マルフーシャを利用しようとして逆に利用される士官さん   作:アルバート元中隊長

2 / 2
2話 マルフーシャ分隊の誕生

義妹のスネジンカから引き離された日の事は、今でもマルフーシャは思い出せる。

ある日、ドアがノックされる音を聴いて開けると明らかに高圧的な軍人が立っていた。

 

 

(嫌な予感がする……)

 

 

直感で彼らが自分を徴兵しに来たと彼女は気付く。

正面に立っていた髭を生やした軍人から受け取った手紙を開封し、それが事実だと知る。

低級国民はおろか中級国民の未成年女性まで徴兵するほど追い詰められていると知らされた。

 

 

「姉さん、なにかあったの?」

「大丈夫、ちょっとだけ軍人として祖国を守るお仕事をしてくるだけよ」

 

 

心配そうに寄って来たスネジンカの頭を優しく撫でる事で心を落ち着かせる事しかできなかった。

しかし、兵士が玄関前に待っている以上、いつまでも家に居る訳にはいかない。

財布と身分証、ホルスターポーチを身に着けて拳銃を入れる。

 

 

「お待たせしました。これからよろしくお願いします」

 

 

兵士たちに頭を下げて玄関から飛び出して車に乗ろうとする。

ふと、振り返ると空いたドアの隙間から顔を出すスネジンカの姿があった。

彼女を安心させる為に手を振って後部座席に座ってドアを閉めた。

遠ざかって小さくなっていく我が家を見て二度と帰れないと感じてしまった。

 

 

「…どうした?何か疑問点でもあったか?」

「いえ、緊張しているだけです」

 

 

ここで上官から呼びかけられたマルフーシャは現状を思い出す。

1ヶ月ほど前までただのパン屋の店員だったのに今では正規軍の分隊長に昇格した。

確かに期待されている分、緊張してしまい、少しだけ思考が乱れた。

それを正直に述べるが、目の前に居る士官は今までに遭遇した男性兵士よりも優しく感じる。

 

 

「よろしい、ならば諸君らに20分間の休憩を取らせる。6時30分にここに集合したまえ」

 

 

茶色の軍服を纏った黒髪の士官が休憩を命じて壇上から降りて退室していった。

どうやら、新任した士官は末端の兵士に気を遣うほどには現実を知っているようだ。

 

 

「ねえねえマルフーシャ…私より先に分隊長に就任した気分はどうかしら?」

「少し不思議な気持ちですよライカさん。まだ新人気分が抜けていません」

 

 

第13地区の外門に配属された時の上司である憲兵のライカさんは素敵な人である。

世が世ならきっと素敵な殿方と結ばれるとマルフーシャは思っている。

右の席に座っているだけなのだが、元監査官が居るだけで安心感が違う。

 

 

「今の内に昼寝したい」

「していいよ」

「ありがとう姉さん」

 

 

左の席に座る女性は、6人目の仲間になった狙撃兵のフェリセットである。

腕前は凄いのであるが、私生活が壊滅的であり、不眠症を抱えている。

せっかく優秀な人間なのに他所の部隊でたらい回しされているのを見て雇用した。

 

 

「姉さんと一緒にいるだけで幸せです……グゥ…スースー……」

 

 

2等級国民の令嬢である彼女が何故ここまで自堕落したのかは分からない。

ただ、彼女を見ているとスネジンカと初めて出会った時の事を思い出す。

自分から動く事が出来ずにじっとその場から動かない少女だった。

 

 

「ま、マルフーシャさん!こんなわたしを再びご指名してくださりありがとうございます」

「ごめんね、あの時、ルールを理解してなかったせいで無言で解雇する形になっちゃって…」

 

 

ポイントマンのビオンは、マルフーシャが門衛に所属してから初めて雇った女兵士である。

卑屈であり、初めて宿舎で面会した時、上官からゴミ箱の上に座っていたと知らされた。

彼女曰く、自分が居る事で部屋の空気を汚したくなかったからという理由らしかった。

 

 

