教科担任が風邪だとかで、その時間は自習。課題が終わったら外で運動でもしてろと言うので、いつもの芝生でくつろいでいた。どっかでバスケやってる声だとか、鈴と小鞠さんがあのバカでかいドルジとかいう猫(?)と戯れている声とか、そんなのが聞こえる。
そんな中、視界が急に暗くなった
「△△ーっ。ふー・あむ・あーいっ?」
舌っ足らずで元気な可愛い声が聞こえてくる。
「どうしたの? クド」
「おー、いっつ・あ・らいと〜。正解です。はらしょー」
右手を敬礼のように挙げたクドは屈託なく笑った。
「こう言うのは先に私の事呼んじゃだめだよ〜」
くすくす笑いながらそう言う。とは言え、どれだけの人並みに揉まれようともクドの言葉がわからなくなるなんて万に一つの三乗も無い訳だが。
それから、ストレルカがやってきて、加えていた袋からクドが魔法瓶を取り出して緑茶を入れてくれたりと、素敵な時間を過ごすことができた。
クドの持つ、青のグラデーションのマグカップがとても綺麗に見えた。
__
休み時間、クラスの女子たらかわいわい何かをしている。
「何をやってるんだ女子たちは?」
「占いらしいよ」
真人と理樹の会話が聞こえた。占いはあまり信じていない。結局のところ誰にでも当てはまりそうなことを言うバーナム効果なのだと。それで一日やな思いするくらいなら聞かない方がいいとすら思っている。まぁ朝の占いとか気になって見ちゃうんだけど。
「じゃ、お母さんの名前と、妹の名前、それに生年月日から__」
「何をしてるですか?」
「最近出たエムワイセレクションの占いー。能美さんもやる?」
「いいんですか? やりますー」
「能美さんの誕生日はいつ? お母さんの名前と生年月日を教えて一」
「誕生日は今日ですー」
「あ、そうなんだ。おめでとう」
あ、そうなんだ。じゃねぇよおいさらっと凄いこと聞こえたぞ。なんだと今日が誕生日!? やばい何も準備出来ていない。何か渡せるもの……私の人生とか? いや要らないか。他に何か……。
「それで、お母さんは、どっちの名前ですか?」
「どっちって?」
「えっと、日本での名前のほうがいいですか?」
「あ、そっか。ハーフだもんね、能美さん」
クォーターな。そうか、他国の名前もあるのか。クドもあるのかな。全部覚えないと。
「どうかしたのか? ○○」
「あぁ謙吾。今日がクドの誕生日らしくてさ」
「それじゃ祝わなくてはいけないな」
「恭介あんた何処にでも出てくるな……」
「さっきから、そこの欠席者の机で漫画を読んでいたぞ」
「馴染みすぎでしょ一切気づかなかったぞ」
「授業も受けてたね」
「なんでさ……」
__
「そういうわけで能美を祝おうと思う」
放課後、恭介の呼びかけで学食に集まることになった。準備する時間が……無かった。
「わ、わふー……ありがとうございます」
「好きなモノを頼むといい」
「カップゼリー山盛りで頼む」
「りんちゃん、まさかその大皿いっぱい頼むつもりじゃ……」
「私はおかし作ってきたよん♪ クド公のための緑茶シリーズ! 抹茶スコーンとか玉露マフィンとか」
「能美さんおめでとうございます。齢を重ねるにつれ自己の限界を悟る……いえ、今この場では無粋ですね」
おい西園クドのどこ見てんだ。場合によっちゃラリアットだぞ。
「うむ、特選特上めかぶを持ってきたぞ。クドリャフカ君は海藻が好物だったからな。さあ、思うさまにねっとりとさせるといい」
どさどさ。来ヶ谷さんは大量のめかぶを机の上に積み上げた。どこに入れてたんだ。
「一同からの贈り物だ」
「そのわりにはみんな自分の好物メニューなんじゃ……」
そうだな、特に鈴。
「あはは、別にいいですよ。みなさんにおめでとーって言ってもらえるだけで嬉しいです」
