マルフーシャを利用しようとして逆に利用される士官さん   作:アルバート元中隊長

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3話 余裕がなければ殺すしかないのが捕虜である

カゾルミアの朝は遅い。

周辺国より夜が明けるのが遅いが、原因はよく分かっていない。

ただ、ガス灯ではなく電熱線による光源にしたのは何か影響があったのだろうか。

電熱線エネルギーを恐れる周辺国の兵士は、決して街灯に近づかなかった。

 

 

「ぐぼっ」

 

 

よって、懐中電灯で夜道を照らす敵兵は自分の居場所を自ら示す間抜けである。

だから光に引き寄せられた毒蛾は、光源に向かって煌めく刃を振りかざす!

背後から敵兵の口を塞いで頸動脈まで刃を押し込んで捻り切ったアルバートは死体を隠した。

 

 

(クリア!よし、来い!!)

 

 

指で合図をして物陰に隠れていた女兵士たちを彼は誘導する。

夜が明ける前に奇襲で1人でも多く敵兵を始末する必要があった。

 

 

「アリビナ、どうした?敵兵に同情したか?」

「そんな事ありません……」

 

 

普段だったらハイテンションの彼女は、殺人の光景に未だに慣れていない。

もちろん、奇襲だから馬鹿みたいに大騒ぎできないとはいえ、彼女には恐怖が感じられる。

 

 

「マルフーシャ」

「はい」

「スネジンカと再会する為に敵兵を殺人する勇気はあるか?」

「あります」

 

 

上官から耳打ちをされたマルフーシャは、自分が甘い気持ちでここに来たと自覚する。

それと同時に偉そうにしている士官が殺人に手練れ過ぎて驚きが大きい。

椅子に座ってふんぞり返るイメージの士官像は音を立てて崩れ去っていた。

 

 

「よろしい、ならばこれからの計画を伝えよう」

 

 

更にアルバートは指揮する4名の女兵士を寄せて自身の計画を聞かせる事にした。

 

 

「これから外門前に整列している機械兵軍団の整備が始まる。その前に点呼が始まるんだ。そこで点呼が始まった瞬間、エノス。君がアサルトライフルで横に薙ぎ払うように掃射しろ。良いな?」

「はい」

 

 

機械兵はプログラムで動いて人間兵士の同行が要らない存在だが、意外と制約がある。

まずは、進軍させる前に問題が無いか一斉点検を行うのだ。

よって、その隙を狙うしか一網打尽にする機会が無いのでエノスに汚れ仕事を任せる。

 

 

「アリビナは、外門から脱出しようとする敵兵に掃射して一匹残らず撃ち殺せ。生かして帰すな。ビオン、今回は狙撃の出番はない。同じくアサルトライフルでアリビナの援護をせよ」

「あははは…」

「も、問題ありません」

 

 

たかが4名の兵士を率いて1個小隊規模の兵士を殲滅できるとは思っていない。

だからこその奇襲、だからこその歩哨の殺害、軍事訓練では習わない実戦方式である。

 

 

(おそらくアリビナは撃てないな)

 

 

射撃訓練では優秀な成績を修めた兵士が実戦では銃が撃てない事態に遭遇する事がある。

頭でも身体でも分かっているのにいざ、人間を相手にすると殺すのが怖くて発砲を躊躇う。

上官に見つかれば、敵対スパイ行為として裁くべきなのだが、それをする余裕はない。

 

 

「いいか、相手は機械兵と違う。本気でこっちを殺しにかかる。殺される前にやれ。以上だ」

 

 

念を押して手加減せずに射殺しろとアルバートは、アリビナに命じるが、期待はしていない。

むしろ、戦闘を終えて兵士たちの士気が低下している時に、彼女の明るさに期待している。

 

 

(というか、自分の武装の方がまずい気がする……)

 

 

止血帯やら弾倉やらロープやらなんやら持ち込んだせいでまともな武装がない。

ナイフ2本と手榴弾1個を除けば、Vn-6 Combat Boaという大口径リボルバーしかなかった。

そのせいで部下の心配より自分の武装の方を心配していたりする。

 

 

(旗なんか持ってくる必要あるの……?)

