マルフーシャを利用しようとして逆に利用される士官さん 作:アルバート元中隊長
1話 野望の始まり
最高指導者を頂点とし、世界有数の軍事大国と名を馳せるカゾルミア。
広大な国土と強大なエネルギーを秘める電熱線製の兵器によって周辺国を脅かしていた。
しかし、そんな軍事独裁国家を放置するほど周辺国は甘くなかった。
《国軍は敵国との戦いにまたも大勝利!快進撃を続けています!》
国営テレビ局が流す朗報の情報は、大半が嘘と言っても過言ではない。
だが、誤情報と心構えしか知らせない国営ラジオ放送を聞くよりはマシだった。
(ああ、しんどい……)
カゾルミア国防人民委員部 補給局に所属する局員は、戦争の現実が良く分かる。
油の1滴は血の1滴、1滴たりとも無駄にできない部署なのだからこそ嘘で誤魔化せない。
虚報に惑わされて必要最低限の物資が現場に到着しなければ、戦争どころではないからだ。
(第13地区は……今回の門衛は優秀だな)
連合国が主力とする機械兵は、都市地区の門を破壊する事を最優先としている。
故に門の修繕工事の物資を輸送する者として門衛の情報はチェックする。
40日前に門衛になった少女は、『完璧な衛兵』という評価を得たと知った。
(マルフーシャ……自分の給料で仲間を雇うのは良いが……)
徴兵された者は上から指示された通りに動くしかない。
軍事組織に所属している以上、それは絶対である。
だが、金を出して同僚を自分が所属する部隊に勧誘する事は可能であった。
(何人雇っているんだコイツ……)
これは兵士の貯金を減らす為だけではない。
金の信用問題を兵士間にもたらす事で経済の活性化と反乱を防ぐ意図がある。
ただでさえ税金で給料の大半が控除されている以上、下級兵が金を欲するのは当然だ。
それに更に税金を取り立てる事ができるので上層部も見逃しているので裏技だが合法であった。
ところが、マルフーシャは40日間で5名も雇っていた。
(相当、金欠だろうな…)
この国では、国民皆兵制度の影響で拳銃が無償で支給されるが、それ以外の武器は自費で買う。
消耗品の武器を購入しつつ不特定多数の同僚を勧誘し続けた彼女は、よっぽどお人好し。
もしくはただの馬鹿か。
(……このままだと13地区も陥落するな)
第13地区の補給担当をしている者としては、少しでも時間稼ぎをして欲しいと考えている。
2年前に3等級国民に昇格できていなければ、今頃は同期と同じく激戦区で戦死していただろう。
そうならなかったのは、当時の防衛都市が敵軍の猛攻に耐えてくれたおかげである。
そして、ここが敵軍に陥落すれば、近隣都市の兵站計画に大きな変更が発生する。
(やるべきか?)
既に彼女たちが捨て駒なのは分かっているが、このままだと1ヵ月も持たない。
下手すれば、今度は自分を捨て駒として戦地に飛ばされる可能性がある。
地図と計画表を睨めっこしていた局員は絶望的な未来を思い浮かべてしまった。
「アルバート君、どうしたのかね?そんなに思いつめた顔をして……」
「連隊長、ご相談があります」
そう考えていると連隊長から声が掛かった。
よっぽど自分の表情が酷かったと後悔しつつ、彼は上司に提言する事にした。
「なにかね?」
「第13地区ですが、近ごろ敵軍の襲撃が激しくて物資の補給が間に合っていない状況です」
「なるほど、それで?」
「13地区は防衛ラインの再構築に必要な都市です。更なる支援が必要となります」
中隊長から提言を受けた連隊長は少しだけ唸った声を漏らす。
彼としてもここは敵軍に陥落させたくないのだが、上層部がそれを認めてしまっている。
最低限の物資と兵器、兵力で守らせて少しでも敵主力部隊の侵攻を抑える意図は分かっていた。
「そこまで言うなら中隊長、君が出向いて第13地区が戦略的に重要な事を示したまえ」
「……小官が、上層部に都市の重要性を示せ……と?」
「そうだ、結果だけが全てだ。結果を出せないのならやる必要がないだろう?」
幸いにも早急に部隊と物資を手配すれば、第13地区を守り切る事は可能である。
なにせ国内でも有数の地下水に恵まれており、二重の防壁は要塞基地に匹敵する。
それに第13地区の住民を徴兵し、補給を絶やさなければ1年は防戦できる。
そう考えて提言したら逆に上司に提言されてしまった。
