クド夢   作:kaigara

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次は、私からのご褒美です

 「ぐっどもーにんぐー! ですー」

 「お、おはよう……クド」

 「えへへ。おはようございますっ」

 

 クドは元気いっぱいでいつも通りだった。なんだよ気にしてるのは私だけかよ。

 そいだら私だっていつも通り接することが出来そうだ。クドの元へ近づきいつも通り頭を撫でて可愛がる。

 

 「今日も可愛いねぇ、よしよし」

 「わふっ! ……えへへ、ありがとうございます、△△」

 

 顔を赤らめ、上目遣いでそう言う。あぁもうダメですね完全に彼女の顔をしています。尊すぎて直視出来ない目が潰れそうだ理樹助けてくれ。

 

__

 

 クドと小鞠さんが話をしているのが聞こえた。小鞠さんが星図盤を探しているとかで。クドが心当たりあるそうなので、お貸しするとの事。

 クドが、ポケットからホイッスルを取り出し、吹くと、どこからともなくストレルカがやってきた。

 

 「ストレルカ、星図スコープ、中に入ってましたっけ」

 

 クドはストレルカが背負っている袋から小さな筒を取り出す。ダイヤルを合わせて覗き込むと星が見える代物らしい。随分素敵な小物だと思った。

 

__

 

 休み時間、クドを見かける。傍には黒と灰色の二匹の犬。ストレルカとヴェルカが居て、どうやら誰かを待っているらしい。

 少しすると、二木さんがやってきた。仕事の代理報告らしいし。そう言えばさっきのホイッスルも風紀委員が持ってるものだなと気がつく。

 二人は何言か会話して解散した。二木さんロシア語も出来るんだな……すげぇ。

 

__

 

 「わふー、結果をもらいました、もらいましたよぅー」

 

 二人の手には結果通知封筒。中身はまだ確認していない。

 

 「クドも中身は見てないの?」

 「はい、見てないのです……だいじょうぶでしょうか……」

 

 クドは口に出してドキドキしている。そういう所が可愛いんだよなぁと古参ヅラをしてみる。

 しかし、教室もその結果の話題で少し騒がしい。

 

 「部室へ行きますか?」

 

 考えを手に取るように看破してきたクドへと頷いて、私達は部室へと足を運んだ。

 

__

 

 封筒から結果用紙を引き出して中を確認する。

 

 「やった甲斐はあったかな」

 

 去年よりも順位は上がって、偏差値も微増。

 

 「そうなんですか? 良かったですね、△△」

 

 結果用紙に書き込みをしていたクドが顔を上げた。

 

 「クドも無事に赤点回避。めでたい」

 

 英語の成績は他と比べて悪いものの、平均点はクリアしているようだ。

 

 「△△や皆さんのおかげですー」

 「一番は、クドがこれだけ頑張ったからだよ。偉い子偉い子」

 

 クドの頭をわしゃわしゃ撫でる。サラサラの髪が私の手に沿って揺れる。

 

 「わふー」

 「こんなに頑張ったんだから何かご褒美をあげましょう。何がいい?」

 「ご褒美ですか?」

 「うん。なんでも申したまえ。私のお財布事情と相談してプレゼントしよう」

 「キスがいいです!」

 

 ……。

 ………?

 Why。

 

 「あ、あれ? △△ー?」

 

 きす……鱚? 釣ってくるかー。

 んな訳無さすぎる。キス、か。そうか。恋人だもんな。

 え、じゃあ私からするってこと? むりむりむりむり恐れ多いって。

 

 「また気絶しちゃ嫌ですよー、△△」

 

 つんつんと私のほっぺたを指でつつかれる。そこでやっと声が出せた。

 

 「キス……ですか?」

 「はい」

 「はい、ですか……」

 「だって、私からはしたのに……」

 

 すんすんと俯いて鼻を鳴らすクド。ぎゃん可愛いけどそんなこと言ってられる状況ではない。

 そうだ、色々ありすぎて薄まっていたが、あの日、私はほっぺに……。

 自分の顔が熱くなっていくのを感じる。ほっぺたがくすぐったい。

 

 「私から……だよね、次は」

 「はい。だ、だめなら……別のを考えます」

 「そんなことない! そんなことない、ん、だけど……」

 

 自分からとかそんなハードルが高いことを……だ、だって付き合ってからまだ、そんなに立ってないし。

 

 「こ、こう言うのってもっと段階踏んでさ、手を繋いでから」

 「? こうですか?」

 

 クドがいつの間にか対面の席から横へ来ていて、私の手を握る。小さい手が私の手を包んで、確かな温もりを感じさせてくる。

 

 「じゃ、なくてぇ……はぐ、とか間に挟んで……」

 「次はハグですねっ」

 

 クドが膝立ちになって、私の首元目掛けて飛びつく。声がすぐ傍で聞こえて、制服同士が擦れ合う音が静かな部屋に響く。感じられる匂いが全部クドのものに置き換わる。

 

 「そ、れでぇ……えっと……」

 「……ごほうびほしいです」

 

 クドと鼻が触れる距離まで近づく。視界いっぱいに夜明けのような青い色の瞳が映る。

 まるで子犬みたいな仕草で、私の胸元に収まったクドは、顔を上げてゆっくりと目を閉じた。

 お互いの鼓動が混ざりあって、どちらのものかすらわからない。あの時の鼓動はこうだったのかと今実感した。

 今すぐにでも逃げ出したい。今すぐにでも意識が飛んでしまいそうな状況の中、二度も転じてしまえばクドへの愛が廃る。私は覚悟を決めて__

 

