「おは理樹ー」
「あぁ、おはよう○○」
「直枝さん、おはようございます」
翌日、教室に着くと、理樹は普通に登校して来た。無事そうで何より。
「理樹くん、おそーい。遅刻しちゃうよ」
「三枝さんこそ、自分のクラスに戻らなくていいの?」
理樹の言葉に、時計に目を向けてみればそろそろ予鈴のなる時間だ。こいついっつもこのクラス来てるな……。
__
昼休み。食事を終えた後にぼーっと裏庭辺りを探索していると、見知った顔を見つける。鈴とべりーべりープリティエンジェルクドだ。珍しい組み合わせだなーと思いつつ、いつも通りクドに会い足を運んだ。
「どうしたの? こんな所で珍しい」
「特に何もしてない」
「こんにちは、頼花さん」
何もしてないと言ってる割に猫を抱えてる。かわゆい。そう言えば、鈴はしこたま猫を飼っていた。色々い過ぎで何が何だかわからない。
そんな鈴の足下には猫がわらわらといて、構ってほしそうにみゃーみゃーと鳴き続けている。可愛い。
「猫……かわゆいね」
「頼花さんは猫、お好きですか?」
「そりゃあもちろん。どちらかと言えば猫派だし。クドは?」
「好きですー。でも、もっと好きな動物はいますけど」
「ほう、なんだろう。やっぱり犬?」
「そうですか? では当ててみてくださいー」
「大正解ですー! こんぐらっちゅれーしょーん!」
その場でぱちぱちと控えめに手を鳴らす。可愛すぎる犬派に転向しようかな。
それから、飼ってる犬の話とかを教えてくれた。ベルカとストレルカと言って、この学園の敷地内には居るらしい。そういや風紀委員のパトロールに相棒が着いたと話を聞いたが……。
「あたしは見たことがある」
「あ、そうなんですか。出会ったらクドが会いたがっていたと伝えてほしいです」
「わかった。モンペチ、食べる?」
「どうでしょうか……わりかし好き嫌いは無かったはずですけど……」
「モンペチで伝わるものなのか……?」
「ホンヤクモンペチ」
鈴がキャットフードの缶詰を上着のポケットから出しながら言う。無理だろ。
「恭介から貰った。科学部製らしい」
一気に信頼度と不安が増えた。怖い。
「じゃ、そろそろ行く」
「あ、はい。鈴さん、ばいばいです」
鈴は猫を抱えたまま、歩き去っていった。
「……どこ連れてくんだろう」
「多分、何処かの寝床ですかね? あの猫さん、足怪我して昨日獣医さんに診てもらっていましたから」
「ほう、偉いな鈴ちゃん」
「昨日はなかなか近寄ってくれなくて困ってたんですよ。そこを私が通りかかって」
クドはお昼用にか持っていた紙袋を膨らませて、ベンチの下に入れる
「置いておきます」
「すると?」
風が吹いて、がさがさと紙袋が音を立てる。その瞬間がさがざがさがさっ! と紙袋から音がした
「というわけです」
紙袋を確認すれば、中には猫が居た。どこからともないな……。
「流石だクド。超かしこい」
「猫さんは紙袋とかトートバック好きですから。こうやって怪我してる猫さんを捕まえたのです」
「なるほど、それて鈴と仲良くなれた訳か」
「はい! これで春先のお礼が一つ出来ましたっ」
クドは嬉しそうに目をそ細め、笑顔になる。常にそんな顔で居て欲しい。とりあえず写真を撮る。てぇてぇ……。
カメラロールに10枚くらい追加された所で、私達は共に教室に戻って行った。
__
そうして時間が過ぎて行って、昼食後。
「新聞紙ぶれぇえーどっ!!」
三枝が教室に入ってくるなり、新聞紙を棒状に丸めたものを振りかざしていた。こいつはいつまで経っても小学生みたいな事してるな
「なんですかそれはっ。とってもカッコいいのですっ!!」
「あはは〜、そうでしょ? でしょ、」
いや流石三枝だとってもクールで最高な遊びを持ってくるじゃないか遊びの天才かな?
