クド夢   作:kaigara

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[お風呂イベ]の部分に次話以降の各性別分けされたお風呂イベントを差し込んでください


私の傍に近寄るな

 なんか理樹が西園さんの方を見てる。かく言う西園さんは……誰だっけ印象がない。多分うちのクラスメイトの人と何やら話している。西園さんが誰かと喋ってるの新鮮だな。

 

 「おい、理樹。いつまで突っ立ってんだよ」

 

 真人が重たい腰を上げて理樹に言う。結構教室の入口が詰まってる。

 

 「ああ、ごめん」

 

 慌てて理樹は場所を開ける。その後、西園さんと何やら会話して自分の席に戻った。私はすかさず絡みに行く。

 

 「最近モテてんねぇ」

 「そ、そんなんじゃないよ」

 「でも理樹が連れてくるメンバー全員女子じゃん?」

 「○○だって連れてきたのはクドだけじゃないか」

 「そりゃあクドは連れてくるさ」

 「もう1人くらい見つけてきてよね。みんなすっかり僕に任せきりなんだし。僕ももうあてがないよ」

 「いやぁもう理樹が一番適任なんじゃないかと思ってる」

 「○○までそんなことを……」

 「で、誰が本命なの?」

 「はぁ!?」

 

 ガタッと理樹が席を立つ。おうおう図星かい。

 

 「別に、本命が誰とかそういうのじゃないし、だいたい○○だってクドに構いっきりじゃないか」

 「そりゃあ私の本命はクドだもの。ねークド」

 「はい? なんのお話ですか?」

 「もういいから、授業始まるよ」

 「はーい」

 

 なんのお話? には、私がクドの事大好きな話と答えておいた。クドはにへらと顔を綻ばせる。ほんと好き。

 

__

 

 それからロッカーに居た猫と理樹達が格闘していたりするのを遠目で眺めたり、小テストがあったりして休み時間。理樹が職員室に提出物があると廊下に出る。ついでに行くか。

 廊下に出た理樹の肩へと、私は腕を置く。

 

 「よっ理樹」

 「わっ、何○○。ノートなら貸さないよ」

 「いや最近理樹とこうして同行するのが少ないと思ってさ。最近どうなの」

 「特に何事もないよ。強いていえば_」

 

 と、最近理樹の方で何があったか色々聞く。屋上で小鞠さんと会ったとか、三枝のトラブルに巻き込まれたり、数学サボって来ヶ谷さんに教えてもらったり、西園さんの本を探してたり、世界の秘密を探ったり。

 ……なんか色々やってるなこいつ。私は日々クドとイチャイチャしてるだけだって言うのに。ギャルゲの主人公みたいだ。

 

 「私の知らないところですんごい冒険してるんだね……私は嬉しいよ」

 「どこ目線なのさ。そっちこそ、クドはどう?」

 「元気そうだよ。ルームメイトも見つかってモーマンタイ。初めて会った時のオドオドが嘘のよう」

 「それは良かったよ。○○はその……ちょっと言動が独特だけど、以外とちゃんとしてるから」

 「凄く言葉を選ばれた気がするけどまぁいいや」

 

 そのまま教室に着いて、理樹の用事が終わるまで待つ。と、そんな所でふと見知った後ろ姿を発見した。その人以外にはあまり見ないクリーム色のセーター。星の着いたリボンの2つ結い。小鞠さんである

 ……ふっ、理樹。後は頑張れよ。

 空気の読める○○はクールに去ります。

 理樹を残して職員室を後にした。

 

__

 

 昼休み。昼食を終えて教室でのんびりと過ごしていると、校内放送の電源が入った。

 

 『全校生徒は、速やかに教室に戻り待機してください』

 

 「ありゃ? 何かあったのか?」

 

 真人がいのいちに声をあげる。教室がザワつく。

 しばらくすれば、二人の女生徒が慌てて教室に飛び込んできた。

 

 「古式さんが、屋上にっ」

 

 ……誰?

 

 周囲のザワつきが激しくなる。と言うか、理樹の周りが異様に騒がしい。注目が謙吾へと向いている。何? なんか関係あるの? 付き合ってる?

 

 いつの間にか入っていた恭介がその経緯を語る。何となくはわかったけど、そりゃあまぁ思い切った判断だこと。恭介と真人が屋上へ向かったあと、理樹は謙吾を諭す。だが……。

 

 「俺はそんな子供じゃない!」

 

 謙吾の言葉に一喝される。教室内が静寂に包まれた。

 

 「屋上に行ってみろ、すでに事なきを得ている」

 

 そう言われ、理樹は屋上へ駆け出した。

 私は……私はどう動くべきなのだろうか。最初にやるべき事は……。

 

 謙吾へと向かう。

 

 「最悪の想定はしておく」

 

 それだけ言って私は、野球用の救急箱を手に持って、騒がしい屋上の真下__グラウンドの方へと駆け出した。

 

__

 

 結果として、謙吾は飛び降りた古式を庇い、共に落ちて腕に傷を負った。しばらくギブスは外せないだろうな。ていうか屋上から飛び降りて腕1本ってなんだよ安いもんじゃねぇか。

 あとから聞いた話によれば、謙吾は一学期の間、部活動が出来なくなったらしい。頭の硬い先生方め。

 

 それから、五時間目の授業が終わって私達はグラウンドに居た。何故かバッターボックスにはバットを持つ謙吾が居る。なんでだよ。休めや。

 

 「鈴、思いっきりこい」

 

 そうして、謙吾は勢いよく片手でバットを振り、ボールを高く打ち上げた。意気揚々とダイヤを走る謙吾は、何か枷が外れたように見えた。

 

__

 

 六時間目の授業は何事もなかったように行われる。そこでふと、思ったことがある。

 あの時、私は迷いなく救急箱を手に取ってグラウンドへ走っていった。結果的に落ちてきた謙吾を手当する事が出来て「よっしゃ流石私先見の明!!」とか思っていたのだが……。

 

 あの場面、一番初めにする事はクドのケアでは無いのか? 何故私はあの一瞬、クドが目に入らなかったんだ?

