俺の彼女が邪神だと電波巫女がのたまうんだが 作:納豆シェイク
「……はぁぁ」
「ちょっと何よそのため息? こっちはね、アンタの為を思って……遅いわよ!」
「へいへい」
先頭を歩くアホ巫女の御子子。
巫女服であり、大きなリュックを背負っていた。
俺も荷物を背負わされて、山道を登らされている。
何で、アホの手伝いをしなくちゃならないのか。
何度も頭の中で文句を言うが、こいつには数え切れないほどの借りがある。
金であり、恩であり、様々な借りだ。
無視していたら永遠に文句を言ってくるからこそ、仕方なく付き合う他ない。
だけど、まさか自分の仕事の手伝いをさせるなんて思わなかった……何だよこの荷物?
「なぁ、このくそ重い荷物は……御子子?」
「……山神の眷属なら、きっとあの邪神の邪気を弱める事も……粗相さえしなければ、いや、でも……」
「山神? まぁた電波になってやがる。スピるのも大概にしてくれよなぁ」
俺はぼやきながらも奴についていく。
長く険しい山道を歩き続けた。
歩いて、歩いて、歩いて………何かの建物が見えて来た。
「あぁ? んだありゃ? 洋館かぁ?」
「……嘘。場所はあってるのに、神社じゃなくて洋館なんて……恭介、注意して――ちょ!?」
「すんませぇん! トイレ貸してくださぁい! もしもぉし!」
俺は御子子を追い抜き、立派な洋館の扉をドンドンと叩く。
こんな立派な建物ならトイレくらいあるだろう。
そういう気持ちでノックすれば、御子子が何かを言おうとし――静かになる。
「うぁ? あれ? いねぇ……我慢できずにのぐそにいったのか? たく、下品な女だぜ」
「――どうぞぉぉ」
「え? 開いた? お邪魔しまーす」
しわがれた老婆の声が響く。
そうして、扉が独りでに開いていった。
俺は一応は断りを入れてから中へと入る。
中へと入れば、中も立派な作りだった。
高そうな壺や絵画が飾られていて、二階へと続く木の階段に扉が幾つもある。
「……いねぇな。すんませぇん! トイレどこですかぁ? おーい……自分で探すか」
「――どうぞぉぉ」
「どうぞぉぉって……ん? え、受付……本かぁ?」
謎の老婆の声がまたしても聞こえた。
すると、ホテルの受付のようなものがあるのが分かった。
さっきは何も無かったように思えたが、恐らくは気のせいだろう。
おまけにデカくて不気味な装丁の本が置かれていた。
近づいてみれば、まるで人の肌のような色をした本だ。
ところどころ赤黒いシミがついていて産毛のようなものも見えた。
不気味であるが、何故か、俺自身の心が読めと囁いているように感じる。
読まなければいけない、そんな衝動すら覚えて――
「いや、ウンコしてぇや」
「――どうぞぉぉぉぉぉ」
老婆がまた何かを言ったが無視。
俺はトイレへと行く為に、適当に近くにあった扉を開けた。
すると、真っすぐに廊下が続いていて奥が不自然に暗く感じた。
冷たい風が流れていて、妙に心臓が鼓動するような感覚を覚える。
「……あっちかぁ?」
俺はどうでもいいと廊下を歩いていく。
奥へ奥へと歩いて行けば、風に混じって不気味な鳴き声のようなものが聞こえてくる。
心臓をざわつかせる音であり、俺は足を止めてから引き返そうとして……あれ?
