マルフーシャを利用しようとして逆に利用される士官さん   作:アルバート元中隊長

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4話 納税が義務なら合法的な節税も問題ない

初めて殺人をした女兵士たちには何かしら心の傷を負った。

兵士であるならいつかは殺人をしなければならないが、ここでは違った。

門を狙う機械兵だけを倒し続けた影響で殺人から目を背け続けた。

その結果、こうして殺人を経験して彼女たちの心がすさんでいた。

 

 

「ビオン、撮影をしてくれ」

「ひゃい!分かりました!!」

 

 

ところが、殺人を積極的に行なった上官の行動が可笑しい。

外門の上でカゾルミアの国旗を掲げる間抜けさは、どこか笑いを誘う。

カメラが趣味のビオンは彼に命じられて撮影を続けた。

 

 

(まだやるの……?)

 

 

それどころかマルフーシャたちもプロバガンダの手伝いをさせられた。

一番長身であるエノスは男性用の兵服を着せられて銃を構えている。

まるで占領地に旗と銃を構える兵士たちがそこに居た。

 

 

「よし、これで最後だ」

 

 

殺人をして葛藤や意気消沈をする暇はなかった。

さまざまなシチュエーションを写真に撮る為に彼は無理難題を言う。

今度は連合軍の兵士がマルフーシャに銃口を突き付けられて投降する光景を撮るそうだ。

 

 

「コレいる?」

「居るから撮影しているんだよ。マルフーシャの活躍も入れないとダメだろ?」

 

 

この場に居るメンバーは、上官がライカ監査官みたいにどこか抜けていると見抜きつつある。

冷酷な上官に見えて予想外の事があると逆上して人質候補を撃ち殺そうとしたりする。

ついにマルフーシャからタメ口のツッコミを入れられるが、彼は気付いていない。

 

 

「よし、これで終了だ。着替えるぞ」

 

 

修正すれば使い回しができる写真をいくつも撮影した。

一番、長身であったエノスを酷使したのは、さすがに兵士1人では画面が寂しいからだ。

 

 

「ふぅ……」

 

 

血塗れになった敵国の兵服を脱ぎ捨てたアルバートは息を漏らす。

マルフーシャたちは内門に帰還すれば休めるが彼は違う。

捕虜を搬送する為の手続きと撮影したフィルムの輸送、補給の手続きが待っている。

 

 

(嫌だな……)

 

 

連合軍の大佐を捕虜にしたのはいいが、扱いが本気に困った。

下手すれば軍上層部で内戦が起きるのでないかと思うほど誰に報告すればいいか迷う。

こういう時に最高指導者様という唯一無二の最高権力者が居るのはありがたい。

 

 

(最高指導者様の副官に一報を送るか…)

 

 

アルバートは、もっと早く死ぬはずであった。

ところが、従軍中に記した論文がお偉いさんに評価された。

そのおかげでコート陸軍指揮幕僚大学校に入学する事ができ、出世街道を進む事ができた。

高く評価してくれた副官に暗号文で速報を送る事にしたアルバートに迷いは無い。

 

 

「アリビナ、エノス!大佐殿を内門まで搬送するぞ」

「はーい!任せて!!」

「わかった」

 

 

赤髪から灰色の髪になったアリビナは、頭に包帯を巻いて負傷兵のフリをしている。

何故そこまで髪の色に拘るのか彼も理解できないが、まあ、いろいろあるのだろう。

アリビナの元に駆け付けたエノスは、大佐が拘束されている担架を持ち上げ始めた。

 

 

「ムガムガムガ!!」

「お話はあとで聴きますので…」

 

 

鹵獲した無線機を背負ったアルバートは、猿轡(さるぐつわ)されたせいで雑音を鳴らす大佐をおちょくる。

そしてマルフーシャの方を見ると彼女はどこか浮かない顔をしていた。

 

 

「マルフーシャ分隊長、いろいろと言いたい事は分かる。ただ、内門に戻ってからにしてほしい」

「違います。敵軍のお偉いさんを確保したら激戦になるのではないかと懸念しているだけです」

 