 幾ら考えても答えは浮かばない。ただ、一つだけ、出来すぎている事があるとすれば。

 

 これで丁度、野球をするだけの人数が集まったという事だけだった。

 

_

 

 あ、謙吾が教室でマイバット持ち出して高らかに笑いだした。やっぱり当たり所悪かったのかな

 

 「馬鹿が二体か……困った幼なじみどもだな」

 

 鈴がそう言って、出ていった馬鹿2人を見送る。理樹はその光景を穏やかに見ていた。

 あの5人の事は話に聞いていたことがある。高校に入って、謙吾は剣道部の活動が多くなり、あまり一緒に過ごせていなかったとか。いやまぁ、恭介が一緒に居る時間が多いのも謎の話だが。それはそれとして、理樹達も五人で過ごせる時間が少なかったのが寂しかったのだろう。なら良いじゃないか、またこうして五人で楽しく過ごせる時間があるのなら。クドも私も、他のみんなも。その輪の中に入れたことが幸運だと思った。

 

 「頼花さーん! 私達も行くのです!」

 「はいよ。これでやっと野球チームらしくなったね」

 

 メンバー9人にマネージャー1人と。素晴らしいじゃないか。後は西園さんが来るかどうかだね。理樹頑張れ。西園さんがマネージャーやってくれるなら私はクドの専属マネージャーになるから。

 

__

 

 「今日からは西園さんもマネージャーやってくれるんだって」

 

 西園さんを連れた理樹が、真人にそういう。ほんとに連れてきたんだ凄いな理樹は。

 

 「マネージャー? なら○○が居るじゃねぇか」

 「いいじゃないかよ」

 

 理樹が擁護する前に、恭介の一言。ほんとにこの人どこからともないよね

 

 「ええー、なんか女ばっかで、バランスおかしくねーか?」

 「おかしくねぇよ、合ってる。これが、俺たちのチーム……」

 

 「リトルバスターズだ!」

 

 満足そうだから……まぁいいか。

 

 それから西園さんの紹介をして、各自練習。クドと小鞠さんがキャッチボールしてて可愛いな。

 

 そんな中、西園さんに声を掛けられる。

 

 「あの」

 「何さ私のライバル」

 「ライバルになる気はありませんが、1つ気になることがありまして」

 「気になること? スポドリの作り方とか?」

 

 私は手製のスポーツドリンクをくぴくぴ喉を鳴らしながら飲む。まぁ粉混ぜただけなんだけどね。

 

 「そのくらい分かります。頼花さんと能美さんのことです。付き合ってどのくらいですか?」

 

 勢いよくスポドリを吹き出す。なんてことしてくれてんだ私の黄金比率が。

 

 「げほっぇ、ごほっぷぇ……い、いきなり何!?」

 「いえ、ですからどのくらいなのかと思いまして」

 「付き合ってないよ!! どこ情報だそれ!?」

 「……付き合ってないのに、あの距離感なのですか?」

 「もち」

 「不思議ですね」

 

 そ、そうか……? 中のいい友達はあんなもんじゃないのか? 理樹のことも別に撫で回してるし肩組むしな……。

 

 「なんなら理樹の方が近いまで……」

 

 そう言った途端、西園さんの目が見開かれる。えっ、こわ。何。

 

 「頼花×直枝……なるほど」

 「おいその×やめろし」

 「私としても頼花さんが左なのが、解釈一致ですね」

 「おいなんの話してんだ今すぐやめろ近づいてくるな」

 

 そうして、完成したリトルバスターズの練習が過ぎていく。

 

__

 

 練習後の帰り支度中、クドに呼び止められる。最近多い気がするめっちゃ嬉しいね。

 

 「あ、△△。今お帰りですか?」

 

 あれ今名前で呼ばれた? マジ? 嬉しすぎるんだけどへらへらしちゃうよ良いのか?

 

 「うん。帰り支度中。何か用事?」

 「はい、お引っ越しを手伝って下さった方にお礼をしているところなのです。良かったら△△もお礼を受け取ったくださいませんか?」

 「ぇぇえ〜〜そんな気にしなくて良いのに〜〜」

 

 やばいめっちゃ浮かれが声に出た気がする、恥ずい。

 

 「そんなことないです。とても、助かりました。えーと」

 

 クドは少し考えて、また口を開く。

 

 「はぴーはぴーさんきゅー、ふぃーるらいくじょいなすって感じです」

 

 いつも通りの棒読み。可愛過ぎる。なんだ最近の私はこんなに幸せでいいのかい? 私は喜びを噛み締めながらクドに頷いた。

 

 「ではちょっとついてきてください」

 

