頑固爺のちゃぶ台返し   作:ニャンニャン丸

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近頃巷に流行るもの 妖異怪異に都市伝説
そこに入れば食われて死ぬ それに見られりゃ呪いで死ぬ
それを聞いたら病で死ぬ そいつを知ったら狂って死ぬ
知らねど気が向きゃ殺されて死ぬ 何ともまぁ 物騒な事で

(まわ)りお(かみ)もお釈迦さまでも だぁれも救っちゃくれやせぬ
せめて晴らせぬ恨みだけ 晴らすは闇の仕事人
黄不動横の小料理屋 頼み料持っておいでなせぇ 陰膳据えて待ってます


テイク9_都市伝説仕事人

 はいどうもこんにちわ、元爺です。

 今世の名前は笠森仙、古臭い名前だが江戸三大美女の一人と同じ名前だ、お仙さんと呼んでもいいぜ、なんかそんな漫画も在ったから色々かぶってるが。

 転生したら女になってたんだが、誰得だよって話だぁな。

 まぁ、90も半ばを過ぎればおむつオシメに介護と、まぁこっぱずかしい事は一通り経験してるし、何より枯れてたんでそこまで戸惑うこたぁなぁったが、この手の定番とはいえ日本人形みてぇな美少女になったのはちょっと驚いたね、21世紀も結構経ったこのご時世にまぁ美人だけど古くさかねぇかい?

 

 まぁ、いただいたチートに比べりゃまだ大したことはねぇんだがね、強力だが自分のためには使えないうえ、高確率で非業の死を遂げる最後が待ってるってぇ気が滅入る力だ、どんなチートかはまぁ、今は秘密だ、タイトルでバレてるって、うっせぇそういう様式美なんだよ。

 ああ、この口が悪いのは脳内だけだ、喋るときはそれっぽくしゃべってるぜ、こんな風に。

 

「おねぇちゃん、弟を探してるの?」

 

「いいえ、息子を探してるの、何か知ってる人がいたら教えてくれる?」

 

 駅前でビラを配っている、おばちゃんと言うのはちょっとかわいそうなんで、お姉ちゃんとしとこう、素材は美人だったんだろうなと思う、でも今はくたびれ果てたようなぼろぼろの女性の気配に気が付き、小首をかしげながらそう問う。

