クド夢   作:kaigara

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危機的状況

 休み明けは憂鬱なのは万国共通。

 特に私は昨日あったことの反芻で忙しい。うめうめ。どーなつうめうめ。

 正直一日そんな調子だった気がする。みんなも休み明けでふわふわしてる。

 授業中は小鞠さんのしりに鈴が教科書を投げつけた辺りが印象的だった。

 後理樹が数学をサボってる。そんなやつだったっけ。来ヶ谷さんはいつも通り居ないが。……捕まってなかったらいいな。 

 

__

 

 昼休み。飯誘うため理樹を探してる中、私はクドに呼び止められた。

 

 「頼花さん、ちょっと良いですか?」

 「あぁ勿論さ。何かご用事? 家具部の奴かな」

 「いえ、なんと私の飼い犬ストレルカが午後の当番だと言う情報を仕入れました! なので、これから探しに行きます」

 

 飼い犬。と言うと以前言っていた犬の事だろうか。まだ会えていないと言っていたっけ。

 

 「なるほどね。場所は見当着いてる?」

 「いいえ! のっと・いんふぉめーしょんです!」

 「地道に足で探すしか無いか……」

 「ですが、風紀委員と一緒にお仕事しているようなので、出来る限り風紀委員の方たちを探していきましょう!」

 「成程……じゃあ」

 

 風紀委員を手っ取り早く見つける方法。つまり風紀委員が出はる状況を見つけることが第一だ。

 

 「三枝の後でも追うか」

 「わふ?」

 

 私達はそれぞれ風紀委員と三枝を探しながら歩き回る。

 しかし、特に実りはなく、中庭へ。すると。

 

 「あの後ろ姿は……っ!」

 

 何かを見つけて走り出す風紀委員の姿が見つかった。

 

 「ようやく見つけました! 頼花さん!」

 「おっけー走るぞ!」

 

 その風紀委員を追いかけて走るが……そういやお互い足おっそいの忘れてたんだよね。

 

__

 

 たどり着いた先は事の終わったあとだった。灰色の犬が三枝を取り押さえ、連行されていく所。

 

 「あーぅーぁ〜……」

 

 泣きごとを言いながら風紀委員に連れられていく三枝。何がお前をここまで駆り立てるのか。

 そして、クドがストレルカの方へ向かうところで、足を止めた。

 

 「あ、直枝さんっとっと……こんにちは」

 「こんにちは、クド」

 

 そこで私もようやく合流する。そこには理樹と猫を数多従えた鈴が仲良くベンチに座っていた

 

 「はろ〜、りき〜、鈴さんー」

 「へーい理樹ー鈴ー」

 

 クドが改めて挨拶をする。私も続けて。

 

 「お疲れ、ストレルカ」

 

 鈴がそう言うと、クドの足元からオン! と鳴き声がする。理樹がビビっている。

 

 「いつの間に居たんだ、って、鈴、この犬知ってるの?」

 「うん。こないだ会ったから」

 「クドが飼ってた犬なんだってさ」

 「そうです、やっと会えました。今日は午後の当番だと聞いていたので」

 

 クドは屈んでストレルカの頭を撫でる。羨ましい。ストレルカはその目に気がついたのか、オン! と一声吠えた。

 

 「名前も教えてもらったから。この子が迷子になってたら助けてくれた」

 

 鈴が猫を撫でながら言った。ストレルカはパタパタとしっぽを振って返事をする。利口な子だ。

 

 「だから仲良し」

 「ストレルカは私より賢いんですよ〜」

 

 クドが嬉しそうに言う。クドはそれでいいのだろうか。

 

 「ストレルカの特技の一つは追跡ですから」

 

 確かに、三枝を捕獲するスピードは見事なものだったなぁと思い出す。

 

 「お二人ともひなたぼっこですか?」

 「うん、そうなんだけど、なんでわかるの?」

 「なんとなく空気がそんな感じです」

 「仲良いねぇ君たち」

 「○○達には負けるけどね」

 「へっへっへ」

 「はるかのせいでだいぶ飛んだが、空気」

 

 ストレルカがいなないで耳を微かに下げる。

 

 「ストレルカのせいじゃないぞ」

 