 私は歩き出したクドの後を追う。向かった先は寮の自室ではないようだ。

 

 「今日は部屋じゃないの?」

 「はい、二木さんが居るかもしれませんから」

 

 そういやそうか。もう自由に使えないのか。と言うか今までクドの部屋に自由に出入りしてたのもどうかとは思うが……。

 

 「それもうそうだね。二木さんとは仲良く出来てる?」

 「もちろんですっ。とても良い人ですよ」

 「そりゃあ良かった」

 

 クドがいい人と言うのであれば心配はなかろう。少なくともクドへの接し方は。だけど、クド以外への対応の仕方はどうにかならないものなのか……。

 

__

 

 「えーとえーと。電気電気」

 

 ぱちん。とスイッチが入る。辿り着いた場所は古い木造の部屋だ。女子寮の旧館と渡り廊下で繋がった平屋建て。

 

 「ここは? 入ったことのない場所だけど」

 「ちょっと前は管理人室だったそうです」

 

 と、寮長さんがいってました、とクドが付け加える。クッションをぱんぱん、と叩いたクドはそれを私に渡した。

 

 「座って待っててください」

 「はいはい」

 

 クドが奥へ消える。その間に、私は首を回して部屋を眺める。カレンダーかポスターを貼った白い跡が残る壁。蛍光灯と白熱電灯が半分ずつ何故かついている天井。使い込まれた畳にちゃぶ台。素敵な和室と言う印象を受ける。今は何に使われている部屋なのだろう

 

 「お待たせしました」

 

 クドが片手に電気ポット、片手にマグカップをふたつ持ってきた。人にもてなしを受けるのは何時ぶりだろうか……小学生の時に近所のおばちゃんちでお菓子を貰ったりした時かあるいは……。

 

 「今お茶淹れますねー」

 

 私はクッションの上に座りながら尋ねる。

 

 「前は管理人室って聞いたけど、今は何に使われてるの?」

 「今は家庭科部の部室です・・・正確には、その予定、なんですけど」

 「家庭科部?」

 

 ほんとにこの学校なんでもあるな。

 

 「はい。寮長さんに勧誘されたんですよ」

 「寮長さんそんなの掛け持ちしてたのか……すごいね」

 「寮長のお仕事がお忙しくて部活動はお休み状態だったようです。部員も一人で、廃部寸前だったらしいんですけど」

 

 家具部といい家庭科部といい、クドは余程廃部になりそうな部活動に縁があるらしい。

 

 「あとは個人的な理由で」

 「個人的な理由って?」

 

 クドはマグカップにティーパックを入れ、ポットからお湯を注いでいる。

 

 「△△、どうぞ」

 

 クドからお茶を受け取る。呼び名が変わったことに着いて胸が打たれるような気持ちだ今すぐ突っ伏して愛を叫びたい。私もクドの事をあだ名か何かで呼んで見るべきか? しかしクドがすでにあだ名のようなものだしな……。

 

 「本当はリーフから淹れたいのですが、まだ品物が揃ってないので」

 「構わないよ。充分美味しいし、何より気持ちが嬉しい。」

 

 と、そこではちゃぶ台の上に小さな瓶があることに気がついた。

 

 「クド、これはなぁに?」

 「あ、それがお礼の品物なんです」

 「ほう?」

 

 クドは部屋の片隅に置いてある小さなリュックを引き寄せ、そのリュックから使い捨ての紙皿を取り出した。

 

 「ティーソーサーの代わりです。棚にもソーサーがあるはずなんですが埃だらけですから」

 

 はい、どうぞクとドがマグカップを差し出した。私は右手でマグカップを受け取る。ふわり、と紅茶の匂いがした。

 

 「△△は、コーヒー党だったりしますか?」

 「特にこれといった好みが……ミルクティーはよく飲むかな。クドは?」

 「私もミルクティーは大好きです。でも今ピッチャが無いのでフレッシュで我慢です」

 

 それからクドは、瓶を手に取る。

 

 「それは……何?」

 「これはなんと、ジャムです」

 

 あっジャムの言い方が可愛い。

 クドは胸ポケットから銀色のスプーンを取り出した。

 

 「はぁ〜っ」

 

 と、スプーンに息を掛けて、取り出したハンカチできゅきゅと拭いた。いいなスプーンになりたいな

 

 「よいしょっと」

 

 クドが可愛い声を出しながら瓶のふたに手を掛け、そのスプーンでジャムを取り出し、紙皿の上にジャムが乗せられた。

 

 「お礼といってもお茶を出すぐらいですけど、どっちかというと、紅茶はおまけです」

 

 クドが視線で示す先、紙皿の上には赤いジャム。私がよく見るジャムとは違って大きめの果肉が見える。いちごやベリーのようなものだろうか

 

 「こけももジャムです。うちから持ってきたものの一つなんですけど」

 

 クドがジャムを取るのに使ったスプーンを私に差し出す。私は遠慮がちにスプーンを受け取った。だ、だってこれクドがさっきはーってやったやつじゃん拭いたけどなんかちょっとなんかさ

 

 「お口にあえば嬉しいです」

 

 そういえば、どこかの国で紅茶を飲む時にジャムを舐める、なんて聞いたことがある。

 私はちょっと戸惑いながらも、小さな銀色のスプーンでジャムを口に入れた。

 正直、味はあまりわからなかった。食べ慣れない味と言うのもあるが、それよりさっきのクドの行為がずっと頭の中をぐるぐる回る。そんなスプーンが今私の口の中にある。

 