 

てっきり、殺人やら騙し討ちやらで何か言いたそうだと思って牽制した。

ところが、彼女は意外と現実を見るタイプであり、アルバートも想定している事を述べた。

 

 

「……他の誰にも言うなよ?敗北主義者と思われても知らんぞ」

「あ。は、はい……」

 

 

マルフーシャは、洞察力と戦況分析力に長けているようであった。

確かに外門の防衛成績が完璧と称される事はあると感じつつ牽制を行なった。

 

 

(まあ、気持ちはわかる)

 

 

伏兵が居ないか周囲を伺いつつ、彼女の懸念は正しいと理解している。

自国民に優しい敵国は、きっと大群の機械兵を送りつけてくるのが目に見える。

 

 

(どうしたもんか……)

 

 

兵站担当をしていたからこそ、すぐに大軍を送りつけてくるのは不可能だと分かっている。

毎日、内門を襲撃する機械兵ですら後方では整備兵が念入りにメンテナンスをしているのだ。

むしろ、少数精鋭の特殊部隊が襲来して来る事を警戒しなければならないのだが……。

 

 

(妙だな……)

 

 

それよりもアルバートは、外門の静かさが不気味に感じる。

既に門付近の住民は連行されたのか風で何かが揺れる音以外、何も聞こえない。

これほどの静けさは、大規模な爆撃を受けた後の市街地を駆け抜けた時に似ている。

 

 

(……やはり、何かが可笑しい)

 

 

要するに自分たち以外に生存者が見られないこの場所はかなり不気味だった。

いくら敵軍の拠点が陥落していないとはいえ、先に民間人を連行する必要があるのか。

 

 

(……何を企んでいる?)

 

 

腐っても軍事大国のカゾルミアは、国民全員が銃器を手に取って侵略者を迎撃できる能力がある。

下手すれば、正規軍を駆逐しても民間人が市街地でゲリラ戦をする事だって可能だった。

だからこそ圧倒的な有利なはずの連合軍は、侵略を鈍化させてまで徹底的に敵を排除している。

 

 

(まあ、大佐を尋問すればいい話か……)

 

 

マルフーシャといった徴兵された少女すら軍事訓練すれば、多くの機械兵を撃破する兵士となる。

よって連合軍は、プロバガンダの嘘を国民に暴露し、味方につけた方が圧倒的に良いはずだ。

そう考えているアルバートは、後方を警戒しながら彼女たちの後を追う。

 

 

「アルバート上等兵、質問よろしいでしょうか?」

「マルフーシャ分隊長、別に問題ない。簡潔に頼む」

 

 

大通りを進み続けて第13地区の住民が生活する気配が感じられる場所に辿り着いた頃。

アリビナとエノスが運ぶ担架を守る様に後ろに展開していたマルフーシャから質問された。

 

 

「大通りをこのまま進むべきでしょうか?」

「別にやましい事はしていない。堂々と進むべきだ……小官はそう思っている」

 

 

最後尾に居るアルバートは、カゾルミアの旗を掲げる旗手として歩いている。

まるで戦地で負傷した兵士を搬送する部隊のように見える光景に何か言いたかったのか。

かなり言葉を選んでいる素振りが見せるマルフーシャに「堂々と進むべきだ」と告げた。

 

 

「それとも何か?自分と違って戦わない低級民に不満があるのか?」

「いえ、なんでもありません」

 

 

そして暗に告げる。

成績次第では10等級国民に降格があり得る自分と違って戦闘に参加しない民間人。

すなわち、第13地区の低級民の扱いに疑問に思うな……と。

 

 

(現に地雷を設置したせいで低級民に被害が出ても報告が不要とまで言われているしな)

 

 

カゾルミアという国は不思議だ。

国民皆兵制度で国民全員が戦えるのに住民全員を徴兵しようとしない。

現にマルフーシャが内門を防衛している時、住民の低級民は戦おうとしなかった。

 

 

「少なくとも君たちの人権は軍が保証している。ならば、我々は上の命令をこなすだけだ」

 