 その彼女には、顔がなかった、あるはずの顔がなく、ただそこに顔があるという認識だけが残っていた。

 手にしたビラもほとんどが黒く塗りつぶされ「探しています」くらいしかまともに読み取れない。

 周りの人々は彼女が視界に入っていないように、一瞥もせずに立ち去っている、相当異様な風体であるのに誰も気が付かない。

 私でなければ、知覚できなかったろう。

 だが、彼女は死者ではなく、怪異でもない、あくまで人間だ、ただの人間なのだ。

 

~~~~~~OPタイトル挿入~~~~~~

黒い画面に叩きつけるような真っ赤な筆文字で

「息子を返して!

 顔のない女の嘆き歌」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 彼女はシングルマザーだった、世紀の恋だと思っていた恋人は子供が出来たと言ったら消えた。

 それでも両親と相談して産む決意をした、生まれた子供のために残りの生涯を注ごうとおもった。

 父が居ないなら父の分まで愛を注ぎ、子供からも愛情を返され、すくすくと育つことに幸福を感じていた、そこが、幸福の絶頂だった。

 

 小学校に上がったころ、いじめにあっていたらしい、家では笑顔で居るので気が付けなかったことを今でも悔やんでいる、ここで気が付けていれば、あんなことにはならなかったのにと。

 

 ある時息子が帰ってこなかった、学校に問い合わせても帰ったと言われ、捜索願を出した、自分でも心当たりをひたすら探した。

 近所の公園、好きだった高台、学校、図書館、行きつけの駄菓子屋、友人だと思っていた家、最後に見つかったのがさびれた神社のある山の裏手だというのでそちらにも。

 

 そのうち不思議な事が起こった。

 

 最初は記憶だった。

 可愛がってくれていた近所の人が、そんな子いたっけ?と不思議がられた、最初は話していけば思い出せていた人も、やがて話しても写真を見せても全く思い出せずに、こちらを不審者として扱うようになった。

 

 次は記録だった。

 いつの間にか学校に居なかったことになっていた、集合写真から消えていた、明らかにおかしいが誰に相談したらいいのかもわからなかった、悪戯とは思えなかった。

 

 そして物が消えた。

 タンスに仕舞っていたへその緒がなくなっていた、神棚に上げていた母子手帳も消えた、役所に出生届を出したその日に買った、石造りの表札からも息子の名前が消えていた。

 

 いつの間にか、自分も■■の名前が言えなくなっていたことに気が付いた、顔も思い出せなくなっている、いや、まるで最初からいなかったかのように、記憶からなくなっていた。

 何か恐ろしいことが起こっているのはわかった。神社に息子を返してくれ、記憶を返してくれと祈り、神主に相談し、自分でも死に物狂いで息子の存在した証を残そうと思いつく限りのことをした。

 名前や思い出を書いたメモは翌日には白紙になっていた、写真などもう一枚も残っていない、記念日には自分がどこにいて何をしたのかもわからなくなっていた。

 それでもあの子は確かにいた、その思いにしがみつき、■■を探し続けているうちにいつしか時間もわからなくなっていた、そんな時、少女に出会った。

 

「おねぇちゃん、弟を探してるの?」

 

「いいえ、息子を探してるの、何か知ってる人がいたら教えてくれる?」

 

 黒髪でおかっぱの少女だった、時代劇から抜け出したかのような和装が日本人形のようによく似合う、息子を探していた間色あせていた世界に、ほんの少しだけ色が戻った気がした、そういえば、人と会話をしたのはいつぶりだろう。

 

■■の写真の写った尋ね人のチラシを不思議そうに見た彼女は、不思議そうにそれを見て、小首をかしげた。

 

「知らないよ、でも()()()()

 

「な、何か手掛かりがあるの?」

 

 ■■が居なくなったのはもうずいぶんと昔のような気がする、少なくともこの少女はまだ生まれていないか、赤ちゃんだっただろう、知っているはずもない。

 そんな事すら、その時は気が付かなかった、不思議にも思わなかった。

 

「だって、何も映ってないもん、何かに食べられちゃったんだよ」

 

 そんな馬鹿なと思ってチラシを見て、改めてそれが黒塗りの何も書かれていない紙切れだと言う事に気が付いた、そういえば写真からは■■の姿はすべて消えていたはず、では自分は何を目印に?

 気がついてはいけないことに気が付こうとして、恐慌に陥ろうとした彼女の手を、そっと少女が撫でさする。

 

「山に行ったんだよね、そこで何かにあった、たぶん騙されてそれに会わされた、それで食べられちゃったんだ。

