※本人は至って真面目です。
ライブ開始まであと数分を切った今、俺は期待で胸をいっぱいにしながら客席でスタンバイしていた。
物販ではグッズはもちろん、Tシャツや
アストラさんの生唄を聴くのは人生で初めてだし、きっと一生モノの思い出になる。そう思ってわくわくしながら待っていたのだが──。
「……?」
なんか、ライブが始まらない。もう開始の予定時間はとうに過ぎているはずなのに。
周りのお客さんもこの状況にどこかざわざわし始めている。トラブルでもあったのかな。
……ん? この臭いは……。
「お、おいっ!? どうした!?」
「だ、誰かスタッフを呼んでくれ! 隣の人が倒れたんだ!」
「こっちも!!」
「というか、私、も……」
次々と客席の人達が倒れていく。……なるほど、只事じゃないな。空気調整器から即効性の睡眠ガスが流れてきてるみたいだ。
俺は特訓して克服済だから良いとしても、他の人はそうもいかないだろう。怖がってここから出ようとした人も居たが、それも叶わず倒れて意識を失っていた。
演出……なワケないよな。絶対何かの悪意が絡んでる。今のところ観客に手を出すつもりはないっぽいし、俺も一旦寝たフリでもして状況を探るか……?
なんて考えていると、扉が開かれる気配がする。人の多さからしてバレやしないだろうが、とりあえず狸寝入りをキメてやり過ごすか。
薄目でチラリと確認してみると、入ってきたのはガスマスクを装着した男だった。
「……ボス、こちらの作戦は成功です。観客は全員眠ったようです」
距離が離れてて少し聞こえづらいが、どうやら単独犯ではないらしい。そりゃそうか。こんな大掛かりなことは1人じゃ出来ないだろう。
「はい。……はい。わかりました。では手筈通り──」
「──TOPSが要求を飲まない場合、5分ごとに観客を1人殺します」
そう言って、男はここから一度出て行った。
……なるほど、そういうことね。恐らくアストラさんやイヴリンさんもファンを人質に取られて何も出来ずに居るんだろう。
そりゃあ開演も遅れるわけだ。ライブどころじゃない。
………………ライブどころじゃ、ない…………?
えっ。折角当てたチケット、全部無駄ってこと? また一から当選するまで頑張れってこと……?
……そうか。そうかそうか。ふ〜ん…………?
俺は努めて冷静に、別に首謀者を張り倒したい気持ちなんか一切抱かずに、荷物からとあるモノを取り出した。
ひょっとこのお面。謎にボイスチェンジャー付き。
ホロウレイダーのときに深夜テンションか何かでふざけて作ったものだったが、表で活動せざるを得ない場面に遭遇したとき、顔を隠すために使えるのではないかと持ち歩いていた。
フルフェイスヘルメットなんて持ち歩いてたら万が一があるからね。これくらいぶっ飛んでた方が情報として結び付きづらいだろ。
このお面を顔に装着し、更に髪の毛が落ちないよう頭に手拭いを巻いておく。そして刀の鞘にも応急処置で装飾を加えてやれば、これで最低限の身バレ対策ヨシ。
どうせ観客は俺以外全員寝てるんだ。ここを出てから誰にも素顔を見られなければ問題ない。
あとは……恥を捨てるだけだ。
「そろそろ5分だな。……ん? 何故起きてるヤツが居る……?」
どうやら先ほどの男が入ってきたようだ。まだ完全には俺の姿が見えていないらしい。
「まあいい、まずはお前から犠牲になってもらおう。抵抗しなければ苦しまずに殺して────ッ!? ま、待てっ!! なんだお前は!?」
ただ単に顔を隠して刀を使えば、フルメットではないかと疑われる可能性がある。
だからこそ俺は、このひょっとこのお面を付けているときに限り、フルメットだと1ミリも疑われないくらいのイカれ倒した狂人になりきることにした。
「お前ら全員皆殺しンナァァァァァァァァ!!!!!*1」
「うわぁイカれ倒した狂人だ!?!!!?」
酷い言われようだ。
ファンを人質に取り、アストラとイヴリンの手足に縄を巻いて無力化することに成功した男は、時計を見て無線で指示を出した。