「それに君が結果を出さなければ、君の伴侶が激戦区に飛ばされる可能性だってある」
「はい、我が国は男女平等でありますからね。誰もが勝利の達成のために身を捧げます」
この国では、最高指導者のお言葉に疑問に感じる事は許されない。
勤労と納税の義務は、幼児以下の年齢を除いて全員に課せられる使命だ。
だから伴侶が軍部の判断で最前線に送られても抗議は出来ない。
(つまり、死ねって事か)
国の方針に異論を唱えたせいでアルバートは自分の死期を悟った。
近くに居た同僚の視線は痛く、上司の顔から首にかけて直視する事しかできない。
「承知しました。第13地区の重要性を示す為、出向いたします」
事実上、自分の処刑命令書にサインしてしまったと自覚するアルバートに動揺はない。
先延ばしにしていた席に座っただけと考えるしかなかった。
「よろしい、すぐに出向の手配をしよう」
真面目にやったせいで業務の引き継ぎすらさせてくれなかった。
もはやこの部署に自分の席は無かったのかもしれない。
「おめでとうございます。中隊長から地区防衛補佐官になるなんて栄転ですよ!」
オフィスの受付嬢から皮肉とも受け取れる発言を受けて苦笑いするしかなかった。
何が楽しくて自分の死地に向かって異動せねばならぬのだ。
そもそも出向どころか、司令官として栄転する話になっており、意味が分からない。
そう考えて声に出そうとするアルバートは必死に堪えて我慢し、オフィスから出た。
「今日も曇りか……」
外に出てみれば電熱線による動力で照らす光源以外に光は見えない。
既に民間施設と住宅は消灯しており、辛うじて闇を照らす街路灯が自分の末路を知らせる。
「祖国の為、頑張りますか」
幸いにも輸送機と私物の持ち出しは許された。
どうせお偉いさんに奪われると分かっていながらも徴兵組より恵まれている。
そう考えるしかなかった。
(後悔する事があるとすれば……ポリアンナに事後報告になってしまう事か)
2年前に結婚したのに双方とも軍人なので同居生活をまともに送っていない。
最後に出会ったのは半年くらい前となる。
この国では当たり前の事であり、むしろ夫婦生活が円満に送れるほうが難しい。
ここから先の事は、ほとんど覚えていない。
「アルバート地区防衛補佐官殿、お待ちしておりました」
輸送機を操縦し、第13地区の滑走路に着陸した時に正気に戻った。
格納庫に輸送機を駐機して床に足を着けると金髪の女兵士が出迎えてくれた。
「憲兵のライカと申します。この度は…」
「ああ、結構だ。事前の打ち合わせ通り、地区防衛責任者と面会させてくれないか?」
「承知しました」
金髪を2つに分けて結んでいる女兵士は真面目そうな子であった。
雰囲気からして上級等級の出だと分かるが、彼女も切り捨てられる兵士に過ぎない。
(他人ごとじゃないがな……)
たった今、アルバート元中隊長も彼女と同じ立場になった。
むしろ、破滅を理解しているから余計に質が悪い。
妻へ手紙を送らせる許可すら下りなかった彼は無言で憲兵の後を追う。
「よく来てくれました。アルバート殿」
「地区防衛責任者殿、お元気そうで安心いたしました」
アルバートから入室すると、責任者としての立場を投げ出したい男がそこに居た。
第13地区で最も安全な場所である執務室が綺麗な牢屋に見える。
「いえいえ、優秀な将兵の頑張りのおかげですよ」
照れ隠しのように頬を指で掻く責任者だが、本心は既に分かり切っている。
(そうだな。お前、味方を見捨ててとっとと脱出する気だもんな)
輸送機でここに到着した時には、外門は既に機械兵に突破されていた。
明らかに戦況が悪化しているにも関わらず責任を取りたくないので隠蔽していたようだ。
「それにアルバート殿が加わってくれるのであれば百人力、すぐに引き継ぎを行ないます」
この場には、とっととこの街から逃げ出したい気持ちを隠す気が無い第13地区防衛責任者。
さきほどの女憲兵の上司、その上司である地区防衛補佐官、カゾルミア国防人民委員部の支部長。
その他、3等級国民以上のお偉いさんが集っていた。
(ああ、この都市はもうダメかもしれない)
もしかしたら連隊長殿は、この事実を見抜いていたかもしれない。
誰かがババを引く事を願ってあえて自分に提言させたかもと考えてしまうほどだ。
