「頼花さーんっ」
移動教室の授業が終わり、教室へと戻る際、クドが声をかけてくれた。本日一切実りがないと言うのにこの元気。まいど可愛い?
「はぁい。何かご用事?」
「一緒に教室戻りたいなと思って。良いですか?」
「勿論!!!!!」
うわ声でっか、今日も元気だなとか周りの声を無視して、私はクドと共に教室へと戻っていく。
__
教室に戻ると、直ぐにその異質さに気がついた。いやサスペンス寄りにする気もないが、取り敢えず不可思議なことが起こってる。
「誰だぁーっ、こんなことしたやつはぁーっ!!」
男子の声が響くと、バツが悪そうな濃いピンク色の髪がこそこそ教室から飛び出していく。
「な、なんですか? 一体」
「三枝さんまーた何かやったのか。十中八九これだろうけど」
教室の黒板には、最近やってたミステリー系のドラマのネタバレがこっそりと書かれていた。きっと彼はこのドラマをたのしみにしたいたのだろうな、ご愁傷さま。
「一応様子見てくるよ」
「はい、行ってらっしゃいですっ」
__
廊下を出ると、先程の男子生徒、三枝と理樹と真人が廊下で談笑をしていた。中入れよ邪魔だろ。と、突っ込もうとするやいなや、賑やかな廊下は直ぐに静まり返る。
「あ……三枝、話はまた今度な」
楽しげに話してた生徒も、踵を返して教室へ戻って行った。
「一体……」
疑問に思った途端、廊下に幾つかの足音が立つ。音の軽さとは裏腹に、規則的で統率の取れた音だった。
何かと思って廊下の奥を眺めると、そこには左腕に腕章をした生徒達。生徒会などの組織化と思い、その腕章を確認すれば、そこには白字で「風紀委」と書かれていた。
あの濃いピンクの髪をした女子が風紀委員長なのだろうか、しかし、何処かで見覚えが……。
その少女は、背後の風紀委員と、幾つか確認ごとを話すと、こちらへと視線を投げる。
「……」
その視線の先は……一体誰なのだろう。だが、少なくとも私はその視線に敵意のようなものを感じた。
けれどそれはやっぱり一瞬で、彼女はそのまま歩き出す。
廊下の角にその集団が消えると、廊下はざわめきを取り戻した。
「……ふん」
誰の声かは分からないが、鼻を鳴らす音が聞こえた
「何ぼーっとしてるの、理樹くん?」
三枝が理樹に声を掛ける。お前鈴と小鞠さん以外に名前呼びしてくれる女子いたのか、なんだか少し理樹の成長に嬉しくなった。
「私たちも教室入ろ、ほら、いこ」
「う、うん」
袖なんか引かれちゃってなーんかいい感じじゃないの。
……あれ三枝別のクラスじゃん。なんでここに当然のごとく来てるんだ。
__
放課後、結局クドのルームメイトに相応しい人は見つからなかった。そろそろ野球練習にいかなければならない時間。練習後にも探すとなれば流石にくたびれてしまうだろう。
「……やっぱり、寮に戻ってからいろいろな人とお話してみます。時間はまだ……1日ありますし」
クドの言う時間とは、量の募集メモの貼り付け期限のことだろう。
クドはベンチから立ち上がると、改めて、私にぺこりと頭を下げた。
「今日はありがとうございます。頼花さん」
「いえいえ。クドこそお疲れ様。沢山歩いてよく頑張りました」
「ありがとうです。遅れてもいけませんし、そろそろ練習に行きましょうか」
少しだけ悲しげな足取りで、グラウンドの方へ向かうその背後。
「ようやく見つけたわ」
濃いピンクの髪、キリッとした目は何処かで……。
「そのひとは?」
私を見て言った。冷たい声のせいで私達が何か悪いことでもしたのかとさえ錯覚してしまう。ていうかあれじゃん。風紀委員の人じゃん、怖いんだけど。
「え、えと、頼花さんはお友達です、部屋の、引っ越しのお手伝いをしてもらってて」
「……なるほど」
「あ、あの、何のご用でしょうか?」
「合部屋の相手を能美さんが探してると聞いたものだから」
「能美さんでしょ? あなた」
「あ、はい。能美クドリャフカです。は、はじめまして」
クドはぺこんと頭を下げた。ちゃんと挨拶出来て偉いぞ。
「はじめまして。もし相手がまだ見つかっていないのなら……見つかってないわよね?」
「はい…そう…です・・・けど?」
「そう、よかった」
風紀委員の方はそれだけ言うと、後ろ手にしていた小さな旅行鞄を示した。
「あ、あの?」
「私の荷物、今から部屋に置いてくるから」
「何か見られたくないものがあったら、先に片付けて欲しいんだけど」
「…??」
こいつ勝手に話進めるタイプだな、やっぱり風紀委員と言えど上に立つような輩はこんな感じになるのか?
