俺の彼女が邪神だと電波巫女がのたまうんだが 作:納豆シェイク
平日の朝。
たらふく飯を食って、むさくるしいクラスメイト達に挨拶し。
担任の平凡なエピソードを聞いてからの魔の一限目。
体育の授業であり、死ぬほど面倒な持久走の時間だった。
「あぁだりぃなぁ。超だりぃよぉ。南無三だなぁ」
「全く同感ですね。何故、こんな気持ちの良い朝に1500メートル走などしなければならないのでしょうか。僕のデータには無いですよ、こんな事!」
「そのデータはどこのもんだよ……でも、だりぃのは同感だな」
寺生まれの自称スキンヘッドの大谷がぼやき。
続いて、自称軍師のおかっぱ眼鏡の池谷が謎のデータ無し発言をする。
馬鹿二人であり、俺の最低な悪友たちだ。
上は白で下が青い短パンの運動着に着替えてグラウンドに集合すれば、俺たち1組以外にも2組の奴らがいた。
俺の通う黒枝男子高等学校は、その名の通り男子校だ。
女など存在せず、そのほとんどが運動神経抜群の奴らで構成されていた。
が、中には突然変異かと疑うほどに才能の無い奴らもいる。
その筆頭が俺たちであり、脳筋野郎どもは自分たちの筋肉に話しかけながら舌なめずりをしていた……はぁ。
俺たちは俗にいう問題児で、中学の頃に馬鹿な事ばかりして此処へと島流しされた経緯を持つ。
大谷は煩悩を断ち切る為で、池谷はデータ収集と言う名の女子へのストーキング癖を治す為だ。
俺もそうであり、中学の時に担任の口車に乗せられて俺と両親はまんまと騙された。
『恭介には才能があります!! 何れ日本を背負って立つアスリートになるでしょう!!』
『まぁ!』
『えぇぇそうっすかねぇ? げへへ』
推薦という名の地獄への片道切符を貰い。
俺は逃れられないプリズンにて一生を終えるのだと覚悟していた……が、今はもう違う。
「ぐふ、ぐふふふ」
「……まぁた笑ってやがるよ。気持ちの悪い奴だなぁ。悪霊退散!」
「恐らく、例の妄想の彼女の事を考えているんでしょう。やれやれ、この手の病気に罹ったものは僕のデータでは99%将来性犯罪者になるのが決まっています。大谷君、やはり此処で彼を殺しておくことが友である僕たちの務めでは?」
「一理あるな。いい加減、こいつの妄想ののろけ話にもうざったくなってきたしよぉ――死ねやおらぁ!」
「うお!? 何しやがる!!」
「避けんじゃねぇよぉ。うひひひ」
俺が撫子さんの事を考えていれば、奴が近くに偶々落ちていたバールを手に取って振って来た。
俺が咄嗟に避ければ、奴は寺の人間とは思えないほどに邪悪な顔で笑っていた。
「なぁいい加減気づけよぉ。俺たちに彼女なんて出来る訳ねぇだろぉ? 俺たちはクズでゴミなんだよぉ。将来は三人で世界中の嬢に会いに行く約束したじゃねぇかぁ?」
「えぇそうです。桃の木の下で互いに兄弟の契りを交わしたんですよ」
「知らねぇ記憶を植え付けんじゃねぇよ!! 第一、俺にはもう美人の彼女がな」
「黙れぇぇ!!! てめぇみてぇな性欲魔人に彼女が出来る訳ねぇだろうがボケがぁ!!」
「君に彼女が出来る確率は――0%です」
「うるせぇぇぇ!!」
俺たちは互いに取っ組み合いの喧嘩を始める。
ハゲだの猿だの陰気メガネなど罵り合って――何者かに蹴り飛ばされた。
「「「ぎやぁぁ!?」」」
「このクズ共がァ!! また性懲りもなく騒ぎやがって!! そんなに元気がありまあってるならお前らだけ6000メートルにしてやってもいいんだぞ!!」
「「「ひ、ひぃぃ!!」」」
体育教師である全身毛むくじゃらのゴリラが現れた。
手には昭和かと思ってしまうような木刀を携帯し。
顔面は鬼かと思うほどに険しい。
パツパツの真っ赤なジャージ姿で、本名は忘れたが俺たちは憎しみを込めてゴリ男と呼んでいた。
奴が木刀を地面に打ち付けて俺たちを威嚇していれば、何処からともなく爽やかな笑い声が聞こえて来た。
見ればスタイル抜群細マッチョの金髪碧眼の
「ははは、植松先生。そんなに怒らないであげてください。彼らは何も授業を妨害しようとなんて思っていませんから」
「む。沢村か。だがな、こいつらは何時まで立っても規律というものが」
「まぁまぁ、彼らは新入生なんです。まだこの学校の空気に馴染めていないんですよ。ね?」
奴はウィンクし、俺たちを庇ったかのような空気を醸し出す。
こいつの事は入学前から知っていた。
テレビ番組にも出るほどに有名な陸上選手で。
中学生でありながら将来はオリンピックに出場するのは確実とまで言われていた。
こいつの凄まじい才能は、陸上の競技であれば全てに適性を持っている事だ。
短距離も長距離も、砲丸投げも棒高跳びも何でも出来てしまう。
誰が言ったかスーパーアスリートであり、俺たちに無いものを全て持っていやがった……けっ!