「……見えねぇな。何でぇ?」
「――どうぞぉぉぉぉおおお」
老婆の声、興奮しているように感じる。
何を興奮しているのかと思っていれば、廊下の奥から刃物が擦れる音が響いて来る。
嫌な音であり、真っすぐにこっちに向かって来ていて――それは姿を現した。
「どうぞぉぉぉぉどうぞぉぉぉぉぉ」
しわがれた老婆の声。
が、全身は筋骨隆々で、体中がつぎはぎだらけだった。
体の一部が腐っているのか変色し、腕が四本で頭は三つ。
カラスの頭とヤギの頭と人間の頭だが、ずくずくに腐敗している。
その手には血が滴り落ちる肉切り包丁のようなものを持ち。
唯一身に着けている青いビニールのエプロンは真っ赤に染まっていた。
奴はカタカタと揺れながら、包丁同士を打ち付けて笑みを浮かべて――
「どうぞぉぉぉどうぞぉぉぉおがぁあああああ!?」
「――ほぉぉぉぉぉ!!!」
俺は奴が何かする前にドロップキックをかます。
奴の体からミシミシと音が鳴り後方へと吹き飛ぶ。
ゴロゴロと転がっていき、俺は一瞬で奴へと追いつく。
そうして、血反吐を吐く変質者に対して全力のマシンガンキックを見舞う。
頭や心臓に金的であり、奴はうめき声のようなものをあげていた。
「ふぎ!? あが!? いぐ!? ぐ、がぁ!?」
「――ほぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
声が小さくなっていく。
弱っている証拠であり、俺は近くに置いてあった謎の身に丈程ある置物を掴む。
そうして、叫び声をあげなら何度も全力で振り下ろした。
奴は何度も悲鳴を上げて……動かなくなる。
若干、ぴくぴくと失神していた。
俺は額の汗を拭ってから置物を適当に転がす。
「こんなところにも変質者が。それもコスプレ野郎とはな、たまげたぜ……ん? 扉だ!」
血まみれで白目を剥いて泡を吹いている変質者。
それを一瞥してから廊下の奥を見れば扉が見えた。
俺はトイレかと思って急いで駆け寄る。
ノブを回して開ければ――洋式の便器が置かれていた。
「あったあった! じゃ、早速……え?」
荷物を下ろし、パンツとズボンも下ろして便器に座ろうとした。
すると、便器の中から――目が見つめて来た。
「みいぃぃぃぃつけたぁぁぁぁ」
大きな二つの目に、弧を描く口。
女の金切り声であり、聞くだけで頭が痛みを発する。
激しい頭痛であり、心がどんどんおかしくなっていき――
「いや、ウンコが先だな」
「へ?」
俺はそのまま便器に座る。
そうして、全てを解放し――濁流のように汚物が放出されて行った。
「ぶばがぁああああがばぁあああがああああ!!?」
「ふぅまだ出やがる。大量だなぁぁぁ」
「やめぇぇあぼぉあがががおぼえぇぇあああ」
音の姫様がないからこそ汚い音が響き渡る。
さきほどから人の声のようなものが聞こえるが、きっと気のせいだろう。
「便器の中に人の顔って……きっと疲れてんだろうなぁ。はっ!!」
「おああがぁぁぁぁ…………」
最後に特大をぶち込めばようやく収まった。
俺は紙を探し――それを見つけた。
「これ、さっきの、本か? 何で、ここ、に?」
「どうぞぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおお!!」
本だ。
目の前で浮いていて、黒い靄のようなものを発していた。
留め具のようなものが勝手に解かれて、ゆっくりと中が開かれて行って俺の視線は――
「紙ねぇからこれでいいや」
「ぎぃぃぃやあああぁぁぁぁ!!?」
中を読む事無く紙をもぎ取る。
ぶちぶちと皮膚を裂くような感触がして悲鳴があがる。
が、俺はそれを無視して汚れたケツを奇妙な肌触りのそれで拭く。
生暖かい紙であり、中々汚れが取れた気がしない。
俺は本から次々と紙を千切って……うし!
「こんなもんだろう! さっさと流して……え?」
便器の中を確認する。
すると、何故か便器の中が真っ赤になっていた……血便?
