今日も今日とて退屈な学園生活。だがしかし、私が普段居るクラスには、私の最推しめちゃんこ可愛いホワイトフェアリーが居る。そう、能美クドリャフカだ。そんな妖精さんがぴょこぴょこと私の席へと歩いてくる。
クドはぴん、とつま先立ちをしながら一枚の紙を差し出した。それはインクジェットプリンタで打ち出した紙で、差出人は『[SMLAdmin]』になっている。
それはソロリティ・メーリングリストの管理人から、という意味だとか。
いやまぁそんなことどうだっていい。クドが背伸びしてるの可愛いね、背が高くて申し訳ない、だるま落としよろしくちぢもうかな。
「これって昨日のやつ? 早くて偉いねクド。今日も可愛いよ」
「ありがとうございますー、寮長さんが早速メールを回してくださったようでした」
「なんかやるのか、○○」
真人が顔を突っ込んでくると、心配そうに理樹もくっついてきた。助かるよ筋肉ストッパー。
「やるのは○○じゃないよ、クドがやるんだ」
「クー公が?」
「ルームメイトを募集するんです、井ノ原さん」
「ルームメイト?」
「直枝さんと井ノ原さんみたいな関係ですね」
「ほぅ……つまり筋肉担当を探しているってわけか」
「筋肉担当が必要なのは理樹だけだよ」
「僕も別に必要な訳では……」
それから暫く話して居ると、真人がこんな事を言い出す。
「意外と寂しがり屋なのな、クー公」
「そ、そんなことは……ないこともあることもないこともないかもあるかも」
なにそれめっちゃ可愛い。○○ポイント2不可思議あげる。
「何時でも……おいで」
手を広げてクドへそういう。我ながらまぁまぁ気色悪いが、クドは笑顔で答えてくれた。
「はい! 頼りにしていますね! あ、でも連絡先が……」
「え? まだ渡してなかったのか?」
ぶっきらぼうに真人が言う。そういや交換は別にしてなかったや。どうせ教室で会えるからってそのままにしていた気もする。
「今のうちに交換しておきなよ、リトルバスターズのメンバーなんだし」
「それも……そうか、じゃあ渡しておくよ」
「ありがとうございますー! メール送りますね!」
程なくして私の携帯が震えた。
『ぐっどもーにんぐです! KN』
長文で返信を考えてるうちに予鈴が鳴った。
「とぅ・びー・こんてぃにゅー・ねくすと・やすみ・たーいむっ」
「続くんだ!?」
理樹の声と共に、皆が自分の席へと戻って行った
__
そして次の休み時間。直ぐにクドの元へ向かう
「頼花さん、早速作戦会議ですね」
「しかしどうしたものか、メールが送られてるとはいえ、誠意は見せに行った方がいいと思うし、しかし」
「……新学期が始まって間もないのに部屋を移動しようという生徒は普通いないだろうな」
不意に振り返ると、窓の外から恭介が入ってきていた。紙パックをストローで吸いながら漫画のように。一体理樹の友人はこんな変なのばかりなのだろうか
「確かに、寮長もそんなこと言ってた気がする」
上級生だからというのもあるが、やはり恭介は少し苦手である。いつも何考えてるかわからないし、何事にも先回りされてる感じか性にあわない。とはいえ、頼りになることに間違いはないし、助言も的を射たものが多い。幾ら苦手であろうと、クドのルームメイト探しのためには四の五の言っていられないのだ
「だろうな。よほど気にくわない相手だった、とかなら別だが、今の時期ではそこまでわからないだろうな」
「やはり私が寮通学になるしか」
「いや、そうでもない。いくらでもやりようはあるさ」
「棗さん、どうやるんでしょうか?」
「現在部屋にひとりでいる知り合いに頼むのが一番手っ取り早い。能美としてはどうなんだ?」
「私はどなたでもいいんですけど…お願いできるなら、顔見知りの方のほうがいいです」
クドは控えめに答える。
「……ただ、あまりご無理もいえませんし」
節制出来る良い子だ。頭をよしよししてあげますよ。
「女子の知り合いなら理樹が多いが……あいつ今は居ないみたいだな。あいつが帰ってから話を聞くか、○○の知り合いに声をかけるか。好きにすればいい」
「クド以外の知り合い、か……」
顎に指を当てて考え始める。よくクラスに遊びに来てる三枝とか、多分理樹の事が好きな杉並さんとか。色々思い浮かぶ中、一番候補に近いものは__神北さんだろうか?
