俺の彼女が邪神だと電波巫女がのたまうんだが 作:納豆シェイク
街にある小さな喫茶店内。
人気の店であり、何時もであれば並ぶほどに人がい筈だが。
今日は偶々人が全くおらず、俺たちの貸し切り状態になっていた。
人形のように無表情の女性のウェイトレスさんにケーキセットを注文すれば。
まるで、最初から注文が分かっていたのかと思うほどの速度で提供された。
俺は彼女と共にケーキを堪能しようとし――大きく口を開けた。
「はい、あぁん」
「あぁぁぁん……んまぁぁい!」
「ふふ、あ、お口にクリームが……甘い、ですね」
「……! ほぉぉぉ!」
彼女に夢にまで見たあぁんをして貰い、剰え、口についたクリームを指で取ってもらった。
彼女は俺の口についていたそれを舌で舐めとって美味しそうに味わっていた。
それだけで俺の下半身に血が巡っていき、鼻息は荒くなっていく。
……いけるか!? いけるのか!! 今日、まだ交際し始めて数日で!!
俺はこの後の予定を考えて更に下半身のマグナムを膨らませた。
素敵な出会いに素敵なイベント。
予定を大幅に超えていけば、最高のイベントが待っている。
そうなれば人生の墓場まではあっという間で――
「一向に構わないッ!!」
「ん?」
「あ、いえ! た、楽しいなぁ。ぐへへ」
「ふふ、私もとても楽しいです。今すぐに――死んでもいいほどに」
「え?」
「ふふふ」
彼女は笑う。
が、その瞳には光が無い。
宝石のような瞳は鮮血のように赤々していた。
それに背筋をぞくぞくとさせて――誰かが入って来た。
「あんれぇ? 誰もいないじゃん! ラッキー!」
「やっくぅぅん! 本当に今日は奢ってくれんのぉ?」
「おぉマジマジ! スロットで勝ちまくったから好きなもん食っていいぜぇ!」
「やったぁ!! 超サイコー! やっくん大好きぃ!」
カップルだ。
それも頭の悪そうなヤンキーカップルで。
絡まれたら面倒そうだと俺たちは静かに食べようとし――
「あ、客いるじゃん……ぷ、彼氏の方? ダサすぎでしょ。ジャージって」
「ちょ言ってやんなよぉ。ガキなんだし、オシャレなんて出来ねんだろぉ……にしても、ジャージって、ふぷ」
席は他にも空いているのに、態々、隣の方に座ったカップル。
聞こえるほどの声量で俺のファッションを馬鹿にしてくる。
が、反論する事は出来ない。
デートはデートでも、急なデートで。
完全に油断して全身青のジャージ姿だ。
これでは馬鹿にされるのも当然で、俺は申し訳ないと撫子さんを見つめて――凍り付く。
「……」
無表情。
笑っておらず、眼から完全に光が消えていた。
怒っている。俺はそう感じて、頭を下げた。
「……何か、ごめん。デートの時はもっとマシな服を着るんだけど……次からは気を付けるから」
「……ぷ、ださ」
「次なんてねぇだろ。ふふ」
また笑われた。
俺は少し恥ずかしくなって頬を掻く。
すると、撫子さんは小さく笑った。
「……いえ、私は恭介さんがいてくれるのなら、どんな装いでも大好きですよ」
「な、撫子さん!」
俺は彼女の気づかいに瞳を潤ませる。
優しい。優し過ぎる。
こんな子に対して邪神なんて言ってたあの電波巫女はやはり頭がおかしい。
俺はそんな事を考えながらも、横から感じる嫌な視線に悲しくなる。
その気持ちは彼女に対する申し訳なさだけで――ばたりと何かが倒れる音がした。
「え?」
視線を横に向ける。
すると、先ほどまで元気そうだった男が――腹を抑えてうめき声をあげていた。
「や、やっくん!? どうして――あ、ぐぅ!?」
「は、腹が、いでぇぇ、あ、頭もうぐぎぃぃぃぃ!!?」
「げほ! えは! ひ、ひぃ。あ、ぐぁあ」
ヤンキーカップルが床に倒れ込んだ。
見れば男の方は頭と腹を抑えて顔面蒼白で。
女の方は血を吐いて白目を剥いていた。
俺はハッとして、すぐに二人の元へ駆け寄った。
肩を叩きながら、二人に対して意識の確認をする。
「大丈夫ですか! 聞こえますかぁ!? 撫子さんすぐに救急車を!!」
「……いいんですか?」
「え!? いいんですかって何が――いや、早く救急車を!!」
俺は必死だった。
嫌な事を言われた相手でも、生き死にが掛かっているのだ。
死なれたら寝覚めが悪い。
だからこそ、死ぬなと願いながら出来る事をしようとした。
撫子さんは俺の事を見つめたままで……頷いたような気がした。
「……分かりました」
彼女はスマホを取り出し連絡を始める。
二人を見れば意識を完全に失っていてうめき声しか発さない。
口からは泡が出て来ていて、気道を確保するので精いっぱいだ。
俺は学校での授業で学んだ回復体位を二人にしておいた。
これでいいのかと思っていれば、虚ろな表情の店主が出て来た。
「どうか、されましたか?」
「え、いや見れば――あ、救急車!」
救急車のサイレンの音が聞こえて来た。
どうやら近くにいたようだ。
が、若干、音が不協和音に聞こえる。
耳の不調かと思っていれば、救急車が止まり扉を開けて病的なまでに白い肌の救急隊員たちが入って来た。
「あ、この二人です! 急に倒れて、意識が」
「ありがとうございます。後は任せてください」
「え、あ、はい……あれ、そのまま、運んで……?」
隊員たちは持ってきた担架に二人を乱暴に乗せる。
そうして、その場で状態を確かめる事も無く運び去ってしまう。
こんなにあっさりで終わるのかと戸惑っていれば、ウェイトレスさんが床の血などを雑巾で拭き始めていた。
「お騒がせしました。今日の支払いは無料で結構です」
「え、い、いや、別に俺は」
「無料で結構です。ごゆっくり」
「え、え? あ……な、何だったんだ?」
俺は一連の流れに不安を覚えた。
が、ちょいちょいと袖を引かれて視線を向ければ――撫子さんが微笑んでいた。
「ケーキ、食べますよね?」
「――はぁい!」
俺は秒でさきほどの事を忘れる。
そうして、椅子に座り直して彼女からの奉仕を受け入れた。
目にハイライトの無い美女からあぁんをされる。
喉が渇けば、コーヒーまで飲ませてくれた。
至福の時間であり、こんな時間が永遠に続けばいいと俺は思って――
「永遠ですよ」
「……え?」
今、何か言ったか。
そう思っていれば、フォークに刺したケーキが目の前に迫って来て――俺は口を開けてケーキを出迎えた。