 ほんの一瞬。指で触れたのかと錯覚するほどの小さな衝撃。口が震える。胸の鼓動が鳴り止まない。

 

 「……これで、良い?」

 「……」

 

 顔を離して恥ずかしくて顔を逸らした。横目で見えるクドの表情は同じく恥ずかしがって__あれなーんかすんごい不満げ。ちゃんとあの日と同じでほっぺにちゅーしたのに。

 

 「……ちがいます」

 「へっ、違うってなに、が!?」

 

 抱きついた姿勢のまま押し倒された。クドの長髪がカーテンのように広がって、私の視界にはクドしか映らない。

 

 「な、なんでっ。ちゃんとお返ししたのに」

 「そうじゃないですっ。せっかく、ここまで頑張ったんですのに」

 

 クドが私の頬に手を触れる。

 

 「確かに、私がキスしたのはここですけど」

 

 添えられた手が、私の口元へとゆっくり移動した。

 

 「ごほうび、ですから」

 「だ、だからご褒美は……」

 「次は、私から△△へのごほうびです」

 

 次は両手で、私の頬に手を添えられる。

 クドが変に冷静になっているのに対して、私の胸は高ぶったままだ。

 クドが目を瞑る。クドのまつ毛が見える。混乱している中で、まつ毛長いんだなーとかどうでもいい事を考えていれば、直ぐにその時は来た。

 私の口に暖かくて柔らかい感触。一度、二度。何度かくっついて、離れて。その柔らかさを確かめるみたいに。

 頭の中が真っ白になって、そこでやっと、自分の間違いに気がついた。

 クドが本当にして欲しかった事。それがこれなんだって。

 

 頭が白くぱちぱち光ながら、その行為を受け入れていると、程なくしてクドが離れていく。私は息をするのもやっとだと言うのに、満足そうに深呼吸をするクドが恨めしく思えた。

 

 「……あ、△△」

 

 何か思い出したようにして続ける。

 

 「キスする前に、お願いを忘れてました」

 

 私は目線だけで続きを促す。

 

 「だいすき、って言ってもらってから、の方が良かったかもしれません」

 

 もう一度、クドは私に覆い被さる。

 

 「もういちど、しても良いですか?」

 「ま、……まって……っ」

 

 なんとか押し退けて、体勢を立て直し、座り込む。

 

 「や、やっぱりよくばりでしたか?」

 「いや……違く、て」

 

 息も絶え絶えで、今何処にいるのかもわからなくなりそうなくらい頭が湯だって居ても、クドが求めていることであるならば。

 

 「もう一回、やり直させて。クドへのご褒美」

 「……い、良いんですか?」

 「うん。こう言うのは、私からしないと……」

 

 クドの頬に手を添えて、ゆっくり撫でる。クドは目を閉じて、その口を私に差し出した。次は間違えない。

 

 「……大好きだよ、クド」

 

 そう言って、さっきよりも長く。触れた口元は火傷しそうなくらい熱くて、私の頭も沸騰しそうなくらい湯だっている事だろう。好きな人がこんなに間近にいること自体夢のような話で、私の事を受け入れてくれる事もまた、現実味のない話だった。

 それから、暫く。せめて二桁秒くらいは持たせてから、私は倒れ込むようにして口を離した。

 重い熱病に掛かったように言うことを聞かない身体を無理やり動かして、クドを抱きしめる。

 

 「えへへ……」

 

 口を離したクドは照れくさそうに笑った。私もそれにはにかんだ微笑みで返して、意識を手放した。

 

__

 

 週明けは何時だって憂鬱な空気が教室に満ちているものだ。休み足りない学生たちはうだうだといいながら教室に入っていく。

 だが私はそうでもない。

 

 「ぐっどもーにんぐです」

 「おはよ、クド」

 

 そう。めちゃんこ可愛い私の愛するべりーぷりてぃらぶりー彼女がいるからである。テスト期間も終わって、西園さんの部屋から退去した私はもう平日が待ちきれなかった。今までこんなことが有り得ただろうか。

 教室の前で会ったクドは、私の袖を引っ張って挨拶をすると、私の腕にこつん、と額を当てて、一度ぎゅーっ、と抱いてから幸せそうに笑う。

 

 「わふー」

 

 もう持ち帰って一生可愛がりたい所だが、放課後まで我慢することにしよう。

 

 「今日も一日、頑張りましょうっ! ぐっどもーにんぐー! ですー」

 

 元気よく宣言したクドは、私から離れていつものように棒読みで挨拶をしながら教室へ入る。元気そうでなによりだった。

 

 「今朝のクー公はなんか元気いっぱいだな。テスト終わったせいか? それともなんかいいことあったか?」

 「まぁ、色々とあったんじゃないかな」

 「そりゃあもう色々とありましたよ……」

 

 真人と理樹が廊下から顔を出す。ふはははまさか私が恋人だとは夢にも思わんだろう。

 と、そこで私の肩を叩くもの。それは謙吾だった。あからさまにビクッとしてしまう

 

 「な、なにさ謙吾」

 「なんでもない。ほら、担任が来るぞ」

 「そうだね、そうだ真人、今日ミニテストがあるよ、現代文」

 「げぇ、なんだって! マジかよそれ!」

 「ほんとほんと」

 「知らなかったのかよ……教師の話ちゃんと聞けよな」

 「やっべーーー!」

 「ええ!? 謙吾までやばいの!?」

 「もうすっかりアホの仲間だな……」

 

 私たちはいつものような会話をして自分の席へ向かった。そうしていつも通りの日常が始まる。一つ違うとすれば、私の席からはべりーべりー可愛いこの世で最も素敵な私の彼女が見えることかな、がはは。

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