 「……食べたことない味」

 

 こけももと言う名前から桃の仲間かと思えば、どちらかといえばりんごに近い風味を感じる。

 

 「美味しい」

 「そうですか、よかったぁ」

 

 クドは嬉しそうに笑った。

 

 「学校に入る前のお休みに作ったんです」

 

 「んむ、これ、クドが作ったの!? 」

 「はい、そうなります」

 「天才だ……」

 

 確か、ジャムって紅茶にぶち込むものなんだっけ。うろ覚えの知識を引き出して尋ねてみる

 

 「ジャムって紅茶に入れればいいんだっけ?」

 「特に作法はない…らしいです。ジャムを味わってもらえればあとはご自由に」

 

 マグカップの中の紅茶は香りがつよいタイプのものだった。

 ちょん、と舌で紅茶だけ味わうと、濃い苦みが感じられる。苦いものは特別嫌いという訳では無いが、少し濃いめに入れられていることが伝わる。そこに、スプーンでジャムを入れてぐるぐる回す。

 

 「んく……」

 

 苦みに備えたのに、すんなりと喉を通っていった。

 

 「美味しい。随分飲みやすくなってる」

 

 日本には無い知識だ。そもそも、日本には南蛮渡来なものより先に緑茶の茶道がある分、何となく生きてる分にはこうした文化に触れる機会が少ない。

 

 「お世話になったひとにはお手製のジャムで、というのはうちのしきたりみたいなものです」

 

 クドはにこりと微笑んだ。とっても良いしきたりじゃん。こういうのを残していきたいよね。と、そこでふと気がついた。

 

 「あ、て言うかクドさ」

 「はい?」

 「今の凄い外国っぽいじゃん!」

 

 私が言うと、クドは一瞬きょとんとして。

 

 「はいっ」

 

 心底嬉しそうに、笑った。

 

__

 

 「今日はおつきあいいただきどうもありがとうございました」

 

 クドがぺこん、と頭を下げる。

 

 「こちらこそ、ご馳走様。今度はこれのお礼持ってくるね」

 「えぇっ、お、お礼のお礼ですか? そんな、いただけませんよ」

 「そしたら、次はクドがそのお礼のお礼を用意するの。幸せスパイラルって、小鞠さんの受け売りだけど」

 

 話をしている間に、すっかり暗くなってしまった。校門でクドは見送ってくれた。

 

 「今日はちょっと寒いな……」

 「そうですね、くしゅつ」

 

 な、なに!!? まず今すぐ暖房を持ってきてそれから地球温暖化を活性化させなければえーとえと違うまずは。

 

 「先に寮戻っても良いんだよ? すぐそこだし」

 「そういうわけにもいきません。それに……」

 

 クドはマントの裾をぱたぱたと左右に揺らす。

 

 「これがあるので外へ行っても大丈夫です」

 

 縁取りのされた白いマント。トレードマークのようなそれをすっぽり羽織ったクドは確かに寒そうには見えない。

 

 「そういえば訊こうと思ってたんだけど、それって向こうでも着てたの?」

 「はい。寒がりなんです、私。生まれた場所のせいでしょうか……」

 「冷房とかダメなタイプ?」

 「あはは。そうですね。エアコンは苦手です……のど、乾いてヒリヒリしますから

 

 これから嫌でもつけなきゃいけない時期が来るし。定期的にのど飴でも差し入れよう。

 

 そんな話をしながら、校門を抜ける。門の前までクドは着いてきてくれた。

 

 「じゃあまた明日ね。クド」

 「また後ほどです。△△」

 

 マントから右手をちょこん、と出してクドは小さくバイバイする可愛過ぎるなんだあの仕草はおてて食べたい。

 私はそれに手を振り返して帰路に着く。

 

 ……後ほど?

 

__

 

 その夜。珍しく鈴からメールが届いた。

 

 『今夜遊びに来い。理樹の部屋集合』

 

 ぶっきらぼう。まぁ良いか。家族に遅くなるかもしれない旨を伝えて、私は寮の方へと向かった。

 

__

 

 「さて、今日はどうするかな」

 

 恭介、理樹、後アホになった謙吾の中へ私も参戦する。

 

 「あれ、鈴は?」

 

 理樹が言う、え? 居ないの?

 

 「あいつなら女子寮に戻ってったぞ」

 

 なんだとぉ?

 

 「私、鈴に理樹の部屋で遊ぶって連絡来たんだけど……主催者不在ってマジ?」

 「え、僕何も聞いてないけど」

 「はー? どういうこと?」

 

 いつもは例の五人衆で遊ぶことが多いらしい。て言うか謙吾いつもいるんだなここ。

 などと考えていると、ドアをノックする音が聞こえる。

 

 「理樹君ーーーっ!」

 「△△ーーーっ!」

 

 「え?」

 

 同じタイミングで理樹と同じことを言う。声は小鞠さんとクドのものだった。私達は全員で部屋の外へ出た。

 

__

 

 「どうした、そんなに慌てて」

 

 恭介率先してそう言う。頼りになる男だ。いつも頼りにだけはしてるぜ。

 

 「あのですねっ」

 「はいはい、なになに?」

 「大変なんですっ」

 「なのですっ」

 

 要領を得ない。理樹も困ってるぞどういうことだ一体。

 