「なにしてんの三枝」
「突然何を始めたのさ……」
理樹と同じく首を突っ込む。考えることは同じらしい。
「いやー、例によって廃品回収などをしていたのですヨ。そしたら新聞紙がたっくさんあったからさ。リサイクルリサイクル〜」
「リサイクルはいいことだと思いますっ」
「私もそう思う」
「それはいいけど、何するのさそれ」
「それはですネ……」
三枝がちょいちょいと手招きする。
「小毬ちゃん小毬ちゃん」
「ふえ? なに?」
「うちとったりーっ!!」
「あ、あううーっ!?」
おいおい始まったな、仁義なきバトルが。
「ルールは斬るときに『かたじけのうござるっ!!』、斬られたら『無』 念なりー!!』」って言いながら倒れること!」
「いや意味わかんないんだけど……」
それに関しては真っ向から同意する。なんでありがとうございますって言いながら切るんだ
「はい小毬ちゃんかたじけのうござるっ!!」
「む、無念なりー!!」
三枝の視線がクドの方へ向かう。ま、マズいッ……!
「クド公かたじけのうござるっ!!」
私はクドの前に飛び出し、三枝の振るったぶれぇえーどっ!! から身を挺して庇う
「無念なりー……あれ?」
クドの前に膝を着く。咳き込み、私はその場に倒れ伏した
「クド……後は、頼む」
無念……なり。ごふっ
「よ、頼花さーん!? おのれーっ、なんてことをーっ!!」
「みんなの分も作ってきたから、レッツラファイト〜」
はい、みおちんも参加参加ーと、教室の隅で見ていた西園さんにも新聞紙を握らせる
今、この教室は戦場と変わった。
てか西園さんこういうの乗ってくるタイプなんだな……案外リトルバスターズ向いてるかもしれん。今度暇な時誘ってみるか。
結果は乱入してきた来ヶ谷さんが無双して小鞠さんがぼろ負けした。
__
後は謙吾の恋バナを聞いたり、理樹がバスターズに三枝を勧誘してきたりしたがその辺は割愛する。
練習終わり。日も暮れて来た頃。そろそろ帰り支度を始めようかと部室でごそごそ準備をしているところ、扉が開く。そこには理樹が居た。
「あ、居た。もう戻ってたんだね」
「私はみんなと違っていちいち帰る準備が必要だからね。今日もお疲れ理樹。メンバー集めも順調だね」
「あとは○○がプレイヤーになってくれたら取り敢えずの一チーム分は集まるんだけどなぁ」
「悪いけど私が居ても戦力にならない所か一つ穴が空いてるのと変わりないっての。クドからすんごい可愛く『頼花さんと一緒に野球したいです……ダメ、ですか?』とか言われてしまえば考えなくもないけど」
実際そんな事が起きてしまえば私は自我を保って居られる自信が無い。その日の放課後にでもスポーツ用品店に駆け込む未来が見える。
「本当に誰も見つからないってなったらそれも視野に入れるか……。あ、それと○○。クドが探してたよ。行ってあげたら?」
「クドが? 私を?」
「うん。クドが、○○を」
「ありがとう理樹、また明日な!!」
「あっ、ちょっと場所も何も教えてないのに!!」
これは一体どんな要件だ???? 帰り支度で準備していることを全て投げ捨て部室を後にする。
クドはとぼとぼと校舎方面に歩いている。私の足音に気がついたのか、後ろを振り返ると、困ったような顔がパッと明るくなって私に手を振った。
「頼花さーん! まだ帰ってなかったんですねっ」
「理樹が呼びに来てくれてさ。何か用事? なんでもお手伝いしますよマドモアゼル」
すると、クドは両手の人差し指を合わせておずおずと言葉を紡ぐ。
「結構いい時間ですけど……良いですか?」
「当たり前ですよ。クドの頼みなら日を跨いだって構わない。どうせ明日は休日だし」
「で、ではー……その」
もじもじしてるのがベリーキュート。可愛すぎる。今すぐにでも抱きしめて抱っこして駆け回りたい所だが、まずはクドの話を聞く事にする。
「ルームメイトさんも決まったことですし、本格的に荷物の整理をしようかと」
