インフィニット・ストラトス Trinity B   作:ぷうち☆りん

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書き溜めは終わり


第6話 ラプソディー・イン・ブルーティアーズ

第6話 ラプソディー・イン・ブルーティアーズ

 

(……今更になって緊張してきたぜ)

 

セシリアとの口論から2週間経った。

約束通り、今日は決闘……と言うには大袈裟だが彼女と一体一での模擬戦を行う日だ。

今は控え室で待機するように、と千冬姉、もとい織斑先生から指示があったのでそれに従っている。

 

「御雷先輩も箒もありがとうな。今日まで付き合ってくれて」

「何を今更。私とお前の仲ではないか」

「いえ、私も楽しかったですよ」

 

箒は誇らしげに胸を張り、御雷先輩も微笑みを浮かべて応えてくれた。

この二人を笑いものにさせないためにも無様はできない。と決意を固めると身体がぶるっと震えた。

 

「何をそんなに深刻ぶっている織斑」

「あ、千冬姉」

「織斑先生だ。馬鹿者」

 

ベンチに座っていた俺は千冬姉を迎えるために

立ち上がろうとしたがデコピンを食らい、軽い痛みが額に走る。

 

「お待たせしました〜!」

「お二人とも歩くのが早いんですよぉ」

「貴様が鈍すぎるだけだ。ノヴァ」

「ひどくないですぅ?」

 

更に山田先生と野庭先生が控室に入ってきた。

山田先生は余程急いできたのか肩で息をしていたが野庭先生は相変わらずのマイペースだった。

あ、そう言えばノヴァって野庭先生の苗字じゃなくて名前だったんだな……。

 

「ま、そんな話はどうでもよくて……。

織斑くん、君のIS間に合わせましたよぉ」

「間に合わせた……?」そして運ばれてきたのは純白のIS。

まるで騎士の甲冑を彷彿とさせるような作りだった。

 

「これが、俺のISですか?」

「日本政府のお偉方は白式と呼んでいます」

「はくしき……?」

「そうです。まあ、名前なんて個体を識別する符丁ですから拘る必要はないかと」

「その発言は流石にまずいのでは……」

「そうですかねぇ?」

 

山田先生の意見を受けても態度は変わらない。

野庭先生は相変わらず我が道を行く人だ。

 

「貴方の私見はともかく、白式を間に合わせたというのはどういう意味です?」

 

千冬姉ばりに視線を鋭くして御雷先輩は若干低い声で野庭先生に尋ねる、というより問い質す様な調子で話しかける。

 

「まさか間に合わせの出来にしたというのではないでしょうね」

「否定はしません。本来なら一次移行の完了、拡張領域の確保、一夏君とコアとのリンクとパーソナライズ。最低でもこの位はやりたかったのですが、私やこの学園にも色々事情がありましてね」

「言い訳ですか。貴方らしくもありませんね」

「あ、あのぉ……」

 

鍔迫り合いの様な雰囲気に山田先生はハラハラしていた。俺もそうだが。

 

 

開始ブザーがアリーナ中に鳴り響く。

 

「行きますわよ!」

 

セシリアの宣言と同時に彼女のISの背中から何かが飛び出して来た。

あれは一体……!?

 

「何をしている一夏!距離を詰めんか!!」

 

箒の怒声で俺ははっと我に返るも先手を取られてしまった。

ピシュン、ピシュンと高音が聞こえてくるや否やシールドエナジーが減少していく。

 

(どこから撃たれた!?)

 

俺は咄嗟に撃たれた方向、俺から見て左斜後ろを振り返ったがそれがいけなかった。

 

「……素人ですわね。照準内(ターゲット・インサイト)」

 

セシリアの宣告と同時に咄嗟に身を捻るも、肩口を掠めた光がシールドエネルギーを更に削った。

 

『シールドエネルギー残量77%』

 

「何をしている一夏!!一方的に押されているぞ!! 野庭!どういう事だ!!

いい加減な調整をしおって!!」

「わ、私は悪くありませんよぉ〜!?」

「まあまあほ〜ちゃん。落ち着いて〜」

 

箒は野庭先生を怒りのあまり締め上げ、のほほんさんが宥めていた。

 

「素人なのはお互い様だな。

わざわざ撃ちますよ。なんて声がけするだなんてよ」

「あら、慈悲深いと言うべきでしょ?

ワンサイドゲームでは貴方のガールフレンドに気の毒ですもの」

 

セシリアを挑発しようとしたが、効果はなかい。俺の言いがかりに対しても彼女は悠然とした態度を崩す事はなく、距離をまた取られてしまった。

 

「では改めて参りますわ!」

「くっ!」

 

正面切って構えたライフルを警戒した瞬間、四基のビットの一つが真下から迫ってきた!

