強火担当のあの人です
「よし、こんなもんかな」
店内の掃除を終えて掃除用具を片付けていると、ひょっこりとリンさんが現れた。
「掃除中にごめんね! ちょっとお願いが──って、もう終わったの!?」
「はい。慣れてきたのか、思ったより早く終わりましたね」
「え〜? ホントかなぁ〜? ほら、この棚の上なんてまだまだ埃が──ない!?」
棚の上を指でスーッと拭いて埃を確認するという姑みたいなことをされたが、残念ながらそこも綺麗に掃除済みだ。
「そんなぁ……一回くらいやってみたかったのに……」
「なんで姑仕草に憧れ抱いてるんですか……」
「ほら、やっぱりレンタルビデオ屋なんてやってるとドラマとかでそういうシーンを観ることが多いじゃない?」
「だからってやってみたくなります?」
「なる」
なる、のか……? まあ気持ちはわからんでもないが、そこをピックアップするのはどうなんだ……?
「ちなみにお兄ちゃんもこういうところあるんだよ?」
「え? アキラさんにも?」
「うん。『リンを起こさないでやってくれ、死ぬほど疲れてるんだ』とか、『お前は最後に倒すと言ったな、アレは嘘だ』とか!」
「ソースが特定の映画に集中しすぎてませんか?」
絶対ウソだろこれ。語録ばっかり喋るアキラさんも見てみたい気持ちはあるけど……。
「とまあ冗談は置いといて」
「やっぱり嘘じゃないですか」
「えへへっ。それでね、さっきお願いがあるって言ったと思うんだけど……」
「ああ、そう言えばそうでしたね。何でしょう?」
「実は急用が入っちゃって、これからお兄ちゃんと二人で出ていかないといけないの。だから悪いんだけど、夕方頃までお店番して貰えないかな?」
顔の前で手を合わせて『お願いっ!!』と申し訳なさそうに言ってくるリンさんだが、そもそも俺の今日のシフトは閉店までだし、アキラさんとリンさんが店に居なくなるだけなら問題ない。
「わかりました。前にもやってますし、大丈夫です」
「ほんとっ!? ありがとう!!」
俺の手を掴んで『イツキさんを雇って良かったよ〜!』とブンブン振ってくるリンさんを見て、なんとなくこの兄妹が人たらしと言われている所以を理解したような気がした。
「……あっ、そうだ! 忘れてた!」
「はい?」
「実はこのあとお客さんが来る予定だったの。私とお兄ちゃんに渡したいものがあるらしいんだけど……。……その、任せちゃってもいいかな?」
「わかりました。そういうことなら代わりに受け取っておきます」
「うわーん! ホントにありがとー!」
またしても腕をブンブンしてくるリンさんの勢いに負けそうになりつつも、俺は忘れないうちに確認しておくことにした。
「そ、それで、その方のお名前をお聞きしても?」
「あっ! そうだよね!」
「"ビビアン"! お嬢様みたいな綺麗な子だよ!」
アキラさんとリンさんが店を出てしばらく。俺は客のいない店内で、一人頭を抱えていた。
「ビビアン……か」
いつもの如くまた知り合いときた。どうなってんだマジで。
あ、会いたくねぇ……! あいつ、マジで心を許してる相手とそうじゃない相手で対応が違いすぎるんだよ……。
ちなみに俺は後者側です。辛い。
謎に突っかかれてたし、嫌われてたんだろうなぁ……。初対面から印象悪かったみたいだし……。
『認められないのです』
『……え?』
『貴方がパエトーン様の右腕など、私は絶対に認めません』
『ちょっと待ってくれ。何の話だ?』
『なるほど、パエトーン様以外は目にも入っていないと……。随分と余裕なのですね?』
『本当に待ってほしい』
『ですが余裕をぶっこいていられるのも今のうちなのです。すぐに私がパエトーン様の右腕の座を奪ってみせます!』
『だからほんとに待って?』
初対面の会話がコレだぞ。おかしいだろ。いきなり目の前で一人相撲始められた俺の身にもなってほしい。
ちなみにビビアンが言っているのは、インターノット上で囁かれていた『フルメットはパエトーンの右腕らしい』という根拠のない噂についてだった。マジで知らんし勘弁してほしい。
それからも会う度に恨み節をぶつけられまくったのは記憶に新しい。
『今日こそ私がその座を頂くのです!』
『わかった! わかったから! そんなに欲しいなら右腕の名くらいあげるから!』
『その余裕さが腹立たしいのです!』
『どうしろと!?』
『ふふ……ふふふ……』
『な、何……? どしたの?』
『気づいてしまったのです。私がパエトーン様信者の教祖となれば、自然と右腕の座も私になるのではないかと……!』
『
『というわけでパエトーン様を推す歌を作曲をしているのです。邪魔しないでほしいのです』
『わかった。好きにしてくれ』
『なんなのですかその余裕は? ……もしや、貴方も外堀を埋めるために何か活動を……?』
『今外堀埋めるっつったぞコイツ』
『一体私に隠れて何をしているのですか!? 吐くのです!!』
『何もしてないから! 肩揺さぶるのやめて!!』
『"彼を知り己を知れば百戦殆からず"。敵と自分のことをよく知った上で戦えば、何度戦っても敗れることはないという意味です』
『……急にどうした?』
『つまり、貴方に勝つためにも貴方のことを知る必要があるのです。なので、不本意ですが、ほんっとうに不本意ですが、私と語らうことを許可するのです』
『そ、そっか……。じゃあ何話す? 好きな飯とか?』
『そんなの考えるまでもないのです。ほら、"パ"から始まり"ン"で終わる……』
『パイ◯ーツ・オブ・カリビアン?』
『いっぺん地獄を見るのです!!』
『ごめんて!!!!!』
うん、少なくとも最後は俺が悪いわ。そりゃ嫌われて当然だ。
とはいえ、俺が居なくなったことで右腕の座はビビアンのモノになっただろうし、溜飲を下げてくれてると良いんだが……。
「──な、なんだお前!?」
新エリー都のとある路地裏にて、一人のフルフェイスヘルメットの男が後ずさりしていた。
「お、俺は
「目障りです」
「がはっ!?」
一撃で倒れ込んだ男に対し、彼女は見下したような目線を向けた。
「今、私利私欲のためにパエトーン様の名前を使おうとしましたか?」
「それに、その名は貴方のような虫けらが軽々しく騙って良い名ではないのです」
悔しいが、本当に悔しいことだが、彼女はフルメットの実力を認めていた。それこそ、自分よりもパエトーンの右腕にふさわしいと思うほどには。
でも、それを言ったら負けたような気がして、本人に伝えたことはなかった。というか、どうせいつか勝つのだから伝える必要はないと思っていた。
それなのに、フルメットはあっさりと姿を消した。『これからはお前がパエトーンの右腕だ』なんていうふざけたメッセージと共に。
こんな
(勝ち逃げなんて許さないのです……! なんとしてでも、見つけ出してやるのです!)
イツキがホロウレイダーを辞める前よりも、彼に対する執着を強めていた。
・イツキ
絶対嫌われてると思ってるので、あまり会いたくない
・ビビアン
まことに悔しいことだが、フルメットのことは認めている。
ので、こうなった(手遅れ)