なんか書きたいこと全部書いたら長くなったンナ
まあいっか←
ライブ会場から少し離れたどこかの建物。その中で、儀玄は布団に寝かされて寝息を立てるイツキの横に座っていた。
イツキが寝ている間に、顔以外の箇所に装着しているガラクタを脱がせ、彼の服を少し捲って濡れたタオルで汗を拭ったあと、儀玄は一息をついた。
「まあ、こんなものでいいだろう。寝苦しいだろうが、見せたくないのなら顔は我慢しろ」
その言葉にイツキからの反応はない。しかしそれは当然だ。何故なら彼は今寝ているのだから。
「…………」
儀玄からすれば、イツキはふざけた別れのメール一通で姿を消した大馬鹿者。それはもうたくさん探したし、本当なら今すぐにでも正体が知りたいところだった。
だが、何度か彼の顔に手を伸ばそうとして、その度に自分の手を止めていた。
「……何をしているのだろうな、私は」
「師匠!? どうしたの!? 師匠!?」
表情が固まった儀玄を見て、
しかし、儀玄の耳にリンの声は入っておらず、目の前のエーテリアスに意識の全てを奪われていた。
幻だとか、偽物だとか、そんな次元の話ではない。視界に映るエーテリアスは、儀玄の目には姉そのものに見えていた。
「儀玄、儀玄。私の、かわいい妹……」
エーテリアスは名前を呟きながらゆっくりと前に歩き、やがて儀玄の前で止まった。
「……ああ、きっと
焦点の合わない目をどこか儀玄に向けながら、エーテリアスは剣を振り上げる。
「師匠!! 危ないから避けて!!」
再びリンが声をかけるが、儀玄は動けない。ただ振り上げられた剣を見て、呆然と立ち続けていた。
「今度こそ、一緒に────」
動かない儀玄に対し、容赦なく剣が振り下ろされる。その凶刃が儀玄に襲いかかろうとした、そのときだった。
「エーテル居合五の段・ロケット抜刀!!!」
爆音と共に二人の隙間に飛んできたフルメットが、寸前でその剣を受け止めた。
「フルメットさん!? 何でここに!?」
「偶然近くで依頼受けてたんだよ!! どういう状況!? そしてなんだこの人!? 力つっっっっっよ!?!!!!?!!?」
受け止めることには成功したフルメットだったが、徐々にその力に押されていく。
「ぐっ……くそっ……!」
「そ、そんな……フルメットさんでも……」
「まっ、まけっ……! 負けて、たまるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
フルメットが身体と刀にエーテルを込めると、今度は逆にエーテリアスの剣を押し返し始める。
「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 根性ォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」
少しずつ押し返される剣に、エーテリアスは眉をピクリと反応させると、表情も変えずに後ろへ飛んだ。
「凄いっ! 流石フルメットさん!」
「はぁっ……はぁっ……! こ、こちとら技量で飯食ってんだぞ!? ただの力比べなんてさせないでほしいんだが!?」
「儀玄、儀玄……」
「……あ?」
目の前の人物が呟く名前と、自分の後ろでいつの間にかぺたりと座り込んで固まっている儀玄を見て、フルメットは今の状況をある程度把握した。
「……なるほど、趣味が悪いな」
「それは聞き捨てなりませんね。以前の未完成品に対して言っているのであれば賛同しますが」
フルメットの言葉に反応した白衣の男が、物陰から姿を現した。突然現れたその男に対し、リンが反応を見せる。
「っ! あれって、もしかして……!」
イアスの顔がFairyの演算で一瞬乱れたが、すぐに元に戻った。
「うん、間違いない!! 聞いてフルメットさん! 以前このホロウで強力なエーテリアスと戦ったんだけど、そのエーテリアスは人工的に作られたものだったの! その個体は私達が倒したんだけど……」
「でも、そのエーテリアスを研究していた人がまた悪さしようとしてるって情報を手に入れて、私達はその研究者の足取りを追ってたの! その研究者が今そこにいる人! 名前は──」
「──ワイズマン。それが私の名前です」
リンの言葉を遮るように、ワイズマンは自らの名を名乗った。
「どうです? このエーテリアス、素晴らしい出来だと思いませんか? 」
「今ここに居るのは、かつて旧エリー都を守るため戦った英雄。まさにそのものです」
「あのような紛い物とは違うのですよ!! これこそが
「……やっぱり、そういうことかよ……」
ワイズマンの話に自分の考えが間違っていなかったことを確信し、フルメットは儀玄に目を向ける。
(きっと、あのエーテリアスの原型になったのは儀玄さんにとって大事な人だったんだろうな。動けなくなるのは無理もない。
そんな風にイツキが考えている最中だった。
なんの前兆もなく、エーテリアスの首がぐるりと儀玄の方を向いた。
「させっかよ!!!」
「────ッ!!」
再び儀玄に斬りかかろうとするエーテリアスの前に割り込み、フルメットはその剣を受け止める。
「……儀玄、儀玄──」
剣を振り下ろしているというのに、見えていないはずのその目は、フルメットではなく儀玄へと向けられていた。
「儀玄さん!! 何度も防げるような相手じゃない!! 動けますか!?」
「……てくれ」
「儀玄……さん?」
「……やめてくれ、やめてくれ、やめてくれ!!!