「というわけだ。上手く見つかるといいな、能美」
「はい! ありがとうございます、棗さん」
恭介はパン、と紙パックを片手で器用に畳むと、それを近くのゴミ箱に突っ込んで教室から出ていった。窓から上がんないのかい。
「では、○○さん、誰に最初に声をかけたらいいと思いますか?」
クドがそんな事を聞いてくるので、私は先程浮かんだ最も有力な彼女を示した。
__
「でも、ごめんね、私もうルームメイトの人いるから」
「ガーン!? ……そうだったんですか」
結果は無念。クドからの勧誘も手厚く、そこそこ有力かと思ったからこそ、その無念は大きかったことだろう
「うん、でもだいじょうぶっ。きっと見つかるよ、いい人」
「……はい、そうですねっ」
とても残念だけれど、ここで「じゃあやっぱり私がなるしかない」とは言えなかった。クドが無理しなくても良いって言ってくれた意志を踏みにじることになってしまう……気がする。あくまでも私は最低保証に過ぎないのだ。
「しょうがないか。また別の人を探してみる。ありがとう神北さん」
「小鞠でいいよ〜。私も☆☆って呼ぶから」
「……☆☆?」
「うん、☆☆。あ、○○君の方がよかったかな?」
「いや、良いよ。それで」
「じゃあ☆☆だ〜」
なんだか納得出来ないが……まぁ、それで良いか。
「じゃあ私も☆☆って呼んでも良いですかっ」
クドが言う。
「……クドは暫く前のままでお願い」
小鞠さんには言えないが、流石に恥ずかしくて死ぬって。
それからジュースを飲んだり、窓から見えた人に影踏みしてるか聞きに行ったりしながら、心当たりのある人物へ片っ端から聞いてみたが、実りは無かった。
__
「さて、次はどうしようか……」
寮の前の広場にあるベンチに腰掛け、考え込む。それは、私だけでは無く、クドも同じように難しい顔をしていた。
「どなたにもご迷惑じゃないでしょうか……ちょっと今更ではあるんですけど」
「そんなことないさ。皆気にするような人じゃないし……何より、こんなに可愛いクドからのお誘いだからね。私ならほいほい乗っかっちゃうもの」
「わふー……」
クドはしょんぼりした顔で地面を眺めている。
「○○さんからみて、いちばん私に合ってそうな人は誰でしょうか?」
自分。と答えてしまえばそれまでだが、今まで話しかけた人の中でいい反応を貰えた人はいなかった。
「今はまだ見つかってないかな、まだまだ探してみよっか」
「はい」
クドは覚悟を決めたような顔でベンチから立ちあがる。
「でも、○○さんのお昼休みを全て占有してしまうのは申し訳ないので、ここからひとりで探します」
「いや、私も行くよ」
「えぇ? で、でもそれじゃあ……」
「もし、私にも迷惑かなとか思ってるんだったらお門違いだよ。私が好きでやってることなんだから。取り敢えずお昼食べに行こっか」
「……はい」
手を差し伸べると、遠慮げにクドは私の手を取ってくれた。
私だってクドと同じ寮で暮らしたいけれど、それが今、クドのルームメイト探しを手伝わない理由にはならない。私は1秒でも長く、クドが笑ってるところが見たいから。
__
学食。私は適当な定食メニュー。クドは先程の会話通り、目を瞑ってボタンを押す。フライングパンケーキなる食券が落ちてきた。戦闘機でも出てくるのだろうか。
トレイを席に運び、2人分の水を持ってきて、それぞれの席へと置いた。
「はい、クドお水」
「ありがとうございます、○○さん」
二人で手を合わせて、食事を始める。クドはマイ箸を持参してきている。エコで素敵だね。ちなみにフライングパンケーキは揚げたホットケーキのようなものだった。このネーミングはなんなんだ。
そんな事を考えていると、向かいに座っているクドがおずおずと口を開く。
「○○さんは、……」
「ん、どうしたの? クド、油とか気になるなら交換する?」
「い、いえっ。そうではなくてですね」
口ごもって、一度、二度、パンケーキを口に運ぶ。
クドも不安なのだろう。自分の人望の無さ、と言ってしまえばそれで終わりだが、それはクド自信が最もよく理解し、苦悩していることだろう。
「○○さんは、○○さんはどうしてこんなに良くしてくださるのですか?」
意を決したようにクドはそう呟いた。私の顔を見ずに、食べかけのパンケーキを見ながら。
彼女にとって、自身はここまでして貰えるような存在ではない。と言うのが、きっと彼女にとっての当たり前なのだろう。
遠い地からやって来て、なのに英語が分からず、英語の間違った言葉遣いで人と接する事は、見ず知らずの他人から見てしまえば、それは「変」だった。
そして、クドは自分がそう揶揄されていることを知っている。初めてあって校内を案内している時、そうしてからかわれた事は一度や二度では無かった。
自分に自信が無いことは、辛く寂しい。常に自分を否定する敵が、四六時中すぐ側に居るようなものなのだ。