「二木さんだったよね。今週末が相方の引っ越しだったっけ」
「寮長さんが余っている家具を用意してくれるそうなので」
「据え付けの物以外に? 太っ腹だなあの寮長さん」
「そうです。なんでも……」
クドはほっぺたに指をついて、んー、と思い返す仕草をした。可愛い。ほっぺたを続く指にもつつかれるほっぺたにも嫉妬してしまいそうだ。
「……なんでも、家具部の作品だそうです」
この学校本当になんでもあるな……。
「一つ前の三年生の先輩が卒業されてからは廃部されちゃったようですけど、使えるモノは許可さえあれば使えるらしいです」
「他の部活思い出すとどんなものがあるかわかったものじゃないな……でもまぁ、使えるものがあったら良いね。アイアンメイデンとかオブジェとして良さそうだし」
「と、いうわけでですね」
クドは前で両手を組んで上目遣いに見上げてくる。
「お手伝いをお願いしたいのですが……どうでしょうか?」
「アイコピー」
「おー! さんくすおーる」
二つ返事で答えると、クドが興奮したようにぴょんぴょん跳ねる。
「じゃあ今からだよね。カバン持って来るから待ってて」
「出来るだけ遅くはさせません!」
「何時まで居てもいいよぉぉお」
そうして私は部室に戻り、一応母親に帰りが遅くなる旨の連絡入れておく。返信としてライフプランPDFのアドレスが送られてきた。キモすぎる。
__
荷物整理がまだ残っているということで、そっちを先に片付けるべくクドの部屋に来ていた。
部屋に備え付けのベッドには女の子らしい柄の掛け布団。
机の上には本や小物が積み上がっていた。
前来たときは薄クリーム色の壁だけだったのに、カレンダーなどが掛かっている。
その中に、青と白の格子模様で、ポケットのようになっているたくさんの布がぬい合わされた何かがあった。
「これは?」
クドに尋ねると、直ぐに返答が帰ってきた。
「パッチワークです。私が自分で作ったんですけど。何か変でしょうか……」
「そんな訳ない。初めて見るものだから一体何なのかと思ってさ。これがパッチワークって言うのか。お空見たいな色合いで可愛いね」
その言葉に、ほんの少しだけクドの口が歪むのが見える。や、やばい何か悪いことしちゃったかな大丈夫かな謝った方がいいやつ?これ悲しませちゃったかなごめんねノンデリで本当に申し訳ない。
など思いつつも、部屋の隅のダンボールへと向かう。中は空なので潰した方がスペースも取れるだろう。
「ダンボール潰して大丈夫?」
「はい、お願いします」
ダンボール箱の底のテープを剥がして潰していくと、その中にひとつだけ、封を開けてないものを見つけた。
「これ、開けないの?」
灰色のそれは、粘着テープが貼られたままだった。
「え、あ、それは、…えーと?」
クドは首をかしげた。
「……その箱は……いえ、なんでもないですっ」
クドは首を振った。
「それは開けなくて構いませんです……多分」
クドが気にしなくていいと言うのであれば気にしなくても良いのだろう。多少気にはなるが。
「了解。じゃあ、机の下にでも入れておくね」
「はい、ありがとうございます」
「あ、そういや家具って今日見に行くの?」
暇つぶしに会話もしながらダンボールを潰していく。箱には新聞紙が緩衝材代わりになっていたので、それも取り除きながらやらなくちゃならない結構な重労働だ。しかしクドの為ならえいやこら。ふと、目に映った新聞紙には英字が書かれていた。見慣れない新聞だ。
「明日にしようかと思ってます……段ボールも捨てなくてはいけないのを忘れてました。頼花さんのご都合、悪いですか?」
「大丈夫。空いてなくとも空ける」
英字新聞紙をくしゃくしゃと丸めと、ちょうど一面記事の上のほうの見出しに目が止った。
『ノヴァヤテヴィーマテヌワ』
何となくローマ字読みにしたが意味不明だ。英語では無さそう?
