勇者カリナ/ソルスター世界、魔王城最終決戦録 ―少女勇者、異世界転移前の最後の足跡― 作:美風慶伍
勇者カリナ・ウィングス、行軍の先陣を切り魔族兵をその華麗なる剣技で斬り伏せる
今まさに決戦の時。
魔法の稲妻が天空を照らし勇者カリナ・ウィングスは麗しきその長い金髪を風に舞わせ、聖剣レギオンブレイドを高く掲げた。彼女は仲間たちに呼びかけた。
「仲間たちよ、この大地を我々の手に取り戻す時が来た! 力を合わせ、魔王を討つのだ!」
魔法剣士装束の
カリナは今こそ直下の魔法剣士騎士団と、その隷下の全ての軍勢に突撃の掛け声を告げる。
「炎を放て! アルカナヴァンガード! ソルスター自由連合軍! 前進せよ!」
「おお!!」
勇壮な戦士たちの雄叫びが轟く。魔法剣士騎士団アルカナヴァンガードと、それに従うソルスター自由連合軍の誇りをかけて、彼らは団長である勇者カリナと共に魔王城に向かって進撃を開始した。
壮烈なる大軍団の隊列――その、進軍の先頭に立つカリナの白磁のマントが、荒野の風を受けて大きくはためいた。
そのカリナのあとに続くのは、カリナが最も信頼する精鋭集団である〝魔法剣士騎士団アルカナヴァンガード〟
さらにその後方には、八つの国と十を超える種族の軍勢が地響きを立てて続いている。
誰もが知っていた。
この行軍の果てに待つものは、ただの戦場ではない。
この世界――ソルスターの大地において数千年にわたって人々を脅かし続けた魔王軍との最後の決戦地だ。
そして、人々をその地へといざなうのが、勇者たるカリナなのだ。
カリナは進軍のその先を見つめている。だが、その時、彼女の手にある聖剣レギオンブレイドの宝珠が淡く輝いた。
剣に宿る精霊エリュシオの声である。
『カリナ』
名を呼ばれて意識をそちらに向ける。
「エリュシオ?」
『敵影です。前方右手、岩稜の影。魔力反応、およそ四十。伏兵の可能性があります』
「わかった」
カリナは足を止めなかった。だが、その青い瞳だけが鋭く動く。腹心の仲間に声をかける。
「ミリア」
ミリアはアルカナヴァンガード初期からの仲間、斥候役として有能な山岳兵だ。
「見えてるわ」
すぐ近くを駆けていた技能士長ミリア・シルバーアイが、短く答えた。
彼女は指先で合図を送り、斥候兵たちを左右へ散開させる。
「敵は残存魔族兵。こちらの先頭を乱して、進軍の足を止めるつもりね」
重装鎧の戦士長エルリックが剣の柄に手を置く。
「どうする、カリナ。俺が重装歩兵を出すか?」
カリナは首を横に振った。
「いいえ。ここで隊列を乱す必要はありません」
「だが、敵は待ち伏せだ」
「だからこそです」
カリナは微笑んだ。
戦場に立つ者とは思えぬほど、静かで、凛とした笑みだった。
長い金髪が風に流れ、銀のサークレットが稲妻の光を受けて白く輝く。
美しい少女の姿でありながら、その背には一軍の運命を背負う者だけが持つ威厳があった。
「敵の狙いは、私たちの行軍を止めること。ならば止まりません。道を開きます」
エリュシオが穏やかに告げる。
『カリナ、無茶をする気ですね』
「無茶ではありません。先頭に立つのは、勇者の役目です」
『あなたは時々、自分が十八歳の少女であることを忘れます』
「忘れていません」
カリナは聖剣を構えた。
その表情から、先ほどまでの柔らかな笑みが消える。
「だからこそ、逃げません」
次の瞬間、岩稜の影から魔族兵たちが躍り出た。
黒い甲冑に身を固め、曲刀や槍を手にした残存兵たちである。さらに背後からは、蝙蝠の翼を持つ魔獣が数体、空へ舞い上がった。
「敵襲!」
「前方より魔族兵!」
「飛行魔獣、来ます!」
兵たちの間に緊張が走る。
だが、カリナの声は揺らがなかった。
「隊列を維持! 弓兵、飛行魔獣を牽制! 魔道士隊は前衛への防護魔法を!」