アルバートは引き継ぎの説明を受けながら自分の死期が近い事を知った。
「アルバート地区防衛補佐官、急な指揮系統編成に驚いておりますが何かあったのでしょうか?」
「上層部の命令に不服があるのか?」
「いえ、違います!階級が格下である我々の直属の上司となると知って動揺しておりました!」
引き継ぎが終わって部屋から出るとライカから当然の疑問が口から飛び出してきた。
なので無難な返答をする。
(そうなるわな…)
この国では国民等級を1つ上げるのにも一苦労するのに最底辺に転落するのは容易である。
上官の機嫌を損ねるだけで、人権が付与されない10等級国民に転落する事があり得る。
急な人事に驚きを隠せず上官に問いかけてしまったライカは慌てて失言を誤魔化した。
「……さて、爆発音だ。報告よりも被害が甚大のようだな」
「え?は、はい。大型自爆機械兵によって外門が突破されました」
大本営発表では、第13地区を目指す機械兵は正規軍が討ち漏らした存在とされている。
実際は、第13地区を陥落させようとする特攻兵器が戦力の随時投入を行なっているところだ。
いっきに攻め落とさないのは、それほど守備隊と住民の士気を挫くのが目的である。
「まだ防衛できているが、このままだとまずいと上が判断してな。私が派遣された」
それに機械兵の材質は兵士が想像するより遥かに脆い。
徴兵された少女が拳銃を何発か発砲するだけで小型機械兵が大破するほどだ。
「こう見えても機械工学を修めて補給部隊にコネがある。多少は力になるだろう」
どちらも役に立たないとは言えなかった。
在籍していた第6補給連隊には頼れないし、機械兵の実物なんて触った事も無い。
「それに門衛である君たちに力を貸す事ができる」
非効率と判断されて研究が停止した電熱双剣の柄を握りつつ爆発音に向かって歩き出す。
「え、ええ?まさか防衛戦に参加なされる気で!?」
「もちろんだとも、職務の前に勤務地が破壊されたら困る」
ライカの呼びかけに感謝しつつもアルバートは参戦する気満々だった。
むしろ、自分の力を門衛に示せる機会を探しているまであった。
「お待ちください!上官殿が参戦する必要はございません!」
彼女の好意に感謝しつつ内門を目指すと超大型機械兵の姿を門上から見下ろす事ができた。
守備兵が応戦しているようだが、背後から射出された大量の爆弾。
更にそれを援護するかのように飛来する小型飛空機械兵の迎撃に手古摺っているようだ。
「3年前の激戦を思い出すな……」
試作品の反推力ブーツで無事に門上から地面に降り立ったアルバートは超大型機械兵に向かう。
「ええ!?この高さから飛び降りて何で無事なの!?」
追って来た女憲兵が驚きの声を出しているが、もはやどうでもいい。
それどころか刃物や銃で武装した機械兵すら脅威ではない。
砲身が短い大砲に垂直に交わって回転する円盤の動き。
門衛が発砲する弾や砲撃の方が厄介まであった。
「ほう?」
どうやら巨体と砲塔を支える為に黒色の
内門に大量の誘導弾を射出した後、後退して専用の補給機械兵で弾薬を補給しているようである。
「そこだ!!」
先に超大型機械兵に補給しようとした機械兵を双剣で叩き割った。
更に傍に居た機械兵を薙ぎ払うと面白いくらいに紙細工のように装甲が裂かれた。
予想通り、一部の機械兵以外は低予算で作られた粗悪品。
「やはり防衛は楽でいいな」
圧倒的な物量で押し寄せて砲撃と銃弾を射出する無慈悲な鋼鉄の処刑人とは違う。
大量の死人が出た3年前の戦闘と比較すれば、ここの機械兵は棒立ちの木偶の棒にしか見えない。
プログラム通りに後退した機械兵を支える
更に追撃しようとしたが、誰かがエンジン炉を撃ち抜いたので全力疾走で現場から離れる。
「……いや、こうなっている時点でダメか」
その結果、周囲の建物の窓を割る衝撃を発する大爆発が発生した。
これで大体の機械兵は片付いたが、そもそもここまで侵入されるのは末期に近い。
「はぁ……」
既に外門付近は機械兵だらけであろう。
しかし、そのまま見逃すわけにはいかない。
更に前進しようとするとライカと名乗った女憲兵が合流してきた。
「アルバート地区防衛補佐官、ご無事ですか!?」
「ピンピンしてるよ」
