マルフーシャを利用しようとして逆に利用される士官さん 作:アルバート元中隊長
呆気なかった。
本日の機械兵を撃破したマルフーシャの脳裏に浮かんだのはその一文であった。
「門は無傷で防衛しました。やりましたねお姉さま」
「…うん、そうだね」
眼前には、点火に使うライターみたいな大型機械兵の残骸が転がっている。
相棒のフェリセットが発した労いの言葉を素直に受け取れなかった。
なにせ、あまりにも撃破が簡単すぎたのだ。
(40日目のアイツの方が厄介だった)
外門防衛の最終日に出現した大型機械兵の方が厄介まである。
大量の誘導爆弾をばら撒きながら後退し、機械兵軍団を突撃する戦術。
前進する機械兵に混ざって飛来する誘導弾もぶっ放す存在だった。
それに比べれば、遥かに対処が簡単だったのだ。
(なにかある……)
懸念事項はまだある。
内門は上級民と下級民の居住区を隔てる関所みたいな場所である。
それにも拘らず、内門の内部で上級民の姿が中々見られなくなっていた。
(やっぱり……)
マルフーシャは無知だがアホではない。
第13地区に残っている住民と守備隊は捨て駒として切り捨てられた。
そう結論づけるしかなかった。
「アルバート上等兵」
「マルフーシャ分隊長、何か気になった点でも?」
「はい、ありました」
だから戦場では上等兵に降格する上官に確認する事にした。
わざわざ小声で質問するほど、まずい質問だと理解していた。
「これだけ内門で騒動を起こしていると上級民からクレームは来ないでしょうか?」
「外門の奪還依頼は来るが、さすがに彼らも無理難題は言ってきていない」
まずは上級民が不安がっている為、地雷の設置許可が下りたのに未だにクレームが来ない事。
冷静に考えれば、内門が陥落すれば上級民の身に危険が及ぶはずである。
だったら、すぐにでも外門の奪還を呼びかけるとマルフーシャは考えた。
「それとせっかく分隊長に昇格したので司令官とお会いしたいのですがよろしいでしょうか?」
「司令官殿はお忙しい、防衛が落ち着くまで待って欲しい」
「……分かりました」
なにより、アルバート地区防衛補佐官という曖昧な階級に違和感がある。
実は、第13地区の防衛を管轄する司令官ではないかと彼女は疑った。
(まーた疑っているよコイツ…)
詮索するのはいいが、ここまで分かりやすいとアルバートも逆に対応しにくい。
彼女を捨て駒にしようとしていなければ、生意気な存在だとして罰していたほどだ。
詮索や仕草について教育を施した方がいいのかと考えてしまう。
「ところで分隊長、下級民が暴動を起こした場合、対処する方法はご存じか?」
「……え?」
「第13地区の補給が上手くいっていない。このままだと下級民を選別する必要がある」
だから意地悪をした。
カゾルミアでは10等級まで階級が分かれており、数字が大きくなるほど人権から遠ざかる。
ビオンやエノスを8等級国民に昇格させたのは、民間人から舐められないようにする意図がある。
「何故?」
「そりゃあ、ここが敵軍に包囲されているからな。鉄道が使えない以上、空輸しか手段が無い」
手っ取り早く物資や兵員を大量に輸送しようとするならば、鉄道を利用するのが楽だ。
線路さえあれば、コンテナを大量に目的地まで高速で輸送する事が出来る。
ところが、第13地区の外縁部は敵軍に占領されてしまい、列車がここまで到着しない。
「他の兵には伝えたのですか?」
「まさか、パニックになっても困るからな。分隊長に初めて伝達した」
兵站はアルバートが担当しているので明らかに格下の分隊長に伝える事ではない。
ただ、無駄に詮索してくるのであれば、余計な情報を与えて混乱させる方が良い。
少なくとも無駄に弾薬を消費してその度に憤慨する事は無くなるのだから。
「それでだ、もしも下級民を選別するとしたらどのような判断で実施すれば良いと思う?」
「祖国に忠誠を誓い、努力している者を優先するべきです」