頭を抱えて、儀玄は怯えたように地面にうずくまる。
「いやだ、いやだいやだ! またその目で私を見ないでくれ、姉様……!」
かつて姉から向けられた、五感と記憶の全てを失った人間の虚ろな目。
伸ばしても届かなかった手、別れの言葉すら聞いてもらえなかった無力感。悪夢のようなその記憶が、この虚ろな目を見るだけで儀玄に襲いかかる。
(出口は……遠すぎるか。そもそもこのエーテリアス相手にボンプと儀玄さんを抱えて逃げ出せるとは到底思えない……)
(このエーテリアスは今ここで倒すしかない。でも──!)
「儀玄さん!!! 立ってください!!!」
エーテリアスの攻撃をいなしながら、フルメットは儀玄に声をかける。
「きっとこの人は、儀玄さんにとって大事な人だったんだと思います!! だけど、だからこそ目を逸らしちゃいけないんです!!!」
かつて
「あの男の言葉をそのまま受け取るなら、この人は英雄だったんでしょう!? 誰かの為に戦える、強い人だったんですよね!?」
「こんな風に誰かに剣を向ける人だったんですか!? 自分のことを大切に想ってくれる人に斬りかかるような、心ない人だったんですか!?」
「今の今まで引きずるくらい大事な人だったんでしょう!? なら、こんなエーテリアスが本物だと言われているのなら、誰よりも貴女がそれを否定しなきゃいけないんじゃないんですか!?」
「しっかり
過去の自分に言い聞かせるように、フルメットはこれまで以上に声を張り上げた。
「辛い過去から逃げるなよ!! 貴女はあの雲嶽山 十三代目宗主、儀玄なんだろ!?」
「……フフ」
フルメットは必死に説得を試みたが、その言葉に反応したのは、人を小馬鹿したような笑みを浮かべたワイズマンだった。
「……無駄ですよ。一度折れた人間が立ち直るのは、そう簡単なことではありません」
彼がパチンと指を鳴らすと、周囲からエーテリアスが湧き出てくる。
「……ッ! マジかよ!?」
「そろそろ終わりにしましょう。貴方は確かに強い。けれど、
「まずっ──!」
後ろから迫りくるエーテリアスに、フルメットの脳裏に詰みの二文字が浮かんだそのときだった。
背後のエーテリアス達が、
「……やれやれ。傷心中の女に戦えと言ってくるとは……お前さんも酷い奴だな」
「い、儀玄さん……?」
「だが、お前さんの言う通りだ。私もそろそろ、
なんでもないかのように、儀玄は前を指さす。
「──前、来てるぞ」
「えっ? おわっ!?」
フルメットが驚くと同時に、前から襲いかかる剣を儀玄が弾いた。
「なるほど、確かに似ているのは
「儀玄、儀玄──」
「口を閉じろ。姉様の剣は常に誰かを守るために振るわれていた。そのような
儀玄は札を構えると、目線だけをフルメットに向けた。
「フルメット、周りのエーテリアスは任せても構わないか?」
