マルフーシャを利用しようとして逆に利用される士官さん   作:アルバート元中隊長

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7話 騙し討ち

衛生兵のベルカにとって戦争とは身近な物であった。

そもそも家庭環境が戦争そのものであり、両親が喧嘩する度に誰かが負傷していた。

病弱の兄と幼い妹はいつも騒動に巻き込まれてお互いを傷付け合う事が多々あった。

 

 

(戦争なんか大っ嫌い…!)

 

 

罵倒が日常だった家庭環境のせいでベルカの口調は荒くなってしまった。

本人としては、気遣って声をかけたつもりだったのに暴言と受け取られてしまう。

それどころか態度にも問題があるとされ、まともな就職先すら紹介されなかった。

 

 

(最悪……)

 

 

戦争の次に嫌いなのは、不潔のままでいる事である。

医療従事者というのもあったが、家庭環境が劣悪だったせいで衛生も最悪だった。

そのせいで兄は病に伏す事となり、妹も中等学校を卒業できるか怪しいほど貧乏となった。

そして只今、下水塗れで悪臭が漂う状況下で待機を命じられている。

 

 

「ベルカ衛生兵、何か言いたそうね」

「フン、別に…」

「あっそう、ならいいか」

 

 

声をかけて来たライカ班長は、自分と似た者同士だとベルカは知っている。

しかし、距離の詰め方が分からないし、なにより自分の都合で私語をする訳にはいかなかった。

 

 

(本当にあいつらを全員、救えるの?)

 

 

今まで見て来た機械兵は、門に向かって攻撃する存在であった。

間違っても女子供に武器を突きつけて前に進むように促す存在では無かった。

少しでも変な動きをすれば発砲するのか。

投降した住民は、まるで先鋒に誘導される蟻の列のように規則正しく外門を目指している。

 

 

(早く来なさい…)

 

 

ベルカたちに聞かされていたのは、まず機械兵の指揮官である敵兵を確認する事。

そして人数を把握し、居場所も把握して合図が出た瞬間に始末する事。

一歩でも間違えれば、捕虜にされた住民に被害が出る。

 

 

(まだ?まだ?まだ?まだァ!?)

 

 

しかし、攻撃の合図がかなり曖昧に説明されていた。

まずは、作戦開始の銃声、そこから発煙筒が焚かれてからライカ班は動く事になっている。

しかし、どこで発煙筒が焚かれるのかは、班員には聞かされていない。

よって班長であるライカに判断を委ねているベルカは、もどかしい気持ちが溢れていた。

 

 

「早く進め!!」

 

 

一方その頃、捕虜の最後列でアサルトライフルを構えた連合軍兵士が住民の移動を急かしていた。

彼らは選抜された最精鋭であり、生半可な出来事では動揺しない存在であった。

北東で発生する大捕物に参加できなかったのは癪だが、ひたすら任務を遂行する所存であった。

 

 

「ん?」

 

 

何かが落ちた音がした。

住民を見張る兵士の1人が振り返るとそこには懐中電灯がコロコロと地面を転がっていた。

夜間から住民を輸送する準備をしていた彼らには必需品なので落とし主は限られる。

 

 

「おい、誰か懐中電灯を落としたぞ」

「…はあ?」

 

 

懐中電灯を手に取った彼にとって不運だったのは、手袋とマスクをしていた。

そのせいで懐中電灯の違和感に気付けなかった事である。

同僚から呼びかけられた兵士は全員、腰を触って懐中電灯がある事を確認する。

 

 

「よし、お前もよし……俺らのじゃないぞ。お前のだろ」

「いや、俺も持っている」

 

 

住民を加工工場までの搬送を担当する兵士にしか持たされていない懐中電灯は識別の証でもある。

よって誰かが落とした物だと勘違いした兵士は、同僚の報告を受けて困惑した。

この場に居る誰かが落とした物じゃないなら一体誰か落としたのかと…!

