俺の異能が中華ゲーだった ~34歳無職、ガチャで引いたキャラに変身して働きます~   作:パラレル・ゲーマー

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第67話 八咫烏の創設者がゴスロリ姿でやってきたんですが

 玲蘭のお嬢様からの嬉しい写真報告を受け取ってから、まだ日も浅い平日。

 

 直哉は、自宅のソファでくつろいでいるところを、霧島さんからの直通連絡で呼び出されていた。

 いつものように、八咫烏の都内にある関連施設。その中でも、特に重要人物との会合に使われる、格式高い応接室だ。

 

 直哉は、三十四歳のジャージ姿のまま、応接室の前で霧島さんと合流した。

 

 普段なら、霧島さんから呼び出される時は。

 厄介な要人の護衛、危険な怪異の討伐、あるいは能力の正式な検証など。何かしらの具体的な『仕事の相談』が持ち込まれる。

 しかし、今回は違った。

 

 霧島さんが、少しだけ声を落として言った。

「本日は、八咫烏の『幹部』が、森川さんに直接お会いしたいと希望されています」

 

 直哉は、首を傾げた。

「幹部? 俺、何かやらかしましたっけ?」

 京都で寺を更地にした件で、後からとんでもない賠償請求でも来るのかと、一瞬冷や汗が出た。

 

 霧島さんは、首を横に振った。

「いいえ。処分や事情聴取といった類のものではありません。あくまで、ご本人の強い希望による『個人的な面談』です」

 

 直哉は、少しだけ考えた。

 最近のチーム《ナオ》の活動が、裏社会で急速に注目を集めていることは、直哉も理解している。

 Tier1級の新戦力が次々と増え、京都では紫苑が実効Tier0.5という破格の評価を叩き出した。

 カトリック教会からの指名依頼までこなしている。

 

(まあ、八咫烏のお偉いさんが、得体の知れない俺たちのことを直接見ておきたいって気にするのも、分かる話だよな)

(でも、わざわざ呼び出して直接会いたいって、何だろうな?)

 

 今後の協力関係についての政治的な話かもしれないし、何か極秘のデカい依頼かもしれない。

 少し面倒だとは思いつつも、いつもお世話になっている八咫烏の幹部の誘いを、無下に断る理由もない。

 

「分かりました。俺でよければ」

 

 直哉は、霧島さんに促されるまま、重厚な応接室の扉を開けた。

 

 応接室の中に、足を踏み入れる。

 

 革張りの高級なソファと、磨き上げられたテーブル。

 政府の裏機関の重鎮が集まるような、重苦しい雰囲気の部屋。

 

 しかし。

 直哉が最初に目にしたのは。

 

 その高級ソファの真ん中に、行儀悪く深く腰掛けて、楽しそうにクッキーをつまんでいる。

 一人の、二十代前半ほどに見える『日本人女性』だった。

 

 直哉は。

「…………」

 と、言葉を失って、その女性の姿を三度見した。

 

 その女性の服装は。

 黒を基調とした、ゴシックロリータだったのだ。

 

 白いふんだんなレース。幾重にも重なったフリル。胸元の大きなリボン。

 衣装全体の意匠自体は非常に上品で仕立てが良く、本人もそれを不自然さの欠片もなく、完璧に自分の服として自然に着こなしている。

 

 ただ。

 この、八咫烏の幹部が使う厳かな応接室には、どう贔屓目に見ても、あまりにも場違いすぎる格好だった。

 

 直哉の第一印象は。

(……なんか、すごい格好のお姉さんがいるぞ)

(あれ? 八咫烏の偉い幹部との面談じゃなかったっけ? 部屋間違えた?)

 

 直哉が困惑して立ち尽くしていると。

 霧島さんが、直哉の横に立ち、いつもより遥かに改まった、緊張感のある態度で紹介を始めた。

 

「森川さん。ご紹介いたします」

 

「こちらは、八咫烏の『創設者』のお一人であり。現在も、この組織の重鎮を務めておられる……」

 

「八百比丘尼(やおびくに)様、です」

 

 直哉は。

「……八百比丘尼?」

 と、素っ頓狂な声で繰り返した。

 

 一拍、置いて。

 

(八百比丘尼って、あの、人魚の肉を食べて不老不死になったっていう、あの伝説の!?)

(いやいやいや! なんでそれが、現代でゴスロリ着てお茶飲んでんの!?)