クドはよほど嬉しいようで、みんなと話ながら歌っている。とても微笑ましかった。尊いとはこういう感情なのだろう。
こうして、みんなで賑やかに食事をとった。
__
夜中、と言うか明け方前の時間。こうやって学校に忍び込むなど、春先の私には考えられなかっただろう。風紀委員とかに見つからないことを願う。
あと二時間程で夜明けだろうか。寝る前に携帯に入っていたクドのメールに誘われて、芝生の広場へやってきた。
「△△ー、こちらです」
私を呼ぶクドの可憐な声。
芝生広場をぐるりと取り囲む縁石の上にクドはすわっていた。黒革の靴がちょこんと揃えられて地面に置かれている。
「ぐっどもーにんぐ、です、△△。こんなに朝早く、すみませんです」
クドは立ち上がりながら私に言う。
「いえいえ、クドに呼ばれたらいつだってどこだって飛んでいきますぜ」
「わがままにつきあってくれて、さんきゅーなのです……」
クドのそばに近づくと、クドがボウルを抱えていることに気がついた。料理にでも使うような銀のボウル。あんなものをここで何に使うのだろうか。
「こっちです、リキ……あ、芝生の中に入るときは靴を脱いだほうがいいかもしれませんね。風紀委員長に怒られてしまいますから」
「起きてるかはわからないけど、念にこしたことはないか」
「ストレルカやヴェルカはわからないですからね?」
「それもそうか」
私は靴を脱いで芝生の上、クドと共に真ん中へと歩く。芝生にクドの足跡がついて、それを追いかけていく。
芝生の真ん中でクドが立ち止まって、振り返ると、身につけたマントが風で緩やかに波を描いた。何度見たって、そんな美しい光景に目を奪われる。夜明けの優しいライラックブルーの空。星が瞬き、月の沈んだ星月夜。素足のまま、空を背負うクドに、私は何故か不安を抱く。このまま、空に溶けだして私の下から離れていってしまうような。甘い微睡みのような夢が覚めて、残酷な朝へ送り出されるような感覚へ。
「どうかしましたか、△△?」
「あ、いや……綺麗だなって」
「変な△△」
クドはくすくす笑う。私もおかしくなって一緒になって笑った。クドはここに居るんだ。不安になる必要なんて無い。
「では、始めましょう」
「始めるって、何を?」
「もちろん。それは説明します。さ、座ってください」
私は芝生に腰を下ろす。クドも座るのかと思ったら、クドは芝生に立てひざをついた。
「クドは座らないの?」
「こうしたほうが、私はやりやすいのです。△△のほうが背が大きいですし」
クドはスカートのポケットに突っ込んであったペットボトルの中身をボウルに注ぐ。
「私の生まれた国では、いくつか変わった風習があるのです。これは、そのひとつ」
クドは右手でボウルの中身をかき回し始めた。
「これは、ただの薄力粉にココア・パウダーを入れたものです」
「今、入れたのは?」
「ただの水です。それらで作る黒い食紅です」
黒いのに食紅ってのも変ですね? と、クドが考え込みそうだったので、私はそれを遮った。
「それをどうするの?」
「……えっと、これを使って、お互いの体に『紋』を描きます」
クドがボウルの中身を見せてくれた。暗さに慣れた目でも、黒々とした、としかわからない。かすかに、甘いココアの香り。
「紋? 紋章……印みたいな?」
「そう、そんな感じの、です。ストルガツキー・オリジナル」
「ストル、ガ?」
「私の、もうひとつの名前です。Кудрявка Анатолиевна Стругацкая (クドリャフカ・アナトリエヴナ・ストルガツカヤ)……噛みそうな名前でしょう?」
クドはかき混ぜたまま、自嘲気味に笑う。
「……噛みそうな名前でしょう? 私は『こんな』ですし…名乗ったあと笑われたりするので、あまり口にしません……秘密にしておいてください、△△」
