インフィニット・ストラトス Trinity B 作:ぷうち☆りん
第四話 インタビュー・ウィズ・ライトニング
「ちょっとシャワー浴びてくるから!!」
俺はのほほんさんから逃げるようにシャワールームへ飛び込んだ。
火照る身体とのぼせた頭を冷やすべく、タオル1枚を腰に巻いて俺は脱衣室から湯けむりの立ちのぼるシャワールームへと入っていく。
(ん? 湯けむり……? 先客……?)
はっ、と感づいた時にはもう遅く……。
「いち……か……!?」
「箒……!?」
お湯が流れる音だけがシャワールームに響き渡る中、俺と箒の目と目が合う。
下ろした髪は普段とは異なる大人びた雰囲気で、
肩やその下に流れた黒髪と引き寄せたタオルと自らの腕でより強調された……いやいやいやいや!! 何をしているんだ俺は!
「す、すまん!!詫びのしようもないが!すまん箒!」
「ま、待てっ!一夏!私の話を聞け!」
「な、なんでそうなる!?何故お前が弁解する必要があるんだ!?」
「な、何故って!? それは私がお前を……。
い、いやそうではあるのだがそうではなくてな!」
シャワールームで俺たちはすっかりパニックに陥ってしまい、更に御雷先輩とのほほんさんが駆けつけてきた。
「不純異性交遊は感心しませんね」
「沙耶ちゃん。これはラッキースケベだよ〜」
「ラッキースケベ。では不純異性交遊ではないのですね」
「そうだよ〜?」
「ならばよし」
「「ち、違う!そうじゃない!!」」
不純異性交遊でもないし良くもないってば御雷先輩!!
ー
「すまん。箒。幼馴染としてあるまじき振る舞いだった。心から詫びる」
「もう済んだ事だ。わざとではない事は解っている……。だが2度とするなよ」
「はい……」
箒は意外にも寛大だった。
そして今、俺は相部屋にて箒と御雷先輩とでISに関しての猛勉強。
「どうだ?2時間ほど基礎理論について説明したが……」
「わ、解った様な解らないような……」
「どこが解らないのですか?」
ぬっ、と顔を突きだし御雷先輩が聞いてくる。
あ、圧が強い……!
「えーと、こ、こことここが」
「結構。解らない事が解っただけでも進歩です」
「うむ!流石だな一夏」
何だか複雑な気分だが、俺も進歩はしているよな? と、不安を感じながら先輩からの説明を受けていると、コンコンとドアの向こうからノックの音がした。
「一夏と私は今、忙しい。後にしろ」
箒はインターホン越しに誰かへ塩対応。
だが、来訪者が立ち去る様子はなかった。
「ほ〜お。男女二人がお忙しい?
ふむふむ、新世代のサンプルが増えるのは良いことです。
どんどんやってください。んふふふふ♪」
「貴様!私と一夏を愚弄する気か!!」
「愚弄だなとはとんでもない。自然の摂理ですよぉ」
その後なんやかんやで野庭先生も俺の補講に付き合ってくれる事になった。
『IS?まあまあ詳しいですよ』と謙遜していたがとんでもない。
「つまりこの解法は最初に習った公式の焼き直しですよぉ」
「この教科書ですけどねぇ。一夏君は35ページから75ページは読まなくていいですよぉ。
ISコアの平行励起を行った際のエネルギー転換理論なんて専業の研究者でもなきゃ使いませんから。
僕が在学中の時はその辺のページをパラパラ漫画の素材に使ったモンですよ」
「そういう裏道は感心しませんね」
「沙耶さんに感心してもらうためには教えていませんからねぇ。んふふふふ♪」
とまあ、御雷先輩が王道の教え方なら野庭先生は裏道の教え方というのか。
とにかく硬軟織り交ぜた特別コースのおかげか大分頭の中で知識が整理されていく気がした。
「あ、そうだ。野庭先生。
『野庭式スリーピングベッド弐式』、もう一回使わせて下さいよ。1時間で8時間分の睡眠が取れるってやつ」
と、お強請りしてみたが野庭先生は顔を曇らせた。
「ああ、あれですか。あれは3日位冷却期間を置かないとダメですよぉ」
「へー、やっぱりパーマ機のオバケみたいな作りだから冷えるのに時間がかかるんですか?」
「いえいえ。一夏君の脳神経の方がですよ」
「ええ〜!?」
「そんな危険なものを一夏に使ったのか!貴様は!!」
「危険というほどのものでは。用法、用量を正しく使えば大丈夫です。んふふふふ♪」
「そういう問題か!」
と、ワイワイ騒いでいると消灯時間のアナウンスが部屋の外から響いてきた。
勉強だというのに楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうものなんだな。
「今日はまあこの位にしましょう。
モルモットが壊れてしまっては元も子もない」
「今一夏をモルモットと言ったか?」
「言いましたが何か問題でも?」
「問題しかない!」
野庭先生の温かいんだか冷たいんだか解らない言葉でお開きとなった。
流石に同じ部屋で着替えはできない。
俺は箒にひと言断ってからトイレに入って寝間着に着替えた。
便所飯ならぬ便所着替えというやつだ。
学校指定のものだから色気も何もあった筈ではないのだが……。
い、いかん。シャワールームでの記憶が……!?