 元は悪い奴じゃなかった、お供えを食べてただけの何か、でも、それに人を食べさせた奴がいる、それで人の味を覚えちゃったんだ」

 

 言っていることの半分もわからない、だか■■が食べられたと言っているのはわかった、不思議と嘘だとは思わなかった、この少女は嘘をついていない、自分と■■に起こったことを知っていると、そうしたことが起こっている時と同じ気配とでもいうべき何かがが少女にはあった。

 

「食べられた?熊か何かが」

 

 熊は人の味を覚えると人ばかりを食べるようになるという、まさか■■も?

 そう考えるだけでも恐ろしい、この目に見ない限りは生きている可能性を信じたい、だが、それにはあまりにも今まで周りで起こった事が異常過ぎた。

 

「熊なら遺体は残るよ。どうする?この先を聞く?酷い事を聞くことになるよ、このまま聞かないでいた方が、まだ希望は残るかもしれないよ」

 

 そういう少女にひるむ。知ってはならない、絶対に後悔する、そう分かっていてもなお、覚悟を決めるのに一瞬もいらなかった、あの子を産むと決めたその時の様に。

 

「聞くわ。教えて、■■と、私に、何が起こったのか」

 

 わずかに少女は目を見開いた、そうするとだいぶ人間らしくなるのだと気がついて、口元がこんな状況なのに久方ぶりに緩んだ。

 すぐに少女の顔は無表情に戻り、彼女をしっかりと見据えると、しかし先ほどまでと違いどこか誠意を感じさせる声で言葉をつづける。

 

「あなたの息子さんは食べられたの、裏山のよくないものに、悪霊、邪神、妖怪、名前は人間が勝手につけたものだけど、そういう名前がある前からそこにあったモノに。

 食べられて、死んだ。

 でも、それだけじゃすまなかった」

 

 あの不気味な山の裏手にあった神社だろうか、あそこに何かがいたのだろうか。

 息子が死んだと断言されたのに、その言葉が頭を空回りして入ってこない。

 

「ソレが食べるのは体だけじゃない、食べた相手の因果も、痕跡も、何もかもを食べて、この世から居なくなったことにしちゃう、だから、食ベた自分と、食べさせた奴以外は誰も気が付かない、なかったことになるから」

 

 大抵は被害者自身、被害にあったことを自覚できずに、喪失感を抱えたまま忘れてしまうのだと、彼女は告げる。

 人知を超えた力に人は対抗できるはずもないのだから。

 だから、あなたが覚えていると言う事は、あなたの息子さんへの愛情、ただそれ一つで、相手の権能(ちから)に立ち向かえていると言う事は、とても奇跡的な事なのだと少女は告げた。

 しかし、そのあとに続けた小さなつぶやきは彼女には聞き取れなかった。

 

「それが、良かったことと言っていいかは難しいところだけれど」

 

 そしてまた彼女に向けて少女は、恐らく彼女にも分かるように、専門用語を省いているのだろう、子供に言い聞かせるような優しい言葉遣いを選ぶように、考えながら言葉を続ける。

 

「だから、息子さんは知らないわ。

 でも、そうした相手はわかる、それに会っても、息子さんは帰ってこないけれど」

 

 残酷な事実は、彼女の心を、それまでも暗かった心を真っ暗に落とし込んだ、膝をついて地面に倒れていたかもしれないが、それさえも彼女にはもうわからなくなっていた。

 だが、純粋な闇になったからか、不思議なほど冷静に彼女は少女に聞いた。

 

「それで、それを私に言うと言う事は、何か、その先があるのでしょう」

 

「ご明察」

 

 皮肉気に、あるいは自嘲するように、少女は肩をすくめて、彼女に一つの提案をする。

 

「死者は蘇らない。

 人を殺してなお、のうのうと生きている相手がいても。

 人の法では裁けない、人ではないから。

 人でないものに命じて殺した人間も、それが証明できない法では裁けない。

 でも、晴らせぬ恨みを晴らす事だけは、出来るわ」

 

 金で晴らせぬ恨みを晴らす闇の仕事人、その名を彼女も聞いたことがあるのを()()()()()

 そこで聞いたかは思い出せないが、そんな事より重要なのは、少女にはそこに依頼を頼める伝手があるのだろうと言う事だ。

 迷いはなかった。

 

 ■■の養育費のために溜めていた貯金があった、行方不明になってからはそれを賞金にして情報を呼び掛けたが、結局誰も現れず、丸々残っていた。

 カバンの中に、いつも後生大事に持っていたそれを少女に渡す、ただの通帳でも■■のためにという目的で持っていたそれは、数少ない■■とのつながりを感じる物だったが、それでも迷いはなかった、間もなく自分には必要がなくなるという予感があった、それも、そう遠くない未来に。

 

「引き受けた」

 

 その一言だけは、闇に佇む老人のしわがれた声のようだと思ったのは、最後の瞬間まで覚えていた。

 