 

 

「誰かが……」

 

 

落とし物を同僚に見せつけた兵士は、仕方なく懐中電灯をポーチに入れようとする。

その瞬間、懐中電灯は爆発した。

爆発自体は大した事はなく懐中電灯が破裂しただけだが、動揺を誘うのに充分であった。

 

 

「撃て!!」

 

 

誰かが叫ぶとそれに応えるように散弾が爆発で驚愕した兵士に襲い掛かる。

爆発の被害が無かった兵士も死角に潜んでいた敵兵によって散弾をぶち込まれた。

 

 

「……え?最後尾がまだ見えてないけど!?」

 

 

銃声が合図と誰もが聞かされていた。

だが、続く銃声は明らかに狙撃したものではない。

人気がない民家に身を潜めていたライカが思わず声に出してしまうほどの衝撃だった。

 

 

「え?なんで銃声が続くの…!?」

 

 

合図の銃声と共に発煙筒が焚かれると狙撃担当のパディ班は伝えられていた。

その合図とともに狙撃で敵兵を撃ち抜いて脅威を排除する手筈だった。

しかし、発煙筒は焚かれずに銃声が何度も鳴り響き、奇襲がバレたのかと動揺した。

 

 

「敵襲、身を潜め…うぎゃあああ!?」

 

 

当然、後方から鳴り響いた銃声に銃列の前方に居る敵兵たちも異常に気付く!

慌てて銃声がした場所に向かおうとするとアルバートと共にオリガ班が発砲をする!

アサルトライフルで奇襲をされた歩哨たちは、銃弾を浴びてバタバタと地面に倒れた。

 

 

「パディ班長、計画と違います。撤退しますか!?」

「我々の任務は敵を狙撃すること、撤退などあり得ない!狙撃任務を続行しなさい」

 

 

一方、狙撃班は計画の変更を何も聞かされておらず、班員が班長に撤退を問いかける。

そんな事言われても、班長のパディは、スコープを覗きながら狙撃を命じるしかない。

 

 

「…撃て……命中、ナイスショット」

 

 

スポッターの指示で隣で待機していたスナイパーが狙撃をする。

静かだった市街地を1発の銃声で鳴り響き、止んだ直後に敵兵が地面に倒れ込む。

その光景自体は見えなかったが、スポッターの発言で命中したとパディ班長は知った。

 

 

(話と違う…!)

 

 

威力偵察もそうであったが、明らかにスパイを炙り出すような状況である。

作戦決行の当日に説明を受けた挙句、威力偵察をする場所も知らされず変更された。

更に狙撃班より先に別動隊が動いており、自分たちが信用されていない感じがした。

 

 

(まさか……)

 

 

ボルトアクションを実施して旧式のスナイパーライフルから排莢する音がした。

隣のスナイパーが行った動作だが、パディはやっていない。

だって自分を担当しているスポッターが何も指示していないのだから。

 

 

「シェール!何をしてるの!?早く指示を……」

 

 

未だにスポッターから指示が無いのに痺れを切らしたパディが彼女の名を呼ぶ。

それでも反応しなかったのでスコープから目を離してタッグを組んでいたはずの相方を見た。

 

 

「何を……!?」

 

 

なんで指示を出さなかったのかと叱責する事すらできなかった。

何故ならシェールが発煙筒を起動して煙で自分たちの居場所を知らせていたから。

スナイパーにとって敵に居場所を知らされるという事は、最悪の事態となる。

 

 

「ベルカ!私の後に続いて!!」

「わ、分かったわ!」

 

 

同時刻、発煙筒が発する煙を目撃したライカ班長が動き出す。

彼女に呼びかけられたベルカ衛生兵は返答し、走り出した班長の後に続く。

 

 

(……あれ?)

 

 

ここでベルカは違和感を覚える。

市街地に展開していた敵兵は、既に動かない物体になり果ててていた。

だからといって身を隠さずに煙に向かって一直線に走るライカ班長の行動は可笑しい。

 

 

(なんで手錠を持ってるの?)

 

 

なにより、左手ではアサルトライフルを握っているが、残りの手は違った。

明らかにこの場で不要である手錠を握り締めていた。

誰かを拘束するなど聴いていないベルカは、ライカが握る手錠に違和感を覚えた。

 

 

「居た!!」

 

 

疑問に思いつつ班長の後を追いかけたベルカは、狙撃犯と合流した。

そこでは何故か狙撃班の1人が発煙筒で自ら居場所を知らせていた。

それだけで既に可笑しかったが、更に異様な出来事があった。

 

 

「放せ!!何の真似!?」

 

 

パディ班長が2人組の女兵士に組み伏せられて拘束されていたのだ。

何故、班員が班長に反逆しているのかベルカには分からない。

 

 

「パディ!!」

 

 

