そこに入れば食われて死ぬ それに見られりゃ呪いで死ぬ
それを聞いたら病で死ぬ そいつを知ったら狂って死ぬ
知らねど気が向きゃ殺されて死ぬ 何ともまぁ 物騒な事で
お巡りお上もお釈迦さまでも だぁれも救っちゃくれやせぬ
せめて晴らせぬ恨みだけ 晴らすは闇の仕事人
黄不動横の小料理屋 頼み料持っておいでなせぇ 陰膳据えて待ってます
ああ、それと大事なことをもう一つ、皆様とっくにご存じたぁ思いますが
この作品はフィクションです、実在の人物、団体、歴史やCMとはかかわりござんせん
似ているように見えてもそいつは気のせいって奴です
そういう事に、しといてくだせぇ
~~~~~~小料理屋 五合~~~~~~
黄不動横の五合庵、五合庵と言っても良寛先生のそれではなく、小料理屋、今でいうなら居酒屋や飲み屋のような物で、どちらかと言えばおせんさんとこの一升庵に並ぶには格も歴史も足りないから、その半分で五合庵、と、そんな適当な名づけをしたような気がする。
我々仕事人と言う名の怪異たちの拠点でもあり、同時にメンバーの一人ともいえる
そのくせ必要のない時はRPGのイベントがない時の依頼人の家の様にしまっていて誰も入れない、オカルト的に鉄壁の要塞化されていると言えなくもない、たまに爆破されるが、それでこちらにダメージが来ることもない。
住所不定、
まぁそもそも
今日は旬のタラの芽にふきのとうにコシアブラと、春が旬と言っても実は微妙に旬の時期が違うはずなのだが普通に食べごろの山菜が仕入れられていた。
タラの芽は亀の手のようなよくスーパーにあるサイズだけではなく、手のひらほどにまで伸びた大きめのものもある、このサイズになると固くなって胡麻和えなんかには向かないが天ぷらにするならこのサイズが最高だ、これはもう天ぷらにするしかないなと揚げ物の用意をする、江戸時代に卵を使う天ぷらなど出ていいのかと言う突込みもあろうが、電気もガスもある調理場でそれを言っても仕方ないし、時代劇なら天ぷら位出ても不思議ではない。
ひとりで食べるにはいささか多いが、なに後は食べたくなった連中が出てきて勝手に酒の当てにでもして食べるだろう、先生だと揚げない物の方がいいかな、ちょっと取っておこうか、先生には怪異相手という事情でずいぶんと世話になっている。
こういうのが飲み屋のメニューに載っているとわくわくするものだが、前年ながら五合庵に入れるのは
「あの、まだやってますか?」
「いらっしゃい、今日は山菜の良いのが入ってるよ、天ぷらがおすすめだね」
こんな幼女が店を切り盛りしているが、それを不審に思う事は相手にはできない、カウンターに座った男はずいぶんと腹を空かせているようす、残念、あいつらの分はなくなりそうだ。
さて、ずいぶんと
彼はどんな依頼を持ってきたのか、出来れば彼が死なずに済むような以来だと良いのだがね、それが話の流れとは言え、毎度
~~~~~~OPタイトル挿入~~~~~~
黒い画面に叩きつけるような真っ赤な筆文字で
「守りたい
都心で駅近一戸建て
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
家は一生で一番高価な買い物、と言われたのも今は昔。
バブルが弾け、不景気が続き、税金は増え、円安になれば物価が上がり、円高になっても物価が上がり、株価がどうので好景気と言っていても、給料だけは上がらない。
そんな世の中ではアパートやマンション暮らしの人間の方が多いだろうし、自分達一家もそれで満足していた。
そのはずだった。
きっかけは一本のCMだった、家を守るために必死に怪物と闘う父親の四苦八苦を見て、なぜか彼の様にマイホームをと思ったのだ、そんな気などなかったはずなのに。
娘の進学のためとためていた貯金を切り崩し、ちょっとした旅行に行こうと言っていたボーナスを頭金につぎ込み、食事も切り詰め、借金までして金を作り、お得だという土地を買い込んだ、CMの会社だった。