 ぱたり、としっぽが一回揺れる。

 

 「会話が通じてるみたいだ」

 「ホンヤクモンペチ」

 「ほんとに食わせたの……? 効果あったの?」

 「いやこれ普通のモンペチだぞ、何言ってんだお前」

 「理樹〜、鈴がいじめる」

 「どうどう」

 「鈴さんのことをストレルカは気に入っているようです」

 「そうなんだ」

 

 理樹が先程の動作を思い出して納得している。ホンヤクモンペチよりかは余程健全だ。

 返事をするようにストレルカが1度鳴く。

 

 「なんだか『リン』って呼んでるみたいですねぇ」

 「そうかな? 言われてみればそんな感じがしないでもないね」

 「ストレルカ~」

 

 オン! 鈴はストレルカの返事を聴いて嬉しそうに笑った。

 

 「ん~」

 「どうしたの、クド?」

 

 クドが少し上を眺めたことに気が付き、聞いてみる。

 

 「そういえば私、鈴さんから名前呼んで貰ったことないです」

 「……」

 「あ、うん、それは……」

 

 理樹がためらっている。鈴はこういう子だからな。私の名前呼んでくれたのも二学期が終わるくらいだったか。

 

 「……? あ、ひょ、ひょっとして気がついちゃいけない話題でしたか!?」

 

 理樹は鈴を気遣わしげに見た。

 

 「・・・呼んで欲しいの?」

 

 鈴は少しの間のあと、ぼそりと言った。偉いぞ鈴。

 

 「あ、はい。呼んでいただけるのでしたら。勿論呼び方はご自由にっ。ストレルカと同じよーで構いませんっ」

 

 まくし立てた後、クドは少し下を向く

 

 「…でも、気が進まないなら、別に今まで通りでも」

 

 鈴! 頑張れ! 呼んでやってくれ!

 

 「呼びやすいようにストレルカと同じになりましょーか」

 

 クドは屈んだままぺたーん、と地面にうつぶせになった。

 鈴はちょっと困っている。

 じゃあ私もしようか。クド一人にこんな辱め(自分からやってはいるけど)を食らわせる訳には行かないからな。

 鈴がもっと困ってしまった。すまない鈴。なんなら理樹も困ってる気がする。

 オン!  ストレルカが鳴いた。

 鈴は眉根を寄せている。

 

 「……わかった」

 

 鈴がストレルカに背中を押されたかのように小さく口を開いた。

 

 「く」

 「ク?」

 「クエン酸回路」

 

 なんでクエン酸回路…。同じような顔で理樹と鈴に視線を向けた。

 ここまでこぎつけたなら後は見守るしかあるまい。

 

 「く……」

 

 鈴は眉根を寄せて次の音を言おうとしている

 

 「くかー」

 「かわいらしい寝息ですねっ」

 「いや、寝てないから、目を開けてるからっ」

 

 伏せる2人の前で居眠りするのはどういうプレイなの?

 

 「理樹」

 「うん、なに?」

 「呼んだだけ」

 「そ、そう」

 「一つお話をしましょう」

 

 クドがニコニコ笑いながら言った。

 

 「ストレルカは女の子さんです」

 「あ、そうなんだ」

 「ちなみに私も女の子です」

 「それは私も知ってるけどね」

 「そうですか、良かった」

 

 クドはなぜか嬉しそうに笑う。可愛い。

 

 「で、実は私はストレルカのお姉さんなのですが」

 

 クドが話を続けていく。

 

 「というのも、ストレルカのお世話をしたわけで」

 「ストレルカは昔、こーんなにちっちゃかったんですよ」

 「でもすぐにびゅんびゅん走り回るようになったんです」

 「なんか世話が大変そうだね」

 

 理樹が言う。世話が大変なものを沢山飼ってる人は言うことが違うな。

 

 「はい、もうやんちゃさんでしたよ。じゃじゃ馬というのでしょうか? いえ、犬ですけど、ストレルカ」

 「それがまるで弓から解き放たれた矢みたいだったので、それで妹(ストレルカ)は『小さな矢』という意味なんです」

 

 クドはストレルカの首輪を私たちに示した。

 

 『Стрелка』

 

 ロシア語だろうか。これで「ストレルカ」と読むのか。勉強になる。ストレルカが誇らしそうに鳴く。小さな矢。と言うことは?