拘束されている女班長と同じ憲兵出身のライカが彼女の名を叫ぶ。

きっとこの事態を収束させると期待したベルカだったが、予想が外れる事となる。

 

 

「よくも祖国を!!私たちを裏切ったな!!」

「きゃああ!?」

「ひゃあ!?」

 

 

拘束されたパディ班長を見たライカは激高し、飛び掛かる様に彼女に向かっていった。

あまりの険相に班長を拘束していた兵士たちは驚愕し、思わず悲鳴をあげた。

 

 

「くっ!?ライカまで何の真似!?」

 

 

組み伏せられているパディからすれば、明らかに異常事態だった。

狙撃犯の居場所を発煙筒で知らせるスポッターが敵性スパイだと判断されるべきである。

ところが、自分以外の班員が裏切ったのにも関わらず増援に来たライカにも敵視された。

 

 

「何の真似ですって!?外門に細工をして機械兵の侵入を手助けした貴女がそれを言う!?」

「……え?」

 

 

何も知らされていなかったベルカは、ライカ班長の発言に困惑した。

確かに機械兵の攻撃で外門が陥落し、内門まで追い詰められたのは知っている。

当事者ではなかったので恨み節はあっても、仕方ないと思っていた。

 

 

「何の話!?……ぐっ!?」

「……あった!」

 

 

両手に手錠をかけられてうつ伏せにさせられているパディ班長に人権がないように見えた。

同格であるライカが組み伏せられている班長の身体チェックを実施するとすぐに何かを見つけた。

 

 

「パディ、なんで貴女のポケットから敵国の身分証が見つかるわけ?」

「そ、それは……違う。私は誰かに嵌められた。誰か仕込んだ罠…」

 

 

ライカが発見したのは、敵国の身分証であった。

それもわざわざパディの顔写真が貼られている物的証拠になり得る物。

すぐにライカが問い詰めるとパディは誰かに仕込まれたと返答をした。

 

 

「フン!!」

「ぐっ!?」

「この……大嘘つきの反逆者が!!」

「ライカ、ライカ班長!!やめて!!」

 

 

すると顔を見上げたパディ班長の顔面をライカは軍靴で蹴り飛ばす。

更に蹴り出そうとしたのを目撃したベルカによって羽交い絞めされた。

必死にもがく班長を抑えるベルカは、何が起こっているのかさっぱり分からない。

 

 

「と、とりあえず落ち着いて!」

「落ち着いてですって!?これで!?コイツの反逆行為を看過しろというの!?」

「ここは戦場!!味方同士で争っている場合じゃないでしょ!!」

 

 

いつもは口が悪くて味方から距離を置かれているベルカもこの異常事態ではそれができない。

とにかくライカ班長の暴行を止めさせようと宥めるが、逆効果となった。

 

 

「コイツのせいで戦友が!後輩が!!国営更生施設送りにされた!!絶対に許さない!!」

 

 

オリガ班やマルフーシャたちが必死に敵勢力を排除する中、ライカは叫ぶ!!

彼女と同じ憲兵とその部下たちは外門が機械兵に突破された責任を取らされた。

憲兵だからこそ更生施設送りが何を意味するのか知っているので更に激昂してしまった!

 

 

「急いでここから離れます!!」

「まさか…本当にスパイだったなんて」

 

 

班長を裏切ったパディ班の班員たちは彼女の部下であった。

しかし、更に上の上官に勅令を受けて疑問に思いつつ彼女を裏切った。

それでも上官の身の潔白を信じ、同格の存在が調査するまで無実だと信じていた。

だからライカが敵国の身分証を発見し、班長が裏切り者だと知った彼女たちは動揺している。

 

 

「本部を、祖国を裏切って!!私たちを貶めた貴女を絶対に許さない!!」

 

 

ベルカや班員たちの協力があり、ライカとパディを引き離す事に成功した。

それでも怒りが収まらないライカは、裏切り者に罵倒する!

だが、彼女の放った一言を聞いたパディは逆上する事となる。

 

 

「…えぇ、裏切ったわよ!!だって本部が私たちを見捨てたんですから!!」

 

 

確かに彼女が仲間を裏切ったのは事実だ。

しかし、そうなった経緯は至って単純、自分たちが祖国に見捨てられたと知ったからだ。

 

 

「…え?」

「まだ分からないの!?私たちは友軍の撤退を手助ける為の捨て駒!その為の捨て駒が私たちよ!可笑しいと思わなかった?本軍が撃ち漏らした機械兵が日々、増えている事に!」

 

 

通信兵出身のパディは分かってしまった。

自分たちは敗走する本軍が撤退する為の時間稼ぎにさせられたという事に。

 

 

「私たちを裏切ったどころか、偉大なる祖国を侮辱する気!?」

 

 

同僚が敵国に売国行為をしていたと知り、更に祖国を疑うパディにライカは驚愕する。

憲兵として真面目に任務を取り組んできた彼女にとってその裏切りの影響は計り知れない!

