埋めてやらなければいけない。
「それでも2週間以上は掛かるな」
「ダメだ……ッ、それじゃあ遅すぎる!」
「そんな時間が足りない医者じゃないんだから」
「そんなに無理しなくてもいいのですよ? まだまだ時間はありますし、頼花さんにも頼花さんの暮らしがあります。それに、私は頼花さんと一緒に授業を受けられるだけでとても楽しいですっ」
「アッ……スキ……」
クドから離れ、その場にかがみこんで悶える。理樹が心配そうにこちらを見てくる。みんなし。
「とはいえ、それを待つのは酷だ。来ヶ谷さん、クドにやり方教えてあげてくれます?」
「あぁ、構わない。まずは寮長に話をつけるところからだな」
「寮長?」
ふとした疑問をすぐ言葉に出すと、理樹が解説をしてくれる。
「寮には男女で生徒が寮長を勤めてるんだよ」
「あぁ、それに女子寮長は鈴君の知り合いだ。後で話を付けておく」
「なるほど……恩に着ます。来ヶ谷さん」
「なぁに、他でもない能美女史の為だ」
「それもそうっすね」
「え、えへへ……。私はしあわせものです」
理樹から「それでいいのか」と言う視線を感じつつ、私達は移動教室へと向かった
__
練習後、鈴に話を聞くことに。
しかし、鈴はそのことについてよく知らないらしい。理樹は知らん間に真人と相部屋になってらしい。そういや、気になること。
「春先の時相部屋だったっけ聞いたけど、その時は?」
「工事のせいで適当に割り振られた」
鈴が率先して答える。それにクドが続く。
「春の時は緊急措置だったみたいです」
なんたる幸運か鈴は羨ましい。こんな素敵な子とひとつ屋根の下で暮らすことになればどれだけ幸せだろう。とはいえ、私との初対面も随分と掛かった鈴が知らない人と寮生活を共にするのは中々に骨が折れるだろうなとも思う。
手続きに着いて聞くと、鈴は寮長に聞けとの事。私はお礼を言って鈴達と別れた。
寮長に話を聞きに行くのは一人でいいだろう。みんな練習で疲れてるだろうし。
寮長は……なんだか豪快と言うかハツラツな人だった。その人に諸々聞いてみるが、特に規則は無いとの事。この人にOKもらえれば大体は大丈夫。しかし、希望している人がここに届出を出すわけでも無いので探す必要があるとのこと。それにかんして寮長は管轄外だと伝えられた。
探すとしても、寮内の生徒でもない私が女子寮を回って探すわけにもいかない。それに、クドだって来たばかりなのだから、心当たりがあるかは分からない。その為にも、何か出来ることは……。
「能美クドリャフカ、と言う生徒からの要望です。春先の工事で不本意に一人部屋になってしまったそうで。来たばかりなので知り合いの心当たりも少ないと思います。自分がなれたら1番良かったんですけれど、残念ながら自宅通学なのでそういう訳にも……」
取り敢えずさっき鈴達に聞いたことを伝えてみる。下手っぴな敬語だが、伝えたいことはわかってくれるだろう。
「あの子か。なるほど。ずっと海外に居たんだったら、確かにルームメイトなんてデフォルトなのかな?」
「それはどうか分からないですけど、凄く寂しそうです。部屋の引越しも忙しそうなので規則とか手続きとかあれば調べておこうかと思いまして」
「主活な心掛けだけれど……まぁでも、そうね。わかったわ。相手探しと相手の部屋移動を許可します」
「ッシャァ!」
「じょ、情緒の激しい子ね……。あ、それと、この紙を能美さんへ」
「はい。わかりました」
「あなた本当に同一人物? まぁいいけど、書いたら私の所まで持ってきてって言っておいて」
「はい。して、これは一体?」
「寮内のメーリングリストへの掲載依頼書。女子寮ニュースみたいなものかしら?」
加えて、掲示板の使用許可も頂く。寮長さんへの好感度がぐいっと上がって来た。私は受け取った紙を丁寧に折りたたみ、上着のポケットへとしまう。
「寮長さんありがとございます。何からなにまで」
「いいのよ、これも寮長の仕事だし。相手見つかったら教えてね?」
「わかりました。能美さんに伝えておきます」
私は寮長室を出る。校舎から出ると、沈み行く夕日が目を焦がす。普段からこの時間日の下に出ない分、目が慣れていないのだろう。
「頼花さん〜っ」
それと同時に、私の事を呼ぶ声がした。この激メロスウィートボイスはまさか!?