 

「くそっ!真下だと!?」

「おーっほっほっほ!!真下に注意を払わないだなんて……!空中戦闘のなんたるかもご存知ないようですわね!!」

 

セシリアは高笑いしながらビットを巧みに操作、更には狙撃銃らしきライフルのビーム弾を連射型に切り替えてきた。

なんとか装備されている『雪片弐型』でガードはできたがビットから放出されたレーザーはそうもいかなかった。

 

『シールドエナジー残量65%』

 

「これでは試合というより狩りになってしまいましたわ。しかし、古来より紳士や淑女は狩りに興じるもの。ごめんあそばせ」

 

セシリアは舌なめずりせず優雅に微笑む。

その姿は、本人が言う通り獲物を追い詰める貴族の狩人だった。

 

「……」

 

千冬姉の視線が険しい。俺のふがいなさに愛想が尽きたのだろうか……。

やっぱり俺の努力は付け焼き刃にすぎなかったのか……?

 

「一夏君!晦ましを真に受けてはいけません!!」

 

身も心も縮こまりそうな俺に喝を入れる様に叫んだのは御雷先輩だった。

 

「晦ましとは随分な言いようですわね」

 

 

セシリアは御雷先輩の方を見てわざわざ言い返した。晦まし……?

俺が訝しむと会場からどよめきが起こる。

 

「一夏くん、押されっぱなしじゃない!」

「このままじゃ負けちゃうよ!」

 

そんな中、相川さんが口を尖らせた。

 

「じわじわ甚振るなんて、性格悪〜。

見損なったよセシリア!」

 

 

「そうだ!そんな弱者を甚振る戦い方がクラス代表に相応しいと思っているのか!

……一夏のどこが弱者だ!!」

「私に凄まれても困るなぁ〜……」

 

箒が腕を組みながら叫ぶ。

あと、のほほんさんなんかゴメン。

 

「そうだー!卑怯だぞー!」

「陰からビットを使ってこそこそやるなんてズルいぞー!」

 

突如巻き起こるブーイングの嵐。

するとクラスメイト達をセシリアが鋭く睨み返した。

「お黙りなさい!何も知らない外野が好き勝手なことを言わないでくださいまし!

私、セシリア・オルコットは常に優秀でいなければならないのです!!」

 

常に優秀でいなければならないか……。

 

「待てよ。別にビットを使っちゃいけないなんてルールには無かったぜ。

それに、丁度いいハンデじゃないか!

なあ皆!!あっはっはっは!!」

「……この私を愚弄するおつもり!?」

 

俺は皆の周りに生じたイヤな空気を吹き飛ばすべく大笑いしながら強がる。

バカ丸出しだろうけどそれでいい。

 

 

「ああ、あの馬鹿者め!この空気の中でセシリアがビットを使うことを控えれば勝機はあるのに!」

「けだし正論です。 ですが貴方が愛してやまない織斑一夏はその様にこせこせした醜悪な勝利など望まない快男児ではなかったのではありませんか?」

 

やきもきしていた箒だが沙耶の正鵠を射る発言に仰天した様に目を丸くし、赤面した。

 

「あ、愛っ!?」

「違うのですか?」

「ノーコメントだっ!!」

 

箒はぷい、と沙耶から顔を背けるのみだった。

 

「愛だの恋だの浮かれ話をする軽薄さがお前にあったとはな」

「一夏君の影響かもしれません」

「……まあいい。織斑め。いつもの悪い癖は出ていない様だな」

「手を握ったり締めたりする癖ですか?」

「ああ。ヤツは調子に乗ると弱いが……

開き直った時は私の手に余るほど強い」

 

目視するには超人的な視力が必要な距離であると言うのに、千冬ははっきりと言い切る。その目には不出来な弟を謗る雰囲気はまるでなかった。

 

 

『シールドエナジー残量64%』

 

「ハンデが何ですって!?

私のブルーティアーズに対処できない愚か者が偉そうに!!」

「掠った位で対処できないは酷いぜ。

それはそれとして随分攻撃的な口調になったな。狩りは淑女の嗜みなんだろ?」

「……おのれっ!!」

 

激高したセシリアはスターライトMark IIIの最大出力を解放、ライフルというよりキャノン砲に等しい出力に等しい閃光が放たれた。

だが、武器は撃てば当たるものでもない。

況してやビットからのレーザーが止まり、

セシリア自身狙撃の構えを崩さない。

いかにも『これから必殺技を放ちます』という動きを見せて当たってくれるのは精々決まった動きしか出来ない的位のものだ。

 

「かわされた!? どうして!!」

 

しかしセシリアは激昂のあまり基本的な事を忘れていた。

 

 

(……そういうことか。これではっきりしたぜ。)

 

さっきも今も射線上にビットは存在しない。

ビットを射線に置けばフレンドリーファイア、即ちビットをセシリア自ら破壊する事になる。

 

(こいつは、自分のビットを傷付けたくない。勝ち方に拘り過ぎてるんだ)

「ならば……!」

「左斜後ろにビットを置く……だろ?」

「!? しまっ……」

 

セシリアが動揺するなか、

俺は雪片弐型を構えながら左斜め後方に移動した。

するとどうだ。

まるで吸い込まれたかの様に刃へとビットが移動し自分から突っ込んできた。

 

「勝つことは大事だけどさ!」

 

空中だが足に力を込める。

 

「勝ち方に拘って戦いなんかするもんじゃないぜ!」

 