同僚から心配されたのに、気にも留めなかった、妻も娘も家族の誰も疑問に思わなかった。
家を買うことが全てで、なぜ買うのかも買ってどうするのかも、これだけの借金をどうするのかも、なぜか気に留めなかった。
小さい庭のあるリフォーム済みの一軒家を購入して支払いが済んだ日に、もし何かあればこれを、と不動産会社から封筒を渡された。
その時は大して気にも留めずに、相談窓口や連絡先なのだろうと軽く考えていた、それが何か知る日はとても速かったが。
家に来た時に下見の時にはいなかったご近所の人に心配されたが、何を心配されてているのか分からなかった、今思いかえせば理解できるが、当時は理解の外だった。
それでも、意味はすぐ分かる事となった。
玄関に入ってすぐ、妙に暗いように感じられて明かりをつける。リフォームでLEDのかなり明るいものを入れていたはずなのに、暗い印象は消えずにむしろ噴き出してくるようだった。
焦げ臭いにおいに気が付いて正気に返ったのはそれからどのくらいたってからだったろう、渡された封筒の中にはどこかのお札が入っており、それが半分ほど焦げて臭っていたのだと分かって、逃げ出すように得体のしれぬ我が家の筈の場所を後にした。
後から聞けば、あの家はいわゆる事故物件であったらしい。
今までにも何人かの人が入っては、発狂したり自殺したりととかく黒い噂が絶えなかったし、そもそも曰くのある場所であんな場所に家を建てるのは罰当たりだと、当時を知る老人が愚痴るように教えてくれた。
仮暮らしだった妻や娘も、同じ時期に正気に返ったらしく、なぜこんなことにと皆で頭を抱えていたが、少なくとも、あのころのような突き動かされる衝動だけは鳴りを潜めてくれた。
憑き物に憑かれたのに、憑き物が落ちたように正気に戻れたのは皮肉と言うべきだったろうか。
もっとも、それで事態が好転するはずもなく、むしろ自分たちの窮地が浮き彫りになるばかりだったが。
お互いの実家からはいつの間にか縁が切られていた、不動産会社に問い合わせたが、買う前はあれほど早かった返事が何日もこない、やっとつながっても自己責任だしオカルトとか言われてもとけんもほろろに断られた。
弁護士に聞いてみたが、事故物件でも途中でほんのちょっとだけ別の人間が住んでいたなら報告義務はなく違法ではないらしい。
家族も霊障というのだろうか、体調を崩し始めた、自分もあちこち調子が悪い、医者に行っても原因は特定されず、効かない頭痛薬が処方されただけだった。
渡されたお札はとうに燃え尽きた、あとから買ったお守りも三日ほど、早ければその日のうちに真っ黒に変わっていた。
~~~~~~~~~独白終わり~~~~~~~~~~
「ここも、お隣の神社にお札をもらいに寄った帰りなんですよ」
そう言ったその男に、さて何と答えたものか少し悩む、
久々にうまい飯を食べた、いやまともな食事をとった気がする、家族にも食べさせてやりたい。
そういった男に天ぷらをパックにつめ、余ったご飯で握った塩おにぎりを持たせてやる、鮭なり梅なり入れてやりたかったが、今日はまだ仕込めていない。
「じゃぁ、これも持っていくといいよ」
そう言って神棚から一枚の紙きれを取り出して渡す。
今時のような洒落た包みや印刷があるわけでは無い、和紙に筆で書かれただけの一件粗末な呪符。
「熊野権現のお札さ、知り合いの
一応本当だ、シリーズ随一のオカルト作品であり、先生の登場作品でもある「うらごろし」で売り歩かれていたそれは、
いくらか生気を取り戻した男が、代金を払おうとするのを手で制す、玄関の横に立てかけられた五合の暖簾はまだ外にかけられていない。
「今日は定休日なんだ、休みに商売なんかしたかぁないからね、お代なんざ要るもんかい」
尻を蹴りだすように追い出すと改めて入口の鍵を閉める、そんな事をしてもしなくても、この店は必要が無ければたとえ警察や陰陽師、
ジジ、という音に目を上げれば、部屋の角、天井近くに置かれた古めかしいブラウン管のテレビがいつの間にか点いている。