 

捕虜作戦は上から命じられたものではない。

だが、この作戦を成功させた事で軍上層部になにかしらの要求をする事ができる。

軍が想定する以上の成果を出せば、少なくとも優秀な人員に関しては確保しようと試みる。

 

 

「上からお声が掛かる様にアピールするのも一つの手だぞ?」

 

 

現にアルバートは上から評価された結果、一度は出世コースに乗れた。

今度は左遷先に居た少女を利用して成り上がる気満々であった。

 

 

「ビオン一等兵」

「ふあ?は、はい!!」

「君の雄姿を撮影したい。代わりに旗をもって進軍してくれ」

 

 

ただ、成り上がる為の道具を適当に扱う気はない。

さきほどまで静かに進軍していたビオンに呼び掛けて役割の後退を命じた。

 

 

「よ、よろしいんでしょうか!?」

「君は祖国の国旗を掲げる権利を拒絶したい。そう言いたいのか!?」

「違います!旗を掲げさせてもらいますぅ!」

 

 

いきなり話を振られたビオンは驚愕していたが、上官の圧力に負けた。

すぐに首からぶら下がったカメラを彼に手渡して代わりに旗を掲げた。

 

 

「よし、ビオン。そのまま進め。君の前進は祖国の勝利に繋がるのだ」

 

 

何度もシャッター音を鳴らし、彼女の雄姿をフィルムに写そうとする彼の姿は滑稽だ。

数時間前までは、奇襲をして敵兵を確実に絶命させてくる鬼上官の姿には見えなかった。

 

 

(うーん、なんか変な感じ……)

 

 

その姿を見たマルフーシャは、外門防衛に配属された時に出会ったライカ監査官の姿を思い出す。

厳しそうな女憲兵に見えてどこか抜けており、頼もしくもどこか愛しい感じがした。

 

 

(気分の切り替えって難しい……)

 

 

今まで門の防衛だけして余計な事はしないという信念があった彼女だが…。

私情と本音と建て前を瞬時に切り替えられる上官を見て改めて不思議な軍隊と思ってしまう。

確かに任務は大変であるが、どこか人間らしさを見せる軍人たちの反応が愉しみでもある。

 

 

(私もあんな感じになれるのかな…)

 

 

特に男性の兵士は誰もが糞野郎と思っていた彼女は、上官に対してはどこか親しみを覚えた。

それは父性というよりは、意外と単純そうだから上手く騙せそうという邪念が大きい。

 

 

(……英雄ってなんだろう)

 

 

悪い奴をやっつけたり、弱者を助けるのが英雄だとマルフーシャは思っている。

だが、現実では奇襲で敵兵を殺したり、嘘を広めたり、過剰に勝利を宣伝している現状。

それどころか上官を利用して何か企もうとしている自分の思考に困惑しつつある。

 

 

「マルフーシャ分隊長、そろそろライカ班長率いる防衛隊と合流する。準備をしておけ」

「はい。分かりました」

 

 

上官に呼びかけられて無意識に返答したマルフーシャは改めて前を見る。

上級民の居住区と低級民を隔てる内門が眼前に広がっていく。

いくつかのバリケードと共に機械兵の襲撃に備える守備兵の姿が見えた。

 

 

「……今日みたいな日が続くといいな」

 

 

誰1人欠けずに安全な場所まで戻って来れたマルフーシャはようやく固い表情を緩めた。

驚愕した表情で駆け寄って来るライカ元監査官の姿を見て彼女は自重する。

 

 

(ライカさん、もう貴女の知るマルフーシャは…死んじゃいましたよ)

 

 

殺人を経験したマルフーシャは、どこか狂い始めた。

上官が戦闘と私生活の切り替えができるのであれば、それを見習わなくてはならない。

少なくとも殺人という選択肢を選んだ彼女は、進んで実行し続けると誓った。

 

 

「……フーシャちゃん!フーシャちゃん!!」

「……え?」

 

 

いつの間にか彼女はいろんな事を考えてしまった。

心配したアリビナが大声で名を呼んだおかげで元の世界に戻って来れた。

 

