「じゃあ何? あのふざけたメッセージは本気ってこと?」
「そうなるね」
とりあえず今日のところはイツキを帰らせたアキラは、ニコに昨日フルメットと話したことについて共有していた。
「何だ……。てっきりあまりにもお金を返さなかったから絶縁されたのかと思ったわ」
「待ってくれニコ。彼からもお金を借りていたのかい?」
「聞かなかったことにしてちょうだい」
『僕らからも借りているというのに』と少し目を細めるアキラだったが、ニコは目を逸らして知らんぷりを通した。
「でも、そっか……。ホントに辞めちゃったのね……」
「ああ。いきなりすぎて僕もまだ受け止め切れていないんだ」
「それでもリンよりはマシでしょ。ほら」
ニコが指差す先では、リンがソファーにうつ伏せになっていた。
「……リン。相手がニコとはいえお客さんが来てるんだぞ?」
「なんか今失礼なこと言わなかった?」
「ニコ……? にっこにっこにー……?」
「僕の妹ながらあまりにも悲惨すぎる……」
『思った以上に重症だな』と、アキラは心の中で溜め息をついた。
アキラから見て、リンのフルメットへの懐きようはそれはもう凄かった。未熟な頃から世話になっていて、どんな無理難題でも道を切り開いてくれたフルメットの姿は、彼女からすればさぞ輝いて見えたに違いない。
「……お兄ちゃん」
「なんだい?」
「フルメットさん、もう会えないのかな?」
「……再会は難しいだろうね」
「そう、だよね。Fairyに調べさせてもわからなかったし」
「なんてことにFairyを使ってるんだ……」
『そこまでするのか』とも思ったが、気持ちが痛いほど理解できるアキラは言葉を飲み込んだ。
「……そう、あのパエトーンでも行方は追えないのね。……ようやく、返す目処が立ったのに」
「……ニコ?」
俯きながら、ニコは言葉を零す。
「何が『貸してたディニーはチャラにしとく』よ……。勝手に居なくなってんじゃないわよ、バカ……」
数日後、俺は早速このレンタルビデオ屋で働くことになった。
面接の日にニコが来たのは驚いたが、そうも立て続けに知り合いが来ることもないだろう。仮に来たとしてもバレるとは思わないけど。
「じゃあ今日はお客さんから返却されたビデオを元の棚に戻してもらう仕事をしてもらおうと思う。店内を覚えることにも繋がるし、うってつけだろう?」
「わかりました」
なるほど。それなら難しくもないし、最初の仕事としてはピッタリだろう。アキラさんの言う通り店内を覚えることにも繋がるし、張り切ってやっていこう。
えっと……この棚がホラー系で、あの棚がコメディ系。そこの棚がアクション系で……。
「……ん?」
何やら超高速でこの店に向かってくる存在の気配を感じる。……ま、まさか、この速度は────!
とある人物が思い当たった瞬間、店の扉が開かれた。
「アキラ、リン。居るか?」
帰ってください。
というか本当に待ってほしい。勘弁してください。
どうして星見雅がこんなところに来る? 本当に帰ってほしい。
いや、待て待て待て待て待て。落ち着け俺。バレない。絶対バレないから。だって情報何も開示してないし!
多分店長さん達に用事があるだけだから。俺なんか気にせず素通りするはずだから!
「二人とも奥の部屋に居るのか? ……むっ」
チラリと彼女の視線がこちらを向く。なんで俺なんか気にするんだ星見雅! 無視して素通りしてくれ星見雅!
何て俺の願いも儚く、彼女は一瞬で俺との距離を詰めてきた。
「ヒッ」
「その刀、見せてほしい」
「……へ? あ、は、はい……」
恐る恐る腰に付けていた刀を渡すと、彼女は鞘から少し刀身を抜いて目を細めた。
「……似ている」
「へ?」
「とある男が持つ刀と似ている。鞘は別物だが、刀身がヤツの刀と同じソレだ。……この刀、どこで?」
「え、えっと……何年も前に買ったんですけど……」
「どこの店だ」
「……すみません。覚えてなくて……」
これは本当だ。俺の刀はホロウレイダーになると決めてすぐ購入したものだが、どこで買ったのか忘れてしまった。
まあ結構前の話だし、そもそもメンテは自分でしてたから、全然困ったりはしていないんだけども。
「……そうか。良い刀だ、大事にするといい」
「は、はい……。ありがとうございます……」
ほっ……。どうやらバレなかったみたいだ。多分偶然同じ店で購入したとでも思われたんだろう。
……とはいえ、少しくらい探りは入れておくか。
「……ち、ちなみに何ですが」
「何だ」
「その、さっき言ってたとある男っていうのは、どんな人なんですか?」
「ふっ……決まっている」
彼女は小さく笑みを浮かべると、自信満々な表情で答えを口にした。
「──共に高め合うことを誓った生涯のライバルだ」
全然違う。存在しない記憶の話してる?
「私の剣と正面からまともにやり合える。奴の剣の腕は実に素晴らしい」
あれがまともなわけないだろ。なんとか
「私達はお互いを認め合い、日々高め合ったものだ」
勝手にそっちから会いに来て斬り掛かってきただけだけどね。俺毎回どうやってキミから逃げるかしか考えてなかったよ?
「だが、ここ数日は奴がホロウに出たという話を聞かない。それどころか、奴がホロウレイダーを辞めたなどという噂まで聞こえてくる始末だ」
しゅんとしたように耳を垂らした彼女に、俺は恐る恐る問いかける。
「……あの、もしその人がホロウレイダーを辞めてたらどうするんですか?」
「決まっている。何としてでも探し出し、H.A.N.Dに引き抜いて毎日修行だ」
「……そ、そうですか……」
とりあえず星見雅に見つかったら人生が終わることはわかった。本当に勘弁してください。
・イツキ
星見雅怖いッピ……
・ニコ
割と重そうな雰囲気を醸し出してる人
・星見雅
フルメット、お前こそが私の至上の修行相手だ……!
なお都合の良い記憶に汚染されている。