「……うん。秘密。だね」
「さぁ、手を入れてください、△△」
クドに言われるまま、私もボウルの中に手を入れて混ぜ始める。いやんなんかすんごいべちゃべちゃする。クッキーの生地を捏ねてるみたいなねばっとくっつく訳でもなく、どちらかと言えば田んぼ……などと思っていると、不意にボウルの中でクドの指が触れる。冷たいぬかるみの中で、その温かさはとても鋭角的に感じ取れた。反射的に手を引っ込めてしまう。
「あっ、ご、めん」
クドはくすくすと笑う。
「良いですよ、一緒にしましょう」
私の手を取って、もういちど二人でボウルの中に手を入れる。ひんやりとした夜明け前の外気から、クドの暖かさがじんわりと伝わる。
「……△△の指、大きいですね」
「そうかな……普通くらいだと思うけど」
「いえ、とっても、大きいです」
最初は指が触れる度に震えていたが、しばらくしたらそれにも慣れて、二人の右手がボウルの中身をこね回す
「△△、次右回りです、右」
「こっち?」
「そうです、右回し、右回し……んっ……はい、次左回し、左回し」
クドの手のひらを感じつつ、私も懸命に自分の手を動かした。微かに上気したようなクドはとっても嬉しそうだった。
「……もう、そろそろでしょうか」
クドの指にこめられた力が弱くなるのを感じた。私はその温もりと感触が遠ざかるのが名残惜しくて声をだしてしまう。そしてその名残惜しんだ言葉を発してしまったことに、顔が赤くなっていることだろう。
指が一本ずつ離れる。そのたびに増していく寂しさを努めて顔に出さないようにする。
「この風習は、私の知識からしてもかなり『外国っぽい」のですが難点がありまして」
「難点?」
「誕生日のある週のうちでしか行えずかつその相手は……相手は、その、つまりですね」
クドは私の元に顔を寄せる。
「……自分の好きなひとじゃないと、ダメなんです」
極めて顔が熱くなっていく。まるで湯気でも出ているのではないかとすら錯覚してしまった。
「……あはは」
「……そ、そう……」
だ、だって、この風習に付き合ってなんて言うことはつまり……クドの故郷じゃ……。
「そういう、意味だったりなんだったり、するのです……あはは」
クドも恥ずかしいだろうか、顔を伏せて話を続けた。
「△△は、私のぶらっくほわいとを受けてくれたので、ためらいなく誘えたのですが。『一緒に絵を描こう』というようなものです」
「そんな風習もあるのか……」
「あるところにはあるのでしょう……本に書いてありました」
世界は広いと実感する。未だに私はこのちっぽけな島国から一歩たりとも出ていないのだから、様々な土地を歩いたクドの経験というのは、私からは計り知れないものなのだろう。
それから、島の風習の着いて詳しく教えてもらった。お願いの紋ん書いて水に沈めるとか、色々。
それが転じて、大切なものに紋を書くようになったとか。
「さぁ、△△、行きますよー」
「あっ、私から?」
「れでぃふぁすとなのです」
「準備が出来たら早くじゃなくて……いいけど、何か特別なことするの?」
「いえ、大丈夫です。目は開けたままでお願いします」
クドが右手の人差し指に食紅をつけて、私に近づく。もういちど間近で見るクドの顔は、神話にでも出てきそうな妖精を想起した。
私の恋した亜麻色の髪、澄んだ空の様な瞳。夜明け前を背負った私の恋人が、凄く頼もしく、儚く見えた。
頬にクドの人差し指がつく。ひんやりとした食紅。ひどくくすぐったい。
クドは真剣に私の顔に何やら書いているようだった。
「……クド」
「はい?」
「これって喋っちゃダメなやつ?」
「もちろん、しゃべってもいいのですが。△△の顔を間近で見ているので……その、恥ずかしいのです……」
