フォドラの覇者   作:マリアッティ

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バーニー 17歳 春愁

どうしたら死ねるのか。

いつも考えている。自分で死ぬ勇気もないから今もこうしてのうのうと生きている。

いつか誰かが殺してくれるのを待つしかない。

でも生きているうちは全力で彼女を守ると決めている。

 

「ここまで来たら西方教会の連中がどこから襲ってきてもおかしくない!警戒を怠るな!」

不気味なくらい静まり返った森の空気をカトリーヌの鋭い声が切り裂く。

そのせいだろうか、周囲が白くモヤがかかったようになり視界が遮られていく。これはガスパール城を攻めた時と同じ?

 

「クソっ!また同じ手か!おそらく包囲されている!レア様をお守りしながら敵を殲滅する!」

あのカトリーヌさんが焦っている。

ここは西方教会のテリトリーだ。待ち伏せは想定される。霧で地形も敵戦力もわからないという明らかに不利な状況だ。切り抜けられるだろうかと誰もが不安な表情を浮かべている。

 

しかしベレス先生は違った。顔色1つ変えず生徒一人一人に指示を出していった。事前に作戦会議などしていないにもかかわらず、その指示は迅速かつ的確。迷いがない。

「まずは敵を待つのよ。敵の数がわからなくても、襲ってくる敵を密集陣形で各個撃破していけば数は減っていくわ。十分数を減らしたらこちらから進撃して将を討つ。視界が悪いのは敵も同じ。相手はただの教会兵よ。練度、装備も貧弱。恐るるに足らないわ!各自、敵を見つけ次第、全力で迎え撃ちなさい!」

 

ルーヴェンクラッセは全員が一斉に武器を天に掲げて「おーーっ!」と叫んだ。

「あんた、さすがだな。チカラがみなぎってきた!あたしもあんたの指揮下に入る!頼んだぞ!」

すぐにカトリーヌさんは先生の指示どおり配置についた。関係性のよくなかった2人がお互いを認め合う様子を見て、この戦いは負けるわけがないと感じた。そしてレア様をぐるっと取り囲むような陣形が築かれた。

 

アーマーナイトの俺はいつもと同じようにペガサスナイトのイングリットとペアで配置された。俺が敵を釣り出して攻撃を受け、背後からイングリットが急襲して討つという戦法は単純ながらも着実に戦果をあげていた。

 

「機動力のある兵から来るわ。ペガサスナイトか騎兵よ!霧で視界が悪くても音で距離と方向を掴んで!」

先生の言ったとおりだった。無音の森だから耳を澄ますと確かに聞こえる。こんなことは訓練では経験できない。実戦は経験が9割だということを思い知らされる。

 

2時の方向からバサバサと羽ばたく音が近づいてくる。上空を見ながら少しづつ前進していった。

少し離れた位置で俺と同じ盾役のドゥドゥも同様に上空を警戒していた。いつもながら敵は弱そうな方を狙ってくる。

 

見えた!と思ったら瞬時に槍が懐に突き出された。盾も間に合わず、攻撃を受けてその場でうずくまった。手斧まで落とした俺に6騎のペガサスナイトが次々と飛来して槍を突き出してくる。しかし非力な教会兵の槍など分厚い鎧が弾いていた。それでも俺は大袈裟にダメージを受けたフリを続けた。ムキになって攻撃する敵兵は隙だらけ。「油断大敵」という言葉は皆が知っているが、この手に引っかからない者はほとんどいない。

イングリットが難なく背後から討ち取っていった。

 

ペガサスに乗っていた敵兵は自分達と同年代の少女だった。敵兵の死亡確認をするのは俺の役目。1人づつ、イングリットに貫かれた少女の身体を見てまわった。

生まれ変わったら、兵などにならずに平穏な日々を送って欲しいと願わずにはいられなかった。

俺は利き腕の古傷のせいで満足に武器を扱えず、未だに敵を討ったことがない。敵兵の遺体を見る度に古傷が有り難く思ってしまう。

 

「お嬢様。お見事でした。」

「もう。呼び捨てで呼んでって言ってるでしょ?」

 

俺はガラテア家の使用人の息子だった。イングリット専属の召使い、というのが最も近い表現だろう。

平民でも最底辺だった俺が、ガラテア家という名門貴族の紋章持ちであるイングリットの担当をさせてもらえるなんて、身に余る光栄だった。

イングリットは子供の頃から美しくて聡明で何より努力家だった。家中で一番良い食事を用意されていたため、肌艶がよく身長も高い。馬やペガサスを駆る姿も華麗で何もかもが眩しかった。このお方に惚れない者などこの世にいないだろう。しかし俺には惚れる資格などない。イングリットは信仰対象と言っても過言ではなかった。

ご主人様からは、イングリットの身の回りのことだけではなくあらゆる危険からお守りするよう申しつけられていた。言われなくてもそうしていた。男なら誰でも守りたくなるお方だ。

 