「……?」
なんだかよく分からないが、とても大切そうな気がする。
「頼花さん、ちょっと手伝ってください」
「はいただいま」
私は潰し終わった箱の隣にあるゴミ箱に、丸めた新聞紙を投げ入れた。
それから、謎の浮世絵タペストリーを見せてきた。おじいさんからこんな女性になれと願いを込められたらしい。雅なクドも……いいな。
そして、木でできたかまぼこ見たいなこれは一体……。
「あ、それ枕です」
「まくら……!?」
「おじい様愛用の枕……だったらしいのですが、首が疲れます」
「でしょうね……」
「ですから枕も買いに行きたい所です」
「ずっとこれ使ってたの?」
「お家では、おじい様が来た時だけは、ですけど」
クドは真顔だった。素敵な枕をプレゼントしようと思った。なんなら私が枕になる。
それから習字セットを見せられたり……。話を聞くだけでも、クドのおじいさんは癖の強い人だと言うことが解る。
私は文鎮やら硯やらを見ながら、取り合わせにうなった。全部良いものだと一目見てわかる代物たちだ。
「ほう……」
「……やっぱり、オカシイですか?」
クドが呟く。
「凄い気の入れようだなと思って。本当に日本のことが好きなのが伝わってくる」
親日とは聞いていたが、これ程までとは。ここまで愛されて純日本人として誇らしいものがある。
「お部屋にこういうのがあると、何か勘違いしてる外国のひとー、みたいですよね。私も嫌いではないですし、むしろ好きなほうなんですけど」
クドは綺麗な飴色の櫛をためすがえす見ながら続ける。その櫛を見るクドの横顔は無表情だった。
「外見がこんなですからおかしいですよね、やっぱり」
クドの台詞には何の感情も含まれておらず、ちょっとだけ下を向いてしょんぼりしているようだ。
そんな寂しそうな顔にいても立っても居られず、私は言葉を放つ
「そんなことない! クドは、クドだもの。誰からどう見られようと、クドが自分の好きな物を疎ましく思う必要なんて無いよ」
中身は僕たちと同じ国のひとみたいで。
でも外見はまったく違っている。
それでもその『違い』をクドがどう感じているか、クドにしか分からない事だ。
それでも、私はあの表情を知ってしまった。
だから、私はこの子を少しでも長く笑顔で居させられるように尽力するだけだ。
「……」
クドは私の言葉に顔を上げた。
「ありがとうございます、頼花さん!」
いつものクドの笑顔だった。
私の当たり障りのない言葉で、その笑顔が引き出せたのだろうか?
……これじゃあ、何かがまだ足りない。決定的な何かが。
そんな気持ちがなぜか、私に残ったのだった。
__
翌日、家に居ると茶化されるのでさすらおう。休日だし。
商店街までくると、小鞠さんが居た。また小鞠さんかとも思ったが、今日は周囲に恭介が居ないのでバトルが発生しなかった
「あっ、☆☆〜。お出かけ?」
「まぁ、そんな所。何してるの?」
「これ? ボランティア活動で、募金中ですっ」
小鞠さんは首から募金箱を下げている。確かに、この人となりと容姿ならそれなりに引っかかる人も居そうだった。
「小鞠さんは凄いねぇ。もうそろそろ暑くなる時期だってのに、自分の得にもならないようなことを私は……」
まぁクドの為にだったら出来るが。見ず知らずの人のために動ける小鞠さんは凄い人なんだと改めて思った。
「☆☆、それは違います。誰かを幸せにするってことは、自分を幸せにするってことなんだよ」
「ほう……ほう?」
「☆☆ちゃんが、クーちゃんに優しくすると幸せになるみたいに、私も、誰かが幸せになったら幸せになるの」
名付けて幸せスパイラル。と小鞠さんは続ける。本来の意味での”情けは人の為ならず”と言ったところか。自力でその考えに至ったと言うのか。
「……成程ねぇ。じゃあ私もその一助になりますかね」
私は財布から100円を取り出すと、募金箱の中へ落とす。箱の中からことんと小さな音がなる。
「ありがと〜、☆☆。今日はきっといい事あるよ〜」
「いえいえ。あ、折角だし少し待っててくれる?」
「ふぇ? うん、わかった」
近場のスーパーで麦茶を2本買うと、小鞠さんの元へと戻る。
「良ければこれ。暫く立ってるようだったら必要でしょ?」
「えっ!? わ、悪いよぉ☆☆。募金までしてもらって」
「誰かのための活動なら、直ぐにでもわかる方法で幸せをお返ししてあげたいの。幸せスパイラル、でしょ?」
「あ、ありがと〜。☆☆は、とってもとーってもいい人だから、称号あげちゃう」
「そんな独断で渡せるものなんだっけ称号って」
【○○は『とってもとーってもいい人』の称号を得た!】
__
Kudryavka
頼花さんが帰ってから、私はベッドにその身を投げる。まだ片付いていない箇所はありますが、それでも、先程の頼花さんの言葉が胸を突いて忘れられずにいます。
「私は……私」
やっぱり、頼花さんはとてもいい人です。昨日の言葉もまだ、消化しきれていないのに。
頼花さんと直枝さんはこちらに来て初めてのお友達でした。初対面の時、私の名前を笑わないで居てくれて、こんな私にも親切にしてくれました。あの二人は今でも私のかけがえのないお友達です。
ですけど……。
(……あれ)
今日のお掃除。お手伝いしてくださる方は誰でも、最初に見つけた直枝さんでも良かったはずなのに。
(……どうして頼花さんを選んだんでしょうか?)