 「いや、待って、なにが?」

 「大変だから来てくださいといえと言われたのっ」

 「言われましたっ」

 「は、はぁ……」

 

 いかん理樹が今までに類を見ないくらい困ってる。どちらかといえば大変なのは理樹だ。

 

 「んだ? ケンカか? バトルか? 熱い拳と拳のぶつかり合いか?」

 「いや、そういうんじゃないとは思うけど」

 「じゃあ筋肉を借りにきたか。えーーと、どうしたもんかなぁ……」

 「それも違うと思うけど……」

 「うっさいぞ筋肉、理樹にこれ以上負荷をかけるな」

 「すいません」

 「とにかく来て〜」

 「え? ちょ……」

 

 あかん理樹が攫われる。取り敢えず理樹の腕を掴んでストップだ。

 

 「まぁ、よくわからんが行ってこいよ」

 「ふざけんな恭介、今理樹が攫われかけてるんだぞ!」

 「たまにはいいだろ、俺たちと遊ぶより楽しいかもしれないぜ?」

 「なんでそんな肯定派なんだお前は」

 「ねぇ僕の意見は?」

 

 恭介に賛同されてしまえばほぼ間違いなくこのまま連れさらわれてしまう……くそうたまには理樹とも遊びたいのに。

 そんな中、クドがこちらを見る。可愛い。可愛くて力が抜けそうだ。

 

 「△△も、大変なので来てなのですっ」

 「行きます」

 「ちょっ、急に手離さないでよっ」

 

 理樹がずてんとその場に転ぶ。何やってるんだか全く時間の無駄だぞ。

 

 「クドが大変だって言ってるのに行かないわけ無いだろ!! 早く立て!!」

 「……わかったよもう」

 「よおーし、いこー」

 「行くのですっ」

 「しょうがないなぁ」

 

 私達は3人で理樹を引っ張って行った。ていうかこれ何処まで行くの?

 

 「え……何処まで行くの?」

 

 お、丁度気になっていることを無様な姿の理樹が問う。

 

 「うん、大変だからー」

 

 あーダメだこれは話にならない。

 更にそのまま引っ張って行った先は……。

 

_

 

 「どうぞ、入ってくださいっ」

 

 何故かクドの部屋まで。二木は?

 

 「おー、きたきた」

 

 三枝が居る。そっちじゃないよ。いやなんで居るんだまず。

 

 「ご苦労さん、ふたりとも、いやさんにんとも?」

 「うん一」

 「任務完了ですっ」

 「もしかして運び屋にされました?」

 「んじゃ、うぇるかむとぅークド公んちーっ」

 「え? え? なんか全然わかんないんだけど?」

 

 周囲を見渡せば、来ヶ谷さんと西園さんも居る。なんなら首謀者(?)の鈴も居る。勢揃いだ。

 

 「さて、大変楽しいお泊まり会の始まりだ」

 「たいへんだー」

 「たいへんですーっ」

 「そりゃあ……大変だわ」

 「い、いや、ちょっと待ってよっ!! お泊り会ってなにっ!?」

 「うむ、ちょっと待たない」

 「……観念した方がいいと思います、直枝さん。頼花さんは既にベッドを敷いてます」

 「クドこの辺退けていい?」

 「はい、構いませんよ」

 「いや観念とかそういう話じゃなくて、僕がこんなとこにいたらまずいでしょっ」

 「いいじゃないか、面白いから。それにお泊まり会は一蓮托生だ。◇◇もこんなところいるのがバレたら相当まずい」

 

 あ、理樹がこっち見た。悪いな理樹、クドの頼みだ。生贄になってくれ。サムズアップしておく。

 

 「○○はこっち側だと思っていたのに……そ、そうだ鈴! 鈴は……」

 「……ごめん、理樹」

 

 鈴の傍らにはビニール袋に入ったたくさんの高そうな猫缶がある。しっかり買収されている。

 

 「そいやクド、二木さんは?」

 「……」

 「はい、今日は何かご用事とかで、おうちの方に戻っていらっしゃいます。お部屋の掃除だけきちんとしておけば、問題は無いみたいですよ」

 「だってさ理樹」

 

 理樹は観念したように、三枝達に勧められベッドに座る。ため息なんて吐いちゃって可哀想に。

 

 「うむ、理樹君も◇◇のように覚悟を決めて、むしろハーレム状態じゃんヒャッホウこいつぁうっはうはだぜと気持ちを切り替えたところで」

 「いや僕も○○もそんな切り替え方してないから……」

 「ヒャッホウクドの部屋でお泊まり会だこいつぁうっはうはだぜ」

 「乗らなくて良いっての」

 

 そうしてお泊まり会が始まったところ、三枝が風呂の話を切り出す。そりゃあ寝る前にお風呂は入っておきたいところだけど。

 

 「ほら、パジャマも持参」

 「私と理樹はパジャマ持ってきてないんだけど」

 「じゃあ□□は私服で理樹くんは制服のままですネ」

 「おのれ」

 「……あたしは入らなくていい。着替えもない」

 「りんちゃん、はるちゃんの言うとおり、ちゃんとお風呂で汗を流さないとダメだよ」

 「こいつらがいるだろっ、そんなんで入れるかーっ!!」

 

 ぶんぶんと理樹を指差す。私はいいんかい

 