俺はすこぶる悪い顔を作りながら、奴に人差し指を向けた。
「いや、テメェも新入生だろうが」
「「ぷっ」」
「おい!! 沢村が庇ってくれたというのに貴様らぁ!」
「ふふ、良いんですよ。これは一本取られちゃったなぁ……まぁ兎に角! 騒ぐのはほどほどに、女の子たちも見てるし、ね?」
「「「あぁん?」」」
奴の女の子という言葉に秒で
すると、白鴎の白を基調とした制服を着るお嬢様たちが柵越しに此方を見ていた。
「おいおいマジかよ!? 何でいるのぉ!?」
「ぼぼぼぼ僕のデータには無いぃぃぃぃ!!!」
「ふふ、覚えてない? ほら、今朝、校長先生が言ってたでしょ? これから暫く、白鴎の方々が僕たちが運動している風景を見学しに来るって! ほら、僕たち次世代のアスリートだからさ。彼女たちもバレエとか新体操とかしてるし、体の動かし方とかで何か参考になるんじゃないかって……実は入学前に、僕から校長先生に提案してみたんだ」
「「さ、沢村きゅん!!」」
「……ふ、ふぅん。ま、まぁ? べ、別に見られたって? やる事はぁ……ぁ」
俺は頭の後ろに両手を回して全然気にしてない風を装うとした。
今の俺には彼女がいるからこそ、他の女にアピールする必要はない。
そう思って――彼女を見つけた。
「――」
「あ、あ、あぁ、め、女神?」
「「んー? おぉ!! ヴィーナス!」」
一番よく見える最前列。
中心にて微笑みながら手を振って来た女神様。
他の女子生徒が霞んで見えるほどの美貌の持ち主は――我が最愛の人である戦場撫子さんだった。
両隣の獣たちも彼女を見つけてだらだらと涎を垂らす。
俺は馬鹿二人の頭を高速で叩き落として意識を落とした。
「……! え、今、え?」
「先生! こいつら体調が悪いみたいです! 保健室に連れて行ってあげてください!」
「む? そうか。吉田先生、こいつらを保健室に連れて行ってくれますか?」
「あ、はいぃ」
「……何時からいたんだ?」
ひょろりとして肌が異様に白い眼鏡の吉田。
常時ステルス迷彩であり、発見できるのは一部の教師のみ。
吉田は二人の足を掴んで、ずるずると引きずっていった……ま、いっか。
これで邪魔者はいなくなったと安堵し、再び女神の方に目を向けた。
すると、やはり彼女は俺だけを見つめて微笑んでくれていた。
「はぁはぁはぁはぁはぁ!」
「い、犬みたいになってるよ? だ、大丈夫?」
「気にするな。何時もの事だ。それよりも! 時間がおしている! 今からグループを作って、順番に1500を走ってもらう! スタートは赤いコーンが立ったそこだ! ゴールは三周して、あの黄色いコーンから引かれた線までだ! 分かったな!」
「「「ウッス!!」」」
体育会系は呑み込みが早い。
俺が関心していれば、沢村が一緒のグループで走ろうと誘って来る。
俺は面倒だと思いながらも了承する。
「それでは沢村たちは走る準備をしろ! 準備運動は入念にな!」
「へいへい。はぁぁ」
「ふふ、頑張ろうね! 天草君!」
奴は白い歯を輝かせて笑う。
瞬間、遠くから見ていた白鴎の女子生徒たちが黄色い歓声をあげていた。
沢村の奴は自分への声援だと気づいて手を振っていやがる。
それを受けて、女子生徒たちはまるでアイドルのコンサートばりに手を振っていた……憎い。
「俺だって、俺だってぇ……ん?」
女神様の声援を受けようと視線を向ける。
すると、女神様がゆっくりと口を動かし始めて――
「が・ん・ば・つ・て……がん、ばって……あぁぁ」
愛しのスィートハニーからの愛の声援。
それを受けた瞬間――俺の心臓が強く鼓動した。
ドク、ドク、ドクと強く鼓動する。
全身の血が激しく駆け巡り筋肉が力を奮い立たせていった。
かつてないほどの熱であり、眠気が吹き飛び意識が覚醒していく。
俺の全身の筋肉がお休みモードから戦闘モードへ変わっていくのが自分自身で分かった。
俺は靴を脱ぎ、靴下を脱ぎ捨てる。
そうして、上着すらも脱ぎ捨てて白シャツと短パン一枚になる。
女子生徒が事件的な悲鳴をあげているが無視。
俺は無言でスタートラインに立った。
「……天草君?」
「恭介? 何故、靴を」
「――やりましょうや。今、此処で」
俺は軽くジャンプをし手をぶらぶらとさせて首を捻る。
マジモードであり、俺の熱意を受けて二人はごくりと喉を鳴らしていた。
「……! あ、あぁ、お、お前たち! スタートをするぞ! 並べ!」
ゴリ男の言葉で全員が並ぶ。
俺はクラウチングスタートの体勢に入る。