もちろん、補給が途絶えた場合は、優先順位を選定するのだが何を優先するべきか。
下級民を切り捨てればいい。
では、どの下級民を切り捨てればいいか。
その条件をマルフーシャに問いかけると模範的な回答が来た。
「ならば、どの努力をすれば切り捨てられないで済む?口だけならいくらでも言えるぞ」
「それは……」
要するにアルバートが言いたいのはこうだ。
自分たちが切り捨てられている実感があるのであれば、今後どうするのかと。
彼自身は、好転する事はないと理解しているので自分以外の全てを切り捨てるつもりだ。
「最高指導者様が直々に我々の活躍を耳にする状況にしなければなりません」
「ククク、それができたら苦労しない」
カゾルミアのトップである最高指導者様が直々にお救いなされれば勝機はある。
誰もが写真でお顔を拝見しているのに実際にお逢いする権利を頂くのは難しい。
だから伝聞で知ってもらうしかない。
「まあ、頑張るが良い。私ですら諦めた事を達成する為にな…」
昔、抱いていた希望を語る少女にアルバートは苦笑しながら擦れ違う。
「どうせ、9割以上死ぬんだ。せいぜい足掻いてみせろ」
内情を知っているが故に叶わぬと知っている士官は、少女に残酷な事実を突きつける。
とんでもない発言を受けてマルフーシャは振り返るが、彼の背中はどんどん小さくなった。
(9割以上、死ぬ?)
まだ何か隠しているようだが、マルフーシャは理解できない。
何故、その事を自分に告げたのかと。
少しの間、呆然としたもののフェリセットの呼びかけを受けて動く事となった。
(この世に絶対はない)
一方、マルフーシャを混乱させた男は自嘲していた。
カゾルミア国防人民委員部に所属する彼自身、かつては希望があった。
もっと頑張れば、上を目指せて祖国をより良い国にする事ができると。
(くだらない!くだらない!!くだらない!!)
この国では、生まれた環境と血筋が全てだ!
どれだけ活躍しようとも透明なガラスに阻まれて押し潰される未来しかない。
この国を変革するには、大きくなり過ぎた。
先人たちが残した大きなツケは、たった今、支払わなければならない。
大量の血で地面を染めて絶望と怨嗟をばら撒きながら他者の足を引っ張らなければならない。
(なんで自分は生きているのだろうか)
時折、訪れる自分の存在意義、仮想世界に放り出されたような感覚。
敬礼をする兵士や徴兵された住民が精巧に作られた人形に見える。
(死んだ方が楽になれるのに……)
戦友が自分を庇って戦死したと知った時、嘆き悲しんだ。
今ではその悲しみは別の意味となり果てた。
彼の人生はあそこで止まったが、少なくともあれ以上、苦しむ事はない。
だが、自分は違う。
(たくさん住民と兵を死なせる。それもわざわざ苦しませるように……)
足掻けば足掻くほど苦しむ事が多くなる。
この場で敬礼している兵士たちは今晩、死ぬ事だろう。
羨ましい事である。
(そう、死なせるのだ)
既にマルフーシャとビオン以外は捨て駒だ。
ただし、それをすると彼女たちは納得しないからマルフーシャ分隊には気を遣う。
兵站の動きで敵軍の動きはおおよそ予想できる故に大勢が死ぬと理解してしまった。
「……どうした?」
どんどん思考がネガティブに陥るアルバートに駆け寄る兵士の姿が見えた。
無表情のせいで何を考えているのかエノス一等兵が自発的に動くのは珍しい。
そう考えて声をかけてしまった。
「今晩は、戦いますか?」
「ああ、そうだな」
大半の兵士は休息を取る為に内門より後方に下がってしまった。
緘口令を敷かれているせいで今晩に連合軍が襲撃してくると知っている者は少ない。
だからこそエノスは、確認を取ったのだろう。
「どれだけ倒せば、勝てますか?」
「知らん、連合軍の出方次第だ」
もうじき夕焼けとなる。
スパイが白状した情報が正しければ、3時間ほど経てば奇襲をしてくる。
だからといって内門の装甲を強化しないし、バリケードも最低限にした。
どうせ、守れないのだから。
「最後に質問。私は死にますか?」