 

 

なお、マルフーシャからすると上官の行動は不思議だった。

一般兵の兵服を纏う彼は、何故かカゾルミアの国旗と旗竿を持参していた。

こんなもの持って来るなら銃器の方が良いのでは…と素人ながらも考えていた。

 

 

「祖国の国旗に対して何か疑問があるのか?」

「いえ、ありません。どちらかというと傷つくのが心配です」

「だよな……」

 

 

さすがに彼も気付いているが、そのまま持ってきたのは失敗だった。

だからといって最前線に旗を掲げなければ、意味が無いのだ。

 

 

(捕虜は士官のみ、あとは殲滅だ)

 

 

それにアルバートは、陸戦条約も捕虜に対する人権も守る気はない。

たった5人で数倍の捕虜を抑えるのは不可能なので士官以外は始末する予定だ。

 

 

「マルフーシャ、準備はいいか?」

「問題ありません」

 

 

サブマシンガンを構えた彼女は、どこか頼もしい背中をしている。

迷いが無い返答を聞いて仲間たちが彼女を信用するのが分かる気がした。

 

 

「よし、外門の出入り口を狙える場所に行くぞ。マルフーシャ、来い」

「はい」

 

 

ボルトアクション式ライフル銃を装備した歩哨からして完全に祖国を舐め切った部隊だ。

おかげさまで開き直って鹵獲した無線機で情報収集ができて奇襲攻撃ができるまである。

そろそろ時間なので誤射しない場所にマルフーシャと共に移動する事となった。

 

 

(ホント、人間って慣れると敵地でもここまで油断するのか)

 

 

只今、機械兵を操作する士官と整備兵たちが外門前に集結した。

堂々たる機械兵軍団がいるおかげか、護衛兵すら見えなかった。

だからといって歩哨が戻って来ないのに疑問すらないのは、彼らも疲れているのだろう。

 

 

(よし、そろそろ来るぞ)

 

 

整備兵が一列に整列し、その前に士官が歩いている。

彼らと向き合った士官が何かを告げた瞬間、エノスによる銃撃が発生した。

 

 

「撃て」

「はい」

 

 

続いてマルフーシャがサブマシンガンで死角から至近距離で銃撃を行なう。

何事かと敵兵が気付いた時にはもう遅い。

背後と横から飛び出してきた弾丸で兵士たちが薙ぎ払われていく。

ビオンからの援護は的確であり、初めて殺人したとは思えない腕前であった。

 

 

「そこだ」

 

 

慌てて前方に待機している機械兵に向かって走り出す兵士たちにプレゼントをした。

見事に投擲した手榴弾の餌食となって呻き声を出す物体になり果てる。

 

 

「させねぇよ」

 

 

完全に油断した結果、奇襲を受けた指揮官は無線で連絡を取ろうとする。

だが、電源を入れてなかったのが彼の運の尽きだ。

それより先にアルバートに射殺されて無様に死んだ。

 

 

「あれ?捕虜にしないの?まあ、いいけど」

 

 

上官が事前の説明と違って士官を殺害したのにマルフーシャは違和感があった。

しかし、そもそも銃撃していたのでこの士官は生かす気が無かったと判断した。

 

 

「撃ち方、止めぇ!!」

 

 

アルバートの号令を聞いて兵士たちは銃撃を止めた。

さきほどまで動いていた生物がただの有機物として床に散らばっている。

唯一、銃撃しなかったアリビナは両膝を地に着けて目の前の床に向かって吐き出した。

 

 

「ち、さすがにきついか」

 

 