私のことが好き。と、あの人は良く言います。ですけど、こんな私に、逃げてばかりの私が誰かに好かれるなんて、そんなことがあるのでしょうか。それでも、いつも不安になる時。頼花さんが傍に居てくれます。
その時だけは、私は誰かの隣に居ても良いんだと思えるんです。
だから、頼花さんはとってもいい人で、とってもとーっても素敵なお友達なんです。
お友達……ですのに。どうしてこんなに胸がとくとく脈打つのでしょうか。
__
翌日。休日の昼間、から夕方に掛けて。家具部を見に行って、鍵を貰って(とっても大きくてびっくりしました)。恭介さんから、商店街で小鞠さんが募金活動をしているとの事だったので、それを鈴さんとお手伝いしていました。
「お日様落ちてきたね、今日はこれでおしまーい」
「突っ立ってるだけなのにだいぶ疲れた」
「鈴ちゃん凄いよ〜。知らない人に声掛けれてだいせいちょーだね」
「……」
鈴さんは照れたように顔を赤らめています。
「たっくさん頑張ったら、たっくさんご褒美かなくちゃね。募金箱置いてくるから少し待っててね〜」
小鞠さんが駆けていって、暫くして、3つの紙箱を持って戻ってきました。
「なんですか? それ」
「これ?ふふふ〜、じゃじゃーん!」
小鞠さんが袋を広げると、そこにはたっくさんのドーナツがありました。
「今日手伝ってくれたお礼だよ〜。みんなで食べよ〜」
「い、良いんですか?」
「勿論だよ〜、たっくさん貰って来ちゃったんだ。みんなが手伝ってくれたおかげなのです」
わふ、ボランティアとは良いものですね! これが小鞠さんの言っていた幸せスパイラルなのでしょうか
「だけど、なんで3つも箱があるんだ?」
小鞠さんの持ってきた箱は3つ大中小で分かれていて、大きいのは三種類が2つ入ったもの。中くらいには、別の種類が3つ。小さい箱には別の種類の2つのドーナツが入っていた。
「大きい箱は、理樹くん達と一緒に食べるよう。中くらいのは、今私達でつまみ食いしちゃうよう」
「もう1つはなんですか?」
「実はね〜、皆が来る前に☆☆も募金してくれてたの。だからクーちゃん、☆☆にこれ届けてくれる?」
「頼花さんが、ですか?」
そう言えば、休日にあった試しが無い。寮の皆さん達は何時でも会えるけど、頼花さんには会えなくて寂しい。と、思う時が最近ある。
「そうそう、クーちゃん☆☆の連絡先知ってるでしょ? だから頼んでも良い?」
「あいつの連絡先ならあたしも」
「しー! りんちゃんすとーっぷ!」
「え? な、何故だ」
「なんでも〜、です」
頼花さんの連絡先……そっか、連絡しても良いんだ。
「解りました、今呼びますねっ」
「ん〜ん、私達はこれからどーなつを届けなきゃいけないので直ぐに帰らなくちゃいけないのです」
「え? ここでつまみ食いしていくんじゃ無かったのか?」
「直ぐに〜、帰らなくちゃいけないのです!」
「お、おぉう……」
「だからね? クーちゃん。そこの噴水近くとかとっても綺麗でいい場所だよ〜。これ、クーちゃんの分のどーなつ渡しておきますので。さ、りんちゃん帰るよー!」
「わ、わかった」
なんだか穏やかな顔をしながら、小鞠さんは寮へと戻っていきました。
そ、それで、えーと……電話ってどう掛ければいいんでしたっけ。えと……。
手間取りながらも、携帯電話で頼花さんへと電話を掛けます。何故でしょう、ワンコール続く度に汗が止まりません。もう日も傾いて涼しくなってきたはずなのに。
三回目のコールで、電話が取られます。私は不思議と、テンパったような口調で、電話口にこう話しました
「あ、あのっ。今お暇ですか!」
__
○○
クドから電話が掛かってきた。
クドから電話が掛かってきた!!!!???
な、なななにごと!? 怪我!? 救急呼んだ方がいいやつ!?