「いいですよ。わたしなんかより皆さんの方が優秀ですから」

「私の背中を預けられるのはビオンだけだよ。あの時の狙撃、本当に助かったよ」

「マルフーシャさん……」

 

 

卑屈過ぎて自己肯定が低すぎる彼女であるが、狙撃能力はフェリセットに次ぐ。

門前まで迫った大型自爆機械兵を狙撃して間一髪、門を死守する事ができた。

 

 

「門の防衛成績が完璧という事で出世できたからね。ビオンには感謝してるよ」

 

 

そのおかげでこうして出世できたのだから本当に感謝している。

マルフーシャは席から立ってビオンに抱擁し、ゆっくりと頭を撫でた。

 

 

「ちょっと、私だって活躍したんだからね!!私も讃えなさい!!」

 

 

そんな2人の姿を見て金髪のツインテールの女兵士が抗議する。

彼女はベルカといい、口が悪いが他人想いの衛生兵である。

 

 

「ベルカさん、もしかして嫉妬してる?」

「はあ!?あんたに嫉妬するわけないじゃない!!」

「いえ、なんでもありません」

 

 

普段の態度から周りに嫌われているが、同室だと洗濯物を畳んだり、掃除をする素敵な女性だ。

この子も時代が時代なら良妻賢母としてきっと素晴らしい母親になれたはずであった。

だが、お節介過ぎてやり過ぎる事があり、誤ってライカ監査官の財布を処分しちゃった時もある。

 

 

(あの後に涙目になっていたライカさんも素敵だったな)

 

 

財布をどこに落としたか分からずに涙目になったライカ監査官の顔も素敵だった。

しっかり者に見えてどこか抜けている彼女は、少しだけ気になるミスをする。

仕事は完璧にこなすのだが、そのうっかりのおかげでどこか心を穏やかにさせてくれる存在だ。

 

 

「うるさくて本が読めない」

「わたしも、昇格したい」

 

 

会議室でいくつか本を持ち込んでいる黒髪の少女は、ストレルカである。

彼女は国立化学大学校を飛び級で卒業した才女であったが、結果が出せずに左遷させられた。

そして隣の席に座る同じく黒髪の女性はエノスだ。

長身長の彼女は、軽機関銃を得物とし、どこか鈍感の節があるが、出世欲はあった。

 

 

「フーシャちゃんに呼び掛けられるなんて思ってなかったよ。やっぱ、アタシも必要だよね~!」

 

 

まるで赤く染めたような髪が印象的なアリビナは明るい子でムードメーカーとなる存在であった。

この惨状でもあんな感じなので誰もが警戒するが、マルフーシャ曰く楽観的な性格は素性らしい。

ただ、そのアリビナを理解しているマルフーシャも全身を揺らされるのは嫌のようであった。

 

 

(みんな、元気そうでよかった)

 

 

マルフーシャを除く7人の女兵士は彼女に呼ばれてこの会議室にやって来た。

これは上官命令であり、信頼できる兵士を最大7名、召集してほしいという事で呼び寄せたのだ。

そのおかげで安否確認する事にもなり、マルフーシャは仲間が元気そうで安心したのであった。

 

 

「さて、諸君。お楽しみところが悪いが、時間だ。静粛に!今から話の続きをする」

 

 

ここで休憩が終わり、上官が戻って来た。

籍を外して知り合いに声をかけている兵士は席に着席し、誰もが上官を見つめる。

 

 

「さきほど伝えた通り、マルフーシャは分隊長に昇格した。これにより彼女の配下は7名となる。つまり、この場に集まった兵士諸君はマルフーシャ分隊長の指揮下に入る。ここまでは良いな?」

 

 

アルバートと名乗った士官は、まずは兵士たちが召集された理由を告げた。

一部の兵士は困惑したもののビオンだけは再びマルフーシャに指名された事実が嬉しいようだ。

顔を歪めて両手でガッツポーズをしており、隣に居たアリビナは少しだけ距離を取ったほどだ。

 

 

