マルフーシャを利用しようとして逆に利用される士官さん   作:アルバート元中隊長

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10話 第13番地区 内門前_市街地戦

従来ではありえない光景が広がっている。

大量の機械兵が機能を停止したままその場に残されているなんてありえない。

門を破壊する存在として原型を留める状況は異常である。

その数を全て数え終わるには数日が経過すると感じるほどには放棄されていた。

 

 

(ついに皆、気付いちゃったか…)

 

 

今まで機械兵に銃口を向けられても門衛たちは気にしない。

門を破壊しようとする機械兵の前に躍り出て銃撃で破壊を繰り返した。

だが、今は違う。

 

 

《ほ、報告!!機械兵が!機械兵が我々に向かって発砲を!発砲してきました!!》

《至急、増援を……ああああ゙あ゙あ゙っ!?》

 

 

50分ほど前に垂れ流された無線の交信が兵士に衝撃を与えた。

既に機械兵が兵士を狙っていると知らされたマルフーシャ分隊には驚きはない。

ところが、アルバート指揮官は他の兵に知らせていなかったようだ。

名も知らない女兵士が驚愕し、その場で泣き叫び始めて(うずくま)るほどには衝撃的だった。

 

 

(生き残る為に戦うしかない……)

 

 

その泣きわめく女兵士をマルフーシャは見捨てた。

上官が度々口にしていた『選別』の意味をそこで理解できた。

殴り込んできた機械兵に射殺されて死体を踏み潰され続けるその姿は、トラウマものだ。

確かにいちいち誰かの死を悼んでいるとキリがないと分からされた。

 

 

「みんな、準備はできた?」

 

 

この場に居る7名の兵士にマルフーシャは問いかける。

ライカ以外は全員、なけなしの金を出してタッグを組んだ事がある兵士たちだ。

彼女たちの答えは予測できたが、分隊長としての格を見せる必要があった。

 

 

「マルフーシャ、私たちは問題ない。貴女こそどうなの?」

「ライカさん、私は…いえ、私たち全員、死ぬ気はありません。全力で戦うまでです」

 

 

特にライカ班長には弱みを見せる訳にはいかない。

彼女より先に部隊を指揮する立場になったマルフーシャに迷いは無い。

 

 

「ま、マルフーシャさん!き、来ました!機械兵が来ました!」

「総員、迎撃態勢に入れ!!全員死ぬな!!返り討ちにしなさい!!」

 

 

ビオン一等兵の発言を聞いて分隊長として命令を下した。

この場に転がっている機械兵を盾として新手の機械兵の銃撃から身を守る必要がある。

ただ、真正面から撃ち合う形となってしまうのでマルフーシャはあえて避けた。

 

 

「お姉さま、狙撃の許可はまだされないんですか?」

「もうちょっと待って」

 

 

上級スナイパーライフルを構えるフェリセットに狙撃許可を求められた。

しかし、小型機械兵をいちいち撃っていたらキリがない。

ましてや、誘爆に巻き込めそうな大型自爆機械兵と小型機械兵が合流していない。

 

 

(先に機械兵のスクラップを爆破して道を作る気ね)

 

 

連合軍は、明らかに門の破壊を狙って機械兵を投入して来ていない。

内門前に機能を停止した機械兵があったとしてもぶつかってでも進軍を続けた。

いつもならバリケードを優先して破壊するのにそれをしない。

それを予測していたマルフーシャたちは民家に潜伏しているのだ。

 

 

「まだですか?」

「大型自爆機械兵が小物と合流するまで待って」

「泣いてる兵士さん、あのままだと死にます」

 

 

その証拠に破壊された門前で泣いて無防備になっていた女兵士に射撃を開始した。

わざわざ距離をとって一斉に機械兵が停止し、それから集中射撃を行う徹底ぶりだ。

 

 

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ!?」

 

 

またしてもあの悲鳴。

激痛と共に自分の魂が肉体から飛び出すようなそんな断末魔の叫び。

あの無線を聴いていたはずなのに立ち尽して武器を構える彼女を救えるわけがない。

 

 

「フェリセット、大型自爆機械兵を狙撃」

「了解です」

 

 

機械兵が発砲してきたという事は、そこまでの距離が射程距離となる。

交戦能力が無い兵士が死んだところで戦況そのものには影響しない。

マルフーシャの命令でフェリセットは大型機械兵の急所を撃ち抜いた。

 