 

 直哉の脳内が、激しい混乱の渦に飲み込まれていた。

 

 すると、そのゴスロリの女性は。

 直哉のそんな混乱など全く気にした様子もなく、満面の笑みで片手をヒラヒラと振った。

 

「やっほー! 君が、最近噂になってるナオ君だね!」

 

 ここで、直哉は確信した。

 この人が、本当に、あの八百比丘尼なのだと。

 

 直哉はこれまで、鏡宮千鶴のような規格外の高位能力者と関わり、自分自身も白芷や紫苑の姿でTier1やTier0.5級の力を振るってきた。

 だが。

 正真正銘の『Tier0』の存在本人が。こんなにも気さくに、陽気な近所の大学生のお姉さんのようなノリで話しかけてくるとは、全く予想していなかったのだ。

 

 しかも、あの冷静沈着な霧島さんの態度が、目の前のゴスロリ女性が、本物の底知れぬ大物であることを完全に裏付けている。

 

 霧島さんは、「八百比丘尼様」と恭しく紹介したが。

 当の本人は、それをとても面倒くさそうに手で払いのけた。

 

「いやー、霧島ちゃん。そんな大げさな肩書きで紹介しなくてもいいのにー」

「今は『陽葵(ひまり)』って名乗ってるんだ! ひまりちゃんって呼んでいいよ!」

 

 直哉は、戸惑いながらも。

「あ、はい……。初めまして、ひまりちゃん」

 と、言われた通りに了承した。

 

 そこで、陽葵は、誰も聞いていないのに、自ら余計な情報を付け加えた。

 

「ちなみに、私の本名はね! 『お里(さと)』っていうんだけどね!」

 

 直哉は、普通に相槌を打つように返した。

「へえ、お里さん、ですか」

 

 その瞬間。

 

 陽葵は。

「…………」

 

 ピタッと、動きを止めた。

 

 怒鳴りはしない。

 威圧的なオーラを放つわけでもない。

 ただ。さっきまで陽気に笑っていた彼女の顔から、完全に『表情』が抜け落ちたのだ。

 

 冷たい、ガラス玉のような目で。

 陽葵は、直哉を見つめて、静かに言った。

 

「……私のこと、お里って呼ばないでね?」

 

 直哉の背筋に、ゾクリと冷たい汗が流れた。

「……はい」

 

 横から、霧島さんが静かに、しかし急かすように補足する。

「森川さん。『お里』という呼び方はお控えください。……『ひまりちゃん』でお願いいたします」

 

 直哉は慌てて言い直した。

「は、はい! ひまりちゃん、ですね! よろしくお願いします!」

 

 すると。

 陽葵の顔に、再びパッと花が咲いたような、いつもの陽気な笑顔が戻った。

 

「そうそう! よろしくね、ナオ君!」

 

 直哉の内心は、心臓をバクバクさせながら叫んでいた。

(……いや、本名を自分から教えてきたのに!? なんで呼んだらダメなんだよ!!)

(何なんだ、この人! 地雷のスイッチがどこにあるか分からなすぎて怖い!!)

 

 ほんの一瞬の表情の変化だけだった。

 だが、その一瞬だけで。彼女がただの陽気なコスプレお姉さんではなく、絶対に踏んではいけない『何か』を持っている、底知れぬ存在だということが、直哉にも強烈に理解できた。

 

 ひと通り、席に座っての挨拶が済んだところで。

 

 直哉は、どうしても気になっていたことを、我慢しきれずに尋ねた。

 

「……あの、ひまりちゃん。一つ、聞いてもいいですか?」

 

 陽葵は、クッキーを齧りながら、ご機嫌に首を傾げる。

「んー? なになに? 何でも聞いてよ!」

 

 直哉は、彼女の服装を指差した。

「その……どうして、そんなゴスロリの格好をしてるんですか?」

 

 陽葵は、「あー、そんなこと?」というように、カラカラと明るく笑った。

 

「あー、これ? 実はね!」

 

「私の知り合いにさ。もう、1400年前から、ずーっとこういうゴスロリの服を着てるTier0の子がいるんだよね!」

 

 直哉は、目を剥いた。

「……1400年前?」

 

「そそ! あの子が着てると、すっごく可愛いんだよ、これが! それで私も、ちょっと真似して着てみたの!」

 

 直哉は、ポカンとしたまま。

「……なるほど?」

 

「まあ、私には、あの子みたいには完璧には似合わないんだけどねー。あの子は生まれつきああいうのが似合うからさ!」

 

 直哉の脳内には、疑問の山が築き上げられていた。

 

(いや、待て待て待て。1400年前!?)