 

 「クドリャフカにも何か意味があるの?」

 「はい、ありますよ。相性がそのまま名前になったようなものです」

 

 だから、気安く呼んで欲しいということか。

 

 「鈴、さん」

 

 クドが静かに鈴の名前を呼ぶ。ストレルカが鳴く。

 鈴は意を決したかのように唇を真一文字に結ぶ。唇が綻び、

 

 「クド」

 

 短く音が漏れた。

 

 「はい!」

 

 オン! クドとストレルカが同時に返事をした。

 

 「ってストレルカが鳴いちゃダメじゃないか」

 「今日もツッコミ冴え渡ってるねぇ」

 

 パタパタ、としっぽを振っているストレルカ。こいつも可愛いな。撫でよう。

 

 「わかってるのかな?」

 「あ、そういえばまだストレルカはお仕事中でしたね」

 

 オオン。パタパタ。

 

 「じゃあ行きましょうか。頼花さん」

 「あいあいさー」

 

 クドは立ち上がってぱんぱん、とマントやスカートについた埃を払う。

 

 「私達も今日はストレルカのお手伝いです」

 「そうだったんだ、なるほど」

 「というわけで、しーゆー、直枝さん。鈴さん一」

 「じゃーねーお二方。……三枝どうするんだろう」

 

 私達は練習の時間まで、ストレルカとのお散歩(パトロール)を楽しんだ。

 

__

 

 練習の時間、理樹がマネージャー候補を連れてきた。西園さんだった。まずい。私の場所が奪われかねん。

 

 「この座は渡さんぞ」

 「いえ、ただ見学しに来ただけですので」

 「マネージャーさんが増えれば心強いですー」

 「ようこそリトルバスターズへ」

 「まだ入りません」

 

__

 

 「というわけで、旧家具部の部室の鍵を借りてきました」

 

 その日の練習後に、前話して居たクドの部屋の家具を探しに行くことにしたんだけどなんですかそのでっかい鍵は。

 

 「それ……鍵?」

 

 思わず聞いてしまう。大きさはおよそ50cm程だろうか、鈍色をしたその鍵は随分重そうに見える。

 

 「はい、鍵です」

 「鍵なんだ……」

 「倉庫の鍵だそうです……」

 「どんな化け物が住み着いてるんだこの学校には……」

 「アリアドネの糸玉も必要でしょうか?」

 「取り敢えずこの縄をあなぬけのナワとして持っていこう」

 

 その辺にある適当な縄ももって心の支えにしておく。危なそうな場所なら入口にでも巻いて命綱にしよう(行くのは学校です)

 

 「あとは……助っ人でも用意する? 理樹でも連れてくるか」

 「い、いえ! 大丈夫です! 他の方にご迷惑かもしれませんし!」

 

 確かにこの鍵を見てしまうと狼狽えてしまう気持ちも分かる……。

 

 「そう? じゃあ行こうか」

 「はい!」

 

 今からダンジョンに向かうと言うのに(確定してません)クドは上機嫌だ。ルームメイトが恋しい時間がこんなに長くなってすまない。

 

 「場所は? こんな鍵使うところなんて限られてると思うけど」

 「まかせてくださいっ」

 

 クドがスカートのポケットの中から地図を取り出したので、手が空くように鍵を持つ。地図を眺めるクドが、壁や人にぶつからないよう気をつけながら目的地へ向かった。

 

__

 

 「ここだそうですっ」

 

 そこには凄く普通の扉が一枚あるだけだった。鍵穴はあるが、このバカでかい鍵が入るような穴ではない。私とクドは、扉と鍵を交互に見る

 

 「どうやって入るのでしょう……?」

 「意外とどうにか」

 

 私は鍵を鍵穴にぶつけてみる。がんがん扉から音がするだけで変わりは無い。

 

 「そういう魔法的なものではないか」

 「うむむむ……これは難事件の予感なのです」

 