画面は丁度CMのようで、
それに呼応するように、私の背後にいくつかの気配が現れる。
「聞いてたね、あんたたち」
ブラウン管を見ながら振り向きもせずにそういう私の背後には、恐らく今回の配役たちが影となって立ち上がっていることだろう。
「仕事になるだろうからね、タンと調べといで」
その声とともに気配が消える、今振り返ってももうそこには誰も居ないだろう。
~~~~~~CM明けアイキャッチ~~~~~~
新
都市伝説仕事人
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「これは酷いねぇ」
目の前にはあの男が買ったという家、狭いながらも、というか、本当に狭く小さい土地に、猫の額や安アパートのベランダほどの空きスペースは庭と主張しているつもりだろうか、狭さをカバーするためか縦に長く3階建てになっている。
まぁ、都心で駅近で庭付き一戸建て、というのは嘘ではない、嘘でないというだけで聞いたイメージ通りかと聞かれれば10人中10人首を横に振るだろうが。
挙句に霊感のない人間でも、何かの認識阻害をされていない限りは異常だと思う濃度の瘴気は
さて、たぶん先生なら由来や霊の有無などを調べてくれるとは思うのだが、私ではおおよそしか分からないと言う事がわかった、ならば残りは専門家に聞くとしよう、そちらはわかるので。
というわけで。
「こんにちわ、ちょっといいかしら?」
少し外れた公園でベンチに座っている、まるでリストラされたサラリーマンが会社もなくかといって職安にも行けずによりどころなくぼぉっとしているような中年男性に声をかける。
びくっとして慌てて仕事でもしている風に端末で連絡を取り出すが、別段彼が会社が倒産したバブル崩壊後の元サラリーマンというわけでは無い、そもそも人払いをしているつもりらしいので、私以外は気が付きもしなかったろう。
彼らは、まぁSCPとか追弔禍征局とか死霊編纂室とかのような、いわゆる私たち怪異に対して封印や調査や時には撃退も行う部署の職員だ、組織の名前も、彼の名前も私には伝えられていないが。
何しろ名前はカギで目印で宣言で、まぁ要するに魔術、呪術的に名前を知られるのは拙いと言う事で向こうは名乗っていないし、こっちも求めていない、ブラックロッドはブラックロッドだからいいんだ。
「お待たせしました、半田仙」
「良いよ、アポもなしに声をかけたのはこっちだ」
上への報告と指示を受け終わったのだろう、こちらに改めて声をかける姿は先ほどと打って変わって、は、いないな、やっぱりさえないおっさんに見える、が、まぁ油断は出来ずなれ合いも出来ず、味方でもない。
こっちはそんなに悪い感情を向けていないんだがね、それでも条件が整ったらあらゆる抵抗を無視して確殺してくる相手には向こうも油断をするわけにはいかないだろう。
そして、目的のためにはこちらと協力することもやぶさかではない、程度の柔軟性は見せてくれるわけだ、とはいえこちらの
「昨日うちに来た客が
しらじらしい言い方だ、ここに居てわざわざ見張ってたのだ、知らないわけが無かろう、が、そういうポーズはお互いにとって大事なものだ、少々回りくどいのは確かだが。
「あそこですが、確か、なんでも今は埋められていますが、あの家の奥にも道があって、あそこは三ツ辻になっていたそうですよ」
なるほど、辻と言えばまぁ東洋でも西洋でも異界とのつながりが示唆される場所だが、確か三ツ辻は日本では
「日本ではそう言うところに碑やお墓を置くことが多くてですね、あそこは無縁仏を祀っているお墓があったそうでして、そこを区画整理で一本道にして、道だったところに狭い家を建ててお墓も潰しちゃったもので霊が怒って、という、設定です」
「設定?」
「はい。実際には霊道というか、地脈的に少し不安定ではありますが別段過去に墓があった話もなければ、辻であった資料もなく、ただの一本の田舎道だったそうですね」