 「頼花さんは良いのですね」

 「あいつはクドしか見てないだろ」

 「それもそうですね」

 「おい納得すんな」

 「いやーん△△さんのえっちーなのですー!」

 「ち、違うんだクドッ!! これは鈴の策略だ!!」

 「□□反応がガチ過ぎっすヨ」

 

 と、名案が思いついたような三枝はタオルを使って理樹の目を塞ぐ。

 

 「ついでに腕も縛っておくか」

 「そんで、あとはここで監視してたら気にならないっしょ」

 「んじゃあこいつは責任もって私が見とくよ」

 

 毎度の如く理樹の肩に腕を乗せる。不憫なやつだな。

 

 「助かる。でも……まだ気になるな」

 「じゃあ私が一緒に入ってあげる〜」

 「ならば私の出番か」

 「もっと嫌じゃーっ、ぼけーっ!!」

 

 その後、小鞠来ヶ谷なぜか理樹の三択で見事小鞠さんが選ばれる。仲の良さそうで何より。

 

 「鈴も友達が増えたなぁ、理樹」

 「そうだね……て言うかこれでもういいでしょ」

 「面白いからこのまま放置しよう」

 「だね」

 「えええーーっ……なんで無理矢理参加させられてこんな扱い受けてんだ……○○も同じ立場じゃないか」

 「私はクド以外に興味無いからね。あと来ヶ谷さんから守らねばならぬ」

 

 クドを後ろから抱き抱える。自分から行く分には何もないのに前のはなんだったんだ

 

 「わふっ、……う、うぅ」

 「……やめてあげろ、◇◇」

 「えっ、あぁごめん」

 

 さすがに練習後に抱きとめるのはノンデリか。申し訳ない。そんな中西園がぽそっと声をあげる。

 

 「実は美味しいとか思っていませんか」

 「それ誰に言ってる?」

 「それ誰に言ってますか!?」

 「直枝さんですが」

 「お、思ってないよ!!」

 「あはははいいじゃん。キチョーな体験してますヨ、理樹くん」

 「そんな体験要らないよ!」

 

 と、そんな所で、風呂場の声が聞こえてくる。これはまずいと理樹の耳を塞ぐ。

 

 「三枝! 早く私の耳も塞げ!!」

 「はいはーい。そう言う律儀なトコロ、嫌いじゃないですヨ」

 「それに比べて理樹君はチッキショー風呂場の二人のアツアツでちょっとえっちな会話が聞こえないなんてもったいないことしやがって、などと思っているからな」

 「リキ、そんなこと思ってるんですかっ」

 「何も聞こえないけど何か凄く不名誉な事を言われている気がする……」

 

 程なくして、風呂から上がってくると同時に耳を塞いだ手と、ついでに理樹の目隠しも取られる。

 

 「鈴さん、次は私とも入りましょうねっ」

 「い、いやだっ!!」

 「わ、私とはいやなんですか……しょんぼりです。小毬さんはよくて私はダメなんです…」

 「りんちゃん、入ってあげてー」

 「そうだぞ入ってやれ!!」

 「あぅ……わ、わかった。」

 

 それから来ヶ谷さんと三枝が入り、クドは西園さんとでも入るのかとか思っていると

 

 「じゃあ△△、一緒に入りましょー!」

 

 「……はい?」

 

__

Kudryavka

 

 家具部のごたごたが終わったあと、来ヶ谷さんのお部屋に呼ばれました。どうやら他の女子の皆様も居るようです

 

 「皆、集まったようだな」

 「きたよゆいちゃん〜」

 「なんかようか」

 「先程ぶりですね」

 「いやー姉御からの呼び出しなんて珍しいですぜ?」

 

 その用事とは、明日お泊まり会をしようという話でした。鈴さんは事前に買ってきたモンペチで買収され、場所は2人部屋で広くて、丁度ルームメイトも居ないということで私の部屋になりました。

 

 「さて、ここからが本題だが。女子達だけで集まってお泊まり会をしても刺激に欠ける」

 「と、言いますト?」

 「簡単なことだ。少年と◇◇も呼ぶ」

 「さんせー!」

 

 △△もですか? それはとても楽しくなりそうです。なので私ももちろん声高々に言いました。

 

 「さんせーです!」

 

 それから色々手段を練ります。まず、鈴さんが△△を呼びつけ、リキの部屋に待機させます。次に、私と小鞠さんが「大変だー!」と迎えに行きます。私が大変だと言ったら△△は二つ返事で乗ってくるので、リキもついでに確保出来る、と。完璧な作戦です!

 で、ですが……皆さん私が大変な目に会ってると△△が二つ返事で来ることに対して何もつっこまないのはどうしてでしょう……。幾らなんでも見え見えの嘘じゃあバレる気もしますが

 

 「安心しろ、クドリャフカ君」

 

 そこで、不安そうな顔に気がついた来ヶ谷さんに声を掛けられました。

 

 「君が思っているよりもずっと、◇◇は君の事を好いているよ」

 「そう……なのでしょうか?」

 「あぁ、おねーさんが保証してやろう、と言うかここに居る人間は西園女史ですらそう思っている筈だ」

 

 西園さんの方をチラリと見ると、こくりと一度頷きました。な、なんと言ういんふるえんすなのでしょうか。

 

 「ついでに仲も深まっちゃおうか、んー、そうだなぁ」

 

 小鞠さんは鞄の中でガサゴソと何かを確認すると、ぴこーん、と閃いたように笑顔で口を開きます

 

 「一緒にお風呂入っちゃおうよ〜、裸の付き合いってやつ?」

 

 皆さんが硬直します。そ、それは……それは? い、良いのでしょうか?