(その頃の日本とか世界に、そんなゴスロリなんていう概念の服があったの!?)

(というか、Tier0の連中って、服装の趣味とかマイブームが、そんな千年単位で長続きするもんなの!?)

 

 しかし、陽葵本人は、自分の服装が現代社会で浮いているとは微塵も思っていないようだった。

 直哉は、改めて彼女の黒いレースの衣装を見直して、素直な感想を返した。

 

「いや、普通にすごく似合ってると思いますけど」

 

 陽葵は、パッと顔を輝かせた。

「えー、本当!? ありがとー! ナオ君、いい子だね!」

 と、子供のように嬉しそうに笑った。

 

 直哉は、これ以上深く突っ込むのはやめた。

(まあ、Tier0の神様同士の長い付き合いの話なんて、俺みたいな一般人が首を突っ込んでも理解できるわけないしな)

 

 話題が落ち着いたところで。

 直哉が、本題とも言える重要な質問を投げかけた。

 

「ところで。八百比丘尼ってことは、本当に『不老不死』なんですか?」

 

 陽葵は、クッキーを飲み込んで、極めて軽く答えた。

「うん! 死なないよ!」

 

 あまりにもあっさりとした、今日の天気の話でもするような口調だったので。直哉は、かえって困惑してしまった。

 

 霧島さんが、横から正式な補足説明を入れてくれた。

 

「森川さん。陽葵様は、八咫烏において、正式に『Tier0』として認識されている存在です」

 

「固有能力は、《絶対世界に残る楔》」

 

「いかなる物理的、魔術的な手段を用いても。死亡、あるいは消滅することはありません」

「たとえ、過去へ遡って彼女を『存在しなかったこと』にするような時間改変の能力を使われたとしても、その改変自体が成立せず弾かれます」

「その他に、補助的な『未来視』の能力と、基礎的な身体能力の強化を扱われます」

 

 直哉は、感心して頷いた。

 

 単純に「不老不死だからTier0」というわけではないのだ。

 彼女の異常性は。この世界から排除されるという『結果』そのものが、絶対に成立しないという絶対的な防御と存在の確定にあるのだ。

 

 しかし。

 霧島さんが「この世界にとっても、極めて重要な……」と続けようとしたところで。

 

 陽葵が、口を尖らせて、軽く遮った。

 

「でもさー。Tier0の神様とかって、基本的にみーんな、最初から老いないし病気にもならないんだよ?」

「だから私、ぶっちゃけ、もうちょっと便利な能力が欲しかったんだよねー!」

 

 直哉は、目を丸くした。

「……便利?」

 

 陽葵は、身を乗り出して力説する。

 

「そうそう! 一瞬で遠くに空間移動できたりとかさ! 何もないところからすごい剣を作れたりとか、街を一つ吹き飛ばせたりとか! そういうの! 絶対そっちの方が楽しそうじゃん!」

 

 直哉は、ドン引きしたように言った。

「……いや、絶対に死なないって能力だけでも、とんでもないチートだと思いますけど」

 

 陽葵は、ケロッとした顔で笑った。

「まあ、死なないのは最高だけどね!」

「怪我してもすぐ治るし、痛いのもすぐ終わるし! 長生きはやっぱり最高だよ!」

 

 陽葵は、満面の笑みを浮かべていた。

 直哉は、不老不死をここまで手放しで喜ぶ人に初めて会ったような気がした。

 

 不老不死であること自体は、心から素晴らしいことだと思っている。

 ただ、他のTier0の連中が持っているような、派手で便利な固有能力が自分にも欲しかった。ただそれだけなのだ。

 

 直哉の内心は。

(永遠の命と不死不滅の能力を、ソシャゲのハズレスキルみたいに愚痴ってる……!)

(神様のガチャの評価基準、一体どうなってんだよ!?)