「それを判断するのは私ではない。少なくとも今日は命日にしないで欲しいのだが…」
エノスは自分の末路を理解しているようだ。
テレビの放送を永遠に見ている彼女は、どこか現実逃避していると考えた事がある。
しかし、実際は誰よりも現実を知り、何をすればいいか本能で理解している。
「ありがとうございます」
アルバートは本音を告げると、エノス一等兵は少しだけ嬉しそうな顔をした…気がする。
それをじっくり確認する前に頭を下げてから立ち去ったので本当にそうなのかは不明だ。
「……そうだな、死は平等。だが、死ぬタイミングを強要するわけにはいかないな」
エノスとの会話をしたアルバートは、切り捨てる予定だった門衛たちに慈悲を与える事にした。
「ちょっといいか?」
「え?は、はい!なんでしょうか!」
機械兵から取り出した軽機関砲を握り締める住民に声をかける。
無駄に終わると知っていても、少しくらい希望を願っても良いと思ったのだ。
(……さて、そろそろ来る頃だ)
夜の帳が下りきって暗闇が世界を支配する頃、アルバートは内門の壁上に居た。
傍に居る人員は誰もが銃以外に握った事が無い素人集団と少数の下士官。
徴用された住民たちは不安そうに持ち場に待機している。
「……来た」
突然、遠くの景色が光った。
それと同時に内門に何かが命中し、爆発と共に全体が大きく揺れた。
「……規模と距離的に野砲か」
てっきり第13地区の外から榴弾砲で集中砲撃をしてくると思っていた。
どうも、連合軍は堂々と門から侵入したいらしい。
一応、予想したとはいえ、兵を動かさなくて済むのは助かるとアルバートは笑う。
(来たな……)
3日間一切、餌付けしなかった蟻の大群の前にキャンディを置くとこうなるのだろうか。
第二段の砲撃が発した閃光で一瞬だけであるが、大量の機械兵軍団の姿が見えた。
一目散に目的地まで歩くその姿は、まるで土石流に見えた。
《第1、第2共に内門が破壊されました。どうぞ》
「了解、予定通り、迎撃に向かえ。以上」
2つの内門はさきほどの砲撃で破壊されてしまった。
次の砲撃は、慌てて飛び出した将兵を狙ったものである。
無線から慌ただしい報告を無情にも切り捨てて交信を打ち切った。
どうせ、これで終わりではないが、アルバートは上から見下ろす景色に声が漏れる。
「良い眺めだな」
カゾルミアの町並みは、人工物が大半を占めており、植物など一切ない。
ここは人間以外の生物を排除したと言わんばかりの街並みに機械兵が侵入してくる。
まるで機械兵こそがこの第13地区の主と見せつける圧倒的な姿を見て本音を漏らしてしまった。
「…私の命令まで撃つなよ?」
壁上に待機している住民にアルバートは再度、警告を発する。
ここで逃亡したり、異議を唱えるなら拳銃で発砲してでも阻止するつもりだった。
《ほ、報告!!機械兵が!機械兵が我々に向かって発砲を!発砲してきました!!》
無線機からは、騒々しい雑音と共に女兵士の叫び声が聞こえて来た。
彼女が報告した情報から機械兵の目的は、いつもと違うと将兵たちに伝える事となった。
《至急、増援を……ああああ゙あ゙あ゙っ!?》
コールサインを話す余裕が無かった兵士は多数の銃撃音と共に悲鳴をあげた。
人が発する悲鳴じゃないノイズが聴こえたと思ったら急に静かになった。
これで誰もが理解しただろう。
今回の機械兵は、第13地区に居住する人間の排除を目的にしていると。
「……良い音だ」
通信兵から連絡が途絶えて数秒後には大規模な銃声が辺りに鳴り響く。
曳光弾と電熱線の影響を示す赤く発光する軌道が機械兵たちに向けられた。
動力源を撃ち抜いた爆発する音が、壁上に待機するアルバートの耳に届く。
「懐かしき戦場、やはり機械兵はこうでなきゃ」
アルバートが知っている機械兵はもっと単純な存在だった。
銃器が括り付けられた物体が味方を撃ち抜く。
ただ、それだけの存在だった。
(全く、連合軍の連中め。無駄に変な機能を搭載しやがって)