「諸君らの任務は、内門の防衛と侵入してきた機械兵の排除、そして外門への遠征の任務となる。現在、外門が機械兵によって突破されており、外門付近の住民と連絡が取れない状況だ」

 

 

アルバートは目の前で自分を見つめる女兵士たちに分隊編成の理由を述べ始める。

 

 

「外門を観察するスポッターによると近隣住民が敵兵に連行される様子を目撃したと報があった。これは異常だ。第13地区の制圧が完了していないのにも関わらず敵兵が住民を拉致しているのだ。私だったら機械兵に住民を結び付けて門に侵攻させて敵兵の士気低下と経戦能力の低下を狙う」

 

 

ここでポイントなのは、事実を混ぜて嘘をつく事である。

 

 

「要するにだ、今までのうのうと安全地帯で機械兵を指揮する敵兵が外門に展開をしているのだ。これは好機である。今こそ外門を奪還し、敵兵を捕虜とし、安全と情報の確保をしようと考えた」

 

 

捕虜を確保できるとはアルバートも思っていない。

どうせ、戦闘が始まったら機械兵に任せて全力で敵兵が後退するのが目に見えた。

 

 

「ところが、諸君らは機械兵の侵攻から内門を防衛するのが精一杯であったし、奪還命令はない。そこでだ、分隊編成をし、内門の防衛担当と外門の奪還担当の2つに分ける事にした」

 

 

それっぽい事を言うのには苦労するが、慣れた事である。

同期や教官を納得させる演説ができなければ、出世など出来やしないのだから。

 

 

「ライカ元監査官を班長とし、担当する内門防衛の責任者とする。もちろん、責任は重大である。だが、貴公には適任と考え任命する。異論はあるか?」

「ありません」

 

 

よっぽどの事は無い限り、上官に逆らう事はない。

内門防衛の班長に命じられたライカは、上官の命令に異論はないと返答した。

 

 

「よろしい、貴公には3名の兵士を指揮してもらう。それ以外は通常通り任務を遂行すればいい。問題は外門に向かう部隊である。これが分隊にした大きな要因である」

 

 

資料を見る限り、ライカが防衛担当であれば、よっぽどの事が無い限り、内門は陥落しない。

そう考えたアルバートは、未だに分隊長の実感がないマルフーシャを見る。

 

 

「マルフーシャ」

「はい」

「何故、君を分隊長に命じたのか分かるか?」

「…申し訳ございません。全く分かりません」

 

 

上官が発した理不尽な質問にマルフーシャは反応に困り、かなり返答に迷ったように見える。

これもテクニックであり、その影響で彼女が分隊長に命じられた理由を記憶しやすい状況となる。

 

 

「徴兵された君は40日間の外門防衛で『完璧な衛兵』と評価されており、上層部に名が知られた」

「はい」

「だからこの場に居る誰よりも君が活躍した方が、印象に残るという事だ」

 

 

アルバートはマルフーシャの実績を見て彼女を高評価した。

そもそも第13地区の守備兵は見捨てられており、大して期待してなかったのだ。

その影響で劣悪な環境になっているにも関わらず、彼女は最高の結果を残した。

 

 

「カゾルミアでは、指定された任務を遂行し、達成できるだけでは上から評価されない。なんなら幼児に頼んだお使いや手伝いが成功したと知らされたと同レベルである。当たり前であるからな」

 

 

国営ラジオでは、定期的に国民に対して『あるべき姿』を示し、教育を試みている。

最高指導者の写真と共にラジオは無償で提供されるので誰もが常識を知っている。

さすがに露骨過ぎるので女性アナウンサーやパーソナリティが放送を盛り上げている。

 

 

「だから現状の君たちは軍の上層部から見ると、不特定多数いる軍人としてとしか評価されない。ところが、マルフーシャ。君は現在、上層部から注目されている。この機会を逃すべきではない。今なら君の名と功績を高く評価してくれる時期だ」

 

 

更に上官は話を続けるが、マルフーシャは別の事を考えていた。

 

 

(給料分の仕事ができれば充分なんだけど…)

 