 

「ナイスショット、あと4体もお願い」

「はい、お姉さん」

 

 

大型機械兵の誘爆に巻き込まれて後続に居た小型機械兵のいくつかが破損した。

その爆発自体は戦況そのものには影響を与えない。

ただ、今までと違って物陰に隠れて機械兵を攻撃するという意味では正解例となる。

 

 

「エノス、アリビナ。いざとなったらフェリセットを後方に運ぶ。良い?」

「理解、した」

「はいはい、私に次ぐ美少女のフェリセットも人気者だからねー。頑張って運ぶよ」

 

 

戦場ではスナイパーの居場所はバレてはいけない。

市街地ならともかく機械兵をバリケード代わりにしているこの場では攻撃を受けたら不利だ。

よって多少の負傷に動じないエノスと意外と怪力のアリビナに援護を任せている。

 

 

(変だな……)

 

 

マルフーシャの部下たちは全員、分隊長の作戦や行動を疑っていない。

ところがマルフーシャ本人はこれでいいのかと自分の作戦を疑っていた。

 

 

(なんで砲撃が来ない?)

 

 

内門は連合軍の砲撃によって破壊された。

よって内門の前や後方で待機していると砲撃される危険性があった。

だからわざわざ着弾しにくい民家に潜伏したのだが、砲弾が未だに飛んで来なかった。

 

 

「フーシャちゃん、急いで」

「分かった」

 

 

アリビナから移動を急かされた分隊長は、釈然としない現状を疑問に思いつつ階段を駆け下りた。

1階に降りると既に内門の守備隊が銃撃で機械兵に反撃を行なっているところだった。

やはり、あの子を誰も助けなかったのは機械兵の射撃射程距離を測るものだったのだろう。

 

 

「やはり、早い。機械兵を、指揮している。どこかに潜伏してる」

 

 

目の前に居た機械兵を散弾で排除したエノスがさきほどまで居た民家を見る。

最後に残っていたマルフーシャが脱出した直後に誘導弾が2階に命中し、爆散した。

狙撃場所を見抜くなど機械兵には無い機能なので必然的に誰がやったか分かった。

 

 

「…あの狙撃を感知できる場所は決まってる」

 

 

あの狙撃ポイントは、ストレルカと相談して決めた場所である。

大量の機械兵が殺到する大通りが見えてなおかつ砲撃の直撃が喰らいにくいところだった。

すぐにスポッターか、ポイントマンの潜伏場所を暴いた彼女はマルフーシャに居場所を伝える。

 

 

「……また下水道ルートか」

「…射撃の的になりたいなら地上ルートにする」

「痛いのは恐くないけど死ぬのはやだな。地下から行こう」

 

 

地上では機械兵が脅威だが、地下はガスと汚物が兵士の脅威となる。

どんなに洗っても悪臭も汚れも落ちなかった兵服を纏うマルフーシャは決意する。

どうせ、敵が殺しに来てるのでこっちも本気で仕留めると…。

 

 

「敵も馬鹿じゃない。待ち構えていたらどうする気?」

「その時はその時です。私が先陣を切ります」

 

 

ライカ班長から身動きと回避が取りにくい下水道での戦闘を暗に告げられた。

それでもマルフーシャは誰よりも先に下水道へと降りて行く。

 

 

(ビンゴ、やっぱりここでは機械兵は投入していない)

 

 

既に事前調査で大通りの地下でガスが無い事を確認している。

上級アサルトライフルを構えるマルフーシャは一目散に目的地に向かって走り出した。

 

 

(住民が時間を稼いでくれるといいけど……)

 

 

この作戦自体の成功は疑っていない。

問題なのは、徴用した住民が中心として内門跡地の防衛を行なっている。

一度、投降した経験がある住民を戦力不足を理由に守備兵にするのは賭けである。

連合軍のポイントマンを仕留めたところで帰る場所が敵軍に封鎖されては意味が無いのだ。

 

 

(まだ大丈夫)

 

 

事前にルートを確認していたので特に苦戦せずに目的地の梯子前まで辿り着いた。

ここで問題になるのは、梯子を登る時は必ず無防備になるのだ。

フェリセットが狙撃銃を構えて援護してくれるとはいえ、かなり緊張する。

 

 

(いけた)

 

 

直属の上官が激戦を経験した人物で助かった。

今までの自分たちであったら、同じ場所に留まって機械兵を迎撃していた事だろう。

それを見越して連合軍の兵士たちが高台に陣取っている。

 

 

(機械兵は……いない)

 

 

殺人をプログラムされている機械兵が大半の様で護衛として配備されていない。

もしも、マルフーシャの偵察で機械兵の部隊を目撃したら砲撃に切り替える予定だった。

 

 

(好都合!)