テンパりつつ携帯落っことしつつ、やっとの思い出電話に出る。
『あ、あのっ。今お暇ですか!』
「暇です!!」
家の鍵を開ける直前にそう言うと、私は踵を返して学校の方へと走った。
_
夕暮れの落ち切る前の貴重な時間。行き交う人々も少なくなり、商店街のお店が次々とライトアップされていく。
商店街の広間、噴水のある場所のベンチに私は呼び出された。
「そ、それで、ですね。これを」
クドは脇から紙箱を取り出す。
「それは?」
「小鞠さん達とボランティアのお手伝いをしていたので、お礼で頂いたドーナツです。小鞠さんが、頼花さんもボランティアに協力して頂いた事を覚えていて。そのお裾分けに、ということだそうです」
「……なるほど」
小鞠さん。評価爆上げ。これか、これが幸せスパイラルというものか。何も無かった今日という休日が人生でトップの休日に早変わりだ。小鞠さん今後とも仲良くして行こうな……。
……だけど、何故わざわざクドに。
「頼花さんにも是非食べて欲しくて、ですね……。私もまだ食べて居ないので、ご一緒にどうですか?」
「勿論だとも。開けてみていい?」
「はい、どうぞ」
まぁ細かいことは良いか。紙箱を開けると、そこには色とりどりのスパンコールのような塗装やスプレーの掛かったドーナツが入っていた。
「クドは何食べたい?」
「わ、私は後からで構いません。お好きなのを取ってください」
「クドは募金箱持って頑張ってたんでしょ? だったらクドから選ぶべきだよ。なんでも好きな物を取るといい」
「そう……ですか? では……」
クドは紙箱を覗き込み、暫くうなる。
「うー……チョコのやつ美味しそう、だけどストロベリーも捨てがたい……うむむ」
かわいいなぁと素直に思う。毎度、可愛いとか好きとか再三考えまくって居るが、その言葉が薄まる事が無いのを実感する。出来ることなら全部あげたいし両手にドーナツ持って頬張るクドの姿が見たすぎるが、折角のご好意を無下にする訳にもいかない。というわけで閃いた。
「じゃあ、全部半分こしよっか?」
「! おー、ゆーあーなーいすあいでぃーあ」
「しゅあ。じゃあそうしましょうか」
鞄からウェットティッシュを取り出し、手を拭いて、チョコレートのドーナツを二つに割る。
ほんのちょっと大きい気がする方をクドに渡して、同時に頬張った
サクサクとした外側の生地を抜けて、まったりとした生地をチョコがコーティングしている。口の中に入れると、チョコが体温で溶けだし、口いっぱいにチョコレートの甘味が広がって言った。美味しい。
「ボランティアって、良いものですね」
一息ついて、クドがそんなことを言う。
私も全くそう思う。休日にもクドに会うことが出来るなんて最高だ。クドはわざわざ私にドーナツを届けてくれるなんてなんて優しいのか。クドのボランティア活動にも、こうした甘味のご褒美があって良かったと思う。
そうして暫く、ドーナツを味わったあと、名残惜しい気持ちで、クドを寮まで送った。
今日はクドと会えて最高の休日だったな。クドも楽しい一日だったと良いなぁ。
私は小鞠さんへ最大限の感謝のメールを送り、もう一度帰路に着いた。
__
Komari
「りんちゃん、半分こしませんかっ」
「は、半分こ?」
「そしたら二種類食べられるよー」
「……」
りんちゃんは頷くと、半分にしたどーなつを手渡してくれました。じゃ、はい。と私も同じようにりんちゃんにどーなつを手渡します。
「なるほど、それはいいな」
と、恭介さんが言ったのを初めにして、周りのみんなもどーなつを半分こにし始めました。なんだかみんな仲良しさんだね〜。
と、そんな所で私の携帯が鳴ります。ぷるぷる。
確認してみると、それは☆☆からのメールでした。
『小鞠さん、本日はドーナツ誠にありがとうございます。幸せスパイラルを実感しました。このスパイラルを続けるためにも、今度何かご馳走します』
うんっ、ちゃんと会えたようで何よりです。お茶のお礼は出来たかな?
そうして、このどーなつプチパーティはお開きになりました。
__
「そういえば小鞠ちゃん」
「うん? どーしたの?」
りんちゃんが小首を傾げてくる。どーなつ足りなかったかなぁ。
「一人残して平気だったのか? 夜暗いぞ」
「それなら大丈夫だよ〜、☆☆なら、きっと送ってきてくれるから」
「それもそうか」
私達はクーちゃんの部屋に明かりが着いてるのを見届けて、自室に戻るのでした。