問答無用に虐殺された敵兵の光景に少女たちの瞳に怯えや恐怖が見える。

ただ、露骨なのはアリビナ上等兵のみで残りは意外と耐えたので想定よりマシだった。

 

 

「エノス、ビオン。アリビナ上等兵をこっちまで運べ。急げ!」

 

 

近くに居た女兵士たちに嘔吐した兵士の搬送を命じたアルバートは門を見る。

 

 

「ちっ、本隊を呼んでも復旧まで1ヶ月かかるな……」

 

 

予想以上に外門が破壊されており、バリケードを作ってもすぐに突破されるだろう。

もちろん、ここで死守命令をする気はなかったが、予想以上に損傷が激しい。

 

 

「は、運びました!」

「きたよ」

 

 

ビオンとエノスはアリビナを運んできたが、なにやら焦っている。

まるで連れて来た彼女を始末されないか心配しているようであった。

 

 

「アルバート上等兵、ここでは私が指揮官、そうでしたよね?」

 

 

さすがにマルフーシャもこのままじゃまずいと思ったのか。

戦場では彼女が上になるという指示を利用して粛清を阻止しようとした。

 

 

「ああ、そうだ。アリビナの装備を借りる為と救急処置をする為に呼んだだけだ」

「装備を借りるとは?」

「そのままの意味だ。彼女には内門まで自力で帰ってもらいたいからな」

 

 

だが、アルバートは既にアリビナに関しては戦力外だと理解していた。

あれほど明るい振る舞いをする彼女がここまで追い詰められている。

それだけで周りに居る兵士たちの気が引き締まるので、あえて彼女に処罰しない。

 

 

「まずは、うがいだ。それから30分経ったら、ゆっくりと少しずつ水分補給をせよ」

 

 

アリビナからアサルトライフルを受け取ったアルバートは彼女に気を遣う。

内心では粛清されると思っている女の子の頭を軽く撫でて水筒を手渡した。

 

 

「君は祖国の為に戦えるか?」

 

 

一応、最終確認をする。

ここで拒絶したら、さすがに射殺しないといけないが彼女は無言で頭を縦に振った。

 

 

「ならいい。君は負傷してしまった兵士だ。ここに敵兵の銃器がある。これは握れるか?」

「……ィ」

「よろしい、体調不良のところで申し訳ないが、ここの見張りを頼む」

 

 

血塗れになったライフル銃を渡されたアリビナは上官を見る。

自慢の赤髪より返り血で赤く染まった彼は、悪魔より恐ろしく感じる。

明らかに他の軍人が実施する処遇ではなかったので逆に全身が震えてしまった。

 

 

「アルバート上等兵、意図が分かりません。説明をお願いします」

「これから敵国に外門で戦闘があって負傷者多数と報告するつもりだ」

「なっ!?」

 

 

その様子を見ていたマルフーシャは上官に意図の説明を求めた。

すると、とんでもない返答を受けて絶句する羽目になった。

 

 

「これから敵国の救援部隊を外門に向かわせる」

「せっかくの奇襲が無駄になりますよ!?」

「どうせ、すぐバレる。だったら先手を打った方がいい」

 

 

そもそもアルバートは外門に展開していた敵兵を捕虜にする気はなかった。

どうせ、彼らも連合国の上層部からすれば、ただの数字に過ぎない。

人質を取ったところで彼らごと始末するに決まっている。

 

 

(さすがに整備兵は貴重だろうよ)

 

 

ただ、大量の機械兵を整備する兵士は貴重なのは間違いない。

全滅したり、捕虜にされたら逆に諦めがつく。

 

 

「よし、真の目的を伝えよう。外門を制圧したのはな。捕虜にするお偉いさんを誘き寄せる為さ。適当に手榴弾で特攻してきた兵士のせいで負傷者多数とでも言って誘き寄せてやる」

「申し訳ございません。大量の増援が来て捕虜どころの話にならないと思います」

 

 