「……そろそろ5分だな。1人殺せ」
「待って! ファンの子は何も悪くないじゃない! 殺すなら私を──!」
「そうはいかん。お前の存在自体がTOPSへの交渉権になるのでな。……言っておくが、変なことをすれば更に死人が増えるだけだぞ?」
「ッ……!」
何も言えなくなったアストラを見て、イヴリンは怒りのこもった視線を男に向けた。
「下衆め……」
「なんとでも言うがいい。我々は目的のためなら手段は選ばんのだ」
今回の襲撃における首謀者、そして計画の立案者でもある知能機械人のゴポスは、今の状況にとても満足していた。
(ようやく状況が整った……。警備やスタッフにスパイを入れても奴やイヴリンがすぐに間引くせいで、これまでまったく動けなかったからな……)
(だが一人になってしまえば捌く量にも限界が来るというもの。おのれフルメット……貴様さえ居なければもう少し早く計画を実行に移せたものを……)
とはいえ、その元凶となる男はもう居ない。彼がホロウレイダーを辞めたという情報を手に入れたとき、ゴポスは部屋で一人歓喜したくらいだ。
「言っておくが、助けは期待するだけ無駄だ。もしこの会場に侵入しようとする者が居た場合は、即座に観客を始末するとメディアに宣言してある。お前らはただ、早くスポンサーが俺達の言うことを聞くように祈るしかない」
気分が乗ってきて、更に二人を追い詰めるような言葉が口から出てきてしまった。
そんな彼を更に喜ばせるように、無線の通信音が鳴り始める。
「ほら、早速部下からお前のファンを殺した報告が来たぞ? どれ……」
敢えて無線の声が周囲に聞こえるように音量を上げ、更に二人を追い詰めようとしたゴポスだったが──。
『助けてくださいボス! ひょっとこのお面をしたイカれたシリアルキラーに我々の味方が蹂躙されています!!!』
「は?」
あまりにもワケのわからない報告にゴポスの思考が止まった。
「待て、なんだそのふざけた報告は」
『ふざけてません! 本当なんですって! くそっ、あんな物の怪が居るなんて聞いてな────ああああああああああああああ!?!!!?』
ブツッと、無線の切れた音がした。
「なんだ……何が起きている……? この会場に、何が────」
「
ゴポスの言葉を遮るように、イカれた狂人が扉を蹴飛ばしてダイナミックエントリーしてきた。
「ひょっとこのお面をしたイカれたシリアルキラーだとぉ!?」
部下の報告は本当だった。一言一句違わず正確だった。
彼の部下への教育は、間違っていなかったのだ。
「お前が頭ンナね……?」
「なんだコイツ……!? なんなんだコイツ!?」
ゆらりと刀を構える狂人に対し、ゴポスは内心焦りながらもアストラに向けて銃を突きつけた。
「テッ、テメェッ!! 動くんじゃねぇ!! こっちには人質が居るんだぞ!?」
「貴様ッ……どこまでっ……!」
歯噛みするイヴリンとは裏腹に、ひょっとこお面のイカれ狂人は、特に動揺することなく刀を鞘に納めた。
「確かに状況は良くないンナね。大人しく指示に従うンナ」
「な、なんだ……話がわかるじゃねぇか……。じゃあ、そのまま武器を捨てろ」
「わかったンナ」
そうして、狂人は言う通りに刀へ手をかけ──。
「──なんちゃって」
後ろから声が聞こえた。そうゴポスが認識したときには、自身の両腕が切断されていた。
「────は?」
油断していたわけではない。それどころか、あまりの怪しさから一度たりとも目を離さなかった。
それなのに、ゴポスには始まりから終わりまでが一切見えなかった。
(なんだ……これは!? 起こりすら視認できねぇ
「テメェ! まさか
「お黙りンナァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
余計なことを言われる前にゴポスは蹴り飛ばされた。死人に口なしである。*2
・イツキ
狂人ムーブの演技力が上がった!
それでいいのか?
・ゴポス
即興で考えたオリキャラの知能機械人さん。
末路はお察しの通り。