「そんなの、私だって恥ずかしいし。……私が大好きな物がこんな目の前にあるんだもん」
口にした途端、クドの頬が染まる。
「△△」
「何……?」
「……△△が恥ずかしいことを言うので、私も恥ずかしいことを言います」
クドの指はのろのろと__あるいはわざとゆっくりと__動く。
「とても好きなエフトゥシェンコの詩を。おかあさんが教えてくれた詩を」
クドの唇が開く。その詩は、春の夜も夏の夜も自分のことを想って欲しい、という内容だった。
クドは私に向かって少し掠れた声で囁くように、詠った昼も夜も自分を考えて欲しいと詠う歌を。とても真剣に、でも頬を染めながらクドは詠った。
クドの指が私の頬から、つい、と離れる。少し切ない気持ちになる。
「△△、袖をまくって……」
無言で服の袖をまくる。左の腕がひんやりとした外気に触れる。
詩は続く。秋も冬もまた同じ。昼も夜も。
腕に描かれる模様を見ると、それは何かが波打っているようにも、何かが伝わっていく有様のようでもあった。
緩やかな線が円を描き、曲線と螺旋を描き__私の左の手の甲に辿りついた。クドは円と三角形が奇妙に捻られたような紋様を描いた。歯車が捻れたようなかたち。パッと見、狂った歯車のようにも見えるが……。
「私の紋です。おかあさんが考えてくれた紋。『世界の良き歯車となれ』……どういう意味なのか、私にはまだわかりません……それに、ちょっと変な形ですよね」
「変な形、だけど、……こうじゃないといけない意味がある、そんな……気がする。大きいことは言えないけど」
「意味ですか?」
「うん。綺麗な歯車の形じゃダメな、理由が」
「……さんきゅーです、△△」
クドの指が離れる。いつの間にか、クドが歌っていた詩も終わっていた。私はその詩を覚えておこうと胸に秘めた。
「では、ねくすと・とぅー・ゆー」
言いながら、クドがマントを脱ぎ始める。
「私の時と同じように書けばいいの?」
「はい。そうです。特に描き方は決まっていませんので」
私も、食紅を手に取って、クドの頬に手を伸ばそうとした所で後ろに仰け反った。
クドは無言で、シャツのボタンを外すと、するり、と両腕から抜いた。
ぱさり、と長袖シャツが落ちる。
「へ、は!? クド!? どういう……っ」
「…前はその、恥ずかしいので、背中と腕でお願いします・・・」
視界にはクドの真っ白で綺麗なスラッとした背中しか見えない。クドはそれきり、何も言わない。私は何をしたらいいか一瞬迷ったけれど、ちょっとだけ考えてから、震える右手を左手で抑えた。
「ふー……よし、始めるよ」
「はい……どきどき……優しくしてください」
目が潰れそうだと言うのに耳まで潰しにかかるな。私は頭がぐわんぐわんと揺れる感覚のまま、クドの頬に指を乗せる。雲の隙間から揺れ落ちる日の光が、木々に落ちて、その木漏れ日がクドの横顔を照らす。
……かっこいいな。と、ふと思った。
とにかく、何も思いつかないが指を這わせて何か描く。陶磁器で出来た人形のような身体は、触れるとふにっと柔らかく、マシュマロをつついているみたいだった。指先から伝わる柔らかさに頭がクラクラする。
あごの下、首筋、肩、指を走らせる度にクドがくすぐったそうにして眉や頬をぴくぴく跳ねさせる。
「も、もう少し力を入れてもいいですっ、あはっ」
「ご、ごめん」
「もー、さわさわしたらくすぐったいですよ、△△」
私はもう少し力を入れてクドの肌に指を這わせた。柔らかい肌がへこみ、弱く私の指を押し返す。
「左腕、出せる?」
「はい、こうですね」
左腕を横に出して、クドは私の指を待つ。私は、自分の腕に書かれた紋を参考にして、同じように、だけど少し違うように。私の中のイメージと、クドに伝えたいものを混ぜて描く。