淡々と世間話のように伝聞系で伝えているが、彼らがあえて口にしているのだから、しっかりと調査した上の事だろう。
「存在しない噂話、作られた怪異と言う事かい?いや、今回の事を考えれば、作ったものがいる、と言う事かい、何とも悪趣味だねぇ」
「ネットミームなどを利用して作られた都市伝説を、例のCMで補強したもののようですね、ですが、
彼らはこの手の理不尽の対応をそれなりに知っている、ゆえに、どちらかと言えばその動きは消極的だ、触らぬ神に祟りなし。
主な仕事は隔離や情報操作、被害者を最低限に抑える事で、ゲームの様にモンスターを倒すことではないし、倒せる相手ばかりでもない。
その代わり、触らなくてはならないのなら徹底的に。
「で、その気になるお客さんの事はどうなさるおつもりで?」
「酷い話だけどねぇ、まだ誰も死んでいない、酷い目にあっているけど彼らはまだ前を向こうとしている。それは素晴らしいことだけど。
その代わり恨みもこもっていない、晴らせぬ恨みを晴らすのが仕事人って言うけれど、その恨みがなきゃ動きようがないだろうねぇ」
そう答えればあちらはあからさまにほっとした顔をする、被害がないのが何よりという建前だが、こちらが動いて怪力乱神を振りまくのも同じくらい、あるいはそれ以上にあちらにとっては望ましくないことなのだろう。
とはいえ、それを知ってもなお、分かっているのに何もしないで彼らが死ぬのを待つのは業腹だ、怪異としてではなく、反骨心で自分の首を絞めて死ぬことになった、
「もう一つ知ってたら教えとくれ、あの家族で、
「さて、噂話ではそこまでは、ただ、例のCMが流れてから、
そうか、それなら何とかなるかもしれない。
「ありがとう、それなら知り合いに聞いたら、何かうまくいくかもしれないよ。
また今度来ておくれ、今の時期は春の山菜が美味いんだ、日本酒でもよし、白飯でもよし」
そういって立ち上がる、いや本当に感謝だ。すでに陰からは彼が現れようとしているのが知覚出来る、こらちょっと早いよ、先生は人の話を聞かずに突っ走るんだから。
「あ、はい、じゃぁ上の方にも話は通しておきますね」
慌ててまた電話を掛けるおっさんをしり目に、こちらはもう一度例の家に向かう、今度は先生を連れて。
~~~~~~~~~仕事の依頼~~~~~~~~~~
五合の奥にある個室、いつもの依頼部屋、営業中は間接照明で照らされているが、今は明かり一つなく、微かな輪郭しか映らない。
「それで、依頼は取れたのか」
暗い目に怒りを滲ませた坊主頭が、蝋燭を木箱の上に立てて、揺らめく蝋燭の火の向こうからこちらを睨め付ける。
家族を愛し、家族のために鬼となり、鬼となったがゆえに妻を失った男だ、家族の幸福を踏みにじるものは許せないのだろう、これで取れなかったと言ったら、たとえ頼み料が無くても飛び出していきそうだ。
まぁ、それは
「とれたよ、額が少ないのは勘弁しておくれ」
チャリチャリと、巾着を逆さにして一分銀や一朱銀はては一文銭(寛永通宝)まで混ざった、いわば小銭を、袋を振って最後の一枚までちゃぶ台の上に開けていく。
等分すれば、一人あたり1分あるかないかだから、円にして数万~10万円くらいか?その程度で、普段の頼み料がおよそ二両だからそれと比べるなら一割弱だろう。
「あそこではすでに4組の家族が変死を遂げている、金はみんな借金とその返済に持っていかれていたがね、遺品の中にあった時計や結婚指輪を出してもらってきたよ」
不景気だし、金になるようなのは奪われていてね、このくらいにしかならなかったがね、と返す。
死ぬ人間からの依頼ならともかく、死者から依頼を受けることは本来シリーズでもそうある事ではないが、先生が死者の声を聴くことで、変則的だがすでに死んでいった被害者たちから依頼を受けることが出来た、本来死ぬはずだったであろう家族が死ぬ前に依頼を受けることが出来たのは、自分自身の
「ちぇ、しけてんな」
そうぼやくのは安定の中村主水、初期のリアリストというか、シビアだった頃の彼を思わせる。