バッタのようにぴょんぴょん跳ねる機械兵などもっての外。
門に向かって突撃し、門衛に返り討ちに遭うなど資源の無駄でしかない。
(内門が突破されたか)
予定より早く内門が機械兵に突破された。
追加の命令が出たのか、侵入者は一目散に宿舎に向かって駆け出し始めた。
「報告します。内門が突破されました」
「なるほど、その段階ならまだ待機だな」
「……は?」
さすがに内門を抜かれたと知った伍長がアルバートに報告した。
ところが、上官はそれを知ってもなお、動こうとしない。
まるで機械兵を手引きしているような態度に彼女は困惑した声を漏らした。
「大型機械兵が内門を突破しても放置しろ。まだ対処可能だ」
「いえ、しかし!!何故、まだ待機命令を…!?」
内門の左右を守る壁上に待機させている守備兵はまだ動かすつもりはない。
そう断言した上官に兵士は説得をしようと試みる。
「上官命令に従え。祖国に示す勝利は、機械兵を撃破する事ではない」
「……では、このまま機械兵の侵入を許せと?」
「むしろ、外門からやって来る主力待ちだ……来たぞ」
さきほど機械兵の行列を土石流と表現したが、間違っていない。
波が岸に押し寄せてぶつかるような感じで見渡す限り、機械兵だらけであった。
ここまでするなら、さっさとぶつければいいのにとアルバートは他人事のように考えてしまう。
「え?」
「小物はいいが、アイツらはダメだ」
とにかく上官を説得しようとした兵士は、大きな爆発音を聞いて振り返った。
外門の1つから大きな炎が立ち昇り、今まで見たことが無い超大型の機械兵の姿が見える。
それも両手では数えられないほどの数が押し寄せて来た。
「さすがに両方から攻めて来なかったか」
「え?」
よっぽど大佐を拉致されたのが気に喰わなかったらしい。
こんな物作るくらいなら、爆撃機を生産しろと言いたくなるようなデカ物が襲撃してきた。
無論、あれが内門に空いた穴に突っ込まれれば、宿舎まで破壊されかねない。
「マルフーシャ分隊長」
ここで無線の受話器を手に取ったアルバートは、英雄に仕立てあげる少女の名を呼ぶ。
《はい》
「電熱砲の発砲を禁じる。急ぎ内地に侵入した機械兵を
《承知しました》
反対側に居るマルフーシャに電熱砲の使用を禁じて迎撃命令を下した。
これにより第2内門から電熱砲が稼働する事はない。
「ストレルカ特務員、準備はどうだ?」
《…問題ない。いつでも大丈夫》
次に化学の専門分野を修めた学士様であるストレルカと連絡を取った。
彼女の返答から問題ないと判断したアルバートは命令を下す。
「第1内門、大通りのみ爆破せよ」
《…了解》
凄まじい勢いで迫って来る超大型機械兵は、絵本に出て来る大怪獣の姿のようだ。
あまりにもデカすぎてむしろ、遅く動くように見える無機物の物体に迷いは無い。
だからこそ足元を救われるのだ。
「アンツィオ伍長、死にたくないのであれば持ち場に戻りたまえ」
「……え?」
都市の発展と上下水道の整備は切り離せない。
ましてや大通りの地下などいくら祖国がポンコツでもきちんと設計をしている。
よって大通りの地下を支える柱を起爆すれば、いとも簡単に地面が崩落する。
「何を…」
「二度は言わん」
「し、承知しました!」
電熱砲を構えたアルバートは、近くに居た女兵士に警告を発した。
1回だけで充分だというのにエノスの影響で少しだけ猶予を与えてしまった。
前を見下ろせば、減り込んだ地面で転んで動けなくなった超大型機械兵。
急な転倒に避け切れず、倒れ込んだ同類共が滑稽な姿で鎮座している。
(はあ、命令違反だが、致し方あるまい…)
まだ、電熱砲の使用を本部から許可されていない。
だから勝ったとしても処罰される。
(やるか……)
既に第13地区の外縁には住民は居ないと分かっている。
高台には連合軍の砲兵部隊が展開しており、迎撃する事は不可能である。
だから禁じ手を使うしかない。
(……マジかよ)
新兵器の使用が禁じられているって?
