ホントは前に感想でももらった『ざけンナ』にしたかったンナ
今回は自重したンナね
「アキラ、現場の監視カメラに奴は映っているか?」
「すまない雅さん、もう少しだけ待ってほしい。今巻き戻して確認しているところなんだ」
「もう……当たり前のように監視カメラをハッキングして……。見逃すのは今回だけですよ、アキラくん」
仕方ないといった様子の朱鳶の言葉を聞いて、『どうせまた次同じようなことがあっても見逃してくれるんだろうなぁ』とその場の全員がうっすら思っていると、アキラは映像の確認を終えて頷いた。
「やっぱりか……。予想はしていたけど、彼は監視カメラには映っていないようだね」
「……何?」
「待ってくださいアキラくん。
「それなんだけど、実は今も、その場にいる皆は監視カメラに映っていないんだ」
「蒼角達が……カメラに映ってない?」
不思議そうに首を傾げる蒼角に対し、月城柳は納得したように頷いた。
「なるほど……。ダミー映像、ですね?」
「ダミー?」
「何も映ってない偽の動画が送られてるってことだよ、蒼角ちゃん」
「そうか……。元よりここは
「僕も雅さんと同意見だ。映像に異常が無ければそもそも確認されることもないし、差し替える瞬間さえバレなければ長期間カメラの目を欺くことが出来ると思う」
「……つまり」
星見雅はボロボロになって倒れている襲撃犯に視線を向け、目を細めた。
「残る情報源は、奴を見た彼らだけということか」
ちなみにこの後取り調べを行なったが、誰も彼もが『キラーボンプマン』や『パチモン』、『絶対中に人入ってた』などのイカれた証言しかせず、フルメットが一時的にこの場に居たということ以外には何もわからずじまいだった。
ちなみにリンはフルメットらしき人影がまったく見つからなかったので、純粋にライブを楽しんでいた。
「戻ったか朱鳶。首尾はどうであった?」
「それが、会うことすら叶わず……。確かに現場近くには現れたようなのですが……」
「……左様か」
どこか落ち込んだ様子で席についた朱鳶を見て、青衣は面白がるように口元を歪めた。
「ほう、そんなに会いたかったのか」
「なぁっ……!?」
顔を真っ赤に染めて、朱鳶はガタンと席から立ち上がった。
「ち、違います!! 私はただ、治安官としての責務を──!」
「わかっておるわかっておる。というか、今更誤魔化すようなことでもなかろう?」
「な、何を言って──!?」
これはまだ、朱鳶が治安官としての経験が浅い頃の話。
「なんだい!? 私が全部悪いってのかい!?」
「そ、そうではありません! 確かに貴女のお気持ちもお察しいたしますが──」
「だったらなんで
「そ、そんな、ことは……」
「他にもっと優先すべきことがあるんじゃないのかい!? この前起きた事件の犯人だってまだ捕まってないそうじゃないか!! それなのによくもまあこんなしょうもないことで駆けつけられるもんだよ!! こんなことで仕事したつもりになるなんて金食い虫も良いとこだと自分で思わないのかい!? 皆言っとるよ! 治安官は給料泥棒の役立たずだってね!」
「────っ」
「…………はぁ」
通報のあった老人を何とか落ち着かせ、疲れた様子で治安局に戻ってきた朱鳶に、青衣がペットボトルを差し出した。
「これまた厄介を受けたと見える。……朱鳶、無理しておらぬか?」
「青衣、先輩。……ありがとう、ございます……」
もらった飲み物を一口飲み、朱鳶は呟くように話し始める。
「……最近、自分がよく分からなくなるんです。最初は治安官として頑張ろうって、そう思えていたはずなのに……」
「治安官としての自分に、誇りを持てていたはずなのに……」
治安局に入りたいと思うようになった憧れの人が、メディアに媚びるだけの存在になってしまったこと。そして、守るべき市民から理不尽な扱いを受けることが増えてきたこと。
他にも言い出せばきりはないが、様々な要因が重なり、朱鳶の心は少しずつではあるが憔悴の道を辿っていた。
考えれば考えるほど悪い方向に気持ちが向いていく。そんな朱鳶の様子を察してか、青衣は1枚の紙を朱鳶の前に置いた。
「……朱鳶。確か、ぬしは最近市民からの通報ばかり対応していたな」
「──ならば、たまには何も考えずに身体を動かしてみぬか?」
「出没が確認されたのはここ、ですね」
とあるホロウに辿り着いた朱鳶は、改めて青衣から受け取った資料に目を向けた。
「『ホロウ内で治安官の後を付け回し、治安官の所持品を盗もうとした』……。治安官を狙った犯行ですし、悪質なホロウレイダーですね」
「うむ。そして容疑者の特徴は単純明快、フルフェイスヘルメットを被っておる男らしい」
「確かにわかりやすい特徴です。しかし、そう簡単に見つかりますかね……?」
言いながら彼女がチラリとホロウを見渡した、そのときだった。
口笛を吹きながら歩いているフルフェイスヘルメットの男が物陰から現れた。
「「あ」」
「え」
一瞬の硬直の後、朱鳶は手に持った資料と目の前の男を見比べ、震えるような声で言葉を発した。
「も、もしかして、貴方が──!」
「やっっっっっべ!!!」
突如逃げ出す男に、二人は件の犯人が目の前の男だと確信し、後を追い始める。
「と、止まりなさい!! ……くっ、なんて速さ……!」
「あれだけの速さ……。なるほど、捕縛出来なかったのも頷ける」
あっという間に距離を離され、最後に姿を確認できた場所に辿り着いたときには、既に男の姿はどこにもなかった。