「嫌なら受けなきゃいい、俺がやる」
「受けねぇたぁ言ってねぇよ、最近はかかあが目刺しばっかり出してくるからな、たまにはカツオのタタキくらい食わせてもらわねぇとな」
そんなどこかで聞いたようなやり取りに内心ニヤリと笑いたくなるが、生憎この程度では私の表情筋が動かないのはいつものことだ。
「怖いですね、呪われた物を買わせて喜んでいるんでしょう?それもいらないのに欲しくなっちゃうなんて」
「あんた買うほどのお金持ってないでしょう、頼み料だってみんな研究に使っちゃって」
そう言っている凸凹コンビは西順之助と加代のコンビ、今回はエレキテルではなく投石器でのモブ排除が必要だからだろう、いやでもあんな石を頭にぶつけられて倒れるだけで生きてるってのもすごいけどな、それなりの割合が実は死んでいたとかそういう事にもなりそうなんだが、まぁ命中精度や何で一発で気絶するのかやその他諸々含めアレはそういうものとしてみた方がいいだろう。
他の面子だってなぜあんな技が出来るのかってのはほぼ全員だしなぁ。
「頼み人はかつてあの土地で笑いものにするために嬲り殺された家族たち、相手は、
認識を誤認させる呪詛をCMを通して送る怪異、自称元力士の安芸ノ山 これは先生がもう動いているよ。
(カットインで朝日に向けて印を組む先生)
その怪異を手を組んで事故物件を売りさばいている会長の相良とその部下革島
そしてこいつらによって人工的に作られた怪異、三ツ辻
どうする、受けるかい?」
「
最初に左門が一朱銀を何枚か手に取る。
「相手は
加代が手を出し、ほいよと順之助にも手渡す。
「おいちゃんと残しとけよ」
主水が残った小銭を大切そうに拾い集めて持っていく、金に五月蠅く文句を言う割にこういう時最後に残った小銭で済ませようとするのは、彼の優しさなのだろうか、自分の能力ながらよくわからない。
「元締めは?」
「あたしの頼み料は、あとからくるのさ」
そう肩をすくめると、ま、取り分が増える分には良いかとでも言いそうな顔で消えていく。
それを見届けて、蝋燭を指でつまんで消すと、部屋は闇に消えて暗転する。
~~~~~~~~~トランペットは高らかに、の前に~~~~~~~~
オルガンの音色と
『苦しい』
『終の棲家だったのに』
『あの家族が、俺達みたいになる前に』
その現実とも幻聴ともつかぬ声とともに、
曲が彼らのテーマ曲アレンジのアップテンポなものに変わっていく。
~~~~~~~~~駅前~~~~~~~~~
安芸ノ山、元力士、小兵ながらも丸っこい体格で芸人として人気、という設定は、こんなところで珍妙な行動をとっても、認識阻害と相まって誰もそれを異常と認識できない、頑張ってと声をかける者すらいるくらいだ。
なんとも過ごしやすくなったものだ、かつてはただの悪徳商人や地上げ屋の怪異として存在していたが、うさん臭い外見は警戒を呼び、コミュニティに居ない存在は排斥されてなかなかうまくいかなかった。
それが今や逆にCMに顔を出すことで能力を増し、近所づきあいもかつてよりはずっと減り、異物が街に居ても誰も気にしない、人間の方が自分より異常な外見の事すらあるし、それさえも街中で誰にも文句を言われるでもない。
この間の一家ももうすぐだろう、ずいぶんの値の張るだろうお札をどこからか手に入れてきていたようで、多少粘ってはいるが、なぁに、粘れば粘るだけCMのネタが出来るというものだ。
「…賃貸だけが選択肢ではないんです!都心で駅近で夢の一戸建てという選択肢があなたにも!」
そうカメラの前で言ったところで、カメラが倒れていることに気が付く。
「ん?誰だ倒したのは、お~いAD!何やって」
そう声を張り上げたところで言葉が止まる、止めざるを得ない。
その喉に木の杭が付き立っていては声など出せようはずもない。
目だけで上を向けば、そこにはぼろぼろの布切れに書かれた梵字、意味は分からないが、それが怪異にとって致命的な陽の気に満ちた、太陽そのもののような何か。