 

「やっぱり、きつかったよね」

「アリビナだって…無理してるでしょ?」

 

 

いつもハイテンションで騒ぎまくるアリビナが真顔で呼びかける現状はまずいと判断。

戦場で彼女が嘔吐していたのを思い出してマルフーシャは苦し紛れの質問をした。

 

 

「うん、無理をしていた。でもね、チョコレートって良いよ。憂鬱な気分が吹っ飛ぶからね!」

「あははは……」

 

 

手渡されたチョコレートを受け取ったが、お互いに苦笑いをしていた。

いや、だからこそマルフーシャはわざと露骨な笑い方をした。

アリビナが無理をしていると分かっているからこそ、自分も同じだと示した。

 

 

「お姉さん、今日は散々でしたね。肩を揉ませて頂きます」

「フェリセット、そんなに私って疲れている顔をしてた?」

「はい、ですのでお姉さんが少しでも癒されるように頑張ります」

 

 

そのせいでいつもと違って戦場以外でも真面目モードのフェリセットに肩を揉まれた。

普段の生活ではありえない事態であるからこそ、皆に心配をかけたとマルフーシャは自覚する。

 

 

(でも、たまにはいいかも……)

 

 

2等級国民出身であるお嬢様は、凄腕の狙撃兵であるのだが、それ以外が問題だった。

日常的に軍規違反をするどころか、誰かの手を借りなければ私生活すらまともに送れなかった。

だからいつもはマルフーシャにお世話される存在であった。

 

 

「いかがでしょうか?」

「とっても気持ちいいよ……」

 

 

それが今では逆転してフェリセットにお世話される立場となった。

誰かに頼らずに自分だけで全てをこなそうとした少女はたった今、同僚に癒しを求めている。

 

 

「お姉さんが倒れたら、ベルカさんにお世話されるしかないですからね…」

「本音はそれか……」

 

 

ベルカ衛生兵は、口では厳しい事を言うが根はやさしい。

ただ、甘やかされて堕落した生活を送りたいフェリセットにとってベルカ衛生兵は天敵である。

なにせ母親みたいな存在なので、自力で行動できる様に一人前の生活を強要してくるのだから。

 

 

「はあ?私はフェリセットを想ってやってるのにその態度は何よ!?」

 

 

すぐに堕落しようとする令嬢の発言を聞き付けた衛生兵が彼女に抗議する。

お節介を通り越して母親モードになった彼女は誰にも止められない。

背後からマルフーシャの肩を揉んでいたフェリセットは、同居人を盾にするように隠れた。

 

 

「……盛り上がっているところ、申し訳ないが、続きを発言してもいいか?」

 

 

またしても発言を遮られたアルバートは、自分を無視して盛り上がる集団に警告を発する。

彼女たちが好き放題しているのは、よほどの事が無い限り、上官が注意で済ますと見抜いたから。

 

 

「問題ありません」

 

 

さすがにこれ以上はまずいと思ったマルフーシャは彼の意見を肯定した。

さきほどまで騒いでいた女兵士たちは静まって真剣な表情で上官の顔を見る。

代わりにフェリセットはそのまま床に寝そべって動かなくなった。

 

 

「さきほど伝えた通り、今回の遠征は成功したが、敵軍の侵攻と攻撃が激しくなると予想される。特に英雄が守護する都市となれば、奴らも本気で攻め込んでくる事は火を見るよりも明らかだ」

 

 

疲弊した8名の女兵士を集めて会議をする上官は、どこか熱弁しているようで他人事に見える。

確かに彼は正論を言っているが、それを言うのは誰にもできる。

 

 

(何が言いたいんだろう……)

 

 

マルフーシャは彼の話を聞きつつ、何か目的を隠しているのではないかと疑った。

お偉いさんが話を逸らす為に別の事を大袈裟に言って誤魔化すような感じであった。

 

 

「そこで合同運用指定金銭信託を設置。要するにだ、諸君らの手取りから更に運営費を差し引いて分隊の運用資金とし、活用させてもらう事にした」

 