「というか、デカ物を片付けたんですか!?あんなに苦戦したのに!?」
「破壊の仕方にコツがあってな……」
ただ、彼女が過剰反応しているので一旦、退かなければならない。
そう考えたアルバートは彼女に指示を出す事にした。
「一旦、後退しよう。君も周囲を警戒しながら一緒に来てくれ」
「承知しました!」
試作品を魔改造しているとはいえ、いつまでも電熱線ソードを起動するわけにはいかない。
この場に敵が居ないと判断し、双剣を元の鞘に戻し、憲兵と共に門へ向かう。
「あの子か」
門に近づくと呆然とこちらを見つめる茶髪の少女の姿があった。
顔写真は確認していたので彼女が誰なのかが分かる。
「あれがマルフーシャか……」
5等級国民のパン屋から徴兵されて門衛にされた彼女にあどけなさが残っていた。
それと同時に慣れているのか銃器の構え方は軍人そのものである。
近くには彼女の相棒と思われる女狙撃兵が伏せたままガウス狙撃銃を構えている。
「お姉さん、あの方です。双剣を振り回して機械兵を討伐してました」
「えぇ……そんな事あり得るの?」
なにやら会話しているようだが、気にする事はない。
どうせ、また彼女に話しかけるのだから。
「ラ、ライカさん!?なんでここに!?別動隊にいらっしゃったのでは!?」
それよりも女憲兵と知り合いらしい。
彼女の交流関係は不明だが、そこそこの女兵士と知り合いのようだ。
「新たに上官が就任したから護衛してたのよ!まさか最前線に行くとは思わなかったけど!」
確かに本音を言える関係は良いと思うが、護衛対象の前でそれはどうなのだろう。
ただし、それに関して発言する気も無くマルフーシャに声をかける。
「すまないが、開門してくれないか?」
「マルフーシャ、早く門を開けなさい」
「わ、分かりました」
開門の指示を出すと慌ててマルフーシャは開門担当に声をかけていた。
そして開門したのだが、それよりもとんでもない光景が見えた。
(背負ってやがる…負傷したのか?)
何故かマルフーシャは女狙撃兵を背負って帰投した。
背負られている兵士は大した負傷も無くまんざらではないのか。
嬉しそうに身を預けて微笑んでいた。
(いろんな奴がいるもんだな)
祖国の命令は絶対だし、最高指導者の考えも間違いはない。
ただ、こうやって辺境を警備する兵士は機械兵ほど冷酷ではない。
彼女たちは人間であり、祖国の為に戦う兵士の仮面を外せば乙女であるのだ。
(こいつらを酷使して長期戦にするのか……)
ここに来た目的は単純明快。
第13地区の兵士を利用して敵軍の侵攻に時間稼ぎをする事。
なにより、プロバガンダで少女を活躍させて英雄にさせる事。
(やるしかない)
辺境の地に飛ばされた以上、生き残る方法は誰かを蹴落とすのみだ。
少女を英雄にして戦況が好転していると見せれば、大本営も納得してくれる。
「上官殿、お待たせしました。開門しましたので―」
「分かった。すぐに向かう」
自分に嘘をついてでも、この子たちを利用して成り上がってやる。
その為なら自分の手足の1本を捧げてでもやり遂げる所存である。
「あの…ライカさん、この方は誰なんでしょうか?」
宿舎に辿り着くとマルフーシャがライカに見知らぬ軍人について訊ねている。
思ったより、彼女は冷静であり、もしかしたらプロバガンダの意味を理解するかもしれない。
「えーっと……」
「私はアルバートだ。第13地区の支援しに来た士官だ」
「そうなんですか…」
絶対何か勘付いている反応を示す彼女だが、好都合である。
「なるほど、君が私がここに来た理由を察しているのだな?」
「いえ、そういうわけではありません」
「何故、本軍が討伐しそこねた機械兵が日に日に勢力を増しているか疑問に思っているだろう?」
そこで誰もが勘付いている事実をわざわざ知らせてみせた。
マルフーシャは目を見開き、隣に居たライカも驚愕して編入された上官を見つめる。
「何も驚く事は無い。連合国との戦闘に連勝を続ければ、それだけ正規軍と前線が前進するんだ。現状、補給線と前線が伸びすぎて本国の防衛のカバーができないほど兵力不足となっている」
嘘は言っていない。
確かに前哨戦や緒戦では、我が国は圧勝していた。
しかし、いっきに進軍したせいで伸び切った補給線のせいで満足に物資を届けられない。