「はぁっ……はぁっ……。逃げられ、ましたか……」
「そうとも限らん。ここからはどこにも繋がっておらぬように見える。つまり、奴がどこかに隠れている可能性が高い。諦めるのはこの辺りを捜索してからでも遅くはないぞ」
「……は、はい!」
青衣からのアドバイスに朱鳶が返事をした、そのときだった。
「ォオオオオオオオオオオオ!!!」
「──ッ!? 朱鳶!!」
「……え?」
朱鳶が後ろを振り向くと、どこからともなく現れたエーテリアスが彼女に向かって刃を振りかぶっていた。
突然のことでその場から動けず、朱鳶は反射的に顔の前で腕を交差してギュッと目を瞑る。
しかし、来るはずの衝撃は彼女には襲いかからなかった。
「…………?」
恐る恐る目を開けると、目の前にはフルフェイスヘルメットの男が立っており、その男によってエーテリアスの刃は易々と受け止められていた。
「──ああもう、折角隠れてたってのに……」
「
八つ当たりのように叫びながら、男はエーテリアスを一刀両断した。
「もうやだ……。逃げてるのに夢中で隠密型のエーテリアスに気づけなかったとかマジで終わってる……。さっき倒しとけばこんなことには──」
「……あの」
「…………ハイ」
カチコチとした様子で振り返る不審者に、朱鳶はどこか気が抜けたような気持ちになった。
「あ、ありがとうございます……。助けてくれたん、ですよね……?」
「へ? あ、まあ……そう、なるのかな?」
「な、何故ですか? あのまま出てこなければ、貴方は……」
「…………」
不審者は困ったように
「誰かを見殺しにしてまで逃げたくはなかった。それだけだよ」
「それに、まあ、なんだ。俺はホロウレイダーだからさ、あんたら治安官の前に胸張って立てるような人間じゃないけども……」
「近所に住んでる子供に、治安官に憧れてるやつがいるんだ。『将来治安官になるんだー!』とか言ってさ。大人の人だって、この前治安官さんが見回ってくれるから安心して生活できるって、そう言ってた」
「そんな風に街の人達に慕われてる人達に不幸になってほしくないなって。……まあ、そんなとこだよ」
「…………」
男の言葉に呆然とする朱鳶に対し、青衣は首を傾げていた。
「ふむ、ホロウレイダーに似つかわしくない善性があると見える。……ひとつ確認したい。ぬしは治安官の所持品を盗もうとしたことはあるか?」
「治安官から、盗み……?」
「うむ。フルフェイスヘルメットの男が治安官の後を付け回し、所持品を盗もうとしたと報告があった。ぬしのことではないのか?」
「いや、そんなことした覚えは──────…………あ゙ッ」
「……? 何か心当たりが?」
青衣の言葉に、男はぽつぽつと語り始める。
「……この前、ホロウ内で治安官の人が何か落としたのを見かけて、届けてあげようと思って拾ったは良いものの、自分がホロウレイダーなの忘れてて、このまま話しかけたらこのまま職質スタートしちゃうじゃんって思ったら、全然話しかけられなくて……」
「でも、このまま拾ったものを持ち去るわけにもいかないし、どうしたものかと思いながら後をついて行ったらバレて……そんで、そのまま拾ったものをその場に置いて逃げたんだけど……」
「……ふむ」
青衣は納得したように頷いた。
「どう考えてもそれであろう。局までご同行願おう」
「ざけんな善意だぞ!?」
「──ふふっ」
男が不満を露わにしたそのとき、朱鳶が堪えきれないといった様子で笑い始めた。
「わ、笑うなよ! こっちは真剣なんだぞ!?」
「ふふっ…… す、すみません……! だって、おかしくって……!」
「朱鳶……」
今まで業務中に朱鳶が笑うところなど、少なくとも青衣は見たことがなかった。
ずっと気を張り詰めているように見えて、青衣は朱鳶がいつ限界を迎えてしまうのか、少し心配だった。しかし──。
「ふふっ……。そうでした、世の中には色々な人が居るんですもんね。今見えているものだけが全てじゃない。私、そんな簡単なことも忘れていました」
「……いきなり何の話?」
「ありがとうございます、名も知らぬホロウレイダーの方。私、これからも頑張れそうです」
「何の話!?」
今すぐにでも逃げたさそうにビクビクとする男を前に、朱鳶は憑き物が取れたような表情で笑みを浮かべるのだった。
「まさか朱鳶が見逃すという選択を取るとは……。本当に良かったのか?」
「ええ、助けてもらいましたから。恩を仇で返すような真似は出来ません」
「……そうさな。前までのぬしなら構わず捕らえていたであろうが、
「ふふ、そうかもしれませんね」
この一件以降、幾度も男と遭遇し、その度に何かと理由をつけては見逃していたのだが──。
「……はい? 彼がホロウレイダーを、辞めた?」
とある日に起きた突然の別れによって、彼女の情緒はぶっ壊れた。
・青衣
それはそれとして朱鳶がいつも楽しそうに『仕方ないから今回も見逃してあげます』というお決まりの話をするので、何も言わないでいた。
・朱鳶
少し気が滅入っていたが、この件以降元気になり、肩の力を抜くことなども覚え、メキメキと伸びていった。
イツキがホロウレイダーを辞めたことを知った瞬間、思っていた以上に自分の中で大きな存在になっていたことに気がついてしばらく放心した。しかも治安官だからという理由で連絡先は交換して居なかったため、辞めたことについては人伝に聞かされる羽目になり、そもそも別れの言葉をもらっていない。(ちなみにこれは雅も同じ)