~~~~~~ CMアイキャッチ ~~~~~

都市伝説仕事人

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 彼女が渡した通帳は、私の手元で小判の入った巾着に姿を変えた。

 彼女はまた、私のことなど最初からいなかったかのように黒塗りのビラを配り始める。

 子供を忘れたくない一心で必死に抵抗したのだろう、彼女は息子がいたという情報を握りしめ、それ以外の全てを失いつつある、自分の顔も、名前も、生活も、すべては息子の代わりに削ぎ落とされていったのだろう、人でありながら、生者でありながら、彼女は半ば死者となり、怪異となりつつある。

 だがまぁ、依頼は受けた、後は、(おれたち)の仕事だ。

 

~~~~~~~~~闇の集会場~~~~~~~~

 

 深夜、黄不動様の神社の鳥居を出てすぐ横にある、いつも閉まっている小料理屋「五合」の奥の個室。

 今時珍しいイグサの香る畳に和紙の障子で仕切られた室内、隅には暖房としては機能していないが、インテリアとして長火鉢が一つ。

 明かりはたった一本の蝋燭だが、嫁の利くこの場の面子は誰も不自由していない。

 

 影の一つ、21世紀の時代に羽織袴にちょん髷(厳密に言うなら八丁堀風と言われる独特の髷)をした男が、ぼそりとつぶやく。

 

「元締めに言われて確認したが、この孤白(こはく)、狐に白でこはくって読むらしいが、この少年は当時の同じクラスの島田と西江って奴に連れられて霊の神社に行ったらしいぜ、その時コンビニでおにぎりを一個買わされている、本人は買う気がなかったようだがな。

 で、そこで神社に行ったところで足取りはぴたりと消えている、が、それだけじゃねぇ。

 番所(けいさつ)の記録にももう残っちゃいねぇが、同じようにおにぎり持たされて連れ去られた子供や、子供だけでなく大人も何人かいたようだ、全部は追えなかったが、目を引く美人だったり、勉強が出来たりと、何かしら秀でたもんがある奴だったようだな

 それと、その神社はこの島田と言う奴の家が地主として持っている土地にあって、記録の上じゃ管理もそこでしてるらしいな」

 

 藤□まことの渋い声はいいねぇ。

 八丁堀、こと中村主水、必殺シリーズでも群を抜いた登場回数と、その回数に見合った殺害数を誇る剣の達人。

 俺のチートで現れる()()だ。

 

 ついでその奥の行者姿の青年が、シルエットのまま目だけを光らせて口を開く。

 

「神社の怪異は、おぐい様と呼ばれていた、由来を憶えている者はいない、飢えて死んだ子供をまつったとも、畑を食い荒らす害獣を鎮めるためだったともいわれている。

 訪れたものは、食べ物を与えてはならない、さすれば食べ物と一緒に自分が食われるという伝承だ。

 避けるには何も与えないか、食べきれないほどのものを与えるか、さもなくば、代わりの者を差し出すか。

 当時の村には記録は残っていない、残していない。無かったことにしていた、それが、怪異の伝承と合わさり、存在を食らうようになったのだろう」

 

 先生、本名不詳、シリーズでも最強と名高い、オカルト的な人知を超えた身体能力や死者の声を聴く霊能力的な物を持っている。

 数少ない霊的、オカルト的なものに詳しい先生はうちの縄張り(シマ)では重要な調査役だ、もちろん先生も私のチートによる()()だ。

 シリーズとしては中村さんとの共闘は無いというか、別な世界(うらごろし)の話だったはずだが、私のチートは問題なくこの夢の競演を実現させている。

 

「島田の母親は神社の管理をしており、オグイサマ、先生の話に合ったおぐい様だろう、その存在を知っていた」

 

 今度は私の横から声、長火鉢の影にいつの間にか現れた美形は三味線屋こと勇次。

 必殺と言えば彼の釣り技はその代表と言えるだろう。