 

 

「貴女だって薄々気付いているはず!本部は私たちを見捨てたって事に!!」

「……なるほど、確かにこれは救いようがないわね」

 

 

開き直ったパディが発言を続ける中、ライカは彼女に同意するような発言を繰り出す。

その発言と反比例するようにアサルトライフルを構えたライカの瞳に光は宿っていない。

 

 

「理解できた?私に手を貸すなら助けてあげてもいいわよ!」

「……貴女の事を信じて来た私が馬鹿だってことにね!!」

 

 

運が良いのか悪いのか。

自分たちの置かれた現状をアルバートに知らされていたライカは、パディの発言に動揺しない。

 

 

「将兵の規律と秩序を維持する憲兵が売国行為をするなんて言語道断!私が直々に裁く!!」

「ライカ班長、一旦落ち着いてください!」

「まずは住民と合流するべきです!」

 

 

ベルカやパディ班の班員たちが必死に激昂したライカを落ち着かせようと試みる。

そんな彼女たちの努力を嘲笑うようにパディは話を続ける事となる。

 

 

「だから私は祖国を見限った!敗戦間際に投降したところで裁かれるだけだからね、きちんとした実績を連合軍に示す必要があったわ。まだ抗戦できている段階で動く必要があった」

「それで外門に工作をしたの!?アンタのせいでどれだけの兵が絶望したか分かってる!?」

 

 

パディ曰く、完全に敵軍の優勢になった状態で祖国を裏切った所で扱いはたかが知れている。

だが、無駄に抵抗する第13地区の攻略を手助けするという実績をもたらせば、別となる。

祖国や同僚や部下を裏切ると引き換えに亡命先の人権と生存権を保証してもらう事にしたのだ。

 

 

「貴女たちだっていずれ分かる!!激励や最低限の物資しか渡さない本部の意図についてね!!」

 

 

既に銃殺刑が確定しているパディは、同僚や部下たちを煽る。

ライカと同じくらいに真面目だった班長が開き直って悪事を暴露する姿に全員が衝撃を受けた。

抵抗しないように担架に縛り付けられて2人係で運ばれる姿は囚人というより病人に見えた。

そして彼女の発言は、後の出来事によって裏付けられる事となる。

 

 

「報告します!長い砲身がある大型機械兵を発見しました」

 

 

パディが仲間たちに悪事を暴露した頃、アルバートの元に兵士から機械兵の情報がもたらされた。

既に指揮官を殺害してコントローラを奪った為、その辺に佇んでいる機械兵は脅威ではない。

だが、アルバートは直感で伝聞で知らされた機械兵がヤバい存在だと見抜いた。

 

 

「他に異常なところはあったか?」

「機械兵の上に敵兵の上半身が出てました。銃座が取り付けられている感じです」

「どこにいる!?」

「あそこです」

 

 

オリガ班の班員から詳細を聴いたアルバートは気付く!

大型機械兵の居場所を問い、そいつが自分の思い浮かべた存在と一致するか確認する必要があった。

 

 

「…戦車か!この市街地で展開するとは…」

 

 

案内された場所で機械兵の姿を確認して理解した。

連合軍が開発した次世代の戦車であり、おそらく北東部から応援に駆けつけた存在だと認識した。

 

 

「攻撃の許可を」

「ダメだ、住民の居場所を悟られるわけにはいかない。一旦、私と一緒に後退せよ」

「ハッ」

 

 

大型機械兵を目撃したら自分の姿を見せつけるように躍り出て総攻撃をしなければならない。

大型機械兵を目撃したら即座に総攻撃をして撃破せよ。

外門や内門の防衛をしてきた衛兵ほどその価値観が身についているが、ここでは悪手である。

戦車の前でそんな事をしたら、機銃で蜂の巣になる未来しかなかった。

 

 