「……すみません、詳しく説明をお願いいただけますか? いきなりのことでこちらも少々混乱していまして」
クドを庇うように前に出る。話的にルームメイトの話ではありそうなのだが。
「……」
風紀委員は私をじっと見つめる。なんすか、やるんすか。きっと今の私の目線は先程の彼女と同様敵意に満ちているだろう
「……ま、いいわ。今は私も放課時間内だから」
な、なんだよ。何を言い淀んだんだよなんか悪いことしたかよ不安になってきたどうしよう謝った方がいいのかな
「邪魔」
はぁ!? はいこの人嫌いですー○○ポイントマイナス5千。
あなたがクドを怯えさせるのが悪いんでしょうがこの野郎意地でもどかないぞ
「その子はルームメイトを探している。という事は、自宅通学のあなたには関係ない話でしょ」
私のことを睨みながらそういう。ちくしょう何も言い返せない。傍から見ればまぁまぁでしゃばりなのは何も覆せない。とは言え、それでも言わなければならないことはある。
「確かにそうですが、クドが友達と言ってくれた以上、友達のルームメイトを探すことに協力する事自体、おかしなことではないはずです。それに、あなたがクドと相部屋を希望なのでしたら、まずは名乗るのが礼儀と存じます」
めっちゃ怖い。学校の実権を持つ人に突っかかるのってこんなに怖いんだな。だけど、幾ら風紀委員と言えど、クドのルームメイトになるのだとしたらそれ相応の人格者でないと私は認めたくない。クドが承諾するかはまた別だが。
「相変わらず知られてないというおかしな話になってるわけね。……しょうがないか」
二木佳奈多。と彼女は名乗った。三枝じゃないのか、やたら似てるし同じアクセ付けてるあたり姉妹かなにかだと思ってたのだが。
「名乗ったわよ。これでいいでしょ?」
なーんかやな感じ。みんなにこんな風なのこの人。そりゃあ煙たがられる訳ですよ。
私はクドの方へと不安そうに振り返る。クドはきょとんとした顔で二木さんを見ていた。彼女もまた、表情を変えずにクドを見る。
「……どう?」
出来れば辞めておいた方がいい気がする。そんな念を込めるが、クドはいつものような笑顔で私に返答した。
『たぶん、だいじょうぶです』
そんな意味合いでもこもっているのだろう。とても不安の残る状態だが、クドが良しと見定めたのであれば仕方ない。
「では二木さん、寮でお会いしましょうです」
「えぇ、引き止めてごめんなさいね」
そう言って、クドは改めて練習へ向かう。二木佳奈多と名乗った少女は、私達がグラウンドへ向かう中、一度だけ振り返る、この場を後にした。私の視線に気がついたのだろうか。私が放ったクドのこと大切にしてやれよビームを食らったのかは定かではない。
__
練習中、何故か来ヶ谷さんが参加した。あの人何がしたいんだ本当に怖いクドに近づかないでくれ。
「くるがやゆいこだからー。ゆいちゃんなのです」
「……なにぃ!? ゆいちゃんって私かっ!!」
神北さん皆にあんな感じなのか……私には無い真の陽キャを感じる。
__
「今日もがんばった」
「鈴ちゃんお疲れ様だよ〜」
「みんな頑張ったのですー!」
「はいお疲れ。キンキンのスポドリですよ」
太陽も落ちた頃、練習も一段落付き、一足先に女子達へ飲み物を渡す。男子共はグラウンド掃除。遠目から真人と理樹がトンボを掛けてるのが見える。
「ゆいちゃんボール取るの上手だったねぇ、野球やってたの?」
「っ……い、いや。別段経験はない。あとゆいちゃんはやめてくれ」
「ほぇ?」
あの来ヶ谷さんをここまで弱らせるとは、神北さん恐るべしだな。
「それでは、私はここで失礼します。しーゆーあげいん、です!」
「じゃあな」
「クーちゃんお疲れ様〜」
「あぁ、お疲れ」
しっかりルームメイトも決まったことだし、掃除とか必要だよね、……クドには優しそうだったし大丈夫、だよな。いやしかし……。
など考えていると、皆に挨拶をして回ったクドが私の元へやってくる
「今日は本当にありがとうございました! こんなに頑張れたのは頼花さんのおかげですっ!」
「クドがそう言ってくれるならとっても嬉しい。だけど、実際に頑張ったのはクドだから私はクドをめっちゃ褒めるよ! マジ偉い大天才!」
「わふー! ありがとうございますですー!」