 この鍵が箱にでもなってたりしないかと、鍵をぐるぐる回してみると、一部に引っ掛かりがありそうな穴があった。そこをくるんと回すと、そこから小さな鍵が出てくる。なるほどそういうからくり。

 鍵穴に刺してみると物の見事にガチャりと扉が開いた。

 

 「難事件解決」

 「なんとー!? 頼花さんとっても、じーにあす、なのですー!」

 

 よせやい照れるじゃないか。

 さて、倉庫の内部は暗く、家具部の部室までは随分距離があるようだ。

 クドは自信満々に懐中電灯を取り出す。準備が良いね。

 

 「ささ、これを」

 「ありがとうクド」

 

 かちっ。

 懐中電灯から放たれる光量は、少なくは無いが、この暗闇に対してはなんとも心細い。びっくり系でも無ければホラー耐性はある方だと自負があるが、クドの方はどうだろうか。

 

 「こ、これでも暗いですね……ぷるぷる」

 

 あっダメそうテラカワユス。お布団でも持ってきて包んで持っていこうかしら。何が可愛いって自分で擬音言っちゃっうところが本当に可愛いよね。

 

 「ふっ、エスコート致しますよお嬢様」

 

 私は膝立ちになり手を差し出す。握り返してくれなくとも、私が隣にいることを覚えて多少なりとも心強くなって欲しい。

 クドは顔がパッと笑顔になると、その手を私の手に乗せる。

 

 「ありがとうございますっ! 頼花さん!」

 

 そのままぎゅっと私の手を握り返した。

 

 「それじゃあレッツゴーです!」

 

 クドは私の手を引いて中へ歩み始めた。

 

 ……。

 

 ……? あれ思ってた反応と違うな。

 てか待って頂戴クドのおててすっごい柔らかいんだけどぷにっぷに。超ちっちゃい手のひらから伝わる感触が常に可愛いんだけどこれどうしたらいいと思う手汗とかかいてないよね大丈夫かな私べたべたで嫌な思いとかしてないよね。

 

 一旦落ち着け私……。ゆっくりでいい、歩みを進めろ。深呼吸せい、すーはーすーあっやべホコリがげほっげほ。

 

 「家具部の倉庫、どこでしょうか?」

 

 少し進むと、心細いのかクドが私へと身を寄せる。クドの亜麻色サラサラヘアーが私の元へぇぇあぁいい匂いする深呼吸のせいで匂いがモロにあぁぁぁあああ。

 

 「頼花さー……頼花さん?」

 「ふぇぁっ!? あ、はい! なんですか!?」

 「怖くてちから入っちゃってますか? 大丈夫ですよ、私も怖いので一緒です!」

 

 気づけば身体にえげつないほど力が入っている。筋肉という筋肉が硬直している。こんなに耐性ないんだな私、ホラーではなくクドに対してだが。だいたい、普段から撫で回してるのと何が違うんだ! ただちょっとクドから近づいてきてくれてクドの体温を感じていい匂いがして腕に抱きつかれて腕に抱きつかれてるんだけど!!!!???

 

 結局、私はロボットダンスみたいな動きのまま家具部倉庫まで連れていかれる。自分が不甲斐ない。

 

 「ようやく発見ですー!」

 

 そこまでの数分間で多少の疲れを取り戻した私は、改めてクドの前まで前進する。クドだって怖いのは変わらないんだから私が前に出なくては。

 

 「じゃあ開けるよ。マスクとか持ってくれば良かったかな……」

 

 重い扉(そうでもない)を開けると、なんと、その最奥にはラスボスが。

 

 「あ、遅かったわね」

 

 ずたーん。そのままズッコケる。こういうお約束はしておかなくてはとかそういう前になんでおんねん寮長さん。

 

 「あれ? 何疲れた顔してるわけ?」

 「ど、どこからいらしたんですか寮長さん」

 「そこのエレベータだけど」

 「エレベータ!?」

 「机とか階段で運べないでしょ?」

 

 それは……そうだが、真人辺りにでも運搬を頼むのだろうと無視していた。つまりこの探索って……。

 

__

 

 がちゃり。鍵を閉める。って言うかここの鍵とか要らないだろこんなスペースとって捨てておけ!!