どうやらマルフーシャは自分が分隊長なのは自覚しているようだ。

ここでは格下になる存在の作戦に異議を唱える姿を見てアルバートはウンウンと嬉しそうに頷く。

 

 

「確かに部隊が全滅したらそうなるな。……もしも負傷者が4人だったらどうだ?」

「4人?4人なら……」

「衛生兵と軍医、あとは後方に居るお偉いさんが急いで出向いてくる」

 

 

確かに外門の守備隊が全滅したとなれば、連合国は黙ってはいない。

だが、前線部隊の油断で負傷者が数名出たと報告をしたらどうなるだろうか。

答えは、負傷兵を安全地帯か野戦病院に搬送する輸送機か、車両が来る。

 

 

「前線部隊の士官の失態は上司の失態に繋がるからな。慌てて来るだろうよ」

 

 

自称、自国民に優しい軍隊と名乗っている軍隊である。

無傷で勝てる戦いで負傷者が出たとあっては、責任者の出世コースに影響する。

だから少なくとも尉官か佐官クラスの司令官が慌てて飛んでくる。

 

 

「では……我々の任務は…」

「負傷兵のフリをして近づいて隙を見て一斉射撃だ。簡単だろ?」

 

 

機械兵を持ちいて人道的に戦争を行なう軍隊が相手なら手段は限られる。

まさか負傷兵に向かって銃撃したりしないだろう。

ましてや機械兵という精密機械をメンテナンスする兵士なら尚更である。

 

 

「これって英雄の行動なんですか?」

「両手を血で染めない英雄は、ただの妄想ごっこをする幼児そのものだ」

 

 

英雄と言えば、子供たちに誇れる人というイメージがあるマルフーシャに難癖をつけられる。

その反応を想定していたアルバートは、手を汚さない英雄など居ないと暗に告げた。

 

 

「徴兵された時に思ったはずだ。戦場で敵兵をぶち殺さないといけないと……」

「それは……」

「末端の兵士に人権も拒否権もない。分かっているはずだ。彼らも自分たちも同じだと…」

 

 

何も知らずに機械兵のメンテナンスをしようとした兵士たちは全滅した。

だが、攻撃しなければ万全の機械兵が内門に進撃したはずである。

機械兵は人間を何故か狙わないが、防衛の結果によって10等級国民に降格する可能性がある。

 

 

「今日は我々が生き残って、奴らが死んだ。明日は分からない。だからこそどんな手を使っても、勝たなければならない。いや、祖国が大勝利したと騙せるほどの結果をもたらす他にない」

 

 

第13地区は元より本国から見捨てられている。

少しでも時間稼ぎができるように食料と兵器を渡しているだけに過ぎない。

 

 

「さて、そろそろ時間だ。分隊長はアリビナ以外集めておいてくれ」

「は、はい」

 

 

一般兵の格好をした上官の命令を受けて3名の兵士を呼び寄せた。

アリビナも罪悪感があるのか、できるだけ近い場所に座り込んで聞き耳を立てている。

 

 

「よし、いいぞ。輸送機が1機、外門入り口前に緊急着陸するそうだ。ククク、予定通りだな」

 

 

そして無線で敵軍の救援部隊を呼び寄せた兵士は姿が変わっていた。

敵国の兵士の格好そのものであり、明らかに敵兵を騙す気満々であった。

 

 

「予備の兵服があって助かった。さすがに死人の兵服は着たくなかったからな…」

 

 

わざとらしく頭に包帯を巻いている兵士は、さきほど見かけた敵兵そのものだった。

唖然とする女兵士たちであったが、マルフーシャは躊躇いが無い彼の行動に影響を受ける。

 

 

「ビオン一等兵」

「は、はい!!」

「スナイパーライフルを手に取れ。豪華な兵服以外の奴は全員狙撃しろ」

「わ、わ…分かりました」

 

 

