勇者カリナ/ソルスター世界、魔王城最終決戦録 ―少女勇者、異世界転移前の最後の足跡― 作:美風慶伍
【――シェードヴェイル塔――】
3つに分かれた部隊のうち、エーテルノヴァ国家近衛軍、女子魔導士飛行隊エーテルウィングス、グラスランナー部隊はシェードヴェイル塔へと向かっていた。エーテルノヴァの近衛軍は飛行手段を持たない兵も存在するため、若い翼竜ドラゴンの力を借りた。この翼竜ドラゴンたちを束ねエーテルウィングスの魔法使いの少女たちを支援するのはライトニングドラゴンのラピデスであった。
エーテルノヴァを率いる指揮官シルヴィアはラピデスに語った。
「ご覧ください、ラピデス様、あれがシェードヴェイル塔です」
『あれね? あの、3本の塔とそれをつなぐ構造部で作られた』
塔と言うよりは城と言ったほうが良さそうな代物であった。
「はい、まだ距離は離れていますがここからでも強力な魔導の余波を感じます。やはり事前の想定通り直接攻撃は非常に危険かと」
『あれは魔王軍切っての大魔道士ヴァルターの研究施設、絶対に何か仕込んでいると想定していましたがやはり予想通りでしたね』
「では?」
『包囲攻撃の案でまいりましょう』
「了解です」
シルヴィアはラピデスと話し合い方針を決定すると部隊全体に伝達する。
大型ドラゴンは人間にまさるとも劣らない知性を有するが、ラピデスは大型種のドラゴンの中でも事さらに鋭い知性を持っていた。それ故にか、日々魔導学で研鑽を続ける女子魔道士飛行隊の魔法少女たちとは事さらに仲が良かったのだ。
「攻撃方針を直接制圧から、レイクハート封印術による完全封鎖に切り替える。封印結果が完成次第、ラピデス様の大型雷撃により一気に制圧する!」
「了解!」
この部隊の魔法戦力である女子魔導士飛行隊エーテルウィングスは速やかに展開する。飛行魔法術の媒介として箒や杖や船の櫂や鞘に収まった長剣など、様々な物にまたがって彼女たちは宙を舞っていた。そして、シェードヴェイル塔を包囲するように数十人の女子魔導師たちが配置を完了した。
「配置完了! ただちに封印結界開始いたします」
レイクハート封印術は七百年前のいにしえのレイクハート三兄妹の大魔導士により完成された対ドラゴン用の封印魔法の一つである。複数の魔導士の連携により発動するこの魔法は現在も継承され形を変えて超大型の完全封印結界魔法として様々な局面で用いられるようになっていた。
この大型封印魔法の発動を管理するのは、エーテルウィングスを率いるルクレティアだった。
「領域展開完了後、詠唱開始! 30秒後に術式発動!」
「了解!」
女子魔導士たちの可愛らしい詠唱の声が響く。それを統括するようにルクレティアは粛々と作業を進めた。
「1番から60番まで封印術結界展開確認! 封印結界発動に移行します!」
「了解!」
さらにラピデスも動く。
『封印結界の完成後に私の雷撃魔法を接続します』
「はい、私の真名を鍵として接続してください」
『心得ました』
魔法と魔法はつなぎ合うことが可能だ。その鍵となるのが〝真名〟であり、魔導士としての秘された名前を導入路として他者との魔法の力をつなぐのである。
「魔法発動要素、1号から60号まで確認! 超広域領域魔法! レイクハート封印術改良型リレーショナルマジックフィールド! 発動!」
――キュィイイイイッ! ゴォオオオンッ!――
複数の魔法要素が連結しあい完全な封印結界が完成する。だがその時、シルヴィアがあることに気づいた。
「建物の中から守備隊らしい連中が出てきたわ」
ラピデスが冷笑する。
『もう遅いわ。ルクレティア・ベーリー・オルクスを接続対象としレイクハート封印大結界に対して、我ラピデス・トナンスの名において大型雷撃魔法を発動する!』
そして、ラピデスの頭部の角と、背中の翼の先端から、凄まじい熱量の雷撃が放射され封印結界に対して注がれた。
『
魔法詠唱とともに雷撃は炸裂する。そして封印結界の内部は雷撃で満たされた。これに抗える生命はいない。観測者である女子魔導士たちが報告する。
「確認、結界内に行動する生命体、及び作動する魔導要素一切ありません」
「対象の完全沈黙を確認いたしました」
ルクレティアが答えた。
「ご苦労様、こちらでも確認したわ。シルヴィア様」
「心得ました」
指揮官であるシルヴィアが指示を発する。
「建物内にさらなる仕掛けが残されている可能性がある。十分に注意して封印結界を解除、しかる後に降下して一気に制圧する!」
「はっ!」
制圧命令が下りエーテルノヴァの近衛兵たちが飛竜ドラゴンと共に降下して砦の制圧に動いた。こうしてシェードヴェイル塔は一切の損失を生じさせずに制圧に成功したのだった。