インフィニット・ストラトス Trinity B 作:ぷうち☆りん
第三話 マイ・フェア・レディ……ファイト!
「ちょっと貴方、真剣にやっておりますの? 私達は国家代表候補として恥ずかしくないよう、淑女に相応しい教育や実習をこなしておりますのに。 何ですの、貴方は。 『解らないところが解らない』だの、 教科書はゴミと間違えて捨てるだの……。
嘗てお父様から、日本にはサムライがいると聞いておりましたのに! がっかりしましたわ!」
見知らぬ金髪縦ロールに一気にまくし立てられた。
「セッシー、サムライやニンジャはもういないよ〜? ね、沙耶さん」
面食らって固まっていた俺にのほほんさんがフォローしてくれた。
「「「何ですってぇ!?」」」
金髪縦ロール以外にもショックを受けている生徒がいたがそれはともかく。
「ええ。明治維新後の廃刀令により彼らは士族として扱われる事になりました。
故にサムライはいませんが……国士はいますよ」
「国士?」
「はい。国のため、人のために命を懸ける方々の事です」
「沙耶さんみたいな〜?」
「買いかぶりです。私などではとても……」
御雷先輩は頭を振って謙遜するが、
彼女は人のために命を懸けられる人だというのは俺には解る。
と、言うか初対面でここまで言われるとは思わなかった。確かに勉強は壊滅的だ。でも、そこまで言われる筋合いもないだろうと、胸の奥が少しだけ熱くなる。
箒に怒鳴られるのとは違う。 初対面の相手から「お前には価値がない」と言われたような気がした。
「というか何で初日からこんなにやいのやいのと言ってくるんだよ」
「そうだぞ貴様。もう少しおおらかな心を持て」
俺と箒の即席タッグを前にしても金髪縦ロールはやっぱり怯まず、フンと鼻で笑ってきた。
「初日だからではありません。 初日であっても国家代表候補生として相応しい振る舞いはありますわ。 ……仕方のないおサルさんですこと」
お、おサルさんだと!?
というか国家代表候補生って何だ?
「その表現は穏やかではありませんね」
「そうだそうだ」
「そうだそうだ〜」
おお、大和撫子の声援が心強いぜ。
「それを言ったらイギリスだって島国から周りを攻め取ったゴリラじゃないか」
「ご……ゴリラ!? 我が祖国を侮辱するとは礼儀を知らないおサルさんですわね!
躾の必要がありますわね!」
ゴリラは言い過ぎだとは思ったが金髪縦ロールの躾発言には流石にカチンときた。
だから謝るつもりもなかった。
「躾はゴメンだが勝負しようぜ、勝負」
「まあ、まさか私に勝つおつもりですの?」
「戦う前に負けることを考えるバカがいるかよ」
と、とあるレスラーの言葉を言ってみる。
金髪縦ロールはプロレスには詳しくないらしくスルーされてしまった。
「まあ、いいでしょう……。ハンデはどの位差し上げたらよろしくて?」
「いや、ゴルフはやった事ないぜ」
「そうではありませんわ! なんなんですの!」
「セシリアも一夏くんもやめなよー」
「そうだよ〜。ISに関しては男より女の方が上だよ〜」
「そうそう〜。ISコアのエネルギーがないと今は関東一帯が停電するって動画でやってたよ〜?
その割にはISはすぐバッテリー切れしてるよね〜」
クラスメイト達は口々に言う。
そうなのか?
俺はもう少しニュースを見ないとダメかも……。
「私はISの話をしておりますのよ!
私はセシリア・オルコット! 入学試験では首席!
実技試験では教官から一本を取った実力者にしてクラス代表の最有力候補ですわ!」
「自分で言うのか貴様!?」
「いえ。実力を売り込むのも国家代表候補には大切な事ですもの! おーっほっほっほ!」
つい、ツッコミを入れた箒に御雷先輩が補足する。国家代表候補も大変だな。
なんて考えていたら金髪縦ロール、もといセシリアはドヤ顔と共に胸を張ってきた。
「それに私が勝ち取ったものを恥じる必要がどこにありますの?」
「まあ、それもそうだな」
「……! 貴方、本気で私と戦うつもりがありまして!」
「戦うからって相手の全てを否定する必要もないだろ」
「……」
「……」
「見事です。織斑くん」
セシリアと箒は硬直し、先輩は何故か俺を評価してくれた。
(なんか変な事言ったかなあ)
「けど実技試験なら俺も一本取ったぞ」
「私は判定勝利でした。流石ですね織斑くん」
「貴方の事は聞いておりませんわミス・ミカヅチ!」
「聞かれたからではなく、比較対象として提示しただけです」
セシリアの言葉を受けても御雷先輩は怯まず、
面として向き直る。
「しかし……幾ら何でも今日の放課後に雌雄を決する……というのはフェアではありませんね」
「あら? 貴方がたが挑んだ勝負ではありませんか? 一旦ハンデを拒否したのに条件を出すだなんて……」
セシリアが(なんて情けない)と言いたげな視線を俺たちに向けてきた。
最後まで言わずに含みを持たせる。逃げ道を残さない言い方だ。やっぱり首席入学だけのことはある。
「それは織斑一夏くんが言った事でしょう。私の言葉でもクラスの皆さんによる総意でもありません」
「言われてみれば〜……」
「確かに〜……専用機と量産機じゃ強さは段違いなんでしょ?」
「確かセシリアのISってビットをビュンビュンって飛ばせる新型機でしょ?」
御雷先輩が指摘するとクラスメイト達が
『それってどうなの〜?』とセシリアを訝しみ、
教室の空気が変わっていった。
「あ、あなた! 私が専用機を持っているのを思い上がって、そこのおサルさんを私怨で痛めつけようとしていると言いたいのですか!」
「思い当たる節があるのですか?」
「何ですって! こ、こんな侮辱は初めてですわ!」
(なんだか話の流れが俺たちに来ている?)