「はっ!」
「了解!」
返答の声は即座に還ってくる。その素早さは相互の信頼の証だ。
「エルリック、正面の敵は私が受けます。あなたは歩兵隊を押し上げてください」
「承知した!」
「ミリア、右手の伏兵を逃がさないで」
「任せて。ああいうこそこそした相手は得意分野よ」
カリナは聖剣を両手で握り、前へ踏み出した。
その一歩は軽やかで、しかし大地に刻まれるような重みを持っていた。
「エリュシオ」
『はい』
「レギオンブレイド、第一解放。光刃展開」
『了解。聖剣機構、第一位階解放。魔力収束――完了』
聖剣レギオンブレイドの刀身に、白金の光が走った。
魔力の輝きは刃を覆い、風を切るたびに小さな光の粒子を散らしていく。
だが――
「キェエエエエエエェッ!」
魔族兵の一体が奇声の咆哮を上げ、カリナへと斬りかかった。
「勇者カリナ! 覚悟ぉおおっ!」
カリナは攻めてくる敵の動きに立ち向かうように自らも素早く進み出る。軽く身を沈めて、敵の剣先の動きを紙一重でかわし流れるように聖剣の刃を返す。
「はあっ!」
白い閃光が走り、魔族兵の曲刀が弾き飛ばされ、甲冑の胸部が切り裂かれる。
さらに二体目、三体目が左右から襲いかかったが、カリナは舞うように身を翻した。
白磁のマントが風にたなびき金髪が光を帯びて踊る。
その姿は戦場に咲く花のようでありながら、振るわれる剣は疾風そのものだ。
「遅い!」
一閃。
二閃。
三閃。
迫る魔族兵たちは、カリナの間合いに踏み込んだ瞬間、次々と武器を砕かれ、膝をつかされた。
だが、空から飛行魔獣が急降下する。
『上です、カリナ!』
「見えています!」
エリュシオの声にカリナは聖剣を左腰に貯めると視線を飛行魔獣へと向ける。
「エリュシオ! 斬撃を飛ばします!」
『了解、力場形成、斬撃を投射します』
カリナの剣技の抜刀と、エリュシオが放つ魔道力場――、これが組み合わさり斬撃が飛翔していく。
――ヴォッ!――
豪旋一発――、放たれた理力の斬撃が、空を裂いた。
飛行魔獣の翼を貫き、敵は悲鳴を上げて地面へ落下する。
続いて、弓兵隊の矢と魔道士隊の追撃魔法が降り注ぎ、空の脅威は瞬く間に制圧された。
「すごい……」
後方の兵の誰かが、思わず声を漏らした。
「あれが、勇者カリナ……」
「違うぞ」
その声に、エルリックが短く返した。
「あれが俺たちの団長だ」
そのカリナは、表情を引き締め、周囲の兵たちへと振り返る。
「負傷者の確認を! 敵の降伏者は武装解除のうえ後方へ! 隊列を再編します!」
「はっ!」
「進軍は止めません。ここで足を止めれば、敵に時間を与えます!」
その声に、ソルスター自由連合軍の兵たちは一斉に動き出した。
誰もが見ていた。
勇者が先頭に立ち、自ら剣を振るい、恐れず、迷わず、けれど命を軽んじることなく戦う姿を。
それは、ただ強いだけの英雄ではなかった。
美しく、凛々しく、そして誰よりも人の痛みを知る少女の姿だった。
エリュシオが囁く。
『カリナ。あなたの背を、皆が見ています』
「えぇ、識っています」
カリナは聖剣を鞘に収め、前方にそびえる黒き山脈を見据えた。
「だから、私は前を向きます」
そして再び、勇者カリナは歩き出す。白きマントを翻し、聖剣を携え、数多の軍勢を導いて。
人間たちの領域を取り戻す戦いは、すでに終わりへ近づいていた。だが、魔王軍との戦いそのものはまだ終わらない。
彼女たちが目指す先には、セプタリアとノクティルを隔てる魔の山脈――シャドウクレストが待ち構えていたのである。
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勇者カリナ・未来戦線クロスロード https://syosetu.org/novel/415520/