 

彼女のモットは、無駄な仕事をしない事と給料分の仕事だけする。

ただ、仲間の為に頑張る事はあるというだけである。

だから上層部とは独断で動いていると直感で見抜いた彼女は、どこか俯瞰していた。

 

 

「さて、他人事のように聞いているようだが、やはり実感が湧かないのか?」

「いえ、そんな事はありません」

「本作戦と編成が私の独断で動いていると感じていたりしないか?」

「上の命令に疑問を持つ事はありません」

 

 

他人ごとで話を聞いていた彼女は上官からの指摘を受けてすぐに開き直る。

ここで本音を告げれば、絶対に罰せられると考えた。

さすがに無理がある回答になったと自覚しつつも、発言を取り消せないので黙り込む。

 

 

「ふむ、なるほど。では、私の目的と本音を話そう。君たちも冗談半分だと思って聞いて欲しい。私はパン屋で働く女の子が祖国の危機に銃を手に取り、戦場で活躍する戦乙女の話に興味がある。少なくとも私みたいなおっさんが戦場で活躍するよりは、女の子が活躍した方が気になるだろう?これは差別でなく区別だ。英雄と評価される人物には条件はつきものだ」

 

 

そこでアルバートは自分が独断で作戦と編成を立案した理由を述べた。

 

 

「テレビやラジオの放送では祖国の活躍や実績を述べるが、誰がそれをやったか教えてくれない。あえて言えば、最高指導者様の功績や実績を讃えて国民の団結を促している。何故だか分かるか?戦場で貢献した者は必ず複数人いて、名前を出したところで国民の気を引く存在ではないからだ。カゾルミア陸軍北部方面第3連隊バルバロッサ連隊長とバロン師団長が敵国の砲兵陣地を占領したと伝えてもピンと来ないだろ?だから放送ではわざわざ国民向けに脚色するんだ」

 

 

それっぽい理屈をスラスラと述べて部下たちに反論する余地を与えなかった。

当然のことながら下級兵士が反論や提言するのはあり得ないが、同僚や上司は違う。

 

 

「つまりだな、徴兵された少女が戦場で正規軍を上回る功績や実績を脚色する必要がないのだよ。ただのパン屋で働いていた女の子が大活躍するニュースに誰もが飛びつくだろう」

 

 

口を挟まれないように途中で分かりやすい事を告げつつ、更に嘘を交える。

 

 

「しかも、死地に向かって進軍しなくてもマルフーシャの名前を全国に轟かせる手段が存在する。そうだ、外門付近に居る敵兵を捕縛し、捕虜にして報告する事である。別に困難な任務では無い。指揮官を護衛する機械兵共は、味方への誤射を恐れて対人殺傷能力は完全に規制されているんだ。ここまで言えば分かるだろ?…地の利は我々にある。占領してから間もないので敵兵力も少ない。しかも連行される住民を利用すれば、数さえも上回る事ができる。あくまで仮定の話だがな」

 

 

カゾルミアでは、国民皆兵制度があるので誰もが銃の教育を受けている。

だから捕虜として連行されている住民もいざとなれば、兵力となる。

如何せん、人間というものは生き延びる手段があるのであれば、責務を放棄する事がある。

 

 

「要するにだ、これは祖国の命令ではなく私の独断専行となる。だから参加しなくても構わない。諸君らの判断でこの場から退室したまえ。退室しても、何も罰則を与えないとこの書類に誓おう」

 

 

それに正論に対して誰もが納得するとは限らない。

命惜しさは誰もが共感するものであり、抑圧しても生存本能は誤魔化しきれない。

だから敵国に投降する者も居るし、自分の計画に乗らない者も居るとアルバートは思っている。

 

 

「…どうした?長話を聞きすぎて私の発言が聞き取れなかったか?マルフーシャ分隊長を利用した計画に不満があるのであれば退室したまえ。罰則は絶対に与えない」

 

 

ただ、マルフーシャを酷使すると告げても誰も抗議はしない。

だからといって彼女を嫌っているわけでもない。

 