だからこそ、だからこそ私はクドに笑っていて欲しいんだ。四六時中とまではいかないけど、少なくとも、学校にいる間は、あの奇異の目線から庇ってあげたい。
私が彼女に返す言葉は一つだけ。庇護心や、憐憫、もしかしたら恋心。そんなものを引っ括めて言う言葉
「それは、クドの事が好きだからかな」
そう微笑んで言葉にする。いつものような軽口や冗談に混ぜた、確かな思い。クドに伝わってくれたかな。
「好き……ですか」
クドはまた考え込むようにして俯く。
「うん。クドの事が好きだから。さっきも言った通り、好きだからやってることだから。クドは気にしないで」
「ですけど、私は○○さんに何も返せていませんし……」
「お返しならずっと貰ってるよ」
「え……?」
ぽかんとした様子で、こちらを見上げる。
「クドが『頼花さんが嬉しそうだと、私も嬉しい』って言ったのと同じで。私もクドが笑ってるところを見れると嬉しいんだ。だから、ずっと私は返してもらってるの」
「そー……ですか」
クドは呆けた顔から、口角を少し上げて、私がクドを見つめる目を見た。
「でしたら、はい! ご遠慮しませんっ!」
「そう、それでいいの」
そう言って、私はとっくに空いた二人分のトレイを持って立ち上がる。
「そろそろ行こっか。授業遅れちゃうかもしれないし」
「はい、わかりましたっ! ですけれど」
クドは、私が持ち上げたトレイを1つ取ると、自分で返却口へと運んでいく。
「頼る場所くらいは選ばせてくださいっ」
クドは程なくして、返却口から戻り、私の元へ。
「さ、教室にれっつごー、ですっ!」
自信満々に、クドは歩みを進める。それを追う途中、高学年の生徒の声が聞こえた。
「ねぇ、さっきの見た?」
「もちろん、能美さんでしょ? 本当にマイ箸持ってきてるんだねー」
「それに、本当に英語話せないんだね、今の1回だけだったし、それもすっごい日本語訛り!」
「可愛かったよねー!」
聞こえないふりをしていたクドへの陰口。それは悪意のない純粋な話題としての声だった。
この近くでは見ない亜麻色の髪。クォーターと言うラベリング。なのに英語が話せない、なんて特徴。
彼女の魅力と言っても差し支えないそれら。だが、そのことについて彼女はどう思っているのだろうか。それはきっと彼女にしか分からないこと。
だが、私はそうしてからかわれた後、彼女が凄く寂しそうな顔をすることを知っている。
……それに、何故か確信的に、これがクドのコンプレックスであると知っている……ような、気がする。
同級生では、同じクラスだったり、関わる事が多い為、誰であっても面と向かって話す時は蔑ろにする事は少ない。
しかし、関わることの少ない上級生、そうなると話は別で、一つ下の学年にとびきり面白いものが飛び込んできたら、暫くはその話題で持ち切りになる。
上級生の、それも女子達はそんな楽しいものに飢えているのか、クドへ話しかけてくることが少なくなかった。その度、同じような会話が繰り返され、クドの顔が少しだけ落ち込んで行った。
「……だから上級生は嫌いなんだよ」
誰にも聞こえないようにそう言って、私はクドの後を追った。もう、クドがそんな顔をしないように。クドがずっと笑って居られるような。そんな居場所を作るためにも、まずはルームメイトを探さないと。
__
さて。大体の人は勧誘したし、授業間の休み時間はさすらうか
教室に丁度真人が居た
「○○の筋肉、どんなもんか見てやるよ」
「大して変わってないよ」
野次馬から武器が投げ込まれる。教室ということもあってごった返した中、手に入ったものは……うなぎのパイ。
うなぎのパイ!? これでどうやって戦えば良いのかと思った矢先、真人が持っていたものもごぼうだった
「どちらが先に折れるのか。見物だぜ」
窓枠に腰掛けた恭介がそう呟くと同時に、戦闘が始まった。
「食らえ、オレの全身全霊フルスイングを!!」
「そんなの受けてられるか!!」
真人が力任せに振るったごぼうは、机にぶち当たり真二つに折れた。しめた、今がチャンス!!
隙を突き刺すようにしてうなぎパイを真人へ突き出す。
しかし、その先端は既に無くなっていた。
「いやー、うなぎパイって別にうなぎの味しないんですネ。はるちんちょいショック」
こ、この女……ッ!!
「悪いが、今回はオレが頂くぜ」
真人は跳躍すると、折れたごぼうを手に取る。
まさか……二刀流だとッ!?
私は咄嗟にうなぎパイでガードをするが、手に持つ程度しか幅の残っていないうなぎパイではまともにガードすることも出来ない。
「秘技、ごぼう抜き。ってな」
真人が日本のごぼうを鞘にしまう(ようにして腰に刺す)
そうして私はその場に崩れ落ちた。
「ゲームセット。今回はまぁ、アクシデントみたいなものだが、三枝は人のバトル中にちょっかいかけるな」
「気になってしまってネ、面目ない。あ、うなぎパイまだあるけど食べる?」
「もう少し早く言うか……そっち食えよ」
【○○は『好きも行くとこまで行くとこうなる』の称号を得た!】