勇者カリナ/ソルスター世界、魔王城最終決戦録 ―少女勇者、異世界転移前の最後の足跡― 作:美風慶伍
【――ダークスウォンプ駐屯地――】
グレインリーフ王国国防兵軍が主力となり、エルフ部族連合戦闘団が補佐、ドラゴン系種族軍団の一部が支援する。弓矢や銃火器に秀でた兵がドラゴンと共に空から急襲、敵を混乱に陥れている間に地上部隊が突入、エルフの魔法と、グレインリーフの地上戦力、その組み合わせにより魔族兵は敗退し、早期に降伏が申し入れられることと成った。
「わ、我々は全ての抵抗を放棄し降伏する」
ボロボロの下級魔族兵が名乗り出る。装備も糧食も満足に得られていない状態で、長期にわたる兵糧攻めをくらったかのような様相だ。それに対応したのはグレインリーフのエルビスと、エルフ部族連合代表のヴェネラ女史だった。ヴェネラが睨みつけながら答える。
「ふん、その様子だと満足な支援も得られていない状態のようだな」
「ほ、本部からの支援は止まった。魔王城本体を守るために全ての資源を集中させるとの判断からだ。我々は死を覚悟した特攻を命じられた」
「連敗に次ぐ連敗で
エルビスも冷静に語る。
「貴様らが劣勢に立たされているのは分かっていたが案外脆かったな。しかし、命じられた通りここを死守する意思はお前らにはないのか?」
魔族兵の指揮官は顔を左右に振る。
「無い、今では魔王軍を見限らなかったことを後悔している」
その言葉にヴェネラはもとより、全てのエルフたちが怒りの表情を浮かべる。
「白々しい! 今更遅いわ!」
エルフ勢は魔王軍に悲惨な目に合わされ続けた。そこにグレインリーフのエルビスが語りかける。
「落ち着け、ヴェネラ。彼らを責めても始まらん」
「む――、たしかに」
「それよりだ」
エルビスはヴェネラをたしなめると、籠城していた魔王軍兵に告げた。
「今からしばしの間、すべての攻撃を停止する。その間に全ての武装を放棄しここから立ち去れ。逃げる者は追わん」
「ほ、本当か?」
「あぁ、確約する」
その言葉に魔族兵たちは驚いてざわめき出す。それを尻目にヴェネラがエルビスに尋ねた。
「意図的に逃がすのか?」
「あぁ、ざっと調べ上げたが、ここに残留している魔族兵は正真正銘に低魔力の下級兵だ。ここで逃しても戦局には影響はない」
「なるほど――、大した魔力もないか」
「魔王軍本体に合流しないと言う前提だがな」
「ふむ――」
ヴェネラも目の前の籠城兵たちをつぶさに観察した。眺めるだけでも瀕死ギリギリの兵士が大半だった。それだけ補給も支援も断たれているのだ。ヴェネラもエルビスが何を考えているか察した。
「なるほど、ここから逃げるにも道すら見つからないか」
エルビスとヴェネラは視線を合わせて頷いた。そして、駐屯基地の代表者と思しき人物を呼び寄せる。
「おい」
ヴェネラの声に、年かさの行った魔族兵の一人が顔を上げて駆け寄ってくる。
「は、はい」
その彼にヴェネラは告げた。
「お前たちに道を示す。ここから東北東に向かえ。現状、廃棄された軍事作戦にも使われぬ廃峠がある。そこなら、魔王軍本体にも、他の自由連合軍勢力にも見咎められることなく逃げられるだろう」
「ほ、本当ですか?」
「あぁ、本当だ。ただし!」
その言葉の続きを語ったのはエルビスだ。
「慈悲を示すのは一度きりだ。過酷な峠越えになるだろうが、現行の魔王軍に与した魔族に対する怒りを沈め、禊を果たすにはそれしかない。天がお前たちを赦せば生き残る機会も得られるであろう」
それは全滅を覚悟した籠城兵に対する最後の慈悲だった。
「か、かたじけない――」
こうして内密に逃亡が見逃されたダークスウォンプ駐屯地の籠城兵だったが、その後、この逃亡勢から魔王軍に再合流したものや、残党軍入りした魔族兵は現れなかったという。