「・・!…・・!?・・・・・・っ!」
声を出せぬまま倒れ、そのまま消えていく彼の目にはもはや何も映らず、ただ、靴音とは異なる駆けてゆく足音だけが最後に聞こえていた。
その倒れた姿にも、現代の人々は誰も目にも留めずに歩いていく。
~~~~~~~~~改めてトランペットは高らかに~~~~~~~~
日本人なら誰もが知っている、あのトランペットが高らかに、それでいて哀切を帯びた音色で鳴り響く。
もっともそれは周囲の人々の耳を振るわせることはない、
深夜とはいえ街燈も人の姿もあるだろう街の中であるのに、その金管楽器であるのに和のテイストに溢れた音に、誰も出てくる気配はない。
なぜか人っ子一人いない道を、一人、一人と、5人の仕事人が現れては進みだす。
二人は脇にそれて準備を、一人はこぶしを握り締めて駆け出し、一人は飄々と歩きだし、そして私はカツカツとけん玉を手遊びながら。
~~~~~~~~~繁華街~~~~~~~~
狭い歩道に隙間なく並ぶのは10人近い不動産屋のジャケットを着た人々、通勤で疲れた人々も主婦もお構いなしに声をかけている、一人を避けても次が、断ってもまたそのその次がと、何やら異様な、宗教の何かと思わせるその姿は、しかし会長の命らしくこのチェーンでは常態だ。
彼ら自身もおそらくは残業で出ているのだろう、隠しきれない疲れと機械的な動きと張り付けたような笑みは、新興宗教的な気配を助長しているようにも見える。
ゴ
小さな音がしたが、それに目を止める者は誰もいない、ただ、端に居た女性がビラを取り落としてそのまま崩れ落ちる。
ゴ、ゴ、ゴ、
次々と倒れ行くのにやっと一人が気が付き、
「あ、おい」
と、鈍る頭で声を掛けようとしたところで、路地の影から肩に機械仕掛けの投石機をかついだ少年に気が付くが、その時には最後の一投が彼の額に直撃して、彼も60時間ぶりの睡眠をとることになった。
「何やってんだお前ら!」
残った革島がそう言って倒れた男たちを蹴り飛ばそうとして思いとどまる、良心ではない、このような場所でそんな事をすればどこで撮られて炎上するか分からないからだ。
それを気にしないのは安芸ノ山のような
「チッ、おい起きろ」
そう言って端に倒れた男に近づく革島の後ろから、太い腕が伸び、彼の口を塞いで路地裏に引きずり込む。
あがこうとするも、素早く両肩を外されて動けなくされ、ゴミの入ったコンテナに押し付けられると、その腰に当てられる親指の感触。
ブッ
畷左門の親指に巻いた糸が指圧の力とともに引きちぎれ、そこで腰骨が外されるのだろう、そのままキャメルクラッチの様に顎を抱えて革島をのけぞらせれば、その頭は限界を超えて足のところまで折りたたまれ、さすがにそこで息絶える。
腰骨外し、按摩でもないおでん屋の彼がなぜこの技を選んだのかは諸説ありはっきりしていない。
~~~~~~~~~事務所~~~~~~~~
不動産業を営んでいれば、外れともいえる事故物件に出会うことはままある。
それを通じて、この世にオカルトじみたものがあること自体は知っていた、が、だからどうだというのだ、売れば金に成る、金に成ったのならそのあと彼らがそうなろうと知ったことではない。
それは別段オカルトだろうが地盤沈下だろうが、紹介した工務店が手抜き工事をしたという事だろうが同じことだ、すべてこちらとは無関係だ、炎上が面倒だから担当に哀悼の意ぐらいは言わせてもいいが、責任は持つなと厳命している。
怪異だと自称する男についても、それが利益になるのなら迷わず使う、むしろずいぶんと買い得であったと思う、もちろんそんな男に信用はしない、いついなくなってもいいように、あるいは何かあったらすぐに尻尾切りが出来るように、それは経営者としての当然の判断だ。
こちらは不良債権を適正な価格で販売できる、あちらはそれを表に出させない、事件にさせない、そして家族の苦しみという一文にもならないもので喜んで働くのだから、上手い取引だ、事件になる事がないのなら違法ですらない、バレていないのだから。