まずビオン一等兵の狙撃が重要である。

事前に彼女の腕前を確認し、操縦士と運転手を殺害するのを最優先とした。

 

 

「エノス一等兵、さきほどの射撃。ご苦労であった」

「どうも」

「次で最後だ。合図を出したら着陸ギヤを射撃でパンクさせろ」

「はい」

 

 

次にエノス、彼女も兵士として優秀な部類に入る。

殺人経験が無い兵士であれば、アリビナみたいになっても可笑しくないのに堂々としている。

そんな彼女には、輸送機の着陸ギヤと車両のタイヤの破壊を命じた。

 

 

(飛べねぇ飛行機は、ただの鉄の棺桶さ。何も出て来なければいいが…)

 

 

さすがに装甲車を積んでいると思わないが、それでも緊急車両くらいあるかもしれない。

なにせ、前例がない作戦なのだから中隊長の経験があるとはいえ緊張している。

 

 

「マルフーシャ、これは君の作戦で実施された出来事となる。胸を張って戦う気はあるか?」

「無論です」

 

 

マルフーシャが祖国で何と呼ばれるのかはアルバートも予想できない。

【救国の女神】か、【復讐の戦乙女】か、それとも更に皮肉な異名になるかは知らない。

分かる事と言えば、敵国にとって最優先で殺すべき敵となる事くらいか。

 

 

「君の活躍は、仲間の活躍となる。君の背中には部下たちの命もあると思え」

「はい、理解しておきます」

 

 

なにより、マルフーシャは友軍からも敵視される。

それは嫉妬や羨望ではない。

「祖国を救う」と断言する英雄様ならお望み通り、死ぬまでコキ使ってやるという義務である。

表向きには英雄を欲するカゾルミアだが、実情は最高指導者以外に英雄など必要ないのだから。

 

 

(ククク、悪い奴だな……こんな事、考えた奴は……)

 

 

だからアルバート中隊長は、英雄になろうとしない。

マルフーシャや兵士たちに納得する理論を展開したが、本音としては死にたくない。

ただそれだけの事で、絶対に楽には死ねない責務と任務を負わせる席に少女を座らせたのだ。

 

 

「アリビナ上等兵、体調不良のところ悪いが、一旦トイレに籠っていてくれ」

「え?」

「輸送機が来る前に掃除をしなければならない。君には荷が重すぎる」

「い、いえ。アタシも……」

「君には後で兵士たちにチョコレートを配る任務を与える。できないとは言わせんぞ?」

「……分かりました」

 

 

いつもだったら天才美少女ちゃんとか自称する女兵士は上官に気を遣われていると自覚している。

幸いな事にご褒美担当役としての任務があるので見捨てられないと理解してようやく安心した。

ただ、このままではいけないのは彼女も分かっている。

 

 

「さて、諸君。お客さんが来る前に掃除をしよう。出迎えに汚れは不要だ」

 

 

パンパンと両手を叩いた敵兵の発言を受けて3名の兵士たちが慌てて掃除にかかる。

適当に壁の傍に肉片を集めて上からは少しだけ血の痕跡がある程度に隠した。

 

 

「……アリビナ上等兵、下がれと言ったのだが?」

「無事な兵士が居た方が信憑性があるでしょ!?それに美少女ならメロメロだよ!!」

 

 

奇襲の為に掃除をしていた一行は、何故かアリビナの髪の色が変わっている事に困惑した。

彼女曰く、ザリガニ色もとい真っ赤な髪型ではなく灰色の髪型であった。

 

 

「いや、髪まで敵兵に似せなくていいぞ?というか、どうやった?」

 

 

さきほどまで悩んでいたアルバートもアリビナの変わりように本気で困惑した。

着色剤など置いてなかったと考えたが、彼は第13地区の補給担当をやっていた。

故に異物である着色剤について思考を巡らせると1つの結論に辿り着いた。

 

 