逆に考えるんだ。
本部や軍上層部に伝わらなければいいと…。
開き直ったアルバートは電熱砲を起動し、砲身から発する光線を眼前の街に向かって薙ぎ払った!
すると薙ぎ払われた場所が文字通り、消滅した。
(うわ……きれいだなー)
壁上に居るので地平線は大体10kmぐらいまで見えている計算となる。
実際は、第13地区を囲む壁に遮られてそこまで見えないはずだった。
だが、今は壁も外門も綺麗さっぱり消え去っていた。
人間というのは、常識を超える光景を目撃すると現実逃避する事がある。
アルバートもそうであった。
「やべぇ…」
すぐに意識を現実に戻したアルバートは起爆装置を作動し、内門の外に兵器を放り投げた。
地面に落下したと同時に爆発し、新兵器は瓦礫の一部となり、誰が見てもガラクタとなった。
更に身を纏っていた防護服を脱ぎ捨てて内門の外に投げ捨てた彼は部下に指示を出す。
「迫撃砲、撃て!!砲撃開始!!」
内門の上に待機していた砲兵部隊が上官の命令を受けて砲撃を開始した。
中には迫撃砲ではなく打ち上げ花火用の発射筒が混ざっているが、問題ない。
砲撃で反撃したという事実が重要なのだ。
「意外と当たるもんだな」
祖国が製造した砲については、そこまで精度を信用はしてなかった。
だが、高台に命中した砲弾が明らかに大爆発したのを見て彼はまたしても本音を漏らす。
「まあ、いいか」
さすがに精密砲撃をするなら高台だろうと高を括って狙いをつけたら大当たりした。
そこに砲撃部隊が居るかは賭けであったし、そもそも当たるか分からなかった。
しかし、当たった事実からそれ以上の事を考えなくていい。
今頃、第13地区に侵入した砲兵部隊は慌てて外へ脱出しようとしているだろう。
(予想通り、機械兵の動きが止まった)
更に侵攻してきた機械兵の動きが止まったのを確認し、アルバートは疑念を確信させた。
大規模に侵攻する機械兵の操作は、短波で行なっており、意外と近くに操縦士が居るという事に。
(なんて言い訳しよう…)
ここまで派手にやれば、連合国も新兵器があると勘付かれる。
諜報を行なっている祖国も電熱砲を使用したと気付いてしまうだろう。
「どうでもいいや…」
敵軍に奪われるくらいなら暴発させました。
誤魔化そうと言い訳をするくらいなら、分かりやすい報告を心掛ける方が良い。
意外と行き当たりばったりのアルバートは、すぐに開き直る癖があった。
「さてと……」
連合軍の指揮系統に混乱が生じて機械兵の侵攻が止まった今が好機である。
改めて無線機を手に取った士官は、通信兵全員に命令する。
「作戦通り、機械兵を無力化せよ」
動かなくなったとはいえ、無線で指示すれば機械兵は再び動き出す。
では、どうやって無力化するか。
家電製品と同じ様にスイッチをオフにして電源を落とせばいい。
(住民総出でどれだけ無力化できるか…)
機械兵が起動している間は、外観のどこかが赤く点灯している。
だからそのライトが消えれば、ただの資源になり果てる。
機械兵の迎撃に消極的だったのは少しでも資源を回収したかったからだ。
節約する気も無くアホみたいに弾薬をばら撒く兵士たちの存在も大きい。
(……はあ、ダメか)
そう都合が良い展開は続く訳が無い。
一部の機械兵は命令がなくても、ある程度は自律できるようで近づいた兵士を撃ち抜いた。
無駄なコストに思える大型機械兵は、図体がデカい分、頭脳もしっかりしているようだ。
「全ての兵に告ぐ。大型機械兵は反撃機能を停止していない。最優先で大型機械兵を排除してから小型機械兵を無力化せよ。この作戦が成功するかどうかでこの第13地区の命運は決まる。以上だ」
元から第13地区に輝かしい未来は無い。
今日滅びるか、明日滅びるか、明後日滅びるかの違いでしかない。