 

 

梯子下に居る仲間に合図を送ったマルフーシャは、分隊メンバーを地上に誘導。

分担して運んだ部品を組み立てて60mm口径の軽迫撃砲を地面に設置した。

 

 

(誰が撃つ?)

(私が…)

 

 

作戦はこうだ。

軽迫撃砲による爆発で怯んだ敵部隊に銃を乱射して掃討する。

問題は誰がやるかとなったが、ライカがやる事となった。

 

 

(任せた)

 

 

この戦闘では、敵の動きを読んで見敵必殺するしかない。

少しでも油断すれば逆に自分たちがやられる。

砲撃後の突撃をするマルフーシャは、砲撃したら撤退しろとライカに合図を送る。

 

 

(すぐに戻って来なさい)

 

 

ライカ班長の合図を見たマルフーシャは殴り込み部隊を指揮する。

エノス、ビオンの2人を連れて敵が潜伏する建物の入り口に待機する。

 

 

(撃て)

(うん!)

 

 

マルフーシャの合図を受けて砲撃したライカはすぐに軽迫撃砲を解体した。

そして残った人員で掻き集めた部品をマンホールの中に放り投げた。

 

 

「全く…人使い荒いですね」

 

 

梯子下にはクッションが敷いてある。

落ちて来て衝撃を抑えた部品類をあらかじめ待機していたベルカとフェリセットが回収する。

ライカとアリビナ、ストレルカは突撃部隊の退路を確保しつつ、無事に帰還するのを願う。

 

 

「撃て撃て!!」

 

 

放った熱弾によってドアノブを破壊し、ドアを蹴破ったマルフーシャは銃撃の許可を出す。

狭い室内で熱弾と散弾が飛び交い、奇襲を受けた敵兵は銃弾を受けて倒れ込む。

 

 

「後退!!」

 

 

本来であれば、勝てる敵ではなかった。

第13番地区に潜伏していたスパイが守備隊の戦術を予めて伝えていた事。

あまりにも大規模な機械兵を誘導するには、至近距離まで接近する必要があった事。

 

 

(私たちが馬鹿だからと思われていたから勝った。…次は無い)

 

 

なにより、戦況を俯瞰する為に高台となる建物を利用せざるを得なかったのもある。

相手は陣地に引き籠って機械兵を迎撃するしか能がないと思われてなければ、こうはならない。

連合軍の油断がなければ、マルフーシャたちの奇襲は絶対に成功しないし、二度は成功しない。

 

 

「…今だ、行け!行け!!」

 

 

電熱線を用いた手榴弾を放り投げたマルフーシャは部下に後退の指示を出す。

爆発と共に反撃が止んだ瞬間を見計らって全速力で後退を開始した。

 

 

「はぁはぁ……」

 

 

味方の援護射撃を受けながらマルフーシャたちはマンホールに全速力で向かう。

途中でビオンが転ぶアクシデントがあったが、それ以外は問題なかった。

 

 

「全員、居る!?」

「……全員居るわ」

 

 

再び、下水道管に戻って来たマルフーシャはメンバーの確認をする。

ライカの返答で全員が揃っていると確認した彼女は次の指示を出す。

 

 

「ビオン、梯子の下にスパイクを設置して」

「分かりました」

 

 

全員が無事だと知って安堵している場合ではない。

すぐにでも上から追撃して来る。

だからビオンに黒色に塗ったスパイクの設置を命じた。

 

 

「…次はどこに行く?」

「さっきの廃屋」

 

 

副班長を担うストレルカの質問にマルフーシャはさきほどの狙撃場所に向かうと告げた。

 

 

「…危なくない?」

「むしろ、さっき攻撃された場所に居ると思わないでしょ。さあ、行こう」

 

 

一旦、攻撃された場所に敵が戻って来るとは予想しないだろう。

ましてや、そこを感知する場所を攻撃されて敵軍は放置するしかないのだ。

 

 

「…分かった」

「そうしましょう」

 

 