「……△△に触ってもらうの、好きです」
吹き出した。急になんという爆弾発言を投げつけるのだろう。
「な、な、なっなに急に!?」
お陰で線がものっそい狂った。今まで書いたものに横線を入れるようにズバッと。
「そう思ったんです。ずっと撫でて貰ったり、ハグしてもらったり……キス、してもらったり」
「……ど、どう、いたしまして……?」
私はタダでさえ変な気持ちにならないように尽力していると言うのに、そんなことを言われるもんだから、もう一度自分の高ぶりを抑える時間に入る。
それからまた、肘をなぞったり、腕の内側をくるりと回したり。その度、クドはくすぐったそうに体をよじる。
よくよく考えてみれば、自分を相手に刻み込むというこの行為は……なんだか、とても官能的にすら思えた。互いに書いた線が、互いの中の相手なのだと。
「ひゃん、く、くすぐったいです、△△」
「もう少しだから……がまんして?」
指先はクドの背中まで到達する。
「ここには、私の形。だよね」
クドはこくんとうなづく。
私は少し考えて、クドに伝えたい一番の想いを、指先に込めた。
少しチープで子供っぽくも見える、花丸。
「世界と……、花弁、ですか?」
「そう、なんだと思う。私でもよく分からないけど、そんなにかっこよく思ってくれてるなら、多分そう」
あなたはあなたのままでいいのだと。そのままで、だけど、努力し続けるあなたが満点の花丸であることを伝えたい。
私は手を背中から離し__
「クド」
クドを呼ぶ。
「はい……っ……ふふ」
左手で、クドの頭を撫でる。いつものように、優しく丁寧に。
そろそろ夜が明けそうだった。瞬く星がうっすらと消えていく。
手を離すと、クドは名残惜しそうに私の手を見つめた。
「……星、見えなくなっちゃうね。クドの国は、周りに光がない分星も沢山見えるのかな」
「はい、見えますよ」
衣擦れの音。
「いっぱいいっぱい、見えます。私のお気に入りはみなみじゅうじ座なんですよ。南十字星と言ったほうが通りよいでしょうか。アクルックス、ベクルックス、ガクルックス、デクルックス。この4つの星で成るのがみなみじゅうじ座、通称南十字星です」
クドが言うには、沖縄よりもさらに南でないと見られない星らしい。
「テヴアに来たら見放題ですよ、△△」
くすくす笑うクド。
「卒業旅行とかで行きたいね」
「そうですね、そのときは本宅に招待しますよ」
本宅は広いですから、とクドが続ける。
「いつか……いっしょに、みなみじゅうじ、見られたらいいですね……」
「いつか、絶対見に行こうね、クド」
「はいっ、見に行きましょうっ。約束です、△△」
「もちろんだとも」
小指を絡めて指切りの歌をうたう。
「ゆびきったっ。えへへ」
太陽がゆっくり登り始めていた。
__
「はい、△△」
水飲み場でクドは食紅を落とすのを手伝ってくれた。水の冷たさが心地よく感じながらも、ふと感じる。
「もったいないな……」
「大丈夫ですよ」
「そう、なの?」
「紋様が落ちても、刻まれたものはずっと残って繋がる…のです? 信じればきっと……繋がったまま……なのです……たぶん」
少し自信なさげに頷く。
クド
「自分でも思うのですが、風俗風習がごちゃまぜになってる変な国なのです。……とにかく、無事終わってよかったです。他のひとに見つからないよう、帰りましょう……」
「クドは、落とさないの?」
「……今日のお風呂まで取っておきます」
クドは自分の右腕をそっと押えて、嬉しそうだった。それを見て、私まで洗い流す手を止める。
「じゃあ私もそうする。見えない部分だし」
「……そうですか」
クドは嬉しそうに笑って、私と手を繋いだ。