「まさかお前……」

「こんな格好をしてるけど敵国のスパイじゃないよ!まさか上官殿?疑ってますぅ~?」

 

 

灰色の髪と着色剤の色に心当たりがあるアルバートは、あえてその事を言及しない。

根拠はないし、そもそも味方を疑っている場合ではなかった。

 

 

「ここまで来た以上、もう戻れん。裏切り者では無い事を結果として示せ」

「はいはい、アリビナちゃん。汚名返上しちゃうよー!しっかり傍で見ててね!」

「……ああ」

 

 

アルバートは、アリビナが連合軍のスパイではないかと疑いを強める。

もしも、変な真似をした場合は、マルフーシャには悪いが始末する気満々だった。

 

 

「来たぞ……」

 

 

外門の外にある荒れ地に緊急着陸してきた輸送機から2輌の車両が飛び出してきた。

軍用の輸送機は滑走路がなくても平気らしく方向転換ですぐに離陸できる様にしている。

 

 

(距離があり過ぎて輸送機は狙えんな……)

 

 

当初の予定では、垂直離着陸機を想定していたが、連合軍は予想を遥かに超えた。

既に軍事力すら叶わないのではないかと思うほど輸送機の質が違うと目視で理解できる。

 

 

(クソが……対空部隊が機能してない!!)

 

 

輸送機1機が護衛なしで来たという事は、制空権が確保できているという事。

せめてもう少し近ければ、第13地区の対空砲で撃ち落とせる…かもしれない。

とにかく、救援部隊も舐め腐るほどにカゾルミアを脅威だと考えていない。

 

 

(ビオン、エノス。作戦変更、車両と運転手のみ狙え)

 

 

幸いな事に装甲車ではないので彼は部下に作戦の変更を命じた。

ビオンとエノスのコンビネーションは抜群であり、すぐに銃器を構え直した。

ならば、囮として最大限の仕事を果たさなければならない。

 

 

「お待ちしておりました!」

 

 

車両が2輌、外門の入り口前に駐車して軍医と衛生兵が飛び出してきた。

直立不動で敬礼をし、それっぽい雰囲気でアルバートは対応する。

 

 

(あいつか…)

 

 

更に後部座席から高官らしき男が降りて軍帽を被り直している。

見つめる先は外門より更に奥、内門なのかもしれない。

 

 

「現状を報告せよ!」

「ハッ、単独犯による自爆特攻で2名死亡、4名が重軽傷を負いました」

「負傷兵は?」

「すぐに運べるように担架に寝かせております。それと戦死者は布を全身に被せています」

 

 

軍医と思わしき人物の質問を受けてアルバートは、それっぽい事を報告する。

わざわざ敵の襲撃に備える二重のバリケードの前に担架が置いてあり、その中に負傷兵が居る。

いや、負傷兵だった物を隠す為に布切れで隠されていた。

 

 

(車両には……誰もいない。高官は……軍医の傍か)

 

 

すぐにでも搬送しようとする軍医に高官が呼びかけて何かを語りかけている。

バレたかと思ったが、どうやら今後の展開に関して打ち合わせしているようだ。

その隙に状況を俯瞰し、すぐにでも作戦が実行できると判断する。

 

 

(やるか……)

 

 

敵は7名の衛生兵と軍医1名。そして最低でも佐官クラスの将校。

好機は1度っきり、失敗すればそこまでの人生だったと納得するしかない。

 

 

(やれ)

 

 

右手の人差し指と中指でアルバートが仲間に合図を送る。

直後、銃声と共に1輌の車両が熱を残すエンジンを撃ち抜いて爆散する。

同時に残っていた車両の窓ガラスが激しく割れて右前のタイヤがパンクした。

 

 

「何事……」

 

 

すぐに異変に気付いた軍医はアルバートによって顔面を銃撃される。

マグナム弾で撃ち抜かれた被害者は哀れにも即死し、地面に倒れ込んだ。

 