すぐさま校舎の方へ振り向くと、両手に紙袋を持ったクドが居た。
慣れないコミュニケーションの疲労などものともせず、クドの元に駆け寄ると、その紙袋へと向かう。
「大丈夫!? 重たい!? 持とうか!?」
「は、はい。すみませんです〜っ」
綺麗な3言で確認をすると、その紙袋を受け取る。
「随分大荷物だね」
「ふぅ……はぁ、ありがとうございます、頼花さん……。あ!」
何かに気がついたようにクドが言うと、微笑みながら私へと言葉を続けた。
「あー・ゆー・はぴー」
「いえす。あいむべりーはっぴーとぅびーうぃずゆー」
「はぴー、さんきゅー」
so cuteの使い所としてこんなに適したことは無い。
「めい・あい・へるぷゆー?」
「どっちかといえば私のセリフかな?」
「この場合はなんでしょうか。ええと」
少し考えると、元気よくクドはこう答える
「へるぷ・みー!」
まずい周りがちょっとザワついている。「とうとう手出したか」みたいな声が聞こえてきた気もする。ひどい。
「それは助けを呼ぶ時……あってはいるけど私から助けを求めてるみたいになってるかな」
「ま、間違えました」
「こういう時はねーえーと」
「へるぷゆー!」
「んー私が助かっちゃったね」
クドは次の単語を探すためわたわたと頭を回転させているが、何も思い浮かばなかったのか、照れ隠しのようにえへへと笑った。可愛すぎて紙袋を1度おろして地面をころげて可愛すぎると叫び散らす。もっとザワつきが強くなった気がするがきっと気のせいだろう。
クドにゴミが着いてしまいますと止められたあと、引越しの荷物かと聞けば、祖父が来て色々と貰ったとの事。祖父のことについて聞きながら、寮へと紙袋を運ぼうとする。
「い、いえ、今日までお手伝いしてくださらなくとも」
「練習で疲れてるでしょ? 持ってくよ」
「うゅ、す、すみません」
「あ、それと合部屋の話。寮長さんから聞いてきたから」
荷物を片側に寄せ、上着から申請用紙を渡す。
「お手数お掛けしました」
「お話聞いてきただけだから気にすることもないよ。特に規則はないみたいだからクドが募集すれば良いって。はいこれ」
それから、寮長から聞いたメーリングリストの話を共有し、クドの部屋まで向かう。
「見つかると良いねぇ、相手」
「はい。見つかるといいです。卒業までお世話になると思いますし」
「見つからなかったら私が寮に越してくるから安心してね」
「それはそれで楽しそうですねぇ、わふ」
夕暮れに映る横顔が映える。美しい亜麻色の髪は斜めに落ちる陽射しに反射し、黄金のように光り輝いていた。
彼女はこれから出来るルームメイトに思い馳せ、理想を夢みているのだろう。その横顔に私は見とれて歩みを止めていることにも気が付かなかった。
「? どうしましたか?」
「いやぁ綺麗だなぁって」
「綺麗ですよねぇ、夕暮れ。梅雨の前は晴れ間が多くて夕暮れの時間が多いのでお気に入りなのですっ」
「クドの方が綺麗だし、私はクドに見とれてたんだけどね」
「私、ですか?」
「うん。クド」
「えへへ、ありがとうございますー」
クドはにへらと笑っている。今日も可愛い。
「頼花さん、なんだかとっても嬉しそうです」
「そりゃあ勿論、クドとこんなにロマンチックな時間を共に出来てるんだからね」
「わふ、頼花さんが嬉しそうだと、私も嬉しいです」
クドは機嫌良さそうに、その場でステップを踏み始める、可愛い。よく見ると、それは夕日で出来た色々な影を飛んで歩いている
「影踏み?」
「はい、影踏み遊び。飛べなくなったら負けなんですよ」
クドは危うげに見えるステップで、アスファルトに出来る影を1つ、2つと飛んでいく。
「むー、頼花さん、影踏んでいいですか?」
「幾らでもどうぞ!!!」
バッと紙袋も拡げ、お日様を背に大きな影を作る。
「わふー! 踏み放題ですー!」
クドが悠々とその影を踏みしめる。
「影、踏ーんだっ」
クドが私の方を向いて無邪気に笑った。
わ、私の影が踏まれてる……!
なんてキショい考えをすぐに捨てて、私は階段を上って行った。申し訳なさそうに階段で紙袋を支えるクドを見て、また転がりたい衝動にかられたのだった。
__
さて、荷物も運んだしさすらうか
理樹を見つけた。
「練習終わりで疲れているところ悪いが、容赦はしないぞ」
「そっちこそ苦手な上級生と話して疲れてるって聞いたけど加減はなしだからね」
投げ込まれた武器の一つにエアガンの様なものがあったのでそれを引っつかむ。勝ったなこれは。
などとタカをくくっていたら理樹はおもくそ三節棍を担いでいた。
いや……え?
「加減はなしだよ」
「いやちょっと待ってくれよ話し合わない?」
「合わない。練習終わりで疲れてるから早く休みたいんだ」
しかしこちらも銃を持っている。いくら三節棍でも当たらなければどうということはない! うなれ私の射撃技術よ!
カシュ、カシュ。
「……?」
「あっはは、これ動かないタイプのモデルガンだわ」
どごっ
「痛ったい!!!!」
「あぁ、ごめん。隙だらけだったから」
「くっ、仕方ないこうなれば鈍器として使うしか……ッ!」
闇雲に鉄の塊を振り回すも、理樹に距離を取られ、三節棍の射程で一方的に打ちのめされる。
あれ……理樹、筋肉ついたじゃん……。運動してる甲斐あるね。
そう言って私は膝を着いた。
「まだ練習2日目だけどね」
勝負が着いたことがわかると、周囲から歓声が上がる。それと同時に人混みの中から恭介がやってきた。
「ゲームセットだ。理樹、称号を着けてやれ、適当な言葉を組み合わせたものじゃなくてちゃんと考えたやつな」
「えー……。僕そういうの考えるの苦手なのに。じゃあ、そうだなぁ……」
【○○は『夕暮れの世話焼き』の称号を得た!】