「……ははっ。はい、勿論です。じゃ、そいつの相手は任せましたよ」
すぐにフルメットが周りのエーテリアスへ斬りかかりに行ったのを確認して、儀玄は目の前の偽物に視線を戻す。
「姉様の剣は、もっと重くて、もっと綺麗で……。……何より、
「それでもなお本物だと言うのなら、姉様を愚弄するのであれば……」
「その剣と同じ力を扱うこの業、破ってみせろ」
「いくぞ、『動と静、清と濁』──!」
「……ん?」
目を覚ますと、知らない建物の天井が見えた。
寝ている間にも随分汗をかいたようで、服の下がびっしょりだった。
「儀玄さんが運んでくれたんだよな……。そう言えば、儀玄さんにはどこに────うわっ!?」
周囲を見渡そうと首を横に向けると、俺が寝ている布団の横で儀玄さんが寝息を立てていた。
しかし、俺の驚いた声が聞こえたのか、儀玄さんはゆっくりと目を開いた。
「あぁ……目覚めたか。というか、うっかり私も昼寝してしまったな」
「昼寝て」
「仕方ないだろう。お前さんの看病したあと、やることもないから横で様子を見ていたらそのまま寝てしまったんだ」
「その節は本当にありがとうございました」
「病人が土下座をするな」
儀玄さんは溜め息をつくと、部屋の隅を指さした。
「ほら、そこにお前さんが着てたガラクタがある。顔以外は看病のために外させてもらったが、構わなかったか?」
「ぜ、全然大丈夫です。ホントにありがとうございます」
「気にするな」
そう言うと、儀玄さんは立ち上がってどこかへ歩いていこうとする。
「大分体調はマシになったと見えるが、それでも本調子ではないだろう? 帰るにしても、その前にせめて軽食と薬くらいは出させてもらうぞ」
「何から何まですみません……」
なんというか、すごく申し訳ない。ここまでしてもらってるのに、俺は何一つ返せずにここから帰ることになる。それはなんだか……嫌だな。
「……儀玄さん」
「なんだ? ──ッ!?」
俺は自分が被っているボンプの頭を掴むと、そのままそれを外した。
「お前さん、何を……?」
「これだけお世話になって、何も返さないってのはその……どうにも納得出来なくて。それに、儀玄さんならきっと誰にも言わないでくれるでしょう?」
「……はぁ。相変わらず、律儀というか、何というか……」
儀玄さんは呆れたような表情をすると、俺の目の前まで戻ってきて、そのまましゃがみ込んだ。
「だが、折角見せてくれるというのなら、少しばかりじっくり見せてもらうとしよう」
「ちょっ……!?」
両頬に手を添えられ、そのまま親指で目元を優しく撫でられる。
「ふむ、思っていたよりも……」
「……よりも、何です?」
「………………いや、何でもない」
「気になる切り方しないでもらえます!?」
思ってたよりも何!? 気になるんだけど!?