 

「……無言は肯定したと判断する。それでいいな?」

 

 

この結果にはアルバートも内心では驚愕している。

明らかに自分が嘘をついていると分かってしまうからこそマシンガントークしていたのだ。

あまりにも長すぎてそれで良いと判断してしまう心理を狙ったものだが、予想以上に抵抗はない。

 

 

「君たちは私の目的に賛同した。そう判断する。ならば君たちの期待に私も応えよう」

 

 

要するにマルフーシャの名を使って好き放題する事に彼女たち全員が同意したのだ。

さすがに罪悪感があるので彼も相応の対価を支払う事にした。

 

 

「エノス一等兵、ビオン一等兵。返答をせよ」

「は、はい!」

「…はい」

「厳しくこんな任務に取り掛かる諸君らを8等級国民に昇格とする」

 

 

まずは9等級国民である2人を昇格させた。

さすがに2人同時に等級を昇格させるのは、アルバートにとってもかなり厳しい事である。

 

 

「…え?8等級ってあの8等級国民って事なんですか!?」

「9等級国民に自負があるのであれば、そのままでいいが?」

「ありがとうございます!わたし頑張りますから!」

 

 

特にいつ、人権が存在しない10等級国民に転落しても可笑しくないビオンはあっさり喰い付いた。

それと同時にこの場に残った者は覚悟するだろう。

国民の等級が作戦実行前に昇格するほどに…かなり困難な任務が課せられると…。

 

 

「英雄には英雄を支えてくれる人材が必要だ。分隊長の部下になる事を決意した君たちにも相応の対価を支払う。ただ、彼女たち2人のように分かりやすい事はできないだろう」

 

 

とりあえず、等級昇格申請書を見せつけた上官は口だけではないと誰もが感じ取っている。

 

 

「まあ、作戦が成功しなければ、私と一緒に10等級国民に転落してもらうから問題無いか」

 

 

しれっと放った上官の一言が彼女たちがただの連帯責任だとは思わせない。

これはアルバートの嘘である。

だって独断専行で作戦を立案したので成功の有無に関して軍部が判断するわけがない。

 

 

「諸君の同意を得られたところで本題に入ろう。部隊の編成についてだ。さきほど報告した通り、ライカ班長を内門の防衛責任者とする。遠征の実働部隊の隊長は、もちろんマルフーシャとする」

 

 

既に決まっている答えを告げるだけである。

13時間ぶり睡眠するフェリセット嬢を除いて誰もが真剣に話を聞いていた。

 

 

「では、遠征実働部隊のメンバーを勝手ながら選定させてもらう」

 

 

そして事前に調べたプロフィールを確認したアルバートは異論を許さないメンバー選定を述べる。

 

 

「ビオン一等兵」

「ひゃ、ひゃあい!!」

「遠征部隊のメンバーとする。拒否権は与えない。ただし君はスナイパーとして活躍してもらう。スナイパーライフルは5丁、君に支給しよう。後は自腹だ。他に質問は?」

「あ、ありません!あ、ありがとうございますぅ!」

「よろしい、次の遠征メンバーを告げる!」

 

 

やっぱり、国民等級が上昇するのは碌な事ではない。

激戦区が予想される遠征部隊に送られる事となったビオンであるが、意外と冷静であった。

何故なら狙撃をするという事で機械兵や敵兵と正面から撃ち合いをする事はない。

すなわち、最前線で行動するポイントマンの現状よりは、魅力的な任務だと思えたのだ。

 

 

「エノス一等兵、君はマルフーシャの援護にまわってもらう。…生半可の傷では動じないならば、アサルトライフルを構えて突撃歩兵として突っ込んでもらう。とにかく撃ちまくれ。良いな?」

「突撃すれば、いいんですね。分かりました」

 

 

口数が少ないエノスは、どこか鈍感であり、自発的に行動するのが苦手だ。

だから誰かに引っ張ってもらう必要があり、行動力があるマルフーシャとの相性は抜群だ。

なにより、多少負傷した程度では動じない彼女は、ビオンと対極に位置する白兵戦を得意とする。

だから突撃歩兵に命じられた彼女は、マルフーシャを見て行動する事にした。

 