「マルフーシャ、戦車だ!すぐに部隊を後退させろ。包囲されるぞ」

「申し訳ございません。戦車とはなんでしょうか?」

 

 

すぐに分隊長であるマルフーシャに後退を指示するが、彼女は戦車自体をよく理解していない。

大型の車両ぽい機械兵だと思っているのか。

むしろ、彼女自身は戦車を返り討ちにしたい素振りを見せた。

 

 

「塹壕や機関銃相手に強行突破する為に生まれた兵器だ。生身で相手をする兵器ではない」

 

 

マルフーシャたちに持たせた兵器群では、戦車を相手にするのはきつい。

だからといって戦車が1輌で展開しているはずもなく、少しでも撃破しておかないと退路がない。

 

 

(……やだな)

 

 

機械兵を相手にしてきたせいで大型機械兵を発見すると総攻撃してしまうのが、門衛の悪い所だ。

よってアルバートが手本を見せる必要があるが、奇襲するには分が悪すぎる。

 

 

「…私に案がある」

 

 

どう対処しようと考えているとストレルカ特務員が提案をするようだ。

手元には複数のガスボンベを持っており、これからしようとする事は理解する。

 

 

「いいのか?退却のルートがほとんどなくなるぞ?」

「…どの道、住民を連れて撤退は無理」

 

 

あくまでも住民の救出が建前だったアルバートと違い、ストレルカは必ず住民を救うつもりだ。

悩んだところで戦車に見つかるくらいなら、さっさと彼女の案を採用する必要がある。

さきほどの懐中電灯の爆弾のように化学知識と高度な工作技能が必要となる作戦だ。

 

 

(やりたい事は分かるが、通用するのか?)

 

 

実包に含まれる火薬と弾丸を分離し、懐中電灯をショートさせる事で火薬に引火させた。

細かく砕いた弾丸がクラスター弾となり、兵士を驚愕させる爆弾とした。

ストレルカがやろうとしている事は、それより高度ではないが、戦車に通用するか疑問だった。

 

 

「……残念ながらボンベの爆発で戦車の進軍を止める事はできない」

「…ならどうするの?」

 

 

戦車の装甲はともかく、履帯ならボンベの爆発で破損できるかもしれない。

しかし、戦車に接近しないと意味が無いのでストレルカの提案を拒絶した。

代わりに彼女から代案を求められたが、アルバートはここで名案を閃く!

 

 

「私たちがやります!!」

「あんなデカ物!楽勝です!!」

 

 

そう考えていたらオリガ班の面々が無駄にやる気を出した。

戦車を大型機械兵と同類だと思っている彼女は戦車に向かって駆け出した。

さすがに無駄死にさせる訳にもいかず、慌ててアルバートは分隊長に呼びかける羽目になった。

 

 

 

「マルフーシャ、あいつらを呼び戻せ!!死ぬぞ!!」

「は、はい!!」

 

 

彼女たちが大声で叫んで突撃作戦を実行した事で戦車に居場所を気付かれた。

そのせいで後が無いアルバートは、分隊長であるマルフーシャに呼び戻せと命じた。

 

 

「攻撃中止!!一旦、後退して!!」

 

 

マルフーシャは先行した2人に呼び掛けるが、言う事を聞く気配がない。

どうやら5等級国民の上官では説得力も引率力も欠けるらしい。

 

 

「何をやっている!!10等級国民になりたいのか!?後退しろ!!後退!!」

 

 

仕方なくアルバートが声を荒げると、あっさりと2人は血相を変えて戻って来た。

さすがに上官の機嫌を損ねるとまずいと思ったようだが、呼び止めた彼は焦る。

 

 

(クッソ、マルフーシャじゃ面識が無い班員は指揮できんか…)

 

 

なんとか呼び戻したおかげで彼女たちは無事だったが、1つ教訓を得た。

女性より男性の方が、面識が無い女兵士を統率できるという事である。

 

 

「…で、どうするの?」

「そうだな、ボンベを貰う」

 

 

新たな教訓を得たアルバートの元にストレルカがやって来た。

彼女が持ってきたガスボンベを見てやるしかないと悟る。

 

 

(マルフーシャ、こっちに来い)

(はい)

 

 

仕方なくマルフーシャを手招きで呼び寄せて3人で作戦会議をする。

一歩間違えれば、仲良く全員あの世行きだが、ここで行動しなければ死ぬ未来しかない。

 

 

「ストレルカ特務員はビオンと工作をしてくれ」

「…分かった」

「分隊長、覚悟はいいな?」

「はい」

 

 

酸素ボンベを抱えた2人は、最後に確認し、発砲音がする場所に向かった。

銃撃と砲撃で多くの建物が被害を受けており、とても近づける状況ではない。

だから敵の猛攻を逆手にとった!