 

「伏せろ!!うっぶ!?」

「奇襲ぅううあが!?」

 

 

外門の影に隠れていたマルフーシャはサブマシンガンで衛生兵に銃撃をする。

真っ先に後ろで射撃音がした為、彼らは外門を背にして振り返っている状況だ。

すなわち、背中を見せている彼らに鉛玉を大量にぶち込んだ。

 

 

「……ッ!」

 

 

さすがにこうするしかないとはいえ、この光景はマルフーシャにトラウマを残す。

きっと無事にスネジンカの元に帰れたとしても、きっと呪いとなり、残り続ける。

そう確信しているからこそ、彼女は彼らの死が他人事ではないと自覚した。

 

 

「動くな!!武器を捨てて両手を頭の上に挙げろ!!」

 

 

完全に油断しきった将校と死に物狂いで奇襲を仕掛けた特攻部隊。

どちらが有利といえば、マルフーシャ分隊であった。

あっという間に生き残りは2名となり、1名は既に両手を挙げて投降していた。

 

 

「もう一度言う!!武器を捨てて両手を挙げろ!」

「撃てるものなら撃ってみろ」

「……なに?」

 

 

だから将校の方に投降を呼びかけると思わぬ反応を示した。

すかさずアルバートは彼に聞き返す。

 

 

「私を捕虜にするのが目的だろ?」

「そうだな」

「では無傷で捕えなければいけないのではないのかね?」

「……流れ弾がお望みではあれば、実行するが?」

 

 

既に敵国の将校はアルバートの行動を看破していた。

祖国の上層部に将校を引き渡す関係上、ほぼ無傷ではないと困るのだ。

ハイエナのように貪欲ではあるが、マルフーシャたちと違って直接的には手を汚さない。

それどころか、軍高官は捕虜の人権に配慮していると周辺国にアピールしたいまである。

 

 

(クソが……)

 

 

部下たちには、『捕虜にする士官を銃撃するな』と厳命している。

ところが、アルバートが構えるリボルバーでは過剰に負傷させてしまうのだ。

マグナム弾で軽傷を狙えという命令は、最高指導者様すら首を傾げるだろう。

 

 

(……やけに冷静だな?)

 

 

ここで将校が何か企んでいる事に気付く。

何事かと周囲を見渡すと、前を見たまま後退りする将校の対処どころではない。

 

 

「マルフーシャ伏せろ!!」

 

 

怒声で彼女の名を叫んだアルバートは、マグナム弾を躊躇いなく発射する。

事前の訓練で瞬時に動ける様になった彼女は命令を聞いた瞬間、地面に伏せた。

 

 

「ごぼっ!?」

 

 

さきほど投降した将兵がナイフを構えて彼女を背後から襲い掛かるのが見えた。

だからアルバートは、警告した直後に敵兵の上半身に向かって発砲した。

内臓を損傷し、胃から逆流し、口から飛び出した流血がマルフーシャを襲う。

銃撃の衝撃で後ろに倒れ込む将兵は、未成年の女の子を自身の血で染めあげた。

 

 

「くそがあああああ!!」

 

 

激昂したアルバートは、近くで転がっていたライフル銃を拾い上げる。

そして作戦など知っちゃこっちゃないといわんばかりに逃走する士官を狙撃しようとした。

 

 

「あ?」

 

 

その前に『ターン』と1発の銃声が鳴り響き、豆の様に小さくなった将校が躓いて転んだ。

どうやら左足首を撃ち抜かれたようで倒れ込んだ彼は、両手で患部を抑えている。

 

 

「ああああああああ!!」

 

 

すぐさま、アルバートは負傷した捕虜候補に向かって全速力で飛び掛かる。

ポーチから取り出した止血帯で彼の両手首を拘束し、全力で無力化を図った。

止血?知らんな。

 

 

「アリビナ、士官には撃つなって厳命されたでしょ!?」

 

