雅さんってこういうこと言うのかな……とも思いつつ、解釈は人それぞれだよなと自己防衛論理を展開したところで投稿。
「……辞めた? 奴が? 私に黙って?」
「うん。間違いないよ」
「……そうか」
Random_Playの奥の部屋にて、星見雅は耳をしょんぼりと前に垂らした。
「何故だ? お前は私の生涯のライバルだったはずだろう……?」
(僕には彼が雅さんから逃げているようにしか見えなかったけど……。これは彼女には言わないほうが良さそうだな……)
アキラがぐっと言葉を飲み込むと同時に、星見雅はリンへと視線を向けた。
「しかし、なるほど……。それでリンもあの状態というわけだな?」
「そうだね。初日は食事が喉を通らなかったみたいだから、少しずつマシにはなっているんだけど……」
「ふむ……」
星見雅は顎に手を当てて頷くと、コツコツと音を立てながらリンに近づいた。
「リン。一応ここに宣言しておく」
「……?」
「私はフルメットを見つけ次第、H.A.N.Dに引き入れるつもりだ」
「……へっ?」
「奴をどの勢力が手に入れるかによっては、秩序の維持にも影響が出かねない。……何より、私の修行相手になる」
「きゅ、9割くらい最後の部分が理由だよね……? それに、フルメットさんはもう……」
「アキラから聞いた話だと、裏の仕事から手を引いたというだけで、表の仕事であれば構わないのだろう? であれば、奴を欲しがる勢力はいくらでも居る。きっと、私以外にも同じ考えの者が出てくるはずだ」
「……っ!!」
リンの表情に焦りが浮かぶ。それを逃さず、星見雅は挑発するように言葉を続けた。
「いいのか? そうやって沈んでいる内に、誰かに取られてしまうやもしれぬぞ?」
「そんなのダメッ!!」
ガバッとソファーから起き上がったリンを見て、星見雅は小さく笑みを浮かべた。
「ならば勝負だ、リン。どちらが先に奴を見つけるか」
「望むところだよ雅さん!! 絶対負けないからね!!」
『こうしちゃいられない!』と言いながら、リンは部屋から出て行った。
(……凄いな)
あれだけ沈んでいたリンの瞳に、一瞬で火が灯った。時間が解決するのを待つしかないと半ば諦めていたアキラにとって、目の前の光景は驚きのものだった。
「……ありがとう、雅さん」
「何のことだ。私は礼を言われるようなことはしていない」
「そうだとしてもさ。雅さんのおかげでリンが立ち直れたのは事実だからね」
「そうか。ならばその気持ちは受け取っておこう。しかし──」
「──私は誰にも奴を渡すつもりはない。必ず見つけ出してみせる」
「……はは」
星見雅の瞳から一瞬光が消えたように見えたアキラは、ただ乾いた笑いしか出せなかった。
「イツキさん! お兄ちゃんがそろそろお昼休憩入って良いって!」
「了解です」
バイトを始めてからしばらくは沈んだ様子のリンさんだったが、ここ最近は随分元気になったように見える。
何があったのかは知らないが、どうやら立ち直れたみたいだ。
「私もそろそろお昼ご飯にしよっかな! イツキさんは何食べるの?」
「俺はサンドイッチにしました」
「サンドイッチ! いいなぁ……」
『たまに食べたくなるんだよねぇ……』と呟くリンさんの横で、俺はリュックからサンドイッチの入った容器を取り出した。
よし、じゃあ早速いただきま──
「──え?」
「……へ?」
なんかリンさんにめっちゃガン見されてる。見たこともないくらい目を見開いてる。……もしかして欲しいのかな?
「……えっと、おひとつ要りますか?」
「あっ……あぁっ、ごめんっ! そうじゃないのっ! そうじゃなくって──!」
リンさんはサンドイッチが入った容器を指差した。
「こ、これ……どこで買ったの?」
「へ? 家から来る途中にサンドイッチ屋があるんですよ。そこで買いました」
「……安くて、美味しい?」
「そ、そうですね。安くて美味しいです。よく買ってるんですよ」
「お店の場所、聞いてもいいかな?」
「わかりました。えっと──」
何故ここまでリンさんの興味を惹いたのかわからないが、お店の場所をリンさんに伝えると、彼女はお礼を言って店から出て行ってしまった。
……やっぱりサンドイッチ食べたかったのかなぁ。
「──はっ、はぁっ……!」
走る。とにかく走る。
見間違えるはずもなかった。アレは、彼がよく食べていたモノと同じだった。
『ねぇ、いっつもそのサンドイッチ食べてない?』
『安くて美味しいんだ。他に安い店がないこともないけど、ついつい買っちゃうんだよ』
『ふ〜ん……どこのお店?』
『家の近所。これ以上は秘密』
『む〜……付き合いも長いんだし、そろそろ少しくらいフルメットさんのこと教えてほしいなぁ』
『ダメだ。ちなみにフルフェイスヘルメットの上からどうやって食べてるのかも教えないぞ』
『それはホントにどうやってるの???』
インターノック上に彼の情報はほとんど残っていなかった。けれど、彼と過ごしたときの記憶はまだ、自分の中に残っている。
店に行ったところで何も得られないかもしれない。けれど、例え微かな情報だとしても、塵も積もれば山となる。決してゼロではない。
彼の情報がデータとして存在しないのなら、自分の脚でかき集めればいい。その積み重ねがいつか、彼へと繋がる鍵になる!
「──いつか絶対見つけてみせるんだから! 覚悟しててね、フルメットさん!」
・イツキ
現時点でリンと星見雅から追われている。
ボロ出さないように頑張ってね!!
・アキラ
ようやくリンが立ち直って一安心。
かと思ったら星見雅から不穏な気配を感じて震えた。
・リン
絶対見つけてあげるんだから!!(やる気MAX)
・星見雅
本人が思ってる以上には執着されてそう。
執着されている理由は強さだけではないが、それはまたいつか。