 

 「むだあし、でしたね」

 

 いかんクドがほんのりしょんぼりしてる。これは非常にまずいぞ。

 

 「そんなことないよ。探検みたいで楽しかったし。むしろ頼りなくてごめんって感じ」

 「い、いえいえ。頼花さんはとっても頼りになりますよ!」

 

 でかい図体の分肉壁にはなれるか、クドは優しいなほんとに。愛してるよ。

 

 「それに、え、えと……わふー」

 

 クドが顔を伏せてもじもじしている。やっぱり怖かったか。次はしっかり守れるように尽力せねばな。

 

 その後寮長さんに話を聞くと、使えそうな家具は、寮長が手配した業者の人が運んでくれるそうだ。

 放課後いっぱい使って、そんなオチを抱えて帰る夕暮れなのだった。

 ……しばらくこの手の感触を忘れることは無いだろうな。

 

__

Kudryavka

 

 一昨日、自分の部屋で感じた強い胸の弾み。昨日の暮れに、電話をかけた時の震え。あれは一体なんだったのでしょう。練習の休憩中。私はそんなことを思いつつそんなことを思います。

 頼花さんは、初めて会った時からとても優しかったです。学校の案内も人一倍丁寧に行ってくれて、準備しなきゃいけないものを忘れてしまった時は快く貸してくれましたし、私が戸惑ったり、手間取ったりした時にいつも手を差し伸べてくれます。

 

 「○○ー! 真人がすんごい勢いでコケちゃったから救急箱持ってきてくれるー?」

 「なーにしてんだあの筋肉ー!!」

 

 最初に会った時は、直枝さんと互いに仲のいい人だなーと思っていて、それでいて、何故か変な私によくしてくれる変な人、と言う認識だった気がします。しかし、それは直枝さんも同じです。案内してくれましたし、私に優しくフレンドリーに接してくれます。

 ただ、頼花さんは出会い頭にこんな私を可愛いと言ってくれますし、一挙手一投足に悶えていて、一緒にいて飽きない人だなって思いました。

 ですけど、この前の食堂で聞いた言葉。それと、私の部屋で言ってくれた言葉。頼花さんのお顔を見る度に、それを思い出してしまいます。

 

 「あれぇ? クーちゃーん、もしもしー?」

 「ふぉえぇっ!? 小鞠さん、な、何かご用事ですか!?」

 「私も居るぞ、能美女史」

 「ひえぇえーっ!」

 

 後ろからガバッと来ヶ谷さんに抱きつかれます。沢山汗かいてるので少し恥ずかしいです……。

 

 「クーちゃんがぼーっとしてたからさ、熱中症だったりしたら大変だと思って」

 「お、お気遣いありがとうございます。ですが、その心配は無いので!」

 「となると、やはり◇◇のことだな」

 「……はい」

 

 やっぱり、来ヶ谷さんは鋭いですね。……あれ、皆さんどうして目を見開いて居るのでしょう。

 

 「とうとう? とうとうなの〜?」

 「あぁ、とうとう出したか。いつかやるとは思っていたが」

 「とうとう? かどうかはわかりませんが__」

 

 と、丁度いい機会なので、2人に先程のことをご相談してみます。

 

 「まだだったな」

 「まだだったね〜」

 「まだなんですか!?」

 

 一体なんのことかは分からないが、どうやらまだのようです。

 

 「皆さんはそんな経験ありませんか?」

 「無いな」

 

 ずばっ。来ヶ谷さんは経験豊富そうなので何か掴めると思ったのですが……残念です。

 

 「私はあるよ〜」

 「何ッ!?」

 「本当ですか!」

 

 小鞠さんがあっけらかんとそう言います。

 

 「この前酸欠でふらーってしちゃった時に、理樹くんに助けて貰ったの。その時に抱き抱えられてね? 胸がきゅーってなっちゃったな〜」

 「……それは半分くらい酸欠のせいでは無いのか?」

 「のんのんゆいちゃん。始まりはいつも突然なのです」

 「なるほどー……」

 

 やはり、そういうことは友達の間である事のようです。小鞠さんと私が経験して、来ヶ谷さんに経験がないと言うのもなかなか珍しい気がします。

 

