どうしてもコメディぶち込みたくなっちゃう病気にかかってるンナ
「……うーん、どこにも映っていないね」
「そんなぁ……」
ライブの翌朝、つまり今朝のことだが、アストラとイヴリンが監視カメラの録画データを持ってビデオ屋に現れた。
『彼の行方を探る手掛かりになれば』ということで、二人はそのデータを受け取ったのだが、いざ中身を確認してみてもフルメットの姿は確認できなかった。
「恐らく映像を止められていた
「うぅ……。なんでそんな余計なことするかなぁ……」
「例えば外部から監視カメラの映像をハッキングされたら、中の様子が丸見えになってしまうだろう? それならそもそも撮影機能を止めてしまえば中の様子もわからなくなる……そんな感じかな」
つまり、会場内におけるひょっとこシリアルキラーの言動は全て人の記憶に依存する形でしか残っていないということになる。
一応会場周辺の監視カメラ映像に一部それらしい影が無くも無かったのだが、そもそも映っている被写体が小さかったことや、移動速度が速すぎたからか像がブレブレであったこともあり、二人はその映像の解析を諦めざるを得なかった。
「マスター、ライブの抽選システムについて解析が完了しました」
「流石、仕事が早いねFairy。それで結果は?」
「今回のチケット抽選において、不正な工作が行われた形跡はありませんでした。そのため、彼が観客として会場内に居たと仮定した場合、正規の手段でチケットを入手したということになります」
「……リン、有り得ると思うかい?」
「う〜ん、可能性は0じゃないと思うけど……」
何しろ倍率が倍率だ。毎回欠かさず応募していた彼らからすれば、偶然当選するというのがどれだけ幸運なことなのかは口にするまでもなく明らかだった。
「テロリストが会場を制圧した日に偶然客としてフルメットさんが会場に居たなんて、ちょっと考えづらいよね……」
「でも、可能性としてはあるかもしれない。でないと彼が警報装置を全起動させたというイヴリンさんの話に説明がつかない」
「確かそれで観客の人達が目を覚ましたんだっけ? ……そうだ! だったら監視カメラの映像が──────……無いんだった……」
「むしろ観客内に自分が居たと思わせるために、敢えて警報を鳴らしたという可能性も考えられます。観客内に居ると決めつけるのは早計です」
「フェイクのためか……。なるほど、その可能性もあるね」
Fairyの言葉に頭を悩ませるアキラだったが、それを見てリンはふと疑問を口にした。
「そう言えばお兄ちゃん、止めないんだね」
「止める? 何をだい?」
「フルメットさんを探すことだよ。お兄ちゃんなら『そんなことをしたら彼が嫌がる』とか言うかなって……」
「……うん、そうだね。僕らがこうすることを、きっと彼は望まない。それでも、そうだとしても……」
「……友ともう一度会いたいと思うのは、おかしなことだと思うかい?」
「きゃあーっ!! イケメンのシリオンさんだわっ!!」
返却されたビデオを元の棚に戻していると、女性のお客さんの叫び声が聞こえた。
多分ライカンさんを見て盛り上がってるんだろう。イケメンだからね、仕方ないね。
「お褒めに預かり光栄でございます」
「凄いわ! 見た目通り紳士よ紳士!」
もしかして店先でライカンさんに立ってもらってるだけで女性のお客さんがめちゃくちゃ増えるんじゃないだろうか。一考の余地はあるのかもしれない。
ちなみにフルメット時代の俺が同じこと言ったら秒で蹴りが飛んでくると思う。あれ痛いからやめてね。
「あら! モフモフ! 見ただけでわかるくらいモフモフな尻尾だわ! 触っても良い!?」
「誠に申し訳ございません。当店はそのようなサービスは行なっておりません」
「いいじゃない少しくらい! 先っちょだけ! 先っちょだけだから!」
「しかし────」
うーん、ちょっとしつこめなお客さんみたいだ。ライカンさんみたいなイケメンを前にしたら興奮しちゃうのもわからんでもないけど、それとこれとは話が別だ。
前に聞いたことがあるが、シリオンの尻尾は信頼の置ける人にしか触らせないくらいデリケートな場所らしく、ライカンさんの尻尾を触らせてもらうまでにはあのパエトーンですら相当な時間を要したらしい。つまり、今日会ったばっかのお客さんに触らせるなんて到底無理な話なわけだ。
……よし、ビデオ屋店員としてのワザマエを見せるときが来たみたいだな。
「横から失礼いたします。お客様、少々よろしいでしょうか」
「えっ、何? 今この店員さんと話してたんだけど」
「ケモノ系シリオンの俳優が主演を務める映画に興味はございませんか?」
「へぇ……ジャンルは?」
よし食いついた。勝負はここからだ。
「裏社会で暗躍するエージェントを描いたアクションモノでございます。しかしながら、裏社会とは関係のない女性との愛も描いたラブロマンスの側面もあり、ファンの方々からは満足度の高い映画となっております」
「目の付け所は良いわね、流石ビデオ屋の店員と言わせてもらうわ。けれど、今の私が求めているのはそれじゃない」
「……と、言いますと?」
「
「左様でございますか。でしたら尚更、
「ふぅん?」
俺の言葉に、お客さんが口角を上げた。
「つまりこういうこと? 『その映画には格好良いアクションや胸がキュンキュンするラブロマンスだけでなく、私の求めるセクシーな描写もある……』」
「
恭しくそう告げると、お客さんは指をパチンと鳴らして俺の方に近づいてきた。
「いいわ。その映画の置き場に案内して頂戴」
「かしこまりました」
その場を離れる直前、ライカンさんに向けてサムズアップをすると、俺を見て驚いたように目を見開いているように見えた。大丈夫大丈夫、慣れてるから任せてくださいな。
ちなみにしばらくしたら興奮が冷めたようで、さっきの迷惑料も含めて10本くらいレンタルしていってくれた。やったぜ。
当初想定してた10倍くらい愉快なお客さんになっちゃって草ンナ