 

そしたらとっても分かりやすい事を言われて逆に兵士たちから抗議の声が出て来ない。

もちろん、抗議したら反逆罪に問われるのでやらないが、ここまで露骨な徴収はなかった。

 

 

「……ああ、そうだ。税金みたいなものだと思ってくれると助かる」

 

 

なにより上官が何をしたいのか分からない。

ただでさえ低級国民から税を取る『低級国民税』があるのに更に集金する理由を知りたかった。

 

 

「なんでこんな事をするかって?祖国は君たちの頑張りに期待していないからだ。何の話かだと?君たちも確認したはずだ。配布された内門警備着任書に『給与は成果に関わらず固定で支給する』という文面を……つまり、門が破壊されなければサボっていても給料が振り込まれるという事だ。そこで寝ているフェリセットみたいに行動しても給与は支給される。…裏があると思わないか?」

 

 

どうやらアルバート上官は、建前を発言する際に長話をする癖があるようである。

適当に受け流すはずだったが、マルフーシャは彼の発言に違和感があった。

 

 

(裏がある?……あっ)

 

 

ここでマルフーシャは給与支給が固定されているのは可笑しいと気付いた。

外門警備から内門警備に出世したと知らされた時、栄転じゃないと気付いていた。

しかし、あれほど成果主義の祖国が成果で判断せずに固定給にする違和感は気付けなかった。

 

 

「何が言いたいか分かるか?軍上層部からすれば君たちの代わりなどいくらでもいるという事だ。唯一、国民等級だけで判断しない軍が成果で判断しないとなれば、我々は見捨てられたと同然だ」

 

 

外門を40日間、防衛したマルフーシャは知っている。

国家が期待した成果を出せなかった門衛が10等級国民に認定されて国営更生施設送りになったと。

 

 

(……やっぱり、祖国は私たちを…)

 

 

だから内門まで侵攻した機械兵は、大破した外門から侵入してきたと彼女は思っていた。

処罰される女衛兵に同情したもののそれどころじゃないから考えないようにしていた。

だが、アルバート指揮官の発言を改めて聞いて彼女は無意識に左手を挙げていた。

 

 

「マルフーシャ分隊長、発言したい気持ちはよく分かる。だが、最後まで話を聞いて欲しい」

 

 

ビオンやエノスといった低級国民出身者は首を傾げたが、上級国民出身者は気付き始める。

上を目指したり、地位を維持するのは困難なのに地位を降格されるのは容易いと知っているから。

だから目の前に居る上官が何を言いたいのか理解してしまった。

 

 

「だが、我々は連合軍の大佐を捕縛した。これにより祖国は我々を必要不可欠の人材と認識して、固定給を更に増やすと交渉してきた。ここで思い出して欲しい。固定給が増えたらどうなるかと。どうせ、更に徴税されるなら残った分を自分たちの共有資金にするべきだと思わないか?」

 

 

なにより、彼がしたい事をマルフーシャは理解した。

 

 

「よって徴収される前に予定納税制度を利用して先手で税を支払って残りを共有資金とする」

 

 

予定納税制度とは、来年度に納める税金を事前に納める制度である。

資金がカツカツなのに武器調達が自腹の兵士では絶対に利用できない制度であった。

ところが、アルバートはそれを利用するつもりである。

 

 

「予定納税制度の面白いところはな。来年度に支払う税金を前払いにする事なんだ。…つまりだ。今年度の税金はきちんと支払っているので今年度に関しては新たな徴税を避ける事ができる」

 

 

アルバートとして難癖つけて徴税する祖国に呆れかえっている。

特に5等級国民であるマルフーシャに低級国民税が課せられていると知ってドン引きしたほどだ。

ただ、下手に指摘すると痛い目に遭うのは明白だったので税金を逆手に取った。

 

 

「現状では、マルフーシャ分隊長みたいに微かな貯金を切り崩して他者を気にかける余裕はない。ただ、そのままだと使用する武器によって格差が発生し、一部の兵士が困窮する」

