イヴリンさん若干キャラ崩壊かも
「……嘘、だろ……?」
自室にて、俺は見間違いではないかと何度も目を擦ってPCの画面を確認する。
しかし、俺の目に映る光景は変わらない。間違いなく画面の中には、
翌日。俺はアキラさんに会うや否や頭を下げた。
「突然ですが今度お休みをください!!」
「い、いきなりどうしたんだい?」
若干引き気味なアキラさんに対し、俺はニヤリと笑みを浮かべながら言葉を返した。
「ふふ……アストラ・ヤオさんはご存じですか?」
「ん……? ああ、知っているとも。ファンだからね」
「では、彼女が近日ライブをやることは?」
「それも知っているさ。残念ながら落選してしまったけどね。……いや、待ってくれ。イツキさん、キミ、まさか──」
「ええ、そのまさかです……!」
頭を上げて、俺はとあるチケットをアキラさんに披露する。
「当選したんですよ!! 彼女のライブに!!」
「なんだって!?!!!?」
アキラさんの今まで一番デカい声が聞けた気がする。そりゃ驚くよな。倍率めっちゃ高いもんこれ。
「お兄ちゃんどうしたの!? そんなおっきな声出して!?」
「リ、リン!! イツキさんが……!!」
「イ、イツキさんがどうしたの……?」
「アストラさんのライブに当選したみたいなんだ!!」
「うそぉ!?!!?」
二人して歴代大声記録を更新されてしまった。やっぱり兄妹なんだなぁ。
「いいなっ! いいなぁっ! 私達なんて全然当たらないのに!! イツキさんすごーい!!」
「ああ、きっとイツキさんの日頃の行いの良さが出たんだろうね」
ま、眩しい……! 自分達は落選したっていうのに、当選した人に向かってこんなことが言えるのか!? あまりにも人が出来すぎている……!
「そんなことを教えられてしまっては出勤させるわけにはいかないね。当日は仕事のことを忘れてゆっくり楽しんできてほしい」
「感想聞かせてね!! 絶対だよ!!」
「──はいっ!!」
ありがとう二人とも。俺、ここで働いて良かったです。
時間が経つのは早いもので、アストラさんのライブは明日に迫っていた。
今までも何度かチケットの抽選に応募はしていたものの、当選には掠りもしなかったので、まさか当たるとは思っていなかった。
「ようやくライブ会場で生唄を聴けるのか……。なんか感慨深いなぁ……」
実は言うと、客としてではなく警備として彼女にライブに参加したことが何回かある。というかほぼ毎回居た。なんなら一度警備として参加してからはそれ以降のライブは全部警備として参加した。自分ながらなんだコイツ。
彼女に無事ライブをやり遂げて欲しいという気持ちが一番だったが、もし会場内の警備に回されれば、ワンチャン彼女の生唄が聴けるんじゃないかという汚い下心も少々あった。
ま、そんな薄汚れた心を見透かされたのか、任されたのは毎回会場の外回り警備だったんだけどね。
……と、いかんいかん。最近2人の勧めで映画ばっか見てたら言葉遣いが引っ張られそうになった。リンさんの言ってたことがちょっとわかったかもしれない。
何はともあれ、明日のライブは楽しむぞ!!
「……やはり、見つからないか……」
とある高級ホテルの一室で、イヴリンは部下からの報告を聞いて溜め息をついた。
「ダメだったの?」
「ああ。影も形も掴めないらしい」
「……そう。ホロウレイダーを辞めたって聞いて、まさかとは思ったけど……」
毎回ライブ警備に立候補してきたフルメットが今回は参戦しないということもあって、アストラは少し残念そうに俯いた。
ことライブ警備において、彼の右に出るものは居ないというのが二人の認識だった。何故なら、彼に会場の外回りの警備を任せるだけで安全性が何十倍にも跳ね上がるからだ。
かつて警備を無理矢理突破して侵入を試みた者たちが居たものの、会場に入ることも叶わず僅か数分でフルメットに全員生け捕りにされたという話は、ライブ関係者だけでなく、侵入を考えている者達の中でも有名な話だ。
ようは信頼されているが故に毎回外周りの警備を任されていたのだが、残念なことにフルメットにはそれがまったく伝わっていなかった。悲しいね
そうとも知らず、イヴリンやアストラに信用されるためにも毎回必要以上に目を凝らして警備し、怪しい人物達をとにかく間引きまくっていた。なんだお前。
「判断を見誤った……。こうなる前に正式にスカウトしておくべきだったか……」
「ふふっ、そんなことしたらリンが妬いちゃうわよ?」
「ぐっ……。それは……」
「それにね、もう会えないってわけじゃないと思うの」
アストラは端末を触り、彼から最後に届いたメッセージを表示させる。
「ほら、『いつまでも応援してます』って言ってくれたんだもの。もしかしたら、明日はお客さんとして会いに来てくれるかもしれないわよ?」
そう言ってニコリと笑うアストラに、イヴリンは呆れたように溜め息をついた。
「まったく、お嬢様は前向きすぎる……」
「ええ、自分でもわかってるわ。 けれど、そう考えた方がステキだと思わない?」
「……ああ。確かに、その通りだな」
「そうよねっ!」
返事を聞いてニコニコとするアストラを見たところで、イヴリンはフルメットが自分に向けて最後に送ってきたメールを改めて確認してみた。
(……それにしても、私にだってお嬢様に送ったような個別メッセージを添えてくれても良かったのでは? なんだこの一面の事務的なメッセージは)
(それに加えて何が『ありがとうございました』だ。感謝を伝えるべきはこちらの方だろう。勝手にお礼だけ言って姿を消されても納得出来るわけがないのだが???)
(いやいやいやいやいや。落ち着け私。ライブ前日に何を考えてるんだ。今はお嬢様の護衛のことだけ考えるべきだろう)
雑念を断ち切り、改めてアストラの方へと目を向けると、フルメットからのメッセージに再び目を向けて嬉しそうにしている彼女の姿が目に入り、少し悲しくなったイヴリンなのだった。
・イツキ
念願のチケットが当たってウキウキ
フルメット時代は完璧に警備をこなしており、アストラとイヴリンからの信頼をめちゃくちゃ得ていたのだが、本人は気づいていない。
・アストラ
信頼していた人から応援している旨を伝えられてニコニコ。
よくメッセージを見返して元気をもらっている。
・イヴリン
自分だけ個別メッセージが貰えなくて少し拗らせてる。
『今回も素晴らしい働きだった』とか、『君のおかげで無事にライブを終えることができた』とか、感謝と評価はそれなりにフルメットへ伝えているつもりだったが、淡々と伝えるその様子から(ああ、社交辞令かな)と受け取られてしまった。悲しいね。