 と、激しくツッコミを入れていた。

 

 直哉は、ようやく本題へ話を戻した。

 

「それで。どうして、そんな凄い人が、急に俺に会おうと思ったんですか?」

 

 陽葵は、当然のことのように答えた。

 

「いやー、最近すごいじゃん、ナオ君たちのチーム!」

 

 八咫烏からの報告が、当然陽葵の耳にも入っているのだ。

 Tier1級の能力者が次々に登場し。京都では実効Tier0.5級の力を確認。

 戦闘だけでなく、人質救出や、医療の分野でも圧倒的な結果を出している。

 

 そんな陽葵の様子から、直哉は、自分たちがよほど面白い新人に見えているらしいと感じた。

 

 さらに、陽葵は身を乗り出して、目を輝かせた。

 

「それにさ。なんか、ナオ君の力って、『運命を変える』能力らしいじゃん? それ聞いて、すごいなーって思って!」

 

 直哉は、少しだけ謙遜して答えた。

「いや、それほどでも……」

 

「えー、謙遜しなくていいのに! 運命って、そう簡単にホイホイ変えられるものじゃないんだよ? それをやってるんだから、大したもんだよ!」

 

 直哉は、ここで少しだけ、自分の能力の仕様について補足した。

 直哉の《因果集結クロニクル》は、本人の意思で「明日の天気を晴れにする」とか「世界を平和にする」というように、自由自在に運命を書き換える万能の能力ではない。

 

 あくまで。直哉が何らかの事件に関わり、その結果として世界の因果が有意に変動した際に。システムから活動報酬として《因果晶》を獲得できる、というものだ。

 その獲得条件の細かな判定基準は、直哉本人にもよく分かっていない。

 

 陽葵は、直哉の細かいガチャの仕様説明には、あまり興味を示さなかった。

 彼女の関心は、システムのUIよりも。

 それよりも、直哉が何を目的に危険な仕事を続けているのか、そちらが知りたそうだった。

 

「で、ナオ君はさ。一体何のために、そんなに頑張って色んな事件に首突っ込んでるの?」

 

 直哉は。

 少しだけ考えてから。三十四歳の男として、一切の恥ずかしげもなく、堂々と答えた。

 

「『ガチャ石』を貯めるためなら、何でもできます!」

 

 陽葵は。

「…………」

 と、一瞬、ポカンとして目を丸くした。

 

 そして。

 

「あははははははっ!! 何それ! 最高!! めっちゃ面白いじゃん!!」

 

 陽葵は、お腹を抱えて、ソファーから転げ落ちそうになるほど本気で大爆笑した。

 

 直哉も、内心では少しだけ補足していた。

(いや、もちろん、犯罪とか悪いことまで本当になんでもやるわけじゃないけどさ!)

(でも、ガチャ石のためなら、危険な仕事でも喜んで頑張れるのは、紛れもない事実なんだよなあ)

 

 陽葵は、笑い涙を拭いながら、直哉を指差した。

 

「あー、ナオ君いいね! 最高! 私、そういう分かりやすい子、すっごく好きだなー!」

 

「そうですか?」

 

「うん! めっちゃ気に入った!」

 

 名誉や権力、金や理想を追いかける人間を、陽葵は長い年月の中で数えきれないほど見てきたのだろう。

 しかし、目の前の直哉は、驚くほど単純明快だった。

 

『ガチャを引きたいから』。

 

 それが、本人にとっての本気の、人生の最大の目的なのだ。

 少なくとも、直哉の答えが陽葵の笑いのツボを直撃したことだけは、間違いなさそうだった。

 

 陽葵は、すっかり直哉のことが気に入ったようだった。

 

「ねえナオ君。これから先、もし何か困ったことがあったら、遠慮なく私に連絡してよ!」

 

 直哉は、驚いて聞き返した。

「えっ、いいんですか?」

 

「もちろん! これでも、腐ってもTier0の端くれだからさ! 力になるよ!」

 

 直哉の心の中で、ガッツポーズが出た。

 何しろ、Tier0の存在本人に、直接相談できるコネができたのだ。これほど心強いことはない。

 

 ただし、陽葵自身も、万能の神というわけではない。

 

「ま、私じゃできないことも、いっぱいあるんだけどねー! 攻撃とか全般苦手だし!」

 と、あっけらかんと言う。

 

 直哉も、苦笑して。

「……まあ、そうですよね」

 

「でも、何かあったら、相談に乗ったり、知恵を貸したりくらいはできるから!」

 

 霧島さんも、横から補足する。

「陽葵様へのご連絡が必要な場合は、八咫烏の窓口経由で私が取り次ぎます。いつでもおっしゃってください」

 

 直哉の内心は。

(……なんか、とんでもなく凄い人と知り合っちゃったな)

(しかも、めちゃくちゃ気さくで、普通にいい人そうだし)

 

 陽葵に対する第一印象は、直哉の中で、完全に『陽気で頼れるTier0のお姉さん』として定着していた。

 

 面談も終わりに近づき、お茶を飲み干した頃。

 

 直哉は、ふと、あることを思いついた。

 

(……待てよ)

(この人、『未来視』ができるって言ってたよな?)