「だから中級階級を徴兵してでも、一時的な兵員不足を解消しようとしている」
そこまでは同じだが、既に緒戦で活躍した正規兵のほとんどが現世に居ない。
大半が戦死したか、捕虜になったかのどちらかである。
徴兵して時間を稼ぐようだが、もはや戦力の再配置すら間に合っていない。
「それでも広大な国土を防衛するには兵力が足りなさ過ぎる」
カゾルミアの辺境は、かつての敵国かインフラが整っていない過疎地である。
そのおかげで隣国全てが敵対国であるカゾルミアは、なんとか国家として存続できている。
敵国に攻め入るほど補給線が伸びて侵攻が鈍化するのは連合国も同じだから。
「そこで本国は、前線部隊の再編成と守備隊の再配備を行なっている」
劣悪なインフラに苦しめられている間に徴兵した民間人を囮として投入する。
敵国が見捨てられた都市を攻略する間に正規軍の再編成をしているという訳だ。
「ところが、その隙を狙って連合国が機械兵を大量に投入してきてな」
もちろん、移動や編成に手間取るのは祖国も同じである。
緒戦でいっきに敵国の首都を占領するという事で前準備自体はできていた。
ただ、長期戦になるとは想定してなかった結果がコレだ。
「正規軍の再編成が完了するまで機械兵の侵攻は衰える事は無いという事だ」
国民に徹底抗戦と戦争の協力を命じている上層部ほど現状を理解している。
この戦争に勝ち目など無いと。
「…とここまで事情を説明した。何か疑問点がある者は居るか?」
適当に理由を述べてみたが、妄弁じみた発言になってしまった。
とりあえず、疑う者を探してみたが、誰も反論する気はないようだ。
「では先に言っておこう。機械兵の侵攻は更に激しくなる。現状のままだと押し切られるだろう。そこで私が本国の戦力再配備まで耐え抜けるように指揮と支援をする」
もちろん、このまま押し切られれば自分の破滅は見えている。
そこで最前線となってしまった第13地区と守備兵を利用して時間を稼ぐ。
プロバガンダで自分の功績をアピールしつつ、守備兵を使い潰すほど活躍しないといけない。
「君たちが利用する弾薬や食料、物資をここまで問題なく運用できる計画を立てたのは私なんだ。今度は最前線で何が必要なのか選別、制定し、君たちが生き残れるように尽力する所存である」
これも嘘ではない。
自分が生き残る為には道具となる守備兵を最大限活用する事が必要だ。
アルバートはそう考えており、門衛たちを単純に使い捨てる気はない。
「実際に現地に出向いて報告書で見えなかった課題や問題点がすぐに理解できた」
現状や正直な事を素直に報告すれば、祖国から粛清される。
だから嘘に嘘を重ねた結果、兵站担当以外はまともに戦場を理解しようともしなくなった。
「言われた事をやるのは幼児でもできる。だからこそ我々はそれより上を目指すべきだ」
上官や命令に従って任務を遂行し、成功させるのは当然である。
だから防衛任務をこなすだけでは、上から必要以上に評価されない。
どれだけ好成績を叩き出したとしても、便利屋として使い潰されるだけである。
「マルフーシャ、君は英雄になる気はあるか?」
「なんで私の名を…」
「君の活躍は報告書で読んで理解している。だからこそ君に再度問う」
だから最高指導者様に必要な人材として認識させる結果が必要だ。
だが、それをするのは自分ではない。
「正規軍による大規模な攻勢を始める前までに英雄になってみないか?」
「英雄?」
人々は英雄を求めている。
テレビでは快進撃やら兵士の活躍をアピールしているが、映像に出せる実績が無い。
そこで徴兵された少女が大活躍するシーンをアピールして盛り上げるのだ。
野郎では華がなく、民衆の気を惹く事はできない。
「そうだ、正規軍の大規模攻勢が始まる前に自国民に君の名と活躍を知らせるのだ。そうすればきっと君は実家に生きて戻れるし、なにより妹さんに自分の安否を知らせる事が出来る」
「生きて…ってどう意味なんでしょうか?」
「戦争が終わらない限り、戦死するまで実家に戻れないという事だ。それは嫌だろ?」
徴兵された中級階級は使い捨ての存在だ。
それを回避するには、有力者に救ってもらうしかない。
「私なんかが、英雄になれるわけがありません」
「いや、英雄は君が自称するのではなく国民が決める。君はその期待に応える気はあるか?」