 

 

マルフーシャが上級兵職を金で雇えた闇深さがここで出て来る。

電熱線技術を駆使した最新鋭の武器を利用する上級兵ほど金欠になりやすいのだ。

ただでさえ旧式武器と比較して寿命が短いのに高価のせいで使いづらい武器が多い。

 

 

「特に狙撃兵のフェリセットに至っては、新人に寄生しなければとっくに破産していたはずだ」

 

 

上級スナイパーライフルを利用できる腕前の正規兵であれば、祖国から無償で支給される。

ところが、代替え武器や予備の武器を兵士に買わせているようにその制度は既に破綻している。

 

 

「よって私は、兵士間の不平等を解消しつつも、分隊に必要不可欠な支援火力の充実と運用資金と個人の貯金に影響しない程度の貯金を実行す為にあえて諸君の手取りを差し引く事にした」

 

 

それでも上官の説明を信用できない兵士たちが多い。

ぼんやりしているエノス以外は、説明している上官が一部の資金を着服すると睨んでいた。

 

 

「私も含めこの場に居る全員の節税をし、問題が無い資産運用する為に積極的に公表する所存だ。基本給が増えても控除が増えるだけで利点がないのだ。嘘だと思うならコレを見てみろ」

 

 

ちなみに偉そうな事を言っているアルバートが一番、節税したくてしょうがなかった。

自身の給与支給明細書を部下たちに手渡して控除額が凄まじい事を見せつけた。

 

 

(うわ……)

 

 

無言を貫くストレルカから上官の給与支給明細書を受け取ったマルフーシャは内容を確認した。

基本給が80、役付手当が15、職場手当2、家族手当3となっており、合計は100となっていた。

ところが、控除額を差し引いた手取りは10であった。

 

 

(指揮官も苦労してるんだ……)

 

 

内門の門衛であるマルフーシャは、固定給が60、手取りが5となっている。

一見すると上官は、彼女の2倍も給料をもらっている事となる。

しかし、家族手当を差し引いて計算すると恐ろしい事実が判明する。

 

 

マルフーシャの手取り: 5÷60×100=8.33 支給額の8.3%しかもらえていない。

アルバートの手取り:  7÷100×100=7 支給額の7%しかもらえていない。

 

 

3等級国民の上官のはずなのに何故か等級を考慮せず、むしろ末端の兵より差し引かれていた。

家族手当があるので彼が既婚者だと分かったが、それがないと悲惨な給料になると判明した。

 

 

「うわ、私と同じ……あっ」

 

 

マルフーシャから手渡された明細書を見たライカ元監査官の漏らした本音が全てを物語っている。

上官の顔を見ると笑顔であったが、両手の拳がプルプルと震えていた。

同じ3等級国民で軍での階級差があっても、政府高官の末娘と成り上がり組では差があるようだ。

 

 

「という事は、フェリセットが一番もらっているの?」

 

 

誰もが堕落した女狙撃兵を見る。

この場で一番やる気が無い彼女が一番の高給という事実は、最悪の結末を物語っている。

 

 

(……って事は、英雄になって国民等級を上げても生活はそんなに変わらない!?)

 

 

5等級国民であるマルフーシャは、義妹と一緒に暮らす生活は維持できていた。

それでも貧しいので戦場で活躍して国民等級を上げようとしていた。

それなのに上官が示したのは、国民等級を上げたところで生活は貧しいままという事実だ。

 

 

(そんな……)

 

 

英雄になれば、スネジンカは徴兵されずに送付した貯金で裕福に暮らす事ができる。

もはや祖国よりも妹の為に頑張っていた彼女の夢は無駄だと知った。

 

 

「次に今回の襲撃で3名の兵士が足を負傷したので諸君らはエノス一等兵の正装を―」

 

 

それからマルフーシャは上官の発言を聞く気力を失った。

彼曰く、国民服の上に軍用のジャケットを纏っただけの格好がほとんどだった。

そのせいで茶色のタイツでは足を守れず傷ついたのでズボンを履く事を推奨する。

そんな話をしていたと思う。

 