それでも第13地区とその守備隊には少しでも長く生き延びてもらわないと困る。
「……やはり来たか」
ここまで連合軍の第一波。
1時間も満たない戦闘で大半の機械兵と先行した砲兵部隊は無力化した。
ただし、それだけで終わりなら偉大なる祖国も苦労しない。
「機械兵の第二波が外門まで迫っている。急ぎ、先行した機械兵の無力化をせよ」
いっきに主力部隊をぶつけて後続部隊が街をしらみつぶしに破壊する予定だったのだろう。
後続部隊は2列の横隊で進軍しており、すぐに第13地区に侵入するように思えない隊列であった。
(舐めやがって……)
よっぽど連合軍は、第13地区が目の上のタンコブなのだろう。
アルバートの予想以上に機械兵の大群を揃えて来た所を見るに本気らしい。
(だが、好機でもある)
出鼻を挫かれた以上、少なくとも作戦を立案した将校は左遷させられるのが確定している。
更にここまでの軍勢を用意して多大な損害を被ったとなれば、連合軍上層部もタダでは済まない。
すぐに人事を整理し、その影響で戦略と戦術の変更を余儀なくされる。
これがアルバートの狙いであった。
(ここを乗り越えれば、少なくとも当分は時間稼ぎができる)
あくまで連合軍は、様々な思惑を抱えるカゾルミアの周辺諸国で構成されている。
だから長引く戦争で厭戦ムードとなり、選挙に不利となれば政府も国民の声に勝てなくなる。
国民の声を抑制してる祖国と違って、連合国は国民の声で戦争を止める事が可能なのだ。
(羨ましいものだ)
祖国が撒いた種である以上、都合良く終戦できるとはアルバートも思っていない。
それでも国民の声が政府に届く事に関しては、羨ましく思える。
部下を呼び寄せて上級スナイパーライフルを受け取ってもなお、考えは変わらない。
(くだらねぇな……)
やはり、偉大なる祖国で生まれて育ってから民主国家の内情を知ると違和感がある。
人間は個人で生きていけないので集団で行動するのは同じなのにここまで国民の思考が違う。
自分たちの意見や発言が政府に通じると思っている敵国民の鳥頭っぷりも悪くはない。
そんなアホ共の声に左右される連合諸国もまた、どこか妬ましい気持ちすらあった。
少なくとも、祖国よりも伴侶が大事なアルバートにとって脳死で動けるのは羨ましく思えた。
(せめて夢の一部でも叶えて欲しいものだ)
さすがに第二波も撃破すれば、連合軍も戦略を練り直すだろう。
そう考えて次の作戦を実施する。
「砲撃中止、事前に指名されていない者以外は地上に降りて友軍の行動を手助けせよ」
「「「ハッ」」」
あらかた砲撃をし尽くした以上、砲兵を遊ばせるわけにはいかない。
機能停止した機械兵を盾にして大規模な銃撃戦がこれから始まるのだから。
さくっと命令を下したアルバートは、駆けつけたスポッターの顔を見る。
「暫くの間、よろしく頼む」
「承知しました」
暗くてよく見えなかったが、何故か逢った事が無い兵士に見える。
さきほどの電熱砲で耳が可笑しくなっているのか声も別人に聴こえた。
さすがに気のせいだと感じてライフル銃を構え直してその場に座り込む。
(あいつらも曹長と同じくらい素直ならいいんだがな…)
時折、自分の発言に異議を唱える英雄様と違って彼女は素直だ。
さっきの返答からして迷いがないのが感じ取れる。
その素直さが命取りになり得るのだが、あえて黙っておく事にした。
「さっそくだが、ターゲットを指示してくれ」
「はい、時計塔の下に大型機械兵がおります」
「了解」
狙撃は得意ではないが、動かない大きな的となれば、話は別だ。
スポッターの発言を聞いてスコープを覗こうとするアルバートはある事に気付く。
「なるほどなァ!!」
「うきゃああ!?」
すぐに上級スナイパーライフルを横に薙ぎ払ってスポッターである曹長の胴体を殴打した!