 「それで? クーちゃんはそんなこと聞いてどうしたの?」

 「どう、したいんでしょう……」

 

 幾ら考えたって、その答えは思い浮かびません。どれだけ相談しても、どれだけ共感を得ても、私がこれからどうすればいいのか。

 

 「うーん、そうだなぁ。クーちゃんは、そうなった時どんな気持ち?」

 「気持ち、ですか?」

 「うん。胸がドキドキしちゃった時、どう思ったの?」

 

 あの時の事を思い出す。とても優しい顔で、私に声をかける頼花さんのこと。強く、私の事を肯定してくれた声を。

 

 「……ぽかぽかします」

 

 そう言うと、何故か皆さんの口元がにやりと上がりました。な、なんですか! 私は美味しくありませんよ!

 

 「そういう時はね」

 「な、なんですか小鞠さ、おうっ!?」

 「残念だが逃げられないぞ、能美女史」

 

 小鞠さんが笑顔でにじり寄ってきます。逃げようとしても後ろは来ヶ谷さんに塞がれてます!? そのままがばっと、小鞠さんに抱きしめられました!

 

 「こーんな風に抱きしめちゃいなよ、ゆー」

 「抱きしめちゃうんですか!?」

 「確かに、能美女史から頼花君にアプローチを掛けている場面は見た事がないな」

 「で、でも……ご迷惑じゃ無いでしょうか」

 「君の行動があいつにとって迷惑になる事があるのだろうか?」

 「自信もって、クーちゃんならだいじょうぶっ」

 

 そう言えば、家具部のお話、誘ってなかったなぁ。頼花さん今日空いているでしょうか……。

 抱きしめる、まではいけなくとも、手を繋いでみるくらいは出来ますかね。

 

__

 

 自然と手を繋ぐってどうするんでしょう。おじい様や犬達と手を繋ぐのは簡単ですが、学校のお友達と手を繋ぐタイミングとは……? 手を繋ぐのでさえこんなに難しいのなら、抱きしめるなんてのはどれだけの難関なのでしょう。

 と言うか! 倉庫の廊下はこんなにも暗くて怖いと言うのにそんなことまで考えてられません!

 なのに、頼花さんはまるで、そんな私の気持ちを見抜いたように、手を差し伸べてくれます。

 

 「ふっ、エスコート致しますよお嬢様」

 

 私のことを慈しむような顔、あの時と同じ。胸がぽかぽかする。

 

 「ありがとうございますっ! 頼花さん!」

 

 私はその手を取ります。これでみっしょん・こんぷりーとです! 自分で決めたものとはいえ、この任務をこなすことが出来たのはなかなかな達成感でした。

 ですが、手を握っているだけでは、胸のとくとくは小さいです。普段よりは少し早い気もしますが……。

 

 倉庫の中は、暗くて、持ってきた懐中電灯でも足を照らすだけでやっとです。暗くておばけでも出てきそうな雰囲気に震えます。ですが、頼花さんが隣にいてくれるおかげで、心強いです。

 頼花さんの手は私よりも幾分か大きく、包み込むようにして私と繋いでくれています。繋いだ手から、頼花さんの暖かさと優しさが伝わってくるようです。しかし、頼花さんも暗い場所が怖いのか、びっくりするくらい身体が硬直してしまっています。このままでは進むこともままなりません。私だって暗いのは怖いので率先して引っ張っていくことも出来ません。

 

 ……となると、ここはやはり。

 先程の小鞠さんの言葉を思い出しました。

 『こーんな風に抱きしめちゃいなよ、ゆー』

 え、えーい。ここまで来たら行けるところまでいってみます! それ、わふー!

 

 繋いだ手を巻き込むように、ぎゅっと抱き込みます。これで怖いのも平気ですし、頼花さんを引っ張って行けます!

 で、ですがなんでしょうか。なんでこんなに私の胸はどきどきうるさいのでしょうか。

 怖いものなんて無いはずなのに、何故かこの場から逃げ出したい気持ちと、このままで居たい気持ちが喧嘩しています。

 と、とにかく。こうしてまたどきどきする事がわかったので、先に進んでしまいましょう! 再現性ありな事がわかっただけでびっぐ・りわーどです!