手を掲げてめいっぱい喜びを表現するクド。今日も今日とて可愛いな。よく頑張ったと頭を撫でようと手を伸ばす。クドはすっかりその距離を許して、縦横無尽に撫でさせてくれる。めちゃんこかわゆすなぁ。
クドが見えなくなるまで手を振って送った後、自分もグラウンド掃除を手伝おうかと振り返った途端、私は目を大きく見開いた。
ぱたっ
グラウンドの柔らかい地面に倒れる音。
先程まで誰かが持っていたトンボがカランと落ちる。
そして、人一倍早く駆け寄る真人、鈴。
私は1テンポ遅れの反応で、それに次々と投げかけられる言葉を口にした。
「理樹ッ!!」
__
ナルコレプシーと言う病気を知っているだろうか。私も詳しくは知らないが、何処でも突然予兆なく眠りについてしまうという病気らしい。理樹がそうだと知ったのは、知り合ってから学期をまたぐまでの間だった。初めはそれはもう大層焦り散らかしたが、バスターズの皆がいつものあれだと言うように処理していくものだから、何となくそういうものなのだと受け入れた記憶がある。
倒れた理樹を、恭介達は手際良く運んでいく。私は何も出来ず、ただ様子を確認して心配そうに眺めるだけだ。
「理樹くん、大丈夫かなぁ」
「話は聞いていたが、あれがか。難儀な病だな」
休憩中の女子達の声が聞こえた。このショッキングな場所をクドに見せられなかっただけ救いだろうか。
「頼花君は何か聞かされていないか?」
「いや。ある程度の症状くらい。介抱に関しては、理樹の周りにアイツらがいない事の方が珍しいし」
「大変な病気だよね、私達もなにか出来ること、無いかなぁ」
心配そうな神北さんがそう呟く。それに答えるようにして、鈴が1歩前に出た
「だったら、だったらいつも通り接してやってくれ」
「えぇ? で、でも」
「ただ突然寝て頭痛くなるくらいだ。伝染る訳でもないし」
「……そうだね。それも、そうかも」
お見舞いしてくると言い残し、鈴は男子寮へと向かった。
奇病、と言うものは、他者から色眼鏡で見られるものだと理解はある。身体的な特徴や、話題性と、これもまた奇異な目で見られるものだ。
きっと、理樹もそう言った目線で苦しんでいたのだろう。それを抜きにしたって、突然寝てしまう病気なんて日常生活がままらない。かと言って、変に気を使われるのもあいつは嫌うだろう。結局のところ、私達にしてやれることはいつも通り接することだけなのだ。
神北さんも良くわかる子だ。クドとも仲良さそうだしいい友達になれそう。クドのルームメイトになれなかったのが残念だ。
そのまま、その日はお開きとなる。私は一人、帰路に着きながら色んなことを考える。
クドのルームメイト。
クドへの視線。
理樹の病気。
……そういや私の友達全員寮通学だなーとか。一人で帰る道が寂しいかと言われれば、もはや慣れてしまったのでその限りでもない。1人でしか見つからない物もある。道端に咲いてる知らない花とか、季節外れのツクシとか、河川敷を駆け回る子供とか。
それでも、やっぱり頭に浮かぶのはクドの事ばかり。とも、今日は言えない。応急手当の仕方とか覚えようかと、今日は本屋に寄ることにした。
__
翌日。さて、今日もさすらうか
階段に神北さんが居た。こ、この子もバトるのか。凄く申し訳ない気持ちでいっぱいなんだけど
「……話し合いで解決とか」
「それで良いならそうしたいよ〜」
神北さんは泣きながらそう言う。可哀想な人かもしれない。だが、ガヤがそれを許してくれなかった
周囲から物が投げ込まれる。私が手に取ったのは毛布だった。攻撃力の欠けらも無いな。
神北さんはドーナツを一つ頬張ると周囲からコロコロ(掃除するやつ)を拾い上げた。
「ふっふ〜ん、そんな毛布綺麗にしちゃうよぉ」
「……えい」
「おわぁ」
神北さんに毛布を被せる。コロコロで必死に応戦しているようだが……。
「うわぁぁぁあん! コロコロが引っ付いて剥がれないぃいい」
毛布の中からうごうごと泣き声が聞こえる。しばらくして力尽きたのかその場で大人しくなった。
毛布を取ってみる。
「すやぁー……おそうじー……」
「ゲームセットだ」
階段の手すりから恭介が降りてくる。
「可哀想だから巻き込むの止めない?」
「止めない」
「なんでよ」
「みんな等しくリトルバスターズのメンバーだからな」
「……」
やっぱりこの人のこと苦手だわ。
【小鞠は『クドをよろしくお願いします』の称号を得た!】