「ごめんください」
ふらりと紋付二本差しの男が入ってきたのはその時だ。一瞬この部屋にどうやって入って来たのかと疑問に思ったが、そんな些細な事よりは彼の対応が先だろう。
「おや、これは中村様、いかがなされましたか」
近所の八丁堀の中村主水だ、貧乏同心ではあるがお上はお上、丁寧に接するに越したことはない。
「こんな夜更けにすまねぇな。
いや、うちのかかぁがな、今の屋敷が繁華街から遠いってんで、もっと栄えてるところに家を移してぇって言うんだよ、それでこんな夜中に蹴り出されっちまってよ」
困り果てたとばかりに頭をかく、そういえば八丁堀の一家はあんななりでも随分と広い屋敷に住んでいたはず、それを下取りに出すという形なら随分な利益になるだろう、そう思いつくと張り付けた笑みも心からのものに変わる。
「それはそれは、かまいませんよ、いい物件が沢山ありますので、ささ、こちらへ」
そう背を向けたられに突き立てられる刀。
「いや、それはいいんだ、あんたんとこじゃ何売りつけられるか分かったもんじゃないからな」
そういって八丁堀は彼のスーツで刀の血をぬぐうとそのまま歩き去る、激痛にのたうち回りながらもしばらく命があったのは果たして幸運だったのか不幸だったのか。
「だ、だれ、か」
そう言いながらもがく彼の脳裏に最後に残ったのは、それまでの後悔でも恨みでも心残りでもなく。
「(はっちょうぼりって、なんで?)」
死ぬ間際に認識阻害がはがれたのか、そんな面白くもないツッコミであった。
~~~~~~~~~呪いの駅近一戸建て~~~~~~~~
「もしもしかめよ かめさんよ」
カン、コン、カン、コッ
古い(著作権の切れた)歌とともにけん玉を動かしながら歩く、もしかめ、などと言われる、けん玉遊びの一つだ。
仕事人のシリーズでこれを使っていたものはいなかったと思う、私の記憶も完璧ではないが、金属製のワイヤーと尖らせたけん先(けん玉を刺す所)を使うこれは、ある意味二次創作「闇狩人」は我竜京介の仕事道具だ。
「せかいのうちで おまえほど、っと」
コン、コン、と、本来は交互に皿に乗せるだけの技をアレンジして世界一周、例の家では、こんな夜中だというのに一人娘だろうまだ幼い娘が、狭い庭にギリギリはめ込まれたブランコから降りて、こちらを不思議そうに見つめている、しまったな、呼び出されたか家の中の方が危険だからと出されているのか、なんにせよ目撃者にはならないようにしないとな。
背後では、怪異らしき靄が彼女を襲うに襲えないでいる、それは少女の持っているお守りのおかげでもあり、目の前にいる
逆に怪異は無理矢理噂を束ねて作り出したニコイチサンコイチだからか、その形は定まっておらず、恐らく自我もないのであろう。
にこりと娘に微笑み、柵の隙間から左手を伸ばしてそのほほを撫でてやる。
「ちょっと目をつぶってもらっていいかな?」
そういって疑問も
「あゆみの のろいものはない どうしてそんなに のろいのか」
首を絞められれば窒息して死ぬ、それは世界の理だ、だから、そいつも死ぬ。
もしかしたら群体生物的な集まりなのかもしれないし、首を斬られても死なない飛頭蛮のような怪異かもしれない、しかし、私に首を絞められれば死ぬ、それは逃れられない死だ。
「もういいよ」
怪異が消えたのを確認してからそう言うと、目を開けた娘はその手に木製の(ワイヤーなどのない普通の)けん玉があることに驚いたような声を上げる。
「ちょっと練習して、パパとママをびっくりさせてあげようか」
そういって微笑みかけた私に、理解が追い付いていないのかこくこくとその娘は首を上下に振っていた。
~~~~~~小料理屋 五合~~~~~~
珍しく開店している店内、本日のおすすめはあの時と同じ春の山菜の天ぷら盛り合わせ。
居酒屋としては珍しい全席禁煙も、そもそもほとんど閉店で開いていることの方が珍しい事も、女将が自分のような幼女であることも、気にする人間はここにはいない、そもそも人間がほとんどいない。