 

 

(戦車は前方に2輌、後方に2輌か)

 

 

目的地に到着したアルバートは、建物の死角から先端に鏡を取り付けた針金を突き出した。

鏡に反射した光景を見てやるべき事を悟る。

 

 

(……今だ!)

 

 

上官の合図と共にマルフーシャは酸素ボンベをあらぬ方向に放り投げた。

死角から飛び出したボンベが音を立てて転がった瞬間、銃撃と共に爆発する。

 

 

「ぶげぇ!?」

 

 

何も無い空間を凝視していると、目の前に発生した異変に集中するものだ。

再び、下水道を通って装甲部隊の背後にまわっていたアルバートは奇襲攻撃を仕掛ける。

駐車していた戦車をよじ登って銃架を握り締める車長をナイフで殺害した。

 

 

(敵がアホで助かった……)

 

 

ほんの一瞬まで生きていた車長が室内に落ちて来たのを見てクルーは何を思ったのだろう。

すかさずハッチの中に手榴弾を投げ込んでその答えを導き出すのを拒絶した。

狭い密室の中で手榴弾の爆発から逃れる術はない。

数秒後に発生した爆発音と共に戦車の中で生き物が動く音は二度と発生しなかった。

 

 

「今!」

 

 

同僚が乗った戦車が爆発したのに驚いたのか、もう1輌の戦車は攻撃を中断した。

その隙を見逃さないマルフーシャは動く!

車長が車内に引っ込んでハッチを閉める前にショットガンをぶっ放した!

至近距離で散弾をぶっ放された彼は絶命し、返り血を彼女に浴びせる!

 

 

「まだだ!!」

 

 

上官が見せた手本通りにマルフーシャは、車内に手榴弾を投げてハッチを閉めた。

戦車が大きく揺れ、苦痛から逃れようとするような断末魔の叫びが鳴り響く。

だが、振動が収まったと同時に車内も静かになった。

 

 

「分隊長、全力で後退!!」

「はい!!」

 

 

さすがに味方の戦車に向かっていきなり砲撃をぶっ放す事はない!

敵軍の戦車を盾にした2人は全力で路地に向かって逃走を図った!

 

 

(来たね)

 

 

味方の被害よりも敵の殲滅を優先した戦車部隊が近づいた瞬間、ストレルカは動く!

ガスマスクを被った彼女は、一瞬だけ戦車部隊の前に躍り出て発煙筒を投げつけた!

 

 

「…いかん!?毒ガスだ!!後退せよ!!」

「は、はい!」

 

 

人体に有毒な可燃性ガスを想定したガスマスクが敵軍を勘違いさせるのに一役買った。

ただの発煙筒を放り投げたというのに化学兵器と勘違いして戦車が勝手に後退する有様だ。

 

 

(ガスマスクなんか着けてたらそうなるわな)

 

 

同じ立場だったら、同じ決断をするとアルバートは思いつつ、物陰から様子を伺う。

別動隊が発生した発煙筒が後退する戦車の視界を遮ろうとしている。

そのせいで唯一の脱出路に2輌の戦車が殺到し、お互いに衝突しながら逃れようとしていた。

 

 

(上手くいったな)

 

 

戦車が後退した先には、ビオンが仕掛けたスパイクがある。

視界が狭い戦車にスパイクが命中し、履帯が破損した。

これにより、2輌の戦車が動けなくなり、鋼鉄の棺桶となった。

 

 

「今がチャンスです!動けない敵軍に集中攻撃を加えるべきです!」

「いや、退路を断たれて追い詰められた得物ほど厄介なものはない。今の内に戦線離脱するぞ」

 

 

追い詰められた戦車に対してオリガ班の兵士が追撃の許可を求めるが、アルバートは却下した。

戦車の武装が無事のまま、下手に手を出して痛い目に遭うくらいなら後退するべきだ。

 

 

「なにより、目標を達成した以上、長居は無用だ。住民を誘導し、内門に帰投しよう」

「し、承知しました」

 

 