身分が低く金の無い両親の元に生まれた俺が士官学校に入学できたのも、イングリットのおかげだった。寮生活に困らぬよう、ご主人様が俺を一緒に入学させた。

自分のことは自分でやるのが寮生活の掟。真面目なイングリットは身の回りの世話を拒絶して自らやっている。せめて護衛だけはさせて欲しいとベレス先生に相談したところ、アーマーナイトでイングリットを守る戦術を授けてもらった。

 

この戦術で西方教会の騎兵部隊も撃破した。他の仲間たちも相当数の兵を討ち取っており、向かってくる兵はいなくなった。

「相手方にはもう兵力は残ってないわ。指示を出している司祭がいるはず。全員残らず討ち取るのよ!」

ベレス先生が檄を飛ばすと、俺はイングリットと森の中を進んでいった。

 

「イングリット、20mくらい後ろからついてきて。」

「先生も言ってたけど、もう敵兵はいないと思うわ。」

ペガサスナイトの天敵である弓兵とはまだ遭遇していない。この規模の部隊で弓兵がいないのは不自然。将の手前で待ち伏せしているかもしれない。わざと音を立てて森の中を進んでいく。もし敵兵がいたらこちらの場所がわかって攻撃してくるはずだ。見逃して進んでしまえばイングリットが背後から討たれてしまう。慎重になるのは当然だ。

 

「誰かいるのか?」

木の下で人が屈んでいるように見える。声をかけるとすぐに矢が飛んできた。もちろん当たってもダメージははない。近づくと今度は石が飛んできた。

「やめて!死にたくない!」

弓兵の少女に戦闘意思はなかった。

「何もしないから。落ち着いて。弓矢は預かるね。」

危なかった。イングリットが先に進んでいたらこの子も槍で胸を貫かれていただろう。

少女は弓矢が得意というだけで意思に反して戦場に連れてこられたらしい。水を飲んで落ち着いた少女は敵将の位置を教えてくれた。

 

「あの子が言ったとおりね。バーニー、見える?司祭がいるわ。ダークビショップね。きっと強力な魔法を使ってくるから後ろで待機していて。私がやるから。当たっても心配しないで。魔防が高いから平気。」

イングリットは司祭の方向に飛び立った。

そして俺はできる限りの全力疾走でイングリットを追いかけた。もちろんスピードは出ない。普段着で歩いているくらいの速さだ。アーマーナイトにとって、全力疾走は盾役で袋叩きにされるよりきつい。

 

やっと森を抜けて視界が開けた時だった。閃光とともに無数の雷が落ちてきた。計略か!咄嗟に木の後ろに隠れたが、イングリットが被弾して地面に降りているのが見えた。

 

まずい。動けないようだ。

司祭が魔法の詠唱を始めている。その手にドス黒い球体が現れて大きくなっていく。イングリットとは距離を保っているところを見ると、射程の長いデスΓを使うつもりか。即死もあり得る恐ろしい魔法だ。急がないと!

 

すぐに駆け出したが、この鈍足ではとても間に合わない。魔法相手に意味のない重い鎧を脱いで、楯や斧も捨てて無我夢中で走った。身軽になったら思ったより速く走れている。これなら間に合う!イングリットに向けて魔法を放つ司祭に飛びかかった。

 

「バーニー!!」

 

暗闇が、広がっていく。

空や森、鳥のさえずりや枝葉が風に揺れる音、そしてイングリットの声も一緒に真っ暗な闇に飲み込まれていった。

 

これで、終わりにできる。

 

---------

目を開けると闇は消え失せていた。ここはあの世か。

王宮のような豪勢な部屋。壁には大きな風景画、テーブルには銀色に輝く食器が並んでいる。前世では貧乏だったからあの世では金持ちに生まれ変わったのだろうか。

ん?あれはランベール王。何度かご主人様について王宮に行ったことがあったから見たことはある。本人に間違いない。あれはお袋?着飾っているからすぐにはわからなかった。なんでランベール王の隣にお袋がいるんだ?ガラテア家に来る前は王家に仕えていたと聞いたことがある。俺を置いていなくなったが、ここにいるということは、死んでいたのか。

 

「バーニー・・・バーニー・・・」

お袋が呼んでいる?

「いや、この声は違う。イングリット?」

「バーニー!気づいたの?よかった・・・」

間違いなくイングリットだ。抱きつかれて顔が見えないが、匂いでわかった。まだ頭の中が混乱しているが、ここは王宮ではない。この世に戻ってきたらしい。また失敗か。なぜ俺は死なないのだろう。必殺のデスΓでも死ねないとは。反省会は後にしよう。イングリットに抱き締められている時だけは死にたいと思わなくなる。

 

号泣していたイングリットがしゃくり上げながらも言葉を紡ぎ出してくれた。

「また、命懸けで守ってくれたね。」

「褒めてくれるの?また怒られるかと思った。」

「お説教は明日にする。今は戻ってきてくれたことで十分。」

俺はいつも死に場所を探していた。自害をする勇気がなくても戦場なら死ねる機会はいくらでもある。イングリットを守るためなら死ぬ勇気を持てる。今回も魔法に飛び込んだが、何度失敗しているのか。

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