俺の彼女が邪神だと電波巫女がのたまうんだが 作:納豆シェイク
私は怪異対策協会へと連絡を繋ぐ。
緊急の案件であり、他でもない幼馴染である恭介の命が掛かっているからだ。
電話はすぐに繋がって用件を伝えれば、すぐに上の人間が変わってくれた。
私が詳細な内容を伝えれば、担当者は深刻な息遣いで事の重大さを表していた。
《……間違いなく、相手は……邪神、なのか?》
「はい。怪異に対する強制帰還が通じませんでした。いえ、そもそも術そのものが無効化されました……恐らくは、神仏の類。それも、かなり力のある存在……穢れや瘴気を纏っていたので、十中八九が邪神だと思います」
《……であれば、我々としては見過ごす事は到底できない。そのエリアで最も優秀である君が対処できないのであれば……最悪、御三家の力を借りる事になるが……君の見解を聞かせてくれ。その邪神は現時点で周囲に害を及ぼす可能性はあるか?》
「……分かりません。ですが、私の幼馴染に強い関心を持っています。恐らく、アイツが選択を誤らない限りはいますぐに何かをする事は無いように思えます……あくまで、私が思った事ですので、信ぴょう性は無いものと思って下さい」
《……であれば、暫くは偽りの交際を続けさせることが》
「――ダメよ!!! あ、す、すみません……交際を続けさせる事は危険です。アイツは……そう! とても下品なので! 恐らく、邪神の逆鱗に触れる可能性が!」
《……?》
私は必死に解決策を提示する。
恭介への興味をなくさせたり、向こうから別れ話を出させればいいと。
そうすれば、邪神は現世に留まる必要が無くなり神界へと帰還する筈だと。
もしも、それでも現世に留まるようであれば、神仏への接し方を学んだ神職者を一時的に宛がう方法もあると。
《簡単に言うが……出来ると思うかね?》
「やってみせます。邪神は興味が無くなれば去っていくものです。何事も無く神界へと帰っていただけるのであればそれに越した事はないでしょう?」
《……ならば、君がしくじった場合を考えてこちらはセカンドプランを用意しておく。期限は一月だ。それまでに、頼んだぞ》
「はい、お任せを」
担当者はそれだけ言って電話を切る。
私は静かに受話器を置いて、息を吐く……さて、どうする。
顎に指を添えて考える。
邪神の興味を恭介からなくさせる方法。
手っ取り早い方法であれば、邪神を幻滅させるのが良いかもしれない。
が、もしも加減を間違えれば怒らせる可能性もある。
邪神とは気まぐれであり、気に入らないだけで世界を滅茶苦茶にもしてしまうほどだ。
現代の邪神であれば、世界そのものをどうこうするほどの力は無いだろうが。
それでも街一つであれば、崩壊させる事は出来るかもしれない。
「幻滅させるにしても、どうすれば……いや、簡単に出来るわね。胸と尻のデカい女で吊ればアイツは一瞬でボロを……いや、待って? そもそも、別にアイツ隠すような素振り無かったわよね?」
去り際でも大人の男になるなんて言っていた。
邪神ほどの存在がその言葉の意味を理解できない筈がない。
つまり、十中八九がホテルで一発ぶち込む事を想定した発言で――おかしい。
下心丸出しの発言なんて女からしたら即幻滅の言葉だ。
それを聞いても笑みを絶やさず剰えデートに誘っていたんだ。
つまり、アイツのオープンな下心は許容範囲内で……え、じゃ何で幻滅するのよ!?
意味が分からない。
下心がオッケーであれば、他に幻滅するポイントは何か。
私は必死になって頭を回す。
少なくとも、邪神にとって興味を引くポイントが必ずあった筈だ。
恭介の良い所を考えるのであれば……考えて……かんが……うーん?
「下心マシマシ、童貞、アホ、騙されやすくて、馬鹿で…………やさ、しい?」
優しさはあると思う。
少なくとも悪人ではない。
だとすれば、アイツの優しさが邪神の興味を引いたのか……あれ?
邪神とは呼んで字の如く邪悪なる神。
人の生を乱し、世を乱す存在だ。
そんな存在が恭介の優しさに興味を持つというのは……そうか!!
「アイツのなけなしの優しさを――試しているんだわ!!」
そう、それしかない。
中学の時の付き合いたくない男子ナンバーワンだったあの性欲猿。
エロ本漁りに、見境なしの告白魔。
女子と見れば鼻の下を伸ばしまくるエロ猿だ。
そんな奴の唯一の長所である優しさ。
それをあの邪神は試そうとしているに違いない。
アイツの狙いは恭介が悪人になる事だ。
唯一の長所を潰して真っ黒に染め上げる事。
つまり、恭介という存在の道を踏み外させて破滅させる事だ。
「何ていうことなの……だったら、もしも、あのままホテルなんかいけば……大変!!」
邪神は恭介を誘惑しホテルへと誘う。
そこで獣のように乱れまくって、翌日からあの猿は人が変わったようになってしまう。
例えるのなら、黄ばんだ紙に墨汁を一滴垂らすように。
全てを黒く染め上げて、そのままアイツは高校を中退し色黒なアニマルでゲテモノなビデオの男優に――
「私が読んだだ同人誌のような展開に!! 止めなくちゃ!!」
幻滅する方法を考えている暇はない。
今はとにかく、あの馬鹿が暴走するのを止めないといけない。
私は自室に戻って、お札やら神具などを取り出す。
それをバックに詰め込みながら、対邪神用の装備を――あぁ、ダメだ!
「足りない。こんなものじゃ……でも、時間が!」
私は焦る。
このままでは、あの馬鹿が救いようのない馬鹿に堕ちてしまう。
腐っても幼馴染であり、あんな奴でも助けられた事は何度もある。
異性として好きなんて気持ちは微塵も無くとも。
友達としては好きであり……恩返しくらいはさせてもらうわよ。
「邪神だろうと何だろうと……私のダチを、悪の道には堕とさせはしないわよ」
私は装備を整え終わる。
そうして、鉢巻きを巻いてから巫女服の袖を捲る。
傍に部屋に置いてあった薙刀を手に取り、私は友を救うために駆けだした。