 

 「いやいや、幾らなんでもダメっすよ! 年頃の女の子に裸の付き合いさせるとかー!」

 「でもでも、お泊まり会には誘うんだよね? だったら、一晩同じ屋根の下で寝るんだし、そうなったら、もう一緒ですよ」

 「こ、小鞠さん!? どうしたんですか!?」

 「あ、そうだ。クーちゃん今日はハグ出来た?」

 「そ、それは……はい。出来ました」

 

 今日あったことを思い出す。倉庫廊下での事。それを思い出して、また胸がとくとくの鳴ります。

 

 「じゃあ次のステップ踏んじゃいなよ、ゆーっ」

 

 いつものようなあっけらかんとした顔でそんな事を言います。

 

 「おい、誰か小鞠君を止めろ」

 「あたしは何も見てない。聞いてない」

 「いかん鈴君が部屋の隅に……」

 「なるほど、このくらいの距離感なんですね」

 

 小鞠さんの爆弾発言で、その場は一度吹き飛んだように阿鼻叫喚としました。

 しかしお風呂、お風呂ですか……。湯けむりに包まれる△△の姿を想像して、ぽやっと顔が赤らみます。ど、どうしてでしょう……。

 

 「あ、クーちゃんいま想像しちゃった?」

 「……はい」

 「やってみたいなーって思った?」

 「…………」

 

 少し考え込む。△△と同じお風呂、同じ湯船に浸かるところ。湯加減どう? なんて私に尋ねる△△のこと。私の頭を洗ってくれる△△のこと。で、でも一緒にお風呂なんてそんな……。

 

 「ちなみに〜」

 

 小鞠さんが続けて人差し指を立てて口を開きます。

 

 「お友達と一緒にお風呂に入ることは変じゃないよ〜」

 「いやいやいやいや!」

 

 三枝さんが何か言ってる気もしますが……確かに。お友達同士でお風呂に入るのは普通ですね!

 

 「やってみたいです!」

 「でしょ〜」

 「あぁ……もう止められないのか」

 「年頃の女子高生には、そう言う経験も必要ですから」

 「不純交友だよこう言うのは!」

 「三枝さんが言えた話では無いのでは?」

 「うっ、言い返せない……みおちん恐るべし」

 

 そうして、お風呂の順番とかを相談して、その日はお開きになりました。

 

__

 

 「じゃあ△△、一緒に入りましょー!」

 「……はい?」

 

 お泊まり会は楽しくて、思ったよりも緊張せずに言えました。さて、どうでしょうか。

 

 「い、いいいやいやいや私とじゃ狭いから一人で入りなよ、流石にそれは……」

 「いくじなし」

 「おごはぁっ」

 

 鈴さんからの援護射撃です、ありがとうございます! ですが……まだ決めあぐねている様子で。

 

 「クーちゃん、こしょこしょ話しよ〜」

 「……? はい」

 

 何やら読んでいた小鞠さんに呼ばれました。一体何でしょうか……。

 ……ふむふむ、なるほど。そう言えば良いのですね?

 小鞠さんは親指を立てると、私を背中を押します。

 

 「△△……△△は、私と一緒にお風呂、嫌ですか? 私は入りたいです。お願いです△△……」

 

 って、上目遣いで口元をぐーで隠しながら言ってみてよ〜。との事でした。こ、こんなので何か変わるんでしょうか……?

 

 「……三枝、さっきのタオル貸して」

 「えっ、何に使う気なの? えっちな事には貸さないよ?」

 「自分の目隠すんだよ」

 「なんでだ? お前クドの裸見たくないのか」

 「……黙秘」

 「クーちゃんが答え聞きたいって〜」

 

 い、言ってませんけど!? 小鞠さん!?

 

 「ぐっ……が、ぅ……見れない、です。これで良い!?」

 「しょーがないなー」

 「ほら○○。僕も目隠しされて腕なんかまだ縛られてるんだからさ。観念しなよ」

 「理樹、私を裏切るのか!?」

 「先に裏切ったのは○○だからね」

 

 結局△△は三枝さんからタオルを受け取り、自分に着けました。お友達どうしなんですから、わざわざそんな事しなくても良いですのに

 

 「クド……本当に良いの?」

 「はい! 問題ありませんっ」

 「いってらっしゃい、クーちゃん」

 「はーい行ってきますーっ!」

 

 私は△△の手を引いてお風呂に向かいました。

 

__

[お風呂イベ]

__

○○

 

 私達はお互い湯だったような顔のまま部屋に戻る。

 はー。なんすか。なんなんすか。もうどういう顔すればいいかわかんないので敷いておいた布団に突っ伏します。

 

 「クーちゃんどうだった〜?」

 「……すごかったです」

 「やりましたね」

 「や、やってません!」

 「いえ、良かったですね、と言ったつもりなんですが」

 「……う、ぅ」

 「小鞠君……これが本当に君がやりたかったことなのか?」

 「姉御にここまで言わせるとか、小鞠ちゃん相当っすヨ」

 「最近恋のキューピッドのお話読んだんだぁ」

 

 何か言ってるけどもう何も聞こえない。知らない。暫くそっとしておいてくれ。

 

 「……大丈夫? ○○」

 「私の背中に触るな理樹ィ!!」

 「あ、元気そうだね」

 

 それから理樹が女装させられたりしてまじウケるー。寮長の声も聞こえた気がする。なんか見逃されたわー。

 

 えっ、理樹子供の時に鈴のスカートの中手突っ込んだんですか?