 

「それは建前で超絶可愛いアリビナちゃんのおみあしに欲情したのが嫌だったんじゃないの~?」

「上官に向かってその口の利き方は何だ?」

「図星はだめだよ~。ホラ、あたしに欲情しないように頑張って練習しようね!」

「机の上に腰掛けるな!両足をブラブラさせるな!下着を見せつけるな!」

 

 

自分の可愛さを存分にアピールするアリビナの行動に対して上官が押されていた。

正規の兵服着用を義務付けると彼は発言していたが、彼女の指摘は間違いではなさそうだ。

更に兵士たちの私生活についても口を挟もうとしたが、さすがに異性相手だと不利のようだ。

 

 

「効率的な部隊運用をする為に宿舎は、寝泊り用と私生活用、プライベート用に分けて―」

 

 

それでも彼なりに頑張っているようだが、ビオンやフェリセット以外にダメ出しをされ続けた。

いや、フェリセットは寝ぼけてマルフーシャに抱き着いているので味方は実質1人の状態だ。

 

 

「共有資金なんだからいいでしょ?」

「ストレルカ特務員、君しか読めない本を買ってどうする気だ?大体、君は―」

 

 

時折、マルフーシャは兵士と上官が揉めている話を耳にするが、それ以上聞く気はなかった。

出世しても地獄、現状維持でも地獄、英雄になっても貧しいままで責任だけ増える。

特に仲間たちを差し置いて自分だけ成り上がったところで破滅しか見えないと感じたのだ。

 

 

(この国の為に戦って何を得られるの……)

 

 

既にマルフーシャはアルバートの予想よりも早く祖国の為に戦う事に疑問が生じていた。

彼にとって予想外なのは、彼女はどこか冷めており、不要な事はしない性格であったことだ。

 

 

(…違う。ここで逃げたらみんなの努力が無駄になる)

 

 

自棄になりかけた彼女は、今まで出会った仲間の努力を無駄にしたくないという結論に達した。

義妹と生きて再会すると同じくらいに仲間たちも生還して家族の元に帰って欲しいと願っていた。

こんなどうしようもない世界に生まれて破滅が待っていたとしても、希望を信じたい。

 

 

(私が英雄になる事でみんなが破滅する未来を少しでも先延ばしにできたら……)

 

 

マルフーシャはスネジンカが大好きで同じくらいに仲間も大好きになってしまった。

だから自分の頑張りで仲間たちが救われるならいくらでも手を汚すつもりだった。

 

 

(頑張った甲斐がある……そう信じたい)

 

 

マルフーシャは知らない。

上官が示した事実は一部でしかない事に。

どれだけ頑張っても、数字でしか評価できない人物は捨て駒としか認識されないと知らなかった。

なにより、合同運用指定金銭信託は後に1人だけ脱出したマルフーシャが受け継ぐ事となる。

 

 

(だからもう少しだけ頑張ってみよう)

 

 

初めて分隊長として任務を達成した事で迷いが生じた彼女は、その気持ちを無理やりねじ伏せた。

その結果、余計に生き地獄へと迷い込んでしまい、死ぬまで永遠に苦しむ事となった。

 

 





-----
【カゾルミア国民プロフィールシート】

名前:フェリセット
階級:2等級国民

289年 カテョーナク女子学院中等部入学
290年 カゾルミア陸軍入隊
296年 マルフーシャが飼い主になる
296年 マルフーシャ分隊に所属 上等兵兼スナイパー


概要
清楚系不眠症スナイパー。

良家の末娘として大切に育てられてきた。
天才的な射撃の腕を買われて軍にスカウトされた元エリート狙撃兵。

穏やかな性格と確かな実力で部隊内で評判も高かったが、
狙撃のミスで仲間を射殺してしまった経験があり、
それ以来すべてに堕落的な性格に代わってしまっている。
今では邪魔ものとしていろんな部隊にたらい回しにされている。

