タイトルでネタバレするな(戒め)
「イツキ様、先ほどはありがとうございました」
「いえいえ、売上に繋がったことですし!」
とはいえ、時間が経つたびにどんどん萎縮していくお客さんは一周回って可哀想だった。
たくさんレンタルしてくれたし、少しは罪悪感が晴れてくれてば良いんだけど……。
「……ところでイツキ様」
「なんでしょ?」
「突然ですが、"
「ないです」
そんなふざけた単語に聞き覚えなんかあるわけない。プロキシ妹に『技名だっさ!?』って言われて泣いたこともない。ないったらない。
「では、"フルメッ
「知りません」
自分の刀にそんなダサい名前付ける奴が居るわけないだろうが。そんなんプロキシ兄ですら『ゆ、ユニークだね……』って苦笑いするレベルだぞ。てか苦笑いしてた。
「はぁ……こんなところで何をしているのですか、貴方は……」
「んなっ……!? ……な、なんの、ことですか……? 俺にはさっぱり──」
「"エーテル居合三ノ段・首切りスラッシュ"」
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
必殺の口撃に俺は膝から崩れ落ちた。
やめてほしい。ほんとうにやめてほしい。かつてのネーミングセンスが終わってたことは自認してるから勘弁してください。
だが、ライカンさんはまだ口撃の手を緩めるつもりはないらしく、懐から懐中時計を取り出した。
「否定するのなら30秒以内に反論をどうぞ。その内容次第では──」
「はい……俺がフルメットです……」
「よろしい」
俺の降参宣言を聞くと、ライカンさんはパチンと懐中時計を閉じた。
「あの、どうして俺だと……?」
「床に倒れながら人に尋ねるのはどうかと思いますが……まぁ、今回は良いでしょう」
呆れたように溜め息をついたあと、ライカンさんは話し始めた。
「最初に顔を合わせたときから、貴方からはどこか知っている臭いがしました。今思えば、貴方が臭い消しの香水をしていた頃に微かに感じ取れた臭いがまだ記憶にあったのでしょうね」
「そして、決定的だったのは先ほどのサムズアップ。貴方はサムズアップをするとき、腕を前ではなく横に伸ばす癖があります。それを見てわたくしは貴方を思い浮かべ、臭いのことも脳内で結び付いた……ということです」
「左様でございますか……」
ようするに所作でバレてたってことね……。なんてことだ……。
「ライカンさん、頼みがあります」
「『誰にも言うな』……そう言いたいのでしょう?」
「はい、今のところ知ってるのはライカンさんだけで……」
「良いでしょう。この話は一旦わたくしの中で留めておきます」
「……えっ?」
いいの? そんなあっさり?
「……なんですか、その目は」
「へ!? い、いや、だって……なんかこう、もっと何か言われるものかと……」
「……一応、貴方には恩があります。そのときの恩返しだと思っていただければ」
「恩……? 俺ライカンさんに何かしましたっけ……?」
「……はぁ」
「そういうところですよ、貴方は」
この日のことを、恐らくライカンが忘れることはないだろう。
それはとある任務の日のことだった。任務の内容としてはホロウ内に取り残されたとある貴重品を取ってくるだけの簡単なもの。
ホロウに入ってから少し距離があり、たまにエーテリアスと会敵することこそあれど、それほど苦戦することなく目的の場所に辿り着いた。
あとは帰るだけ、そのはずだったが──。
「ちょっと! いくらなんでもエーテリアスが多すぎない!? しかも硬すぎるし!」
「うぅぅ……、全然刃が通りません……!」
「どうやら強力な物理耐性をお持ちのようです──ねッ!!」
ライカンが力強く蹴りを食らわせるが、エーテリアスは何事もなかったかのように起き上がった。
「リナ、貴女の攻撃であればいかがです?」
「効かないわけではないけれど、中には電気に対する耐性を持つ個体も居るようですわ。そちらにはまったくと言って良いほど効き目が……」
「……先ほどは氷に耐性を持つ個体も見かけました。恐らく物理と雷、もしくは物理と氷に耐性を持つ個体ばかり集まっているものとお見受けします」
「……なんかメタられてないか? プロキシ妹、そこんとこどう思う?」
「うん、多分フルメットさんの言う通りだと思う。こんなに大量のエーテリアス、事前に検知出来ないはずがないもん。だけど、さっき
「十中八九仕組まれてるじゃん……」
理解したところで、周りをエーテリアスに囲まれてしまってはどうしようもない。倒すことすらままならず、撤退も難しいこの状況で、リンの頭には徐々に焦りが浮かんできたのだが──。
「うぉっ!? 斬れた!!」
「えっ」
1人の馬鹿が一体のエーテリアスを倒した。
「てことはそっちの奴も……! しゃあッ! 斬れる!!」
「フルメットさん! もしかしてあのエーテリアスに何か攻略法が!?」
「ああ──!」