 

弾丸を撃ったのは、さきほどまで戦力外と思われたアリビナであった。

しかし、上官の厳命に背いたのは事実。

慌てたマルフーシャが独断で発砲した理由をアリビナに問い詰めた。

 

 

「超天才美少女アリビナちゃんは考えたの!確かに士官を撃つと大変ってね!」

「でも、撃ってるよね?」

「フーシャちゃん、私は石を撃ったの。そしたら跳弾して足首に当たっただけ。ただの事故よ!」

 

 

ボルトアクション式ライフル銃で狙撃した彼女は、あくまでも石を撃ったと告げる。

()()()()銃弾が跳弾して士官に命中した事故と言い訳をしていた。

 

 

(そんなわけないじゃん…)

 

 

マルフーシャが一番、それはありえないと思った。

だから呆れつつも、上官の手伝いをしようと彼の元に駆けつけた。

 

 

(あれ?)

 

 

そしたら、確かに大きな石が欠けていた。

欠けた場所の色が違うので今さっき、欠けたようであった。

 

 

(まさかね……)

 

 

本気でアリビナは石を狙撃したのか。

それも全速力で走り抜ける敵軍の士官の足首に跳弾するように。

しかも、扱った事が無い敵国のライフル銃で…。

 

 

「マルフーシャ、手を貸せ!!」

「し、承知しました!」

 

 

様々な証拠と発言を結び付けた瞬間、上官から呼びかけられてしまった。

そのせいで思考がぶっ飛んだ彼女は、慌てて彼の元に向かう。

不意打ちの暗殺ではミスが無かった上官が制圧に苦戦している。

 

 

「止血はどうしましょう?」

「あとでいい……とにかく外門の内側まで運べ!!」

「この蛮族共が!!後で覚えてろ!!」

 

 

結局、ギャアギャア騒ぐ敵国の将校を2人がかりで運ぶのが精一杯だった。

とにかくマルフーシャ分隊の初任務は、大成功に終わった。

これは小さいが、彼女にとって、マルフーシャ分隊にとって大きな前進となる。

しかし、この結果が後に更なる惨状をもたらす事となるとは考えもしてなかった。

 

 





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【カゾルミア国民プロフィールシート】

名前:アリビナ
階級:3等級国民

294年 カテョーナク女子学院高等部卒業
295年 家事手伝い
296年 カゾルミア陸軍入隊
296年 マルフーシャ分隊に所属 上等兵兼スポッター


概要
元気系ナルシスト突撃兵

真っ赤な髪の毛と元気がトレードマーク。
正確な射撃能力と危険な状況でも臆さず動ける優秀な突撃兵。

口調と振る舞いのせいで頭が悪く見えるが
軍の座学、実技テストでは上位の成績。
好奇心旺盛な性格と常にハイテンションの為、
部隊では馴染めずに浮いていた。

外交官の父親と敵国との隠し子で、出自を隠す為に髪の毛を染めている。

マルフーシャは戦友として認めている。
それ以上にもっと仲良くなりたいのだが、中々うまく行っていない。
新任した上官曰く、相手の気持ち側に立って考えろと言われた。
でも、ありのままで生きた方が楽だと考えて変えるつもりはない。

ただ、そんな我が道を行く彼女だからこそ目の前の殺戮現場に呆然とした。
なんだかんだで優しい仲間と惨状のギャップで嘔吐するほどショックだった。

でも、彼女はすぐに立ち直った。
みんなが居るから自分が輝けるのだと自負し、誰よりも先に動く事に拘る。
だって、これ以上、独りぼっちで過ごしたくないのだから。


「みんな大好きアリビナちゃんだよ!よろしくー!」


趣味:サッカー/アピール
すき:楽しいこと/犬
きらい:退屈なこと/仲間が血で手を汚すこと
性格:明るい
身長:160cm
役職:突撃歩兵/スポッター
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