 

「最後にアリビナ上等兵、気配りと判断力によりスポッターとして班員のサポートをしてもらう。ビオン狙撃兵と揉める事があるかもしれないが、君なら任務を遂行できると判断し、任命する」

「了解!!超天才美少女アリビナちゃんにお任せあれー!ね、ビオンちゃーん!」

「ひえええ…いきなりほっぺを突かないでくださいー!?」

 

 

やたらと赤髪が目立つアリビナは、相棒となるビオンの頬を突いた。

彼女なりの行動であったらしいが、陽キャラに弄られる陰キャラみたいにビオンは涙目だ。

本来なら、止めさせる必要があるが、性格の不一致等を戦場で知るよりマシである。

 

 

「これで遠征メンバーの選定は終了とする。そう断言したいのだが、諸君らは門衛として優秀でも対人戦闘の経験が少なく敵兵との銃撃戦に不安がある。そこで私も一般兵としてサポートしよう」

 

 

ここからがアルバートの本題であった。

上官も遠征メンバーに参加すると聴いた兵士たちは一瞬だけ判断できなかったようだ。

自分の耳を疑ったのか。

熟睡するフェリセット嬢以外は、一瞬だけ戸惑った反応を顔や態度で示した。

 

 

「…上官殿、私の聞き間違いだと思いますが、遠征メンバーに参加すると仰いましたか?」

「マルフーシャ分隊長、君の耳は間違っていない。私も参加する」

 

 

さすがに冷静に物事を考えていたマルフーシャも上官の発言に困惑を隠せなかった。

今まで遭遇した男性兵士は誰もが高圧的であり、自分を見下していたからだ。

わざわざ徴兵された格下に自分の部隊に従軍するとは予想外だった。

 

 

「もちろん、士官の格好はしないし、遠征任務中は君が部隊長となる」

「ええ?」

「士官の格好をして狙撃されて欲しいならやってもいいが?弾避けにはなるかもな?」

「いえ、上官自ら参加して頂けるとは思わなかっただけです」

 

 

逆に上官から煽られてしまい、マルフーシャはそれ以上の発言を拒んだ。

もしかしたら自分の思考を見抜かれて監視されているのかも…そう考えたほどだ。

 

 

(自分だってやりたくねぇよこんな事……)

 

 

実情としては、マルフーシャの活躍も必要だが、一般兵の活躍も必要だったのだ。

快勝している割には、機械兵の侵攻が激しく内情を知らない門衛すら戦況を疑われている。

そこで一般兵に化けたアルバートが顔を隠して戦場で活躍している写真を本国に送付する。

それにより、快進撃の根拠とする事ができ、プロバガンダに必要不可欠の人材と見せたかった。

 

 

(ここで少しでも上層部に必要とされる人材に見せなければ、見捨てられて死ぬしかない)

 

 

アルバートはここで重要な事を告げていない。

第13地区に居る住民と守備兵は、時間稼ぎの為の全員捨て駒であったのだ。

だから一刻も早く成果を出して脱出する必要があった。

 

 

「こう見えても対人戦闘を経験していてな。念の為に同行する。それだけだ」

 

 

敵兵と殺し合いをするよりも役に立たない人材に対する祖国の仕打ちの方が恐ろしい。

この場に居る全員、捨て駒として運用されて使い潰しにされる。

 

 

「それにマルフーシャ、君には分隊長の教育をする必要がある。実戦で覚えようではないか」

 

 

なによりアルバートは、彼女たちを踏み台にして都合が良くなったら切り捨てるつもりだった。

それにマルフーシャについて気にかけているつもりだが、それほど彼女に期待していない。

 

 

(むしろ、ビオン一等兵に対人戦闘を教えておきたいんだが…まあいいか)

 

 