ゴリ男が喉を鳴らし、腕を高く上げてスターターピストルを構えて――音が鳴り響く。
「「「……!!」」」
俺は一気に駆けだす。
ペース配分もクソも無い全力だ。
のろま共を置き去りにし、俺は風となってグラウンドを駆ける。
「――! これは!?」
「はや!?」
「……!」
あっという間に一周を終える。
そのままのペースで二周目に突入。
速度を緩めるどころか、更に速度を上げる。
そうして、そのままのろま共を追い越して三周目に入る。
女子生徒たちの視線を感じる。
野郎どもからの視線もだ――関係ない。
今、この俺の走りを見ていて欲しい人間はただ一人。
彼女の為に俺は走る。
全力全快であり、最高に格好の良い彼氏の姿を目に焼き付けて欲しい。
俺は彼女への想いと下半身の願いを込めて大地を踏みしめた。
「……!」
あと少しで、ゴールに届く――が、変化が起きた。
体が急に鉛のように重くなる。
まるで、全身に鎧でも装着したかのようで。
スピードが極端に遅くなりそうになる。
ダメだ。このままじゃ、トップどころか最下位になる。
歯を食いしばり力を込める。
が、筋肉が応えてくれない。
迫って来る。追い抜いた野郎どもから向かって来ている。
もうダメか、これで終いか――女神の視線を感じた。
「――」
「……! ぁあ」
見れば、彼女は熱い視線で俺を見つめていた。
愛情の籠った眼差しで、俺を信じて疑わぬ視線で――瞬間、俺を縛る枷が解き放たれる。
「――ッ!!」
俺は限界を超えて足を動かす。
スピードは再び戻り、そのまま俺は全速力で駆ける。
ラストスパートであり、全てを出し切る踏み込みで――ゴールを切った。
「――ふぅぅぅ!」
一気に息を吐けば、全身から滝のように汗が出る。
そうして、全身が急激に重くなり足が生まれたての小鹿のように震え始めた。
俺がその場で立っていれば、遅れてゴールを切った者がいた。
見れば汗びしゃの沢村で――奴が真っ赤な顔で微笑む。
「凄い。凄いよ。あ、天草、君。いや、きょ、恭介君……君は、僕なんかよりも、ずっと」
「……え、あ、うん」
「――恭介ッ!!!」
「うぉぉ!!?」
沢村が何かを言おうとすれば、ゴリ男がダッシュで駆けよって来た。
そうして、俺を両腕で抱きしめて来る――ひぃぃ!!
「素晴らしい!! 素晴らしい走りだったぞ!! 世界記録だ!! お前の走りは世界記録を超えていた!!」
「嘘だろ?」
「マジ?」
「す、すげぇ」
「……! まさかとは思ったけど……凄いよ恭介君!」
「え、あ、あぁ、はは……そ、それよりも!」
俺は女性陣の方に視線を向ける。
が、全く歓声は上がっていない。
それどころかドン引きしているような視線を俺に向けていた……え?
「お前こそ日本の宝だァ!!! 共に世界を目指そう!! 陸上部への入部届けはここにある!!」
「一緒に頑張ろう!! ね、ね!! 恭介君!! 君とならきっと僕ももっと成長できると思えるんだ!!」
「え、え、あ、いや、は? 無理無理! 絶対に嫌だから!! 俺は野郎たちと切磋琢磨なんかしたかねぇんだよ!! てか離れろや!! 俺にそっちの気はねぇんだよ!!」
「嫌がるな!! 今すぐにこの俺自らがお前にマッサージを施してやる!! 安心しろ!! 極楽を味合わせてやろう!!」
「僕のプロテインも飲んでいいからね!! 恭介君!!」
「テメェらの好感度なんかいらねぇんだよぉぉぉボケがぁぁぁぁ!!!!」
野郎どもに体をべたべたと触られながらも。
女神様の方に視線を向ければ――少し不機嫌そうな顔をしていた。
何で怒っているのか。
何でちょっと不服そうなのか。
それを考えて、俺はすぐに気づく……やきもち?
この俺に対して、撫子さんがやきもちを焼いている。
その事を感じ取って、俺の顔が緩むのが分かった。
「えへ、えへへへへ、ぐへへへへ、そ、そんなぁぁぁ」
「……気持ちの悪い顔をするな!!」
「きょ、恭介君? きゅ、急にどうしたの? 頭が痛いの?」
「うるせぇぇよぉぉ馬鹿野郎がぁぁぁぐへへへ」
この後の展開はきっと嫉妬した彼女から意地悪をされるのか。
そして、俺が誠心誠意謝ってからの甘々タイムで。
俺はそれを想像しただけで頭に血がののっていき――鼻からぶしゅりと血が噴き出した。
「きょ、恭介君!?」
「い、いかん!! 誰か!! 保険医を呼んできてくれ!!」
「ふひ、ふへへへ、おっぱいが、おっぱいが目の前に、ふへへへ」
桃源郷が見える。
俺は川の向こうで手を振る爺ちゃんに手を振り返して――