ライカ班長とストレルカ副班長が同調した事もあり、すぐに指定場所まで走り出した。

エノスとアリビナによって担架で運ばれるフェリセットは上級スナイパーライフルを構える。

後方から迫って来る敵勢力を狙撃するという重要な役目を担っていた。

 

 

「……うわ、すごい数」

 

 

いざ、目的地に辿り着くと大量の機械兵が内門に殺到している。

適当にスナイパーライフルで撃っても、稼働している機械兵に当たりそうなくらいの密度だ。

さすがにここで攻撃を仕掛ければ、どうなるかはパン屋の店員だった子もすぐに理解できた。

 

 

「水……?」

 

 

仕方なく別の場所に部隊を移動させようとしたマルフーシャは気付く。

だれかが建物の貯水タンクを撃ち抜いたのか、地面が濡れていたのだ。

更に上下水道の水道管を破壊したのか水柱がそこらじゅうで噴き出していた。

 

 

「……なるほど」

 

 

空中を浮遊しない機械兵は必ず足を使って移動する。

履帯と違って瓦礫を踏み越えて進む以外にもバランスが取れるという利点がある。

しかし、機械兵から漏れ出した油が水に混ざり合うなら話は別である。

 

 

「意外と戦えてる…」

 

 

つまり、大量の機械兵から漏れ出した油が水と混ざって地面が滑りやすくなっている。

その影響で先に進軍していた機械兵が転んでしまい、進軍を妨げた。

更に機械兵には致命的な欠点がある。

 

 

(指揮している人が凄いのかな)

 

 

機械兵は攻撃を仕掛ける前に必ず停止する。

では、攻撃する動作ではないのに予期せぬ転倒をすればどうなるか。

友軍への発砲を恐れてか、一切発砲する事は無くなる。

まるでスズメバチから羽を捥いで地面に放置したようなものだ。

 

 

「撃て撃て!!」

 

 

内門の門衛は、転倒する機械兵を背後から襲撃し、片っ端から銃撃で破壊していた。

背後から反撃できる機械兵は存在しないので一方的にやられていた。

これには、マルフーシャたちも感心する。

 

 

「ライカ班長、私たちも負けてられない。挟撃するよ」

「了解」

 

 

連合軍も不利だと気付いたのかと特攻型の自爆機械兵の飽和攻撃に切り替えていた。

だが、電源を切られた機械兵と転倒している機械兵によって大半が同士討ちの形で爆散した。

大型自爆機械兵も大型機械兵に触れて爆散し、クラスター爆弾のように機械兵を巻き込んでいた。

これを見たライカは、分隊長から許可をもらい、部隊を率いて機械兵の掃討に向かってしまった。

 

 

(大丈夫かな……)

 

 

未だにマルフーシャは自分の決断に不安が残る。

内門の守備兵が二手に分かれて殺到している機械兵を挟撃している状況に感化した。

しかし、それが正しいのかは未だに良く分かっていない。

 

 

「ほら、ぼさっとしない!分隊長らしく戦いなさい」

「分かった」

 

 

ベルカ衛生兵の提言もあり、マルフーシャは転倒している機械兵を銃撃で破壊しまくった。

空中を飛来する機械兵は厄介ではあった。

ただし、軽機関銃による援護射撃のおかげで射撃をしようと停止する機械兵は次々と撃墜された。

 

 

「…これで第二波も終わったかな」

 

 

ランチャー型の機械兵から鹵獲した誘導弾による火力支援は強烈だ。

まんまと連合軍は、徴用された民間人に強力な武器を与える事になった。

200人以上の門衛による反撃は、30倍以上の戦力差をものともしない。

 

 

(コイツで終わりだ!)

 

 

散開したマルフーシャ分隊は、機械兵をあらかた殲滅した頃に合流した。

第三波を確認し、内門まで後退している最中、マルフーシャは機械兵の生き残りを発見した。

いや、生き残りというよりは、まだ稼働していると言った方がいい。

とにかく引き金を引いて機械兵を撃ち抜こうとした。

 

 

《…シテ》

「ん?」

 

 

いざ、撃ち抜こうとした瞬間、機械兵から自分に呼び掛ける音声が聴こえた気がした。

そんなはずはないのにマルフーシャは戸惑ってしまう。

まるでさきほどまで自分たちを射殺しようとした機械兵が戦友の末路に見えたからだ。

 

 

《シテ……コロシテ》

 

 