目標を達成し、更に有利な状態で安全地帯に後退できるのであれば、それを選択するべきである。

部下の提言を却下した工兵は、オリガ班を通じて全員に内門に帰還するように命じた。

実際、その判断は間違っていなかった。

無線連絡により、すぐに大量の機械兵軍団と戦車部隊が合流する事になったのだから。

 

 

(……ダメだな)

 

 

間一髪、包囲を回避できたとは知らないアルバートは憂鬱だった。

今回の運用でいろいろと気付いた点があったが、一番厄介なのは兵士が殺人に慣れていない事だ。

機械兵の襲撃に慣れてしまったばかりに殺し合いという実感がない少女たちが多い。

戦車の前に飛び出して攻撃を仕掛けようとした者といい、命知らずに育ったのは想定外だった。

 

 

(マルフーシャ分隊に余所者は入れない方が良いな…)

 

 

なにより、マルフーシャの知り合いと余所から入れた兵士との相性が悪い。

彼女と付き合いがある者は、発言を信用してくれるが、他所の兵士は言う事を聞いていなかった。

いくら役職がある上官であっても5等級国民の発言は、そこまで兵士を動かす存在になり得ない。

 

 

(むしろ、知り合いの絆を深めるべきか)

 

 

そもそも彼女に雇われた経験がある兵士同士の仲すら、上手くいっていない状態である。

まずはマルフーシャと7名の仲間たちの友好関係をしっかりと深めるのが重要だと感じた。

 

 

(それに殺人に慣らさせる必要がある)

 

 

ここが重要なのだが、マルフーシャやビオン以外に殺人を慣れていないのも問題だ。

そもそも敵兵は、安全地帯から機械兵を送り込んでいるので殺人をする機会すらない。

しかし、いざという時に人を撃てないと必ず彼女たちは破滅する。

 

 

(内門に戻ったら対策を取らないとな……)

 

 

今回、救出した住民全員に関しては、オリガ班とパディ班に指揮してもらう。

その代わり、マルフーシャと愉快な仲間たちは、きっちりと専門的な教育を施すつもりだ。

どんな時でもマルフーシャの為に戦える存在が居る限り、彼女は絶対に諦めないのだから。

 

 

(自分がこの地を離れるまできっちり生き残ってもらう必要があるからな)

 

 

少女たちの未来もスパイの暗躍もぶっちゃけどうでもいい。

自分がこの地を離れるまでの時間稼ぎをしてくれればいいのだから。

誰かを利用して暗躍する事に慣れているアルバートは、輝かしい未来を想像し、ほくそ笑んだ。

 

 

 





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【カゾルミア国民プロフィールシート】

名前:ベルカ
階級:8等級国民

292年 サバーカ看護学校卒業
293年 市民病院看護師勤務
295年 カゾルミア陸軍入隊
296年 マルフーシャ分隊に所属 衛生兵


概要
トゲトゲ世話焼き衛生兵。

家庭環境の影響で口調がとてもキツい。
幼い頃に助けられた経験から、看護師に憧れて看護学校を卒業したが、
キツい性格が災いし就職先が見つからず、闇医者の看護師として働いていた。

仕事でもキツい言葉づかいが原因で周囲とのトラブルが多く、嫌われ者。
勤務先の病院が摘発され、兄妹を養うため仕方なく軍に入隊している。

なにもしなければ、奪われるだけの環境にいたせいで
攻撃的な発言と態度を取ってしまうのだが、根はやさしい。
その優しさを感じる前に誰もが去っていくので誰よりも孤独になれてしまった。

そんなある日、マルフーシャと出会う。
いつもの癖で罵倒したり、強気の態度を取っても、彼女はさほど気にしなかった。
それどころか、妹を大切にしており、絶対に生き残ってやるという気概に意気投合。
いつのまにかマルフーシャの欠点を補うような行動を無意識に取り始めた。

出会いがあれば別れがある。
マルフーシャと新たにタッグを組んだ兵士のせいで再び孤独になった。
そしてある日、再びマルフーシャに誘われた。
これから危険な任務を戦友と一緒に挑むからサポートして欲しいと。
誰かの為に戦う事を諦めていた彼女は差し伸べられた手を取り、二度と離さないと誓った。


「怪我しないでアンタなんか手当するの嫌だから」


趣味:家事
すき:尽くすこと/犬
きらい:自分自身/仲間が負傷すること
性格:トゲトゲ
身長:154cm
役職:衛生兵
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