「一夏、何やらよからぬ事を考えてはいないだろうな?」
「そ、そんな事はないって……!!」
「ならば良いが、寝込みを襲おうものなら流石に制裁だぞ……」
「正妻かあ……そりゃ責任は取らないとな」
「な、何だと!? 一夏!今のは正妻と言ったわけではないからな!勘違いするな!」
「わ、解ってるって」
と、一日目は騒がしいうちに過ぎていった。
ー
かくして1週間が経過し、小テストの結果が発表された。 1日目の惨状? 忘れてくれ。
「おお〜!小テストの結果は76点!なかなかですなあ〜!」
「いやあ、たまたまだよ」
「ま〜た謙遜しちゃって!憎い憎い!」
トントン、と俺に肘鉄を食らわせてくるのは……誰だっけ? 良くも悪くも皆の距離感がバグっているのでもう三カ月は付き合っているんじゃないかという錯覚に襲われる。
「って、誰だっけキミ」
「誰とはひどいよ〜!私は相川清香! 人呼んで1組の切り込み隊長だよ!」
「相川さんはクラスの名簿で一番初めに呼ばれますからね」
「ま、そういう事だからよろしくね!」
そんな理由で切り込み隊長なのか……?
「これからも宜しくね。心配しなくても私はちゃーんとクラス代表は織斑くんを推薦するから♪」
「推薦?」
そう言えばすっかり忘れていた。
セシリアとは 成績 実技 選挙の三本勝負で競い合うという事になっていたんだった。
「おーっほっほっほ!御機嫌はいかがかしらおサルさん!
成績では私に大きく差を空けられたのに呑気ですこと。
今降参するなら特別に許してあげても良くってよ?」
すると100点の答案を引っさげてセシリアがやって来た。
しかしあの内容で100点を取れるのは流石だ。
「すげーなセシリアは。勝負が終わったら今度勉強を教えてくれよ」
「何故私が敵である貴方に師事されなければなりませんの?プライドのない殿方はこれだから」
「いやいや。勝負が終われば敵も味方もないだろ。教われるものは教わる。教えられる事は教える。それでいいだろ? 確かセシリアは紅茶が好きなんだろ?日本式のミルクティーの淹れ方を今度教えるよ」
「……」
セシリアにはスルーされたしなんか皆の視線が集まったがそんなおかしな事言ったかなあ。ひょっとして厚かましいヤツって思われたか……?
「織斑くん。今のキミ、凄くいいよ! ヒーローの卵って感じ!ベリーグッド!」
カシャカシャ、とスマホで遠慮なく撮影しながら謎の女性がサムズアップしながら八重歯を見せてくる。今度は誰だ……?
制服姿だから学生だろうけどリボンの色が違う。
「何を一夏と私の許可なく撮影をしている」
「お?もう女子マネ付き?未来の国家代表候補は違いますなあ〜。あ、私は黛薫子。整備科の二年♪宜しく〜」
気さくというか厚かましいというか。更に学生なのに名刺まで渡された。確か折るのはマナー違反だったか……?
「まあ、私の特集を組むご予定とは。目が肥えていらっしゃいますわね♪」
「あ、セッシーは別にいいかな。それより……」
「せ、セッシー!? 別にいいかな!?」
いきなりの渾名呼びと逆取材拒否にセッシー……じゃなくてセシリアはショックを受けていた。
いや、イギリス国家代表候補なんだから取材してもいいんじゃないかと思うんだが。
「御雷沙耶さん!7留というレインボーな経歴を持ちながら織斑君の専属コーチになった今のお気持ちをお聞かせ下さい!
やっぱり選ばれし者の不安と恍惚、我にあり!って感じですかー?」
……。
「織斑君。なんか黛さんって感じ悪くない?」
「ん、あ、ああ……いや……」
俺の顔を見て不機嫌になったと見たのだろうか。相川さんが俺の顔を覗き込む風にしながら話しかけてきた。俺は恩人の御雷先輩が揶揄されているのに二の句も継げずに固まってしまうだけだった。 情けない。
「私は専属コーチではありません」
「またまたあ〜。IS操縦時間は2000時間超え!
ISの打鉄は既に専用機級にパーソナライズされてるってその筋から聞きましたよ〜」
「何ですって!? 代表候補生の私でもまだ300時間程度ですわよ!」
「わ、私は5時間くらいかな〜。放課後に練習したくても申請してからISが使えるようになるのに2週間はかかるって話だもん」
「あと凄い複雑だし〜。スリーサイズも書かなきゃいけないし〜」
何で使用許可を貰うのにスリーサイズが必要なのか……と、そんな下らない疑問より御雷先輩の操縦2000時間のインパクトの方が絶大だ。
「2000時間って話は本当ですかあ?」
「答える必要はありません」
「実は7留しているのは学業不振以外だって本当ですか?」
「言う必要はありません」
「打鉄をパーソナライズしているのは学園以外でも使用しているからだという都市伝説があるんですけど」
「答える理由はありません」
なんだか御雷先輩じゃなくて俺の方がイライラしてきた。何を好き勝手な……。
「おい、いい加減に……」
「お黙りなさい!黛とやら!」
セシリアの一喝で場が静まり返った。
「さっきから黙っていれば根掘り葉掘り。
人には触れてはならない哀しみがありますのよ!
学業やら真実の追求やらも結構ですが、それよりも尊ぶべきものがおありでしょう!」
セシリアの一喝を受けて黛さんも反省したらしく、御雷先輩に詫びを入れその場は収まった。
しかし2000時間以上ってどれだけこなせばそれだけの経験を積めるんだろうか……。