インフィニット・ストラトス Trinity B 作:ぷうち☆りん
第7話 上海ハニー・ゴーダウン
「な、何だよこれは……」
「な、何なんですのこれは……」
俺とセシリアは顔を見合わせるまではしなかったが黒板に書かれた選挙結果に対して言葉が出なかった。
一年一組 クラス代表
織斑一夏 七
セシリア・オルコット 三
御雷沙耶 二十
「待て!何だこれは!! 何故御雷がクラス代表に選ばれている!」
いきなり叫びだしたのは箒だ。
箒は結果に不満があるみたいだが、俺はそんなに結果への不満はない。びっくりはしたけどな。
何故なら……。
「だって沙耶お姉様強いし〜。カッコいいし〜」
まあ、そうだろうな。
「面倒見もいいし〜、優しいし〜」
これも当然だな。
「千冬お姉様にそっくりのクールビューティーって感じが素敵〜!私もコーチングされた〜い」
いや、あの人結構天然だし。
千冬姉も家じゃぐうたらしてるぞ。
あと二人からのコーチングは半端な気持ちで受けるのはオススメしない。
「それで〜、沙耶さんはど〜するの〜?」
「一夏君に入れた私としては……うーん……。
でも結果は結果だし」
相川さんとのほほんさんが御雷先輩に確認するかの様に話しかける。
そう言えばのほほんさんは御雷先輩を渾名で呼ばないな。
「御雷。どうするかは貴様の勝手だ」
千冬姉、もとい織斑先生が空気を引き締めるかの様に御雷先輩へと言うなり、彼女はこくりと頷き、壇上に立った。
「申し訳ありませんが私は辞退させて頂きます」
「えっ?」
「どうしてですの?」
俺よりも先に意外とセシリアがワケを尋ねた。
まあ、決選投票をするにもこのままじゃ釈然としないもんな。
「はい。理由は勿論あります。実は……」
「実は……?」
俺たちは思わず固唾を飲む。
その位先輩の表情は真剣そのものだった。
「私は7留しているからです」
「……」
「私はクラス代表とは皆の模範になるべきものが適任だと考えています。
まさか皆さんに私を模倣して7留しろ、というのは問題でしょう」
俺たちは危うくずっこける所だった。
「お、お待ちなさい!貴方、本当に7留しておりましたの!?」
「はい。恥ずかしながら」
「何故誇らしげですの!せめて恥じらう素振りをなさい!」
「おお〜、セッシーのツッコミはキレキレですなあ〜」
のほほんさんの合いの手に織斑先生は口元を抑えていた。あれは笑いを堪える時のクセだ。
「ホントに7留だったんだ……。沙耶さんって成績もいいし、ISに2000時間も乗れるのに……」
「私達ホントに卒業できるのかなあ……」
と、一部から不安の声が漏れ出す。
すると御雷先輩は堂々と言った。
「皆さんならできます」
何だか本当にできそうな気がするから不思議だ。
こういうのをカリスマというのだろうか?
「あの、やっぱり御雷先輩が適任じゃないかと」
「何だ織斑。貴様は御雷の決定に異議があるのか」
「一夏さん。本人が辞退したいと言っているのです。無理強いは紳士の振る舞いではありませんわ」
「そうだそうだ〜」
「そうだそうだ〜」
織斑先生とセシリアはともかく何故か相川さんとのほほんさんにまでダメ出しを受けてしまった。
「待て、一夏さんとは何だ」
「あら、一夏と呼んでも差し支えないだなんて。
これはお墨付きを頂けたと見て宜しいかしら?」
「宜しくない!」
何故かふふん。と鼻で笑いながら胸を張るセシリアに対して箒は食ってかかる。
(お墨付きって何だ? 呼び捨てのお墨付きって事か? イギリスは礼儀作法に厳しそうだし色々気を遣ってくれたのかもな)
「俺は別に呼び捨てでもいいぞ?俺もセシリアって呼べば問題ないだろ」
「はい!喜んで!」
「問題しかないわ!バカ者!」
「じゃあ私も清香って呼んで!」
「私はのほほんさんのままで〜」
「私も沙耶先輩で構いませんよ」
「私も一夏って呼びた〜い!」
「私も呼び捨てにされた〜い!!」
「お待ちなさい!あなたがたは一夏…さんと
何の関係もありませんわ!」
わいわいといつもの様に姦しいクラスの輪にいつの間にやらセシリアも入っていた。
「でも別に名前なんて好きなふうに呼んでくれて構わないんじゃんないか?」
「そういう問題ではない!黙っていろ!」
「そういう問題ではありませんわ!お下がりくださいまし!」
仲違いしていたかと思ったら同時に矛先が向いてきた……!? どうなってるんだ!?
ISはまあまあコツを掴めたが、女の子の事はまるで掴めない……!
修行しろったってどこですればいいんだ!?