 

__

 

 消灯し皆がガッツリ寝に入る。当然の如く私は理樹と部屋の隅っこに追いやられた。

 小鞠さんがいの一番に寝入ったようで、三枝と来ヶ谷さんが小声で話をしているくらいで、みんな静かにしている。

 やがてそれもなくなり、みんな寝に入ったようだ。

 今日のことをどうにか思い出さないように、何とか寝ようと頑張る。

 

 ごん。

 

 「ごふっ!?」

 

 リキと同じく息を吐く。肺辺にかかと落としが。

 

 「な、なんだ……?」

 

 理樹が確認するのと同時に私も目を開くと、鈴が寝ぼけてこちらにアタックしているらしい。と言うかもう鈴がこっちの布団に来ている。

 

 「……私は鈴の布団行くから、頼んだ」

 「え、ちょっと流石にまずいって」

 「起きがけに見える顔が私か理樹なら、幼なじみの方が良いでしょ」

 

 私は理樹を置き去りにして枕を持って移動する。今度こそ寝てやろう……。

 

 ぴと。

 

 ……なんかが私の首に触れている

 

 「フフフ……」

 

 こんなことするやつは一人しかいない……鈴と場所を変わっていて正解だったな。

 

 「最低だぞ来ヶ谷」

 

 若干ドスの入れた声でそう呟く。

 

 「おや?……これは失敬」

 

 来ヶ谷さんは鈴の姿を確認すると、そっちの方に移動した。

 

 「おい待てや」

 

 肩を掴んで引き止める

 

 「なんだい」

 「何してんだお前」

 「夜這いだ」

 「んな見てわかること言えって言ってねぇんだよ」

 「はっはっは。まぁ当然の欲求じゃないか。鈴君の安らいだ寝顔を拝めるチャンスなどそうはない。と言うか折角企画したのに小鞠君に見せ場を奪われまくっていて私の立つ瀬がないじゃないか!」

 「んな瀬埋まっちまえ!!」

 「だって見たかったんだ。そして出来れば触りたい」

 「どっちもダメに決まってんだろクドの部屋だぞ!!」

 「キミだってクドリャフカ君の寝顔を見たいだろう、本当は」

 「んなことっ……んなことないからっ!!」

 「お、あれだけのことがあったのに一度考えたな。欲望のままにハァハァクドの寝顔めっさ可愛い一萌えーとか身悶えするといい」

 「しないっての!!」

 「だって萌え萌えだぞ。これはやばい」

 「……確かにクドは萌え萌えだが」

 「はっはっは、そういうわけさ」

 「だからと言ってお前の行動が看過される訳ではない」

 「……◇◇、なかなかいい感じのツッコミじゃないか?」

 「ツッコまさせるような事ばかりするな!!」

 「うっさいわぼけーっ!!」

 

 あ、鈴が起きた。

 

 「うむ、失礼した」

 

  言いながら、鈴の布団に潜り込む。貞操の危機を感じたのか、来ヶ谷さんに向かって枕を投げつける。しかし、それを来ヶ谷さんは避ける。

 

 「むぎゅうっ」

 

 ……誰か巻き込まれたぞ

 

 「おおっ、まくらなげかっ!? 待ってました!!」

 

 あかん馬鹿も起きた。どこからともなく枕が無数に投げられる

 

 「むぎゅぎゅぎゅうっ」

 

 また巻き込まれたってかこれ同じ人だよね。

 

 「な、何事ですかっ」

 「クド、取り敢えず私の後ろに隠れろ!!」

 

 直ぐに布団を移り、クドを背に立つ。

 

 「ターゲット確認」

 「タダでは死んでやんねぇよ……ッ!!」

 

 飛び交う枕は、西園さんが静止の声をあげるまで続いた。お分かりの通り巻き込まれた可哀想な人は小鞠さんだった。

 

 そんな感じで、お泊まり会は騒がしいまま終わりを告げた。

 

__

 

 日の出頃、理樹と共に女子寮を後にする。

 

 「いやーこんな目に会うとは」

 「ほんとだよ、全く」

 「でも楽しかったでしょ?」

 「僕は女装させられて散々だよ……そっちは?」

 「……楽しいとかそんなんじゃないよこんなの」

 

 何か大切なものを失って大切なものを得た気がする。両者不明のトレードオフが強いられて未だにわけわかんない。

 

 「……お風呂で何したの」

 「なんもしてないって!!」

 「本当は?」

 「なんもしてないっつってんでしょうが!!」

 

 すすす。

 

 「私の傍に近寄るな!!」

 「そんな臨場感たっぷりに言う人初めて見たよ」

 

【○○は『私の傍に近寄るな』の称号を得た!】

 

 理樹が苦笑する。こっちも揺する手段持っておかないとな。来ヶ谷辺りに女装した理樹の写真を貰っておこう。

 

 そうして寮に理樹を送り届けたあと、一度家に帰宅するのだった。

 

 帰った後、母におすすめのハニートーストの美味しいホテルを教えられた。本当に気持ち悪い。

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