何故か死を望むようにうわ言を呟く機械兵にマルフーシャは度肝を抜かれた。

連合軍の罠だと頭の中では分かっているのだが、こうやって心を揺さぶられるのは初めてだ。

それでも殺人を幾度となく経験した彼女の敵では無かった。

 

 

《マルフーシャ……》

「……なんで私の名を?」

 

 

ところが、機械兵が自分を破壊しようとする存在の名を呼んだ。

まさか自分の名が呼ばれるとは思わなかった分隊長が驚愕する。

思わず、無機物の破壊兵器に呼び掛けてしまうほどには正気では無かった。

 

 

《オレハ…オマエノ…》

 

 

マルフーシャの名を呼んだ機械兵は、備え付けられた音声機能で彼女と会話を試みようとする。

そんなはずはないのに大切な情報を聞き出せると思い、引き金にかけた指が動こうとしなない。

そのせいで目の前に居る機械兵が自分を撃ち殺そうとしているのに全く気付く事ができなかった。

 

 

「マルフーシャ!!」

「……あ」

「何をしてるの!死にたいの!?そんな事、絶対に許さないから!!」

 

 

ここでいつもお世話になっている女性の怒声が聞こえたマルフーシャは正気に戻った。

その瞬間、銃撃と共に動力源が破壊されて地面に倒れ込んで二度と動かなくなった。

既に地面に両膝をついているマルフーシャに呼び掛けたのは、ベルカであった。

 

 

「機械兵が…」

「言い訳なんて後で聴く!今はとにかく内門へ…」

 

 

ベルカ視点だとマルフーシャがいきなり自分の命を投げ捨ててみせた存在に見えた。

だから機械兵を撃ち抜いたのだが、すぐに様子が可笑しい事に気付いた。

 

 

「あ、あの機械兵…私の名を呼んだの…」

「どうせ、スパイが盗聴で録音した音声を流しただけ。気にしなくていいわ!」

 

 

何故かマルフーシャは、あの機械兵と知り合いだと直感で理解した。

それも、ただの知り合いではないと。

しかし、ベルカには上官が混乱しているようにしか思えない。

 

 

「あのクソポンコツは、音声認識で動く!誤作動を起こしただけ!!」

「でも……」

「この馬鹿!アンタ分隊長でしょ!?ただの機械兵に同情して死ぬ気なの!?」

 

 

ベルカに誘導されながら叱責されるマルフーシャに言い返す言葉はない。

兵士を率いる指揮官として無様な真似を晒した挙句、フォローしてもらった。

これほど、指揮官として失格の事はないと自覚している。

 

 

「私はアンタを信じてついてきた!なのにこんな馬鹿だったなんて知らなかった!」

「…そうだね」

 

 

自分の背中に多くの兵士の命を預かっているというのに無駄にするところであった。

相手が油でスっ転んでいた機械兵だったから助かった者の人間相手では死んでいた。

 

 

「同調しない!!すぐに指示を出して!もうすぐみんなと合流するわよ!」

「うん、分かってる!」

 

 

マルフーシャは絶対にスネジンカの元に生きて帰ってやると決意した。

その為ならなんでもやると!

自分たちの存在を数値としてしか認識しない上層部に鼻を明かしてやろう!

 

 

「新手!」

「撃った!」

「次は!?」

「もっと前に居る」

 

 

ベルカとマルフーシャは、スクラップだらけの廃山を乗り越えて機械兵を仕留めていく。

背後から撃ち抜かれる機械兵は間抜けに見えるが、1体とも看過はできない。

もし、見逃せば、今度は自分たちの背中を撃ち抜かれるから。

 

 

「マルフーシャ分隊!合流!」

 

 

ついに6人の仲間たちと合流する事に成功した。

内門はまだ遠いが、この距離なら下水道管を通った方が速い。

マルフーシャはそう考えた。

 

 

「あれは、なんでしょうか?」

「……え?」

 

 

さきほどの汚名を返上するかのように指示を出そうとしたマルフーシャ。

それよりも先に発言したビオンに気を取られて彼女の指先が差す場所を見た。

 

 

(あれは…)

 

 

内門から少し離れた民家から何かが打ち上げられていた。

それは光り輝く流れ星のように機械兵軍団を空中から照らすようであった。

 

 

(まずい……)

 

 

これを何が意味するのかはマルフーシャも知らない。

ただ、味方を騙してスパイを欺く上官のスタイルから碌でもない事だと理解した。

 