いきなり上官から殴打された彼女は、持っていた拳銃を手放して内門の外へと落下した。
「こん畜生!!まだスパイが居たか!!」
「あ゙あ゙あ゙!?」
高所から地面に叩きつけられて悶絶する女スパイを狙撃したアルバートは悪態をつく。
そもそもこの第13地区には時計塔は存在しない。
厳密に言うと老朽化で1年前に取り壊されている。
(この調子ならまだ居るか…)
なにより自ら指名したはずのスポッターの顔を覚えていないわけがない。
いくら暗闇だとはいえ服装だけで判断するほどアルバートは間抜けじゃなかった。
「しまった…」
ここでうっかり敵性スパイを地面に落とした事を後悔したが、後の祭りである。
すぐに所持していたロープを柵に括り付けて地上に降下した。
「むが!」
懐中電灯を口に加えて頭が破裂した兵士のボディチェックを開始する。
死体に欲情するほど糞野郎だと思っていないが、やはり異性の肉体の扱いには慣れない。
(……ご丁寧にどうも)
軽く調べてみると、ジャケットの内ポケットに手帳が隠されていた。
パラパラとページを捲ると自分の立案した作戦が連合軍に漏れていると知る。
(まんまと引っ掛かったか)
上官に騙された挙句、スパイに成り済まされた曹長には悪いが、彼女の死は意味があった。
誤情報にまんまと連合軍が踊らされていると知ったアルバートはすぐに壁上に登ろうとする。
「…ん?」
ロープを掴もうとした瞬間、どうしても気になって死体に振り返ってしまった。
愛する伴侶がいつも身に着けている腕輪がそこにある。
それ自体はどこでも売っているものだからこそ気分が悪くなる。
(まさかな…)
常人なら気のせいだと判断するが、アルバートは違う。
敵国の盗聴器ではないかと勘繰って腕輪を回収し、壁上に戻っていく。
殺人を重ねたせいで人間不信になりかけている士官は、どこか疲れた顔をしていた。
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【カゾルミア国民プロフィールシート】
名前:エノス
階級:8等級国民
292年 マーキュリー専門学校卒業
293年 雑貨店店員勤務
296年 8等級国民に昇格
296年 マルフーシャ分隊に所属 散弾兵
概要
ぼんやり系元機関銃手の散弾突撃兵
低級国民貧困家庭の出身。
常にぼんやりしており、感情や意識が希薄。
行動を起こしたり、自分で考えることが苦手。
感覚も鈍いようで、怪我をしても気付かずよく血を流したままにしている。
自宅で一日中テレビを見て過ごすのが日課。
最近、仲間が増えて賑やかになったと感じるが、特に気にしていない。
上官からショットガンを持たされて仲間と一緒に行動しろと言われている。
なんでそうなったのか本人自身は理解できていない。
ただ、1つ分かる事。
仲間と一緒に居る為に敵兵や機械兵に散弾をぶち込む事。
戦場ではそれだけに専念し、平時では同じく仲間外れのアリビナと行動する事が多い。
なにかと語り出す赤髪女に相槌を打つ存在と重宝されているのだが、本人は気付かない。
「空虚で、気持ち悪い奴だと、よく言われる。それでも、いつか皆に認めてもらいたい。です。」
趣味:テレビ鑑賞/アリビナの話に同調するフリをすること
すき:射撃/チンパンジー
きらい:考える事
性格:まじめ
身長:165cm
役職:機関銃手→散弾兵
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