 突然出てくるのか気配を消していたのか、いずれにせよ心臓に悪いが、この能力は私にもコントロールが効かないのでどうしようもない。

 幸い、私の表情筋は超合金並みの強度を誇り、めったな事では崩れないポーカーフェイスだ、何事もなかったかのように続きを促す。

 

「この女は息子の邪魔になる人間を、島田(むすこ)西江(あくゆう)に指示して、女子供関わりなく、おぐい様に食わせていたらしい、おかげで昔はもう少しマトモだったかもしれない神様が、今じゃ人間食いの怪異だ。

 証拠も残らないからずいぶんと派手にやっていたようだ、ふん、人間のすることじゃねぇな」

 

 わずかな蝋燭に浮かび上がる、眉を顰める姿さえ美しいのだから美形は得だな。

 

「やり口なんてどうでもいいよう、でもさぁ、母親から子供を奪ったのは、許せないよう」

 

 樹△希林、もとい、「おばさん」は人畜無害そうな顔に、ワイドショーで痛ましい事故を見たかのような悲痛な表情を浮かべる。今回は子供が殺されたことから彼女がキャスティングされたのだろう。

 これでも歴戦の殺し屋だった過去がある。どこぞの家政婦(ミタ)とかち合ったら果たして事件は解決するのか、それとも奮闘むなしく殺されてしまうのか、などとくだらないことを考える。

 余計な事を考えつつも、おくびにも出すことはなく、私は元締めとして彼らに仕事を告げる。

 

「頼み人は孤白の母、名前はもう残っていない。

 目標は、おぐい様、島田繁とその母、(ひじり)、西江守夫、

 そして、もう一人、

 これは私の仕事だ」

 

 ひとり、ひとりと数えつつ、渡された時は通帳だった巾着を逆さにして、なぜか今の面子できっちり割り切れる数になっている小判を文机の上に広げる。

 

「これは頼み人が、息子の養育費にとため込んでいた金だ。これで、仕事を頼みたい」

 

「やれやれ、女は恐ろしいねぇ」

 

 言って最初に動いたのは八丁堀。

 10両のうち、二枚を懐に、もう二枚を拾って行者、先生に放る。

 

「俺は金など」

 

「いいから取っときな、そいつは母親の願いと恨みのこもった金だ、ちゃんと供養してやると良い」

 

 そういわれては反論できないのか、どこか不満げに先生も小判を受け取る。

 

「当時の子供も今はいい大人だ、今でも愚連隊じみた事をしているそうだ」

 

「はいはい、いちいち言わなくともちゃんと()りますよぉ」

 

 次に三味線屋とおばさんが小判を取って消えていく。

 

 これが私のチート能力「元締め」だ。

 必殺シリーズのミームにあるような、人死にが出るほどの不幸にあう人がいて、その事象が法では裁けない時に、頼み料をもらうことで、仕事人や仕舞人と言った必殺シリーズの登場人物が私から現れて、事件を調査した体で事情を説明し、頼み料を取って仕事を行う。

 恐ろしく限定的で条件が厳しい、ぶっちゃけめんどくさい能力だ。

 現代でそんなことをやれば様々な矛盾や失敗もあるだろうが、それらは問題にならない、そういう()()だからだ。

 仕事人の流れの通りに必ずことは進む。良くも悪くも、だ。

 だから被害者を助けたくとも、不幸が起こって頼み料が払われるまで私は手出しできない。

 元締めと言う立場の()()である私、そう、私も今は怪異なのだ、面倒な条件から逸脱できないのはそれも理由の一つだ。

 そして逸脱できないと言う事は、必殺シリーズの前例を見る限り、割と高確率で非業の死を遂げる立場にあるし、それを避けることも難しいだろう。なんとも割に合わないものだ。

 願わくばうまくフェードアウトできた元締めと同じ流れになって欲しいものだが、さてどうなることやら。

 いずれにせよ、条件が厳しい分、強力な力ではある。

 

 最後の、自分の小判(とりぶん)を手に取ると、フッ、と、ろうそくを吹き消す、元々ほとんど明かりのなかった室内は、それで令和の大都会とは思えない暗闇に包まれた。

 