「……お、俺の体に、何が? 菓子の食い過ぎか? それとも、カップ麺を三つも食ったのが……ま、いっか!」
俺はそのまま水を流し、パンツとズボンを戻してから荷物を背負う。
手を洗いたいと思っていれば、小さな箪笥の上にガラスのコップに入った美味しそうな黄金のドリンクがある。
明らかに飲み物であり、異様に喉が渇いてきた。
俺はごくりと喉を鳴らし、コップを掴んで――便器の上で手に流して手を洗った。
「ふぅ、助かったぁ」
「……すぞ」
「あぁ? また幻聴か? たく、オールはほどほどにってか」
ぴっぴっと手を払い服で拭う。
何故か、手がすげぇ光っているが無視。
部屋から出れば――何故か、一瞬で別の場所に出る。
「え? な、何だ? この大量の本の空間は……また、トリックか?」
「このぉぉぉぉ下等な人間がぁぁぁぁ我をコケにしおってぇぇぇ」
「……どちらさん?」
声がして前方を見る。
すると、全身にコケが生えまくった不潔なおっさんが現れる。
おっさんかは分からないが声がおっさんだったのでおっさんだろう。
奴は苔の中で目をキンキンに光らせて怒りをあらわにする。
「上等な魂を持つ人間であったからこそ試練を与えたんだ。山神様の眷属であるこの我が、お前に対して与える試練だぞ。成せば加護を与えてやったのに、それなのに、貴様ぁぁぁぁことごとく舐め腐った事をぉぉぉぉ祟ってやるぞぉぉぉぉぉ祟ってぇぇぇ」
「――邪魔ですよ」
「ふぎゃぁぁああああああ!!?」
おっさんが全身から木の根っこのようなものを伸ばしてきた。
それが俺の体を絡め取ろうとした瞬間に――おっさんの体は爆発四散した。
見れば、こつこつと音を鳴らして――女神が歩いてきた。
「ななななな撫子さん!? どうして此処に!?」
「ふふ、来ちゃいました」
「き、来ちゃったなら仕方ないですよねぇぇぇへへへ」
「さぁ帰りましょうか」
理由なんてどうでもいい。
彼女がいたら最高、それだけだ。
俺がそう思っていれば、彼女はゆっくりと手を上げて――指を鳴らす。
瞬間、周りの空間が大きく歪み――外に出た。
「え?」
周りを見る。
すると、ぼろい神社が後ろに立っていて崩れかけた鳥居のようなものもある。
看板らしきものは達筆過ぎて字が読めないが……って、アイツ何してんだ?
神社の前でひざをつき、数珠のようなものを持って手を振る電波巫女。
「山の神よ。眷属の戯れより、人の子をお救い下さい。我が血と肉を捧げ、不浄に侵されし人の子の魂にご加護を……え?」
「……何してんの? てか、どんだけ長いウンコしてたんだよ。こっちは変質者に襲われたってのによ、全く」
「……!!! このアホ!!!! 何やって、な、何……何でいるのよ!!? え、け、眷属は!?」
「……?」
「惚けんじゃないわよ!! ま、まさか、眷属を殺して……神の怒りを買うわよ!! 例えアンタが神でも、絶対に!」
「――子が親に何が出来ると?」
「は、ぇ、お、や……ちょっと、待って、え、それ、え、そ、そんな、え、じゃ、え?」
電波巫女は目を大きく見開く。
そうして、顔色を土気色にさせて震え始めた……ウンコか?
「まぁ何でもいいけどよ。先帰るからな? 荷物ここ置いておくからな。じゃ」
「ちょ、ま、まちな、まち」
「あ、それと――ウンコしたら、手、洗えよ? そんじゃ」
「……っ!!? 勝手に死ねェェェ!!! クソボケがぁぁぁ!!!」
後ろできゃんきゃんと騒ぐアホ巫女。
俺は撫子さんと恋人つなぎをし、彼女と共に辛く険しい山道を降りて行く。
「足元、気を付けて下さいね。な、何なら、俺の背中に!」
「そうですか? では、お言葉に甘えて」
「は、はぃぃぃ……ふぉぉぉ!! おおおおおっぺぃがぁぁぁ!!」
「ふふふ、頑張れ、頑張れ、頑張れ」
「あ、あ、あ、あ、あ!」
彼女を背負えば羽よりも軽く。
彼女の豊満なものが背中で形を変える。
そして、彼女の甘いささやきが俺の耳を孕ませようとしてくる。
俺は白目を剥きかけそうになりながらも、鼻血を出すだけで堪える。
彼女の応援を聞きながら、俺は全力で山道を下っていった。