諸事情で重度の不眠症を患っており、夜間はほとんど寝れていない。
ようやく寝れたと思ったら、目覚まし時計が鳴り響いて意識を現実に戻す。
だから、目覚まし時計をゴミ箱に放り投げた。私生活も放り投げた。

マルフーシャと出会ったのは、『死は安息』だと思い始めた時であった。
病気の猫みたいに自分のお世話を彼女に押しつけたのに拒否しなかった。
衛生兵のベルカと違って存分に甘やかしてくれる存在に喜んで身を任せた。

今では自発的な行動は全て億劫となり、全てをマルフーシャに任せている。
フェリセットにとってお世話をされるという事は、ただの我儘行為ではない。
配慮や気配りを切り捨てた罪人に利他の心を思い出せる行為なのだ。

マルフーシャに全てを依存した良家の令嬢は、もはや彼女に寄生している。
お姉さんが居るおかげで自分は生きていると自覚しているのだから。
マルフーシャの為なら全てを射抜く、その代わりにお世話を欲する貪欲娘。


「お姉さんわたしの世話をしてくださいませんか」


趣味:フルート演奏/マルフーシャにお世話されること
すき:眠ること/猫/マルフーシャの全て
きらい:目覚まし時計/ベルカ衛生兵による叱責
性格:穏やか
身長:154cm
役職:狙撃兵/マルフーシャの抱き枕兼ペット
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ダンジョンの外で戦技売りをするのは間違っているだろうか(作者:ルンルンベア)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

 異世界に謎の転移をしてしまった男、田西ユウタ。彼はこの世界の大都市オラリオでホームレス生活を送る羽目になる。しかし彼には大好きなゲーム「エルデンリング」の戦技をゲームと同じように武器に付与すると言う謎の能力ともう一つ能力があった。▼ 戦えない、頭も良くない、身元を保証するものがない、そんな田西は特殊な能力だけを頼りに今日も何とか生きていく。


総合評価:2039/評価:7.73/連載:6話/更新日時:2026年06月23日(火) 18:46 小説情報

【青学三次】(自称)モブの日常掲示板(作者:掲示板物好き)(原作:ブルーアーカイブ)

キヴォトス転生者たちが好きなことして、少しやらかす話集です。▼本作はどくいも様の『青資秘密学園奮闘ログ』の三次創作となります。▼https://syosetu.org/novel/322798/


総合評価:4210/評価:8.54/短編:38話/更新日時:2026年08月08日(土) 20:00 小説情報

真面目にゲーム作ってもらえます?(作者:アウグスティン)(原作:ソードアート・オンライン)

どうしてこんなになるまで放っておいたんだ


総合評価:13406/評価:8.46/連載:13話/更新日時:2026年08月15日(土) 06:12 小説情報

新人先生はネタバレ生徒しか引けない(作者:KuRoNia)(原作:ブルーアーカイブ)

シャーレに着任したばかりの先生が、シッテムの箱で見つけた『募集』機能。▼それは、シャーレに入部届を出している生徒をランダムで呼び出す、いわゆるガチャのようなものだった。▼軽い気持ちで初回募集を行った先生の前に現れたのは、臨戦状態のホシノと黒いドレス姿のシロコ。▼だが先生は、まだアビドスにも行っていない完全な新人先生だった。▼「うへ……最序盤じゃん」▼「ん、ネ…


総合評価:12628/評価:8.89/連載:60話/更新日時:2026年08月16日(日) 00:00 小説情報

ディストピア世界の悪徳企業CEO(自認)(作者:ねうしとら)(オリジナルSF/戦記)

世界を巻き込む大災害が発生し、ほぼすべての人類が死滅した世界にて。人類最後の楽園である超巨大都市国家『エデン』は、その名とは裏腹に階級制度が完全に定着したディストピアな社会であった。▼未知の物質によって汚染された外界、限られた資源。超能力に目覚めるごく一部の人類と外界に蔓延るモンスターたち。▼そんな人類詰みかけディストピア世界で有数の大企業のトップとなった主…


総合評価:11258/評価:8.56/連載:12話/更新日時:2026年05月15日(金) 21:34 小説情報


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