~~~~~~~~~トランペットは高らかに~~~~~~~~

 

 日本人なら誰もが知っている、あのトランペットが高らかに、それでいて哀切を帯びた音色で鳴り響く。

 私の耳にだけ、あるいは私と、もし画面の向こうで私を見ている視聴者などが居れば、そうしたご覧の皆様の耳に。

 深夜とはいえ街燈も人の姿もあるだろう街の中であるのに、その金管楽器であるのに和のテイストに溢れた音に、誰も出てくる気配はない。

 なぜか人っ子一人いない道を、一人、一人と仕事人が現れては歩き出す。

 

~~~~~~~~~島田と西江~~~~~~~~~

 

「あの頃は俺らもやんちゃしててよぉ」

 

「そうそう、ちょっときもい奴を山に置き去りにしてみたり、あの時は捜索隊とか出たよなぁ、あれ?あれは見つかったっけ?」

 

「しらね~、知らねぇんだから大したことじゃね~よ、どーせいなくなっても誰も気が付かねぇようなやつだったし」

 

 居酒屋の奥、部屋に紫煙を充満させ、友人(かねづる)武勇伝(はんこうのじはく)を行っている、成長し、高校生となった標的。

 まだ20には満たぬ年齢の筈だが、酒も煙草もそれでためらうようならあれだけの犠牲者を出すような非道はそもそもしていないだろう。

 

 彼らは気が付けない。

 隣の部屋とを仕切る障子風の衝立の向こうに、シルエットが映るのも、のシルエットが手に持つ丸い影から何かを咥え、キリリ、と独特の音を立てて線を引き出す音も、もちろん、再び高らかになるトランペットも。

 

 ほんのわずかに三人の意識がそれた瞬間、衝立の隙間から黄色い、三味線の糸が飛来すると、先ほど武勇伝を語っていた男の一人、西江の首に巻きつく。

 即座にギリ、ギリ、と引かれる糸に喉をふさがれ、声を上げる事も出来ぬまま衝立にもたれかかるような姿勢のまま息を詰まらせていく。

 カメラがつい立ての奥に移れば、そこには糸を引く三味線屋。

 ツイ、と、細い指で張りつめた糸をなぞり、ピン、と弾けば、衝立の向こうでガクリと首をうなだれる気配、即座に親指の爪で糸を断ち切り、三味線屋はするりと闇に溶けるように音もなく走り去る。

 

 西江の様子に気が付かずにしゃべっていた男が、ふと相槌が聞こえなくなったのに気が付いてそちらに気を向けようとした瞬間に割り込むように。

 

「お料理をお持ちしました」

 

 と、鈴がささやくかのような、か細いのによく通る声とともに「おばさん」が入ってくる。

 その声に顔を向けた島田が、チッと露骨に舌打ち。

 

「なんだよババァかよ」

 

「ごめんなさいねぇ。こちらがいぶりがっことチーズのスライス、こちらが葱どっさり鬼おろし唐揚げ、に」

 

 テーブルに料理を置いておき、去り際にごく自然な動作で、ドス、と島田の腹をお盆の下に持った匕首(あいくち)で深々と刺し込み、えぐる。

 即死してもたれかかる男をゆっくりと座らせ。

 

「いけませんよこんなおばぁちゃんに」

 

 そう言って立ち去る。

 去った先で、匕首(あいくち)の血を半ば赤く染まった手拭いで拭い、

 

「ふん、何がやんちゃだい、あんたらのはね、人殺しって言うんだよ!」

 

 吐き捨てるように言うと居酒屋の制服をその場に落として足早に去ってゆく。

 おばさんが闇に消えたのちに、居酒屋からは悲鳴と騒ぎが起こるが、そのころにはもう彼らはどこかに文字通り消えている。

 

~~~~~~~~~島田母~~~~~~~~~

 

「ごめんください」

 

 彼らには聞こえないスローバラードが、中村主水の登場をそれだけで表現する。

 閑静な住宅街に、場違いなはずなのに妙に馴染む羽織姿の同心、中村主水。

 島田、と言う表札の一軒家は庭こそないもののアパートばかりの周りからは少し目立つ。

 玄関扉の横のインターホンを押して、腰も低く声をかける。

 

「はーい」

 

 インターホンから声、扉の近くにあるのだろうか、ドアからも微かに声が聞こえる。

 

「夜分申し訳ありません、(わたし)、八丁堀の中村と申します。

 島田聖さんのお宅でよろしかったでしょうか」

 