「──物理耐性ってのは言いかえれば衝撃への耐性だから、
「え、えぇ…………」
「あ、あの、フルメット様は一体何を言って……?」
「まともに聞いちゃダメよカリンちゃん。アレただのバカだから」
「ふふ、参考にはならなさそうですわね……」
「ですが突破口は見えました。彼をサポートして道を切り開き、全員での撤退を目標に据えましょう」
言葉もなく全員が頷き、ヴィクトリア家政のメンバーがイツキの邪魔になりそうな個体へと攻撃を開始する。
例えダメージが入らなくとも、一時的に動きを止めることくらいは出来る。それだけあれば、イツキが目の前のエーテリアスを斬るには十分な時間を稼げた。
「フルメットさん!! 撤退を第一目標に道を作って!! 安全活動推奨時間を超える前にホロウを出よう!!」
「了解!! 出口に行くためにはどこに道開けりゃいい!?」
「あのビルの方向!!」
「はいよ!!」
逃げ道を作るため、イツキはリンが指差した方角に居るエーテリアスの群れへと突っ込んだ。
何も考えずにとにかくエーテリアスを斬り続け、別のエーテリアスが道を塞ぐ前に目の前の敵を殲滅し続けた。
「……っし! 道開いた! 今だ!」
「皆!! フルメットさんが作った道から撤退!!!」
幸運にも、エーテリアス達の足は走り続ければ距離を離せる程度の速度だった。
リナが
出口が消えるまでにもまだ多少余裕があったはず。このままいけば逃げ切れる。リンがそう思ったその時だった。
「──さい、あく……こんな、ときに……」
「エレン!?」
倒れそうになるエレンを、ライカンがすんでの所で支えた。
「確かに、先ほどの戦闘中、エネルギーを補給する暇はありませんでしたね……」
「ごめ……ボス、あたし……」
「今のままでは走ることもままならないでしょう。ご安心を、貴女はわたくしが運びます」
「でも、それだと……」
リンの視線には後ろから追いかけてくるエーテリアス達の姿が映る。
ボンプ一体抱えるだけならまだしも、人間1人抱えるのでは話が変わってくる。それこそ、エーテリアス達に追いつかれてしまうくらいには。
「……ま、しゃーないか」
「フルメットさん……?」
「流石にあの大勢、
「まさか
「ライカンさん」
言いかけたライカンの言葉をイツキが制止する。
「上司ってのは部下を守るのが仕事でしょう? 今だけじゃなく、
「大丈夫です。プロキシ妹からホロウの出口の場所は聞いてますし、程々で切り上げて俺も後を追います」
俺がそう言うと、ボンプの顔に突如FAIRYという文字が浮かび上がった。
「お待ちください。ここから出口まで彼女を抱えていく場合、万全を期すのであれば進行ルートにもエーテリアスが出現することを加味して、ここで七分ほど足止めをする必要があります。しかし──」
「その先は言わなくて良いよ、
「待ってFairy、今何を──」
「七分も1人で止めるのは難しいって話だろ。でもやるしかないんだ。
「……はい、その通りです」
「な、なんか納得いかないけど……」
釈然としない様子のリンだったが、今ここで悩んでいる時間はないと判断し、一旦心に切り替えた。
「よしっ! フルメットさんを信じて撤退しよう! 大丈夫! だってフルメットさんだもん!」
「……プロキシ様が、そう仰るのでしたら」
走り出す直前、ライカンは申し訳なさそうな表情でイツキに頭を下げた。
「恩に着ます。この礼は、外で必ず……!」
「気にしないでください。ほら、早く行かないとアイツら来ちゃいますよ」
「フルメットさん! えっと……
「了解! 外で合流な!!」
リンの言葉にサムズアップしながら返答したイツキの姿が、ライカンの記憶には強く残っていた。
そして──
──イツキの目論見に同調したFairyがキャロット*1のデータを改竄していたことに気付いたのは、彼以外がホロウから脱出し、出口が消滅した後のことだった。
出口が消滅するまでの制限時間は、本来15分もありはしなかったのである。
「……ところで、せめてアキラ様とリン様には正体をお伝えしたほうが良いのでは?」
「えっ!? だってあの二人一般人ですよ!? 教えたらむしろ巻き込むようで危ないんじゃ……」
「……ス────────────ッ」
『嘘だろお前』と、ライカンは一人頭を抱えたのだった。
・イツキ
ネーミングセンス最悪の男。
Fairyが意図に気がついてくれて内心ドカ拍手してた。
ホロウ内に取り残されたことで、当時は危うくエーテリアス化しかけたらしい。なんで生きてんのキミ。
・Fairy
イツキの言葉の裏を理解し、キャロットの出口消滅までの時間を改竄した。
・リン
当時のことは言うまでもない
・アキラ
当時のことは言うまでもない
・エレン
目を覚まして『全員無事に出れたんだ……』って思った矢先にフルメットのアホ行動を知らされた彼女の気持ちはどっちだ!?
・ライカン
おめでとう! 最初に気づけたのは貴方だ!
当時は何を思ったんでしょうね……。