 

 少し歩くと、家具部の倉庫を発見しました。頼花さんも少しは落ち着いたようで、手を繋いだまま、また私の前を先導して暗い扉を開けてくれます。

 しかしそこにはなんと女子寮長さんが! 道は他にもあったそうです……。

 

__

 

 つまり、今までの行いが全て無駄足。頼花さんも怖いのを無理して着いてきてくださったというのになんとご迷惑をお掛けしてしまったのでしょうか……。そうしていると、直ぐに頼花さんが声をかけてくれます。

 

 「そんなことないよ。探検みたいで楽しかったし。むしろ頼りなくてごめんって感じ」

 

 私がご無礼を働いたというのに、頼花さんはこうしてまた、私に気を使ってくださいます。ですが、頼花さんは頼りないなんて事ありません! お陰様で、真っ暗な倉庫を怖がらずに済んだんです! それに! そ、それに……。このどきどきについても、少しわかった気がしました。それだけでも十分なのです。

 

 あとは、寮長さんにお話を聞いて解散なのですが……。

 

 おかしいです。何故でしょうか?

 

 頼花さんと離れたのに、まだ胸のとくとくが収まりません。

 

__

○○

 

 さてと、帰る前に今日もいっちょさすらうか

 

 グラウンドに練習明けの謙吾が居た。

 

 「じゃあ私はこれで」

 「おい待て。さすらっているのだろう?」

 「いーや違いますよただの散歩です散歩」

 「それは、さすらっているのと何か違うのか?」

 

 おいおいなんでこの人こんな乗り気なんだよ剣道やっててよもー。そこらかしこから野次馬も集まってくるし戦うしかないのか嫌すぎる〜〜〜〜。

 

 「……わかりましたよ、たたかやいーんでしょ戦えば!!」

 「そう来なくてはな」

 

 私は投げ込まれた武器の中から……何拾ったこれ。噛み終わったガム!? これでどうせいっちゅうねん

 変わって謙吾はあーあーあーすんごいフル武装してますよ剣道の鎧でしょあれ終わったー投げ込まれた物がトーストとかでも勝てる気しないんだけど。

 

 そんな中、謙吾が手に入れたのは……何あれ? 帽子?

 なんか鳩出てきた。あぁマジックの道具か。なるほど。

 

 ひとまず噛み終わったガムは何故か在庫がしこたまあるのでその辺にばら蒔いておく。後で掃除するのを忘れないようにしなければ。

 

 変わって謙吾はその装備でマジックを披露しようと画策していた。すーごく頑張ってるが、どう見ても小手が邪魔、面で前見づらい。胴重いと散々なありさまだ。

 

 そして周囲に散らばるガムを踏むこともなく、マジックが決まる事もなく、時間は過ぎていった。閑古鳥が鳴く……。

 

 「タイムアウト。よくこんな地獄みたいなカードを引き当てたな」

 

 サーカーゴールの上から恭介が現れた。あんたどこにでもいるな。

 

 「くっ……不覚だ」

 「脱げばいいのに……」

 「しょうがないから俺が適当に称号をつけといてやる。謙吾、お前は……そうだな、翼の折れたエンジェル」

 

【謙吾は『翼の折れたエンジェル』の称号を得た!】

 

 「今回はまだ折ってないだろう!」

 「うるさい謙吾。○○、お前は……そうだな、危機的状況だ」

 「おいマネージャーの座の話か? だとしたら謙吾と比べて直接的過ぎるだろ」

 「文句は受け付けない。嫌なら勝ち上がって暫定王者の称号を得るんだな」

 「やっぱお前嫌い」

 

【○○は『危機的状況』の称号を得た!】




・こぼれ話
「こーんな風に抱きしめちゃいなよ、ゆー」の辺り

 「こまクドてぇてぇ……。何してるのかはさっぱりわからんけど」
 「○○早く! 真人の息が持たない!」
 「くっ……オレのことは良い、理樹、お前とルームメイトになれて、幸せだった、ぜ……」
 「真人ぉぉお!!」
 「ただよ擦り傷だよ馬鹿ども。乗るな理樹」
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