そして一気に踏み込む。

頭に浮かんだのは、この二週間の稽古。

箒の鋭い踏み込み。

沙耶先輩の一切の無駄がない加速。

 

(イメージしろ。あの一歩を。)

 

瞬間。

 

白式が弾けるように加速した。

 

「なっ――!瞬間加速(イグニッション・ブースト)……!?」

 

一気に距離を詰める。

 

 

 

「ですが、甘いですわ!」

 

セシリアのブルーティアーズの膝から隠し玉のビットが放たれる。先端が鋭く尖り、小型ミサイルとなって白式へ襲い掛かった。

 

「やっぱり!」

 

俺は叫ぶ。

 

「カウンター狙ってたんだろ! その手は経験済みだ!」

 

腰から鞘を引き抜き、力任せに投げつける。

 

回転しながら飛んだ鞘が一基のミサイルと激突し、爆発。誘爆した衝撃で残りのビットも軌道を乱した。

 

「しまっ――」

 

その隙を逃さない。

 

『零落白夜、発動』

 

純白の刀身が光を纏い、流星の様に煌めく。

 

俺が雪片弐型で斬りかかる刹那、セシリアは目を見開く。その怯えた表情が目に入った。

 

「――っ!」

 

 

(違う。)

 

俺が斬るべきなのは。

 

白刃の軌道が僅かに変わる。

 

斬撃はセシリアを避け、その手にあったスターライトMkⅢだけを真っ二つに断ち切った。

 

乾いた金属音と共に真っ二つに切り裂かれたライフルがアリーナへ転がる。

 

「あ、あれ!?絶対防御は!?」

「零落白夜に対しては発動しません。あれはアンチISともいうべきものですから」

「アンチIS!?」

 

 

 

ブルー・ティアーズも、ゆっくりと空中で停止する。

 

俺は刀を下ろした。

 

「剣道なら、武器を失った時点で負けだけど。」

 

静かに問い掛ける。

 

「……どうする?」

 

セシリアは砕けたライフルを見つめたまま、唇を噛む。

 

やがて、四基のブルー・ティアーズが青い光となって消えていった。

 

深く息を吐き、彼女は顔を上げる。

 

「……私の、負けですわね。」

 

その言葉が響いた瞬間、アリーナは大歓声に包まれた。「勝った!」

「一夏くんが勝った!」

「やったー!」

 

 

アリーナが揺れるほどの大歓声。クラスメイトたちが立ち上がり、手を叩き、抱き合っている。箒は腕を組んだまま、小さく「ふん」と鼻を鳴らしたが、その口元は微かに緩んでいた。

 

セシリアはしばらく呆然としていたが、やがて深々と頭を下げた。

 

 

「……見事でしたわ。私の完敗です」

 

「いや、そんな」

 

俺は慌てて手を振る。

 

「俺もギリギリだったし。それに、ライフル壊しちゃって悪い。あれ、専用機の武装なんだろ?」

「……構いませんわ。」

 

セシリアは顔を上げ、真っ直ぐに俺を見つめた。その青い瞳には、悔しさよりも不思議な輝きが宿っている。

 

「それよりも。なぜ最後、私を斬らなかったんですの?」

「え?」

「あのまま振り抜けば、より確実に、より派手に勝てたのではなくて?」

「う、う〜ん……」

 

俺は少し考えてから、答えた。

 

「だって、お前の顔が気になってさ」

「私の……顔?」

「ああ。すげぇ怖がってた。本気で怯えてた」

 

セシリアの肩が、ぴくりと震える。

 

「だからさ、そんなお前を斬るのは違うかなって。勝負には勝ちたいけど、相手を怖がらせて勝つのはなんか違うと思ってんだ。俺は」

 

「……。」

 

彼女はしばらく沈黙したあと、突然くすりと笑った。

 

「……あなた、本当に変わってますのね」

「よく言われる」

 

肩を竦めると、セシリアは一歩前に進み出た。

 

「織斑一夏……さん」

「ん?」

「私はイギリス国家代表候補、セシリア・オルコット。今度とも宜しくお願い致しますわ」

 

改まった口調に、俺は背筋を伸ばし、

差し出された右手を掴み、握手した。

彼女は少し恥ずかしそうに視線を逸らし、言葉を選ぶように続けた。

 

「温かい手……ですわね」

「そうか?」

「……私は今まで、オルコット家の名に恥じない戦いだけを考えてきました。でも、それだけでは駄目だと、あなたが教えてくれました」

「セシリア……」

「だから、どうか。貴方の戦い方を学ばさせて下さいな」

 

その手が、微かに震えていることに気付いた。彼女にとって、これがどれだけ勇気のいる行動なのか。プライドの高い彼女が、自ら教えを乞うている。

それがどれだけの勇気がいることか、俺はなんとなく察した。

 

「学ぶだなんて、そんな大層なもんじゃないけど。俺で良ければ、一緒に訓練しようぜ」

「……ありがとう」

 

セシリアが微笑む。それは初めて見せる、心からの笑顔だった。

その瞬間、アリーナにアナウンスが響き渡る。

 

『勝者、織斑一夏。これを持ちまして本日のクラス代表決定戦を終了します』

 

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