〜
場面は変わり、一年二組。
一年一組のクラス代表が決まった事は当然話題に登っていた。
「見た見た!?静虎ちゃん? 一組の織斑君の試合! こうバーッ、と言ってズゴーン!ってさ!」
未だ興奮が収まらないのか女子生徒は身ぶり手ぶりを加えて一夏とセシリアの試合を思い返していた。
「ええ。あれは瞬間加速ですね」
「へー、あれがそうなんだ!やっぱり千冬先生の弟だからかなあ。才能があるっていいよね〜」
うんうん、と女子生徒は一夏の才能を手放しで評価する中、静虎と呼ばれた少女は目を閉じたまま先の試合を思い出していた。
とはいえ、クラスメイトの様に軽薄な感情に基づくものではなかったが。
(織斑一夏……。2週間で瞬間加速を実行できるなんて……。日本男児も侮れないわ。
それにしても2週間とは。その速さで瞬間加速を会得できたのは私の知る限り彼女だけだと言うのに……)
静虎が思い出していたのは彼女と同じく中国代表候補の少女の事だ。機体調整の関係で転校は遅れてはいるが近々この学園に編入してくるという。
「そう言えば静虎ちゃんはクラス代表にならないの?」
「ええ、今のところは……」
(私の力は祖国のためにあるべきもの。 今はまだ藪から飛び出る時ではない。虎はやおら吠え立てはせず、静かに伏せるべし)
〜
場面は変わり、一年三組。
「そう言えば一組で織斑君がクラス代表になったんだって〜」
「へえ〜。やっぱり千冬先生の弟だから?
男のくせになんか生意気じゃな〜い?」
「そう言えばさ。織斑一夏って篠ノ之博士の妹とデキてるんでしょ?
だから同じ部屋だし、博士の伝手で専用機も貰ったって言うじゃん」
「え〜、何それ。キッショ!」
(気色悪いのはテメーらだよ)
何やらカエルがゲコゲコ鳴くかの様な一夏を貶める発言、もとい不協和音を鳴らすその一団を九印 芥は白けきった表情をしたまま横目で見ていた。
「ちょっと!何見てるのよ!」
「あ? 見られたら困ることでもしてんのか?
オレの目つきに文句あんならいつでも受けて立つぜ?」
「い、行きましょ!あんな乱暴な子に構ったら私達まで下品になるもの!」
「そ、そうね!」
ジロリ、と一瞥しただけでヘビに睨まれたカエルの様に件の女子達はすごすごと引き下がった。
(やる気ねえなら突っかかるな……。
それにしてもあの織斑一夏っての……。
瞬間加速は大したもんだが代表候補になろうとするレベルのヤツなら誰だって出来る。
その程度で持ち上げられるのは確かに笑えるわな)
笑う、というより猛犬や狼が歯を剥く様に芥は口元を歪めて、手を後ろに組む。
(ま、オレがキョーミあるのは……箒の方なんだけどな)
嘗ての全国大会で彼女から受けた屈辱を思い出している割にその表情はどこか楽しげに見えた。
ー
場所は更に変わり、一年四組。
(ねえねえ、聞いた?一年一組の代表の話?)
(うん。確か簪さんの研究スタッフを皆引き抜かれたんでしょ?)
(えー、何それ?ヒドくない?簪さんって確かあの人の妹でしょ?なのになにも言わなかったの!?)
(かわいそー……)
今の簪にとって同情の視線に晒されるこの教室はある意味針の筵に等しいものであった。
(私は……可哀想なんかじゃない!)
誤解されるのはともかく憐れみの視線を受けるは彼女のプライドが許さなかった。
だから打鉄弐式の完成を急ぎ、今もこうして教室内で打鉄弐式の機動プラグラムの作成を行なっているのだが……。
「ピー!ピー!」
突如小鳥のさえずる声が聞こえ、更にパソコンに何やら手乗り文鳥程の鳥型ロボットが降り立ったではないか。
「な、何……?」
「あ〜、デコスケ!イタズラは止めなって〜!
お姫ちん困ってんじゃ〜ん」
(お、お姫ちん……?)
ひどくぞんざいな声に簪は固まる。
更に今まで姫などと呼ばれた事もないしそんな自認もない。
声の主に視線を向けると彼女はニカッと笑ってみせた。
「どしたん?さっきまでのプログラミングバチきまZだったじゃん?続きやらんの?」
「ば、バチきまZ……?」
いきなりのギャル語である。
ある意味異星人の襲来に簪の手は止まる。
すると少女はまるで自分の席に座るかのように他のクラスメイトの椅子を持ち出して側に座る。
「そ、バッチリ決まってるって意味!」
「な、ならそう言えばいいじゃない……」
「それな!」
(あれ……?普段の私ならそんな事ないって卑屈になっちゃう筈なのに……)
「それはそれとして織斑どう思う?
あの瞬間加速つよつよじゃない?」
「あれは……大したことじゃない」
「ほーん、そのココロは?」
「それより注目すべきなのは、鞘を投げてビットに対応した所……。ISの性能を引き出すのに一番大事なのは、カタログスペックより本人の発想力だから……」
「あー、わかるわかる!ケツから言ってISデコはフィーリングっしょ!あーしはお姫ちんしか勝たんわ!
あははっ!」
「あの、貴方の名前は?」
「あれ?あーしの事覚えてないん?
本家のパーティーで会ったのに……つらたん……」
ガクリ、と肩を落とす彼女に先の鳥型の小型ロボットが励ますかの様にスッ、と降り立った。
「ごめん……私、人見知りだから」
「ま、いっか!あーしは識宮結!よろしこ!」
「よ、よろしこ?」
何を言っているのかは解らないはずなのに何故か簪の心は和らぐ。少なくともこの馴れ馴れしいクラスメイトに敵意を抱くことは何故かなかった。
ー