 

(だったら……!)

 

 直哉は、テーブルに身を乗り出して、目を輝かせた。

 

「そうだ、ひまりちゃん!」

 

 陽葵が、首を傾げる。

「んー? 何?」

 

「ちょっと、早速一つ、相談したいことがあるんですけど!」

 

「おっ、早速? いいよいいよ! 何でも言って!」

 

 直哉は、真剣な顔で尋ねた。

 

「俺、さっき言った通り、運命が変わるような大きな事件を解決すると、ガチャ石がもらえるみたいなんですよ」

「うんうん」

「それで、ひまりちゃんの未来視を使って。何か、『効率よく大量のガチャ石を稼げそうな、運命が変わる事件』を教えてもらう方法って、ありませんかね?」

 

 陽葵は、直哉のそのあまりにもブレない強欲な質問に、少し呆れたように、そして面白そうに笑った。

 

「……あはは! ナオ君、本当にそこまでしてガチャ引きたいんだ!」

 

「もちろんです! 常に石に飢えてるんで!」

 

 陽葵も、一応は真面目に考えてくれた。

 ただ、彼女の未来視は万能ではない。

 未来に危険がありそうな人物や事象をぼんやりと見つけることはできても。「その事件を解決すれば、因果晶がシステムから何個ドロップするのか」というような、ゲームの攻略サイトのような都合のいいことまでは分からないのだ。

 

「んー、ナオ君のそのガチャ石の判定基準のことは、私にもよく分かんないから、確約はできないんだけど……」

 

 陽葵は、少しだけ考え込み。

 そして。

 

 急に、何か良いことを思いついた子供のように、パッと顔を上げて笑った。

 

「あっ、そうだ!」

 

 陽葵が、明るく、少し楽しそうな声で話し始めた。

 

「じゃあさ、ナオ君に一人、女の子を紹介しちゃおうかなー!」

 

 直哉は、興味を示して食いついた。

「女の子、ですか?」

 

「そそ! 私が見た中で、ちょーちょー『強い』子なんだけどね!」

 

 直哉が首を傾げる。

「……強い?」

 

「うん! ほんっとに、めちゃくちゃ強いよ! でもねー」

 

 陽葵は、少しだけ、意味深に声を落として言った。

 

「その子。今、運命的に、ちょっと『赤信号』が出てるんだよね!」

 

 直哉が聞き返す。

「赤信号?」

 

「そうそう! このままだと、なんか色々とマズそうな結末に行き着いちゃいそうなんだよねー」

 

 陽葵は、自分の能力の限界について、少しだけ補足した。

「私の未来視って、全てが完璧に見えるわけじゃないんだけどさ。あの子の未来の行方については、ちょっと前から気になってたんだよね!」

 

 陽葵の口ぶりでは、その子が確実に破滅する未来まで見えているわけではなさそうだった。

 見えているのは、あくまで運命が良くない方向へ傾きかけている兆しなのだろう。

 敵に襲われるのか、本人が何かを選び間違えるのか、それとも能力そのものに問題があるのか。今の話だけでは分からない。

 直哉が関わったところで、必ず解決できると決まったわけでもない。

 

 でも。

 直哉のゲーマーの脳にとっては、それで十分すぎる情報だった。

 

(……なるほど)

(Tier0の神様が、わざわざ気にするほどの、運命に何か大きな分岐点がある女の子か)

 

(つまり。俺がその子の事件に関わったら……)

 

(大量の因果晶が、ガッツリ稼げる可能性が、大いにあるのでは!?)

 

 直哉の中で。

 まだ見ぬ出来事への期待と、ガチャ石への欲望が、一気に大きく膨らんだ。

 

 陽葵は、そんな直哉の下心を見透かしたように、ニヤニヤと楽しそうに笑っていた。

 

 そして。

 陽葵は、どこか悪戯っぽく、楽しそうに笑って言った。

 

「ねえ、ナオ君」

 

「その子に、会ってみたい?」

 

 直哉は、一切の躊躇なく、即答した。

 

「会いたいです! ガチャ石欲しいし!」




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