見渡せば錚々たる面子だ。黒服で背の高い、しかしメガネの気弱そうな少年は雪籐、ブラックエンジェルズか、その向かいの青年は背中に漫画用の物差しを隠している、闇狩人の間武士だ、どちらもこちらが認識したから登場できたのだろう。鳥類悲願始末人の河内と白市の二人もいる、さすがに小鳥さんはいないが。
職業殺し屋なんかも私の中に居るんだろうか、あれは少し違う気がするが。
いつもの八丁堀にかんざし屋におぎんに若にといった面子もいる、おかげで満席だ。
先生だけは奥の座敷で一人食事中、まぁ生の山菜だが。
不動産屋と示談が成立しましてね。
そういったのはあの時の草臥れたサラリーマン、いや、今はくたびれてはいないな、ずいぶん生気が感じられるようになった。
引っ越しも考えたが、さすがにそこまでの余裕はないからそのまま住むことになるらしい、まぁ、悪い噂はもうないから、そちらで苦労することはないだろう、本人はお祓いが効いたと言っているが、まぁそれでいい、結果的には事故物件を黙って売りつけた事だけが問題になって、その後のサポートがない事や怪異を押し付けた事は話題になっていないようだ、まぁ仮に話題にしたとしてもどうやって証明するかになるのだが。
さて、その姿が見えたことが、ある意味一番の報酬だが、一応恨みのこもった金ももらわないといけない、今回はちゃんとその示談金から代金をいただくことになる。
隣には酔いつぶれた体を装って
いやいつぞや聞いた話では周りがやばすぎて生きた心地がしないとぼやいていたな、失敬な、ほぼ全員殺しのエキスパートだが、仕事でもないのに殺しはしないって。
なべて世はこともなし、たまにはこんな回があったっていいだろう?
最初は一家が死んでその恨みと頼み料で、という展開だったが、こっちの方がらしいかと思って修正。
あと妙に長くなってしまった、とはいえ前後編に分けるのも違うしなぁ。
全く関係ないですがとあるCMを見て、あれコメディに見せかけているけど事故物件を客に黙って売り付けて、金払わせてからあとは自分で何とかしろって言ってるとか普通に邪悪じゃね?と思わず突っ込んでいたんですが、なぜかそんな自分の犯罪を喧伝するようなCMが結構長期シリーズになっちゃってるんですよね…いや、なにがとは言いませんが(苦笑)
・坂口いくの名作、当時の現代を舞台とした仕事人モノ。後に何度か続編が作られる。
我竜京介
・闇狩人の美形枠、当時のこの手のアウトロー系キャラの定番(他には私立探偵など)であったトレジャーハンター、仕事道具はワイヤと鋭いけん先を持つけん玉。
間 武士
・闇狩人の主人公で漫画家志望の高校生、むっつりスケベ。
丸ペン(Gペンだったかも)のペン先での急所刺しやステンレス製の直線定規での斬撃を主に使う。
ブラックエンジェルズ
・漫画の吹き出しサイズの都合か、黒天使と書いてそう読ませることもあるが、一応カタカナが正式名称、初期は仕事人形式(頼み料は貰わないことが多い)だったが、後期は世紀末ポストアポカリプス超人バトルになっていった。これも続編やスピンオフが多い。
雪藤 洋士
・ブラックエンジェルズの主人公、冴えない(という割には高身長で美形)学生や自転車旅行者やアルバイトなどだが、許せぬ悪を討つ際には凶相となり、尖らせた自転車のスポークで相手の急所を刺し貫く。
・本家必殺シリーズで最強論争によく上がる「先生」に匹敵するチートで、神(少なくともそう自称し奇跡を行えるナニカ)殺しを行ったこともある、その際に自分も消滅しているが、続編では普通に登場しているし何なら
・決め台詞は「地獄へ落ちろ!!」だが「落ちろぉ~!!」だったり、「
・教会(いわゆるアジト)に居る小太りの青年、職業不明、教会のお手伝いか?初期にしか登場していないためか影が薄い。
・決め技は男性の急所を掴んで握り潰す「聞け、地獄の響きを!」
・死んだはずだが続編には普通に登場している。