 

「総員、退避!退避!!エノス、アリビナ!フェリセットを運び出すのを手伝って!」

「わかった」

「はい!!」

 

 

急いで手のかかるお嬢様を搬送する一行は、内門に撤退するのを諦めた。

事前に打ち合わせしてあった民家の地下に逃げ込むしかなかった。

そして最後に階段を降りたマルフーシャが蓋をした瞬間、上空から異音が鳴り響いた。

 

 

「…はぁ、あまりやりたくない手だったが……」

 

 

閃光弾を打ち上げたアルバートは急いで民家の屋根から降りた。

複数の兵士が閃光弾を打ち上げたが、これが意味するのは爆撃座標の指定だった。

 

 

(一か八かの賭けに頼るとはな……)

 

 

外門から侵入した敵部隊は対空砲や対空気銃を揃えていると想定しなければならない。

だから電熱砲で薙ぎ払って多大な損害を与えたと同時に対空部隊の後退を促した。

もっとも、彼らが素直に引き下がるかどうかは賭けである。

 

 

(どうなることやら)

 

 

カゾルミア空軍の爆撃部隊に空爆を申請していたが、タイミングがシビアだった。

元より誘導弾を射出する機械兵相手に爆撃機は不利であった。

よって機械兵が内門付近に殺到し、後方支援部隊に危害が来ない状況に持ち込む必要があった。

殺人を試みる機械兵相手は、門衛や住民にとってキツイ相手となるが、囮にするしかなかった。

全ての犠牲は、この爆撃の為にあったのだ。

 

 

(……爆撃は成功したようだな)

 

 

予め脱出ルートだった下水道管に逃げ延びたアルバートは地上が爆撃されたと実感する。

爆発音と共に地下空間の全体が揺れて爆撃機が繰り出すエンジン音が聴こえてくるようだ。

 

 

「自国の都市に戦略爆撃だと!?敵軍は何を考えている!?」

 

 

一方その頃、連合軍の司令官は、第13番地区で爆撃を受けたと報告を受けて憤慨する。

よりにもよってあの地区で捕虜になった大佐は、機械兵を主力とする国家に所属していない。

そのせいで将校の身の安全を考慮し、爆撃できなかった。

 

 

「スパイがもたらした情報と違います。新兵器の露呈といい、まんまと嵌められたようです」

「所詮、カゾルミアの雌犬だ、信用に値しないって事だ」

 

 

さすがにこの規模の作戦では、佐官クラスで対処できるものではない。

絶対に失敗しない侵攻作戦であった故に連合軍の将兵が多く派遣された。

その結果、フェイス少将を筆頭とする将校が戦死し、多大な損害を被る羽目になった。

 

 

「それより、どこの爆撃部隊だ?カゾルミア空軍東部航空師団は既に抑えたはずだ」

「北部航空師団所属の爆撃部隊のようです。情報統制を逆手に取ってスパイの炙り出したのかと」

 

 

大敗を受けても、嘘を重ねるカゾルミアと違って連合軍は冷静に敗因を分析する。

これが戦争初期では連敗を重ねた連合軍が反撃できている強みである。

 

 

「やむを得ん。作戦を中止、全部隊に撤退命令を下せ」

 

 

第一次、第二次侵攻ともに大打撃を受けた連合軍は第13番地区からの撤退を決意した。

大量に送り出した機械兵を放棄してまで速やかに撤退を行なった。

 

 

「…と連合軍は考えるだろう。…馬鹿だな、追撃されるに決まってるだろう」

 

 

前に進むしか能が無い機械兵しか運用していないのが逆に裏目に出る。

撤退するなど人間しか居ないと知らせているものであった。

少なくともガスマスクをしているアルバートは、今後の未来を予測できた。

 

 

(……猛烈な追撃を喰らったんだろうな)

 

 

爆撃中隊を指揮している指揮官が敵軍の将兵を見逃すとはアルバートは思っていない。

誰よりも彼女を知り尽くしているからこそ、撤退する部隊が焼き尽くされたと確信する。

最後に揺れてから2分が経過し、爆撃機が搭載した兵器が空になったと判断。

地上に出てガスマスクを投げ捨てた彼は、無線機の受話器を手に取り、屋根上から俯瞰する。

 

 

「こちらアルバート地区防衛副司令官、敵軍の壊滅を確認。空爆に感謝する。以上」

 

 