ライカも女狙撃兵も心配そうにマルフーシャを見つめている。
少しだけ悩んでいる彼女だが、妹を溺愛しているのを知っている。
「妹さんは軍学校に行くそうだが、この戦況だ。すぐに最前線に配備されるだろう。あえて言う。防衛戦と違って最前線の戦場は、機械兵との殺し合いだ。五体満足で帰れると思わない方が良い」
「でも……」
「別に私は構わない。スネジンカ君も優秀だそうだからすぐには死なないだろう」
わざわざ妹の名を口にして逃げ場がないようにする。
きっと彼女の性格上、答えは限られる。
「分かりました。英雄になります。祖国の危機に立ち向かう英雄になります」
「よろしい、私も全力で支援させてもらう」
彼女はきっと死ぬまで安息を得る事はない。
だが、彼女には英雄として長続きしてもらわないと困るのだ。
祖国が欲している勝利とプロバガンダとなる根拠を示すまで生きてもらう。
「徴兵された君にこれから様々な権限を付与する。その期待に応えてくれる事を期待する」
「分かりました」
まだ子供らしさを残す少女を自分の為に利用するのは、思うところはある。
もちろん、道具はしっかりと手入れするつもりだし、できるだけ彼女の期待に応えるつもりだ。
そうしなければ、彼女は祖国や自分に懐疑的になるとアルバートは理解しているのだから。
(英雄マルフーシャか……プロバガンダになった人物はすぐに死ぬんだよな…)
名が売れればそれだけ敵に注目される。
いや、売名していれば味方からも敵視されて貶められる事が多い。
疑心暗鬼と密告、それらが横行している祖国では英雄など誕生しても長続きしない。
(せめて妹さんと生きて再会できるまでは支援してやらねばならんな…)
こうしてアルバートは、プロバガンダとしてマルフーシャを英雄に仕立てる事にした。
だが、彼は知らない。
彼女は後に本当に英雄として大活躍するせいで無駄に戦争が長引いて犠牲者が増加する事。
なにより、彼女のせいで振り回される自分が胃痛と頭痛に苦しむ事。
最終的に唯一の男性かつ上官として最期まで尽くさないといけないとは想像だにしなかった。
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【カゾルミア国民プロフィールシート】
名前:アルバート
階級:3等級国民
286年 セルゲイ軍学校卒業
288年 従軍中に記した論文が評価され、推薦されたコート陸軍指揮幕僚大学校に入学
292年 コート陸軍指揮幕僚大学校卒業
292年 カゾルミア国防人民委員部 補給局に入局
293年 第6補給連隊 小隊長に昇格
294年 指揮した補給部隊の活躍により、3等級国民に昇格
294年 同僚のポリアンナと結婚
295年 中隊長に昇格し、戦線が悪化した補給局の東部支部に異動
296年 第13番地区守備隊の補給を担当中にマルフーシャの情報を知る
296年 左遷された後、少しでも敵主力を惹き付ける為にマルフーシャを利用する
概要
余計な提言をした為に東部の第13地区に飛ばされた補給担当の士官
父親が優秀な情報将校だったというのもあり、4等級国民だった。
セルゲイ軍学校で5位の成績を修めた為、士官候補生と期待された。
工学と数学を得意とする為、工兵業務をする予定だったが……。
従軍中に記した論文によってコート陸軍指揮幕僚大学校に推薦され入学。
兵站の教育を受けて卒業した後はカゾルミア国防人民委員部 補給局に入局。
2年後の激戦区で戦況を好転させる英雄的な行動で3等級国民に昇格。
同時期に同僚の女性と結婚し、そのまま出世コースに突き進んでいた。
ところが、余計な一言で死地に向かう羽目になったが、彼は諦めない。
左遷先に居た守備兵を英雄に仕立て上げて栄転する為に努力する。
「言われた事をやるのは幼児でもできる。だからこそ我々はそれより上を目指すべきだ」
趣味:計算/剣道
すき:伴侶/故郷
きらい:同期/連合国/食べ物を粗末にする奴
性格:自己欺瞞
身長:162cm
役職:カゾルミア国防人民委員部 補給局第6補給連隊 中隊長
→第13番地区防衛責任者/悲哀な中間管理職
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