「あら、八丁堀の、聖は(わたくし)ですが」

 

 なぜ来たのかの疑問はあれど、彼のコスプレと言うには堂に入った姿にも、八丁堀と言う役職名にも不審を憶えることなく、まるでお巡りさんが聞きこみに来たとでもいうように、当たり前に女は中村に言葉を返す。

 

「は、実は急に確認が必要な事がありまして、ご子息の島田繁さんが先ほど刺殺されたと」

 

 すべてを言い切る前にガタガタと音がして玄関が開かれる。

 

「遺体は!遺体はありますか?刺殺だからあるんですよね!!遺体があればだれかをおぐい様にくさせて死んだことを無かったことに、だれか適当な」

 

 そんな犯行の自供じみた事を言い出すが、事情が分からなければ狂乱してると思うだけだろう、その様子に慌てた風もなく、中村主水はまじめ腐った顔で答える。

 

「は、ご安心ください、すぐに息子さんのところにお送りいたします」

 

 言いながらすらりと抜いた刀を、女が理解するよりも早く玄関の扉越しに突き刺す。

 鉄製であろう扉がまるで紙の様に貫かれ、女が一瞬痙攣し、刀を抜くとともに崩れ落ちる。

 

「まだ三途の川は渡っていないでしょう、急げば追いつけると思われます」

 

 自らの凶行をおくびにも出さないまじめ腐った表情のまま、そう言って女の服の端で刀の血をぬぐうと、一礼して歩き去る。

 あとに残った女は、怪異とのなにがしかの契約の反動か、そのまま黒く塗りつぶされ、飛び散った血や玄関の貫通痕ごと消えていく。

 あとには不自然に開かれた玄関の扉が残るばかり。

 

~~~~~~~~~夜明け~~~~~~~~~

 

払暁(よあけ)時、どことも知れぬ山奥、印を組みじっと昇る太陽を見つめる行者。

 オルガンの音色と行者の者ではない読経がどこからか流れる中、小さな少年の声が耳に届く。

 

『おかあさんがかわいそうなの、おかあさんをたすけてあげて』

 

 その現実とも幻聴ともつかぬ声とともに、行者はガッと横に会った太陽を模した旗と掴むと、疾風(はやて)のような勢いで駆け出す。

 曲がテーマ曲アレンジのアップテンポなものに変わっていく。

 

~~~~~~~~~神社前~~~~~~~~~

 

 夜と言うのは怪異の時間だ、陰の気や恐怖、何より噂話は舞台に夜が良く似合う。

 それ自身がそうであるように、昼間だからと言って動けなくなるわけでも消えるわけでもないが、それでも夜の方が動きやすく、ゆえに昼はどちらかと言えば苦手としていた。

 もっともそれにそんな言語化できるような意識はなく、機械的に定められた現象を起こすだけの舞台装置のようなものではあった、定められた定義にのっとり、提示された存在を捕食する、食事の必要もなく、好みもなく、ただそれはそういうものだったし、仮に意思があってもせいぜい昆虫的な反射と必要によって動くばかりではあったのだが。

 

 人間でいえばまどろみに落ちるはずの夜明けに、それの超次元的感覚は自分に近づく「昼」を検知した。

 太陽のごとき莫大な陽の気が、鳥のような速度でこちらに向かってくる、それの想定した居ない現象だ、ゆえにそれはなにも反応しない、反応できない。

 それの形無き概念に、一本の旗が突き刺さったのはそれからすぐだった、流し込まれる莫大なエネルギーが、何かの轟音とともに自身の定義を崩壊させていく最後の瞬間、生存本能的なものの活性化によってか、それはやっと、その轟音が自身から出た断末魔の苦鳴であるとこと、自身の受けている感触が激痛であることを理解し、しかしそれで何かができることもなく、そのままその存在を由来や噂といった設定ごと消滅させた。

 