「では軽食と薬を持ってくる。少し待っていろ」
「ま、待ってください!! 今なんて言おうとしたのか教えてくださいよ!! 儀玄さん? 儀玄さん!?」
結局、俺が帰るまで何て言おうとしたのかは教えてもらえなかった。
あの偽物を無事討伐してから数日後、フルメットは儀玄に呼び出されていた。
フルメットが待ち合わせ場所のベンチで待っていると、後から来た儀玄は、チャーシューまんを手にしていた。
「待たせたか?」
「いえ。それより……あの、何故チャーシューまんを?」
「……これは、姉様との思い出の料理なんだ。姉様を失ったあの日から……私は、これを口にすることが出来なかった」
『だが』と言って、儀玄はチャーシューまんの包装を解いた。
「そろそろこれとも向き合うべきだと思ってな。だから、また私が逃げ出さないように、お前さんにも見ていてほしいんだ」
「なるほど、そういうことなら見届けさせてもらいます」
「感謝する。では、いざ────」
そうして顔の前までチャーシューまんを持ってきた儀玄だったが、そこからチャーシューまんがピクリとも前に進まなかった。
「……あの、儀玄さん?」
「ああ、食べる。食べるに決まっているだろう。しかし、まずは作ってくださった方への感謝と、全ての生きとし生けるものへの感謝を捧げねば、食物を口にする権利はない」
「真顔で手震わせながら言われましても」
カタカタと震えたままの儀玄を見て、フルメットは溜め息をついて彼女からチャーシューまんを取り上げた。
「なっ!? お前さん、何を──!?」
「勝手にすみません。ならこうしましょう。……ほいっと」
フルメットはチャーシューまんを半分に分けると、そのうちの片方を儀玄へと差し出した。
「二人で分けましょうか、儀玄さん。その方がきっと美味しいですよ」
『二人で分けましょ儀玄。その方がきっと美味しいもの』
フルメットがそう声をかけると、儀玄は目を見開いて固まった。
「──姉、様?」
「へ?」
「い、いや……何でも、ない。少しブレて見えたというか……」
「……?」
儀玄は不思議そうに首を傾げるフルメットからチャーシューまんを受け取ると、数秒ばかり逡巡したのち、勢いのままチャーシューまんに齧り付いた。
「おおっ!! ……えっと、どうですか?」
「……ああ」
やはりと言うべきか、一口食べた瞬間、儀玄の頭には悪い思い出がたくさん湧き上がってきた。
だが、それ以上に──。
「ふふ……。しばらく食べない間に、こんなにも美味しくなっていたのだな……」
「ああ、美味しい。美味しいな、フルメット。こうやって、誰かと食べるチャーシューまんは、美味しいに決まっているんだ」
「……はい。とても美味しいですし……その、ゆっくり食べましょうか」
言葉もなく、儀玄はコクリと頷く。
彼女の目から落ちる雫が止まるまで、フルメットは黙って横に居続けたのだった。
・イツキ
このあとバレずに帰れた。良かったネ!
・エーテル居合五の段・ロケット抜刀
エーテルの力でロケットみたいに身体をぶっ飛ばして、そのまま目的地に到着した瞬間に抜刀する技。飛距離・速度ともに申し分ないため、一刻を争うタイミングで使用することが多い。
・エーテル居合シリーズ
ベースはイツキ自身の技量で、そこにエーテルの力を上乗せして身体性能や刀を強化するのが基本の動きになる。
ぶっちゃけビームとかレーザーは刀の技量と比較すればサブウェポン程度にしかならないのだが、エーテル居合シリーズはベースがイツキの技量な以上、エーテルで強化することで純粋にホロウ外より強くなる。
なお例外なくクソダサネーミングのため、緊迫していないタイミングで技を使う度にリンからブーイングが来ていた。
・エーテル居合終の段・超圧縮エーテル解放斬り
エーテル居合シリーズの中で、唯一アキラとリンに原則使用禁止を命じられた技。
ちなみにイツキに負担がかかるとかそういうアレな理由ではない。
・儀玄
立ち直って秒殺した。流石師匠。略してさす師匠。
チャーシューまんも食べられるようになり、この一件以降はよくチャーシューまんを食べているところが目撃されるようになった。
チャーシューまんを半分こしたフルメットを見て、何故「姉様」と言ったのかについては、その辺りをコピペとかしたら
・追加情報①
実は寝てる間にボンプ頭を外して顔を見ている。また居なくなるのが嫌だという理由から顔を見てしまったが、そのあと元に戻して「私は卑しい女だ……」と自己嫌悪した。でもそのあと自分から顔を見せてくれたことで全部吹っ飛んだ。
・追加情報②
顔で誰かを選ぶわけではないが、「思っていたよりも好みの顔」だと思った。寝ている間に一度見ていたから問題なかったが、もし起きているときが初見だったらイツキの前で数秒フリーズしていたところだった。
・追加情報③
雰囲気が似ているわけでもないが、イツキにどこか姉の面影を感じるときがある。そのせいなのか、たまに無性に甘えたくなる妹的な衝動が出てくるときがあるが、なんとか理性で抑えている。
・ワイズマン
御用となった。残当。