プロバガンダで持ち上げられるマルフーシャはいずれ激戦区に送られて戦死すると予想している。

だが、それは想定内であり、実際はビオンの方が重要だった。

趣味がカメラという事で撮影もできるし、卑屈で自分を受け入れてくれるなら何でもする兵士だ。

 

 

(この子だけは、少しでも長生きさせなければ……)

 

 

ビオンのプロフィールを確認する限り、彼女は汚れ仕事に適任であると判明している。

おそらく祖国の命令に背く事と薬物乱用、強姦以外は全てできると確信。

プロバガンダ計画を達成する為の最重要人物だとアルバートは考えた。

 

 

(ふふふ、自分も最低だな。マルフーシャの死を利用する前提で運用するとは…)

 

 

ここまで色々言ってきたが、アルバートの目的は2つ。

パン屋の店員だったマルフーシャを利用して第13地区に上層部の気を引く事。

そして、プロバガンダ担当として生き延びるためにビオンを教育するという事だ。

 

 

(まあ、人の心を無くさねば、生き残る事など出来やしないがな…)

 

 

9等級国民出身の兵士を昇格させたのも、ビオンを狙撃兵にしたのもこの為。

さすがに上層部が納得できるプロバガンダを単独で作れるとは彼も思っていなかった。

そこでマルフーシャを隠れ蓑としてビオンに共謀してもらい、実行するつもりだった。

 

 

(でも……)

 

 

それでもアルバートは、盛り上がる女兵士たちを見て少しだけ考える。

 

 

(この子たちを切り捨てるのは、些か勿体ないな……)

 

 

書類で人を判断する事が多かった彼は人でなしになった。

ところが、実際に第13地区の兵士たちと面会し、少しだけ可哀そうに思えた。

ここまで善意で協力してくれる彼女に何かできやしないかと考えてしまったほどだ。

 

 

「すみません、上官の事はなんてお呼びすればいいでしょうか?」

 

 

ここで無言が続いたせいでマルフーシャに質問される事となった。

 

 

「…そうだな、ここではアルバート指揮官、戦闘ではアルバート上等兵と呼んでくれ」

「承知しました」

 

 

明日も内門に向かって機械兵の大群が押し寄せるだろう。

だが、侵攻ルートは大体、決まっている。

なにより、目的地である門に近づくまで機械兵たちが攻撃を行なわないのを知っている。

 

 

「マルフーシャ分隊長、および分隊メンバーに告げる。翌日の3時に起床し、ここに集合せよ」

 

 

だから少しでも時間が取れる様に早朝で準備をする。

声には出さなかったが、誰もが不満気で抗議したいと視線を送って来る。

これでいい、自分を少しでも憎んでくれた方が捨て駒として切り捨てる時に気が楽になるから。

そう考えたアルバートは、机に伏せて寝息を立てる女狙撃兵の頭を軽く叩く。

やっぱり、彼女たちと一緒にやっていくのは大変かもしれないと溜息をついた。

 

 





-----
【カゾルミア国民プロフィールシート】

名前:マルフーシャ
階級:5等級国民

295年 ロスヌイ農業高等学校卒業
296年 ノーズコーンベーカリー13番通り勤務
296年 カゾルミア陸軍入隊 第13地区門衛
296年 新任してきた上官により、分隊長に命じられる


概要
パン屋の店員

経済格差の激しいこの国では珍しい中流階級の出身。
兵員不足で急遽衛兵として徴兵された。
軍事訓練では全兵科に適正ありの優秀なオールラウンダー。

文句は言うが与えられた仕事には真面目に取り組むタイプ。
スネジンカという腹違いの義妹がおり、溺愛している。

新任早々、門衛として完璧な成績を残した結果、分隊長になる。
任命してきた新任の上官には不信感があった。
それでも仲間や自分の性格を考慮してくれた事。
なにより、超大型機械兵の討伐を直接支援してくれた事で信用した。


「死にたくないので頑張りますよ」


趣味:射撃/仲間との交流
すき:義妹/うさぎ
きらい:無駄な労働
性格:受動的
身長:157cm
役職:第13地区の門衛→分隊長
-----
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。