 最後にその知覚に移ったのは、旗を引き抜き走り去る(せんせい)の姿だった

 

~~~~~~~~~駅前~~~~~~~~~

 

 必殺シリーズの悪役というものは、基本的に死ぬ、頼み料を受けて狙われれば、助かることはまずない、まさに仕掛けて仕損じ無し、である。

 それは決まり事であるが故、元締め(わたし)と言う怪異が仕事を依頼したものは死ぬ。必殺だからだ、それを防げるものは誰も居ない、そういう怪異なのだ。

 仮にそれが死んでも何度でもよみがえるという怪異であろうと、人間ですらない現象であろうと、剣の達人や現代兵器で武装していようと、それは例外ではない。

 殺して退場させる、少年漫画の様に再登場する事は無い、まぁ、役者さんは他の役で出てくるかもしれんがね、それは私のあずかり知らぬところだ。

 助かりたくば、条件を整えないことだ、非道な真似をしない、私に依頼を受けさせない、もっとも、そんな条件を事前に知ること自体が、無茶ぶりではあるのだが。

 理不尽?怪異というものはそもそも理不尽なものだろう?

 

 ()()()()()()駅前に行く、どこからともなく流れる三味線の音とともに、小さく子守唄(オリジナルです)をつぶやく。

 

 ねんころ山のうさぎどん

 何でおめめが(あこ)ぅござる

 坊やを探して山を駆け

 それでおめめが(あこ)ぅござる

 ねんねんよう おころりよう

 

 今日は手が塞がっているので、三味線は無しだ、それでも私の権能はいい感じにBGMでながしてくれる、こういうところだけは融通が利くんだよなぁ。

 彼女は今日も駅前で必死に届かない声をかけていた、顔だけでなく、すでにその輪郭まであいまいになっている、もう、自己(おのれ)を保っているのも限界だったのだろう。

 

「おかあさん、おかあさん、息子を探してるおかあさん。孤白(こはく)くんのおかあさん、狐に白でこはくって読むんだねぇ」

 

 声をかけてももう気が付くこともないのだろう。

 怪異に食われた者たちは帰ってきた、怪異自体が居なくなったから。

 けれども死んだことを無かったことにはできない、死体は出てくるかもしれないが。

 彼女の体ももう戻らない、食われたわけでは無く、食われまいとする抵抗の中でそぎ落とされていったものだから。

 

「ちょっと後ろを向いててね」

 

 そう言って手を放し、懐から彼女にもらったビラを取り出す。黒塗りだったはずの顔写真が戻っているそれを、しかし彼女はもう認識できない。

 まさか、明郎健全始末人(しょうじょまんが)まで元締め(おれ)の中に含まれているとは、知った時に驚いたが、と、表情を変えずに脳内でだけつぶやく。

 今回はピン札ではなく、この彼女の悲願の乗った紙で、彼女の首元を優しく、いっそ優美に見えるような所作で薙ぐ。

 たかが紙切れがどんなナイフよりも鋭利に頸動脈を切り裂き、彼女の命を絶つ、断ってその地獄のようなループも切り裂く。

 

 したいすら残らず消えていく彼女のあとに残されたのは、()()()()()半透明の、まだ美しかったころの彼女の姿と、そこに駆け寄っていくこれも透けて見える少年(むすこ)の姿。

 生者には手出しできない、だがまぁ、死者になら他所の融通は利かせられる。

 死者である以上、それが何の慰めになるのかとも思うが。

 これで、怪異とそれの影響下にある者たちはすべて始末した、あとは振り返らずに歩き去る、元よりあそこから先はこちらが手だし出来る領域ではない、天国なのか極楽なのか、それとも地獄に行くのか消滅するのか、ただ。

 

「死ななきゃ再開できねぇなんて、それじゃ救わないよねぇ」

 

 見上げれば、今の気分にマッチしたような、スモッグに曇った街の空。

 結局この身には、何かを救うことなどできやしない。

 人殺ししかできる事は無いのだ。

 

~~~以降はお好きなエンディングテーマをお流しください~~~

 




 悪人側の犯行やら自画自賛やらのヘイトを集めるシーンは気が滅入るのでカットしております。
 多分次はみんな大好き怪異の調査報告書回。
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