俺と箒は顔を見合わせた。
……これも御雷先輩の年の功だろうか。
いや、七留なだけでまだ十七歳……だよな?
「では丁度2週間後にクラス代表を決める選挙がありますから……学力、実技、選挙の三本勝負にしましょう」
「フフフ、とんだ交渉人もあったものですわね。自ら勝ちを捨てるだなんて」
え? 学力? ちょっと待って下さいよ!!
「問題ありません。学力は私が対応します」
「え?」
「ま、待て待て男女7歳にして席を同じくせずだ! 実技は私が担当する!」
「じゃあ選挙運動は私達が担当しようかな〜」
だ、大丈夫なのか?
「問題ありません。7留の私を信じて下さいよ」
「任せろ。死ぬまで、死んでも鍛えてやる」
「なるようになるよ〜。当たって砕けよ〜」
「当たって砕けてはいけません。砕かなくては」
「いや〜、これはうっかり」
って誰も信用できねえ!?
「フフフ、どこまで私を愉しませてくれるか。
お手並み拝見ですわね」
くっ……セシリアは俺たちのぐだぐだぶりに
余裕綽々じゃないか……。
「待ちなさい。拝見は謙譲語ですから今の貴方の立場に相応しい言葉ではありませんよ」
「私を格上と認めていらっしゃいますの?」
「事実は事実として受け止めなければ」
御雷先輩はどっちの味方なんだよ!?
「よし! ではまず一夏がどれくらい上達したのか見せてもらうとするか」
「お、おい箒! 手を引っ張るな!」
「気にするな! 私はしていない」
「俺は気にしているんだよ!!」
と、箒は俺を引きずる勢いで剣道部の道場へと案内
ー
「何だ! その腑抜けぶりは! 正中の構えは鉄芯を意識し、不動であれと父の教えを忘れたか!」
そ、そうだった。と俺は真っ直ぐに構えて見せた。が、箒の竹刀がゆらりと揺れた次の瞬間!
「面っ!!」
と箒の一喝が道場に響き、俺の頭頂部に痺れと痛みが走る。ぜ、全然見えなかった……。
「一本! 見事な霞正眼ですね」
「私の流派を知っているのか御雷……?」
「はい。不躾ですが篠ノ之流剣術は『とある筋』では有名ですので」
「……」
へ〜? いつの間に篠ノ之叔父さんの剣術も有名になったんだな。
いや、箒が全国優勝したからその影響かも。
しかしあんまり嬉しそうじゃないのは何でだ?
「いや〜、強くなったなあ箒」
「馬鹿者! 何を終わった様な顔をしている!」
文字通りに兜を脱いだ俺に箒から激が飛んできた。というか終わりじゃないのか!?
と俺は稽古場にて箒にこてんぱんにやられてしまった。
全身が鉛のように重く、焼けるように熱い。
バイト帰りに感じていた疲労とはまるで別物だ。
そんな俺の様子に箒は怒るというより悲しんでいる様子だった。
「一体どうしたと言うのだ一夏。腑抜けたか?」
「わ、悪い。中学ではバイト漬けで鍛えるヒマが無かったんだ」
「嘘はいけません織斑くん。何やら箒さんへの攻撃の際に遠慮なのか、動作の遅れがある様に私には見受けられました」
「え?」
御雷先輩が看破したかのように堂々と言う。
いや、堂々と言っているだけで事実ではないのだが……。
しかし箒の顔がニコニコ、と笑顔に変わるや否や俺の肩を叩いた。 痛い。
「何だ何だ? そうだったのか。私を傷つけまいと情けをかけたのか♪ それでこそ私の一夏だ! ……いや、今のは忘れろ!」
「忘れろって何をだよ?」
「いいから!」
ぷいっ、とそっぽを向かれてしまった。
何なんだ一体?
しかし先輩に買いかぶられてはあとでガッカリされてしまうかもしれない。
せめて誤解は解かねば……。
と俺は御雷先輩の側へ向かっていく。
「あの、先輩。さっきの話なんですが……」
「ええ。解っています……。織斑くんには複雑な家庭の事情がお有りなのですね」
「わ、解るんですか?」
「大凡は。身体の筋肉のつき具合で想像ができます。腕や肩には荷物を運ぶ筋肉がついています。しかし、踏み込みや体幹には明らかにブランクがありました。運動不足というより、生活のために身体を使っていたのではありませんか?」
す、凄いなあ……。
この観察眼ならこの後の教育レッスンが期待できるぜ! ……いや、変な意味じゃないからな!
「おりむ〜の顔真っ赤だよ〜?」
「違う違う! 道場暑いから!」
「今は冷房が効いておりますが。
クールダウンが遅れているなら私がストレッチを手伝いをしましょうか?」
こ、この状況で密着するのはマズい!!
「そ、それはその……! 結構です! ちょっとシャワー浴びてくるから!!」
のほほんさんからのツッコミと御雷先輩の天然アタック(?)から逃れるべくシャワールームに向かった。
が、それがいけなかった。
その時の俺はIS学園は女学校と言うことが頭からすっぽり抜けていたのだ。