連合国の都市に戦略爆撃をすれば、相応の報復がされるのは明白である。

しかし、自国の都市に侵入した敵軍を爆撃するのであれば話は別だ。

きっと連合軍は、この爆撃を大々的に取り上げてカゾルミアの大失態として晒し上げるだろう。

それはそれとして感謝の言葉を爆撃部隊を率いている長に告げた。

 

 

《了解、爆撃を終了。ウシュムガル爆撃中隊全機へ、ティアマット空軍基地へ帰投する》

 

 

すると無線の受話器から聴き慣れた女性の声がした。

とっても愛しくてアルバートにとってオンリーワンの伴侶、ポリアンナ中佐である。

 

 

(部下の手前、説教はなかったが……これは後で来るな…)

 

 

カゾルミア空軍北部航空師団の爆撃中隊が未だ健在だとは思わなかった。

それにまさか伴侶が空軍の爆撃中隊を率いて来るとは想定もしなかった。

これは相応のツケを払わされると第13番地区の事実上の司令官は予想した。

 

 

(いつのまに中佐に…)

 

 

空軍基地に向けて帰投する爆撃機の編成を見上げてアルバートは溜息をつく。

ようやく連絡が取れたというのにまともに会話する事ができなかった。

とんでもない速度で出世する伴侶のお説教すら恋しい。

 

 

(考えるだけ無駄か)

 

 

優秀な存在を誰かに奪われるくらいならと生涯の伴侶にしようと求婚し、見事に結婚した。

全てにおいて完璧と称された存在があの時に見せた驚いた顔を未だに忘れる事がない。

だからこそアルバートは、この第13番地区から脱出し、再び出世街道を進まなければならない。

1番以外を嫌う伴侶にこれ以上、迷惑をかけたくないのだから。

 

 





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【カゾルミア国民プロフィールシート】

名前:ポリアンナ
階級:3等級国民


288年 ノードショルド海軍学校を次席で卒業 潜水艦の士官となるがセクハラを受けて異動
289年 最高指導者の推薦でバルバロッサ空軍学校に入学
291年 バルバロッサ空軍学校を飛び級で卒業
293年 後に夫となるアルバートが務める補給局に転属
294年 同僚のアルバートと結婚
294年 上官の嫌がらせで補給局の北部支部に異動
294年 軍用機のパイロット不足により、カゾルミア空軍北部航空師団に転属
296年 第13番地区に転属した夫の要請により爆撃中隊を率いて市街地に空爆


概要
瞬間記憶系エースパイロット

身元不明の孤児から3等級国民に成り上がった超人系美女

女であるが故に主席になれない才色兼備にして驚異的な記憶力の持ち主。
更に文武両道の器用万能で同性では負け知らずのエリート中のエリート。

欠点としては、優秀過ぎて敵を作りやすいのと高嶺の花過ぎて異性が威圧される。
向上心の塊で自己研鑽に余念がないせいで尊敬はされるが、友人は1人もいない。
人類の頂点に立つ存在として生まれて来たが故に理解者は誰も居なかった。

そんな愛を知らずに生きてきた彼女だったが、いつの間にか結婚した。
お相手は、一番の存在だと自分を讃えてくれる男。
デートや交際の工程をすっ飛ばして、いきなり求婚されてしまい、勢いで夫婦となった。

全てにおいて常人より素早く理解できる彼女でも、唐突な結婚生活は戸惑うばかり。
何を基準にして何を為すのか、試行錯誤の手探りで夫婦生活を送る羽目になった。
それでも本人は未知なる領域を楽しんでいるので夫には感謝している。
ただし、すぐに離別生活になったのは未だに納得していない。

最近の悩みは、左遷された夫に喝を入れたいのに当の本人と中々逢えない事。
ようやく交信で連絡が取れた時は、状況が状況なので1分で説教して結論を求めた。
自分が一番と讃えるなら夫も自分の下まで成り上がってもらわないと困るのだから。


「何も努力をせずに妥協は許しません。これで5秒消費しました。速やかに行動に移してください」


趣味:暗誦/操縦/脳内シミュレーション
すき:トナカイ/コンデンスミルク/夫の成長
きらい:1番になれない事/負けを恐れて勝負をしない事
性格:冷静沈着/(夫を相手にする場合)せっかち
身長:177cm
役職:潜水艦の士官→輸送機パイロット→補給局士官→空軍のエースパイロット
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