勇者カリナ/ソルスター世界、魔王城最終決戦録 ―少女勇者、異世界転移前の最後の足跡― 作:美風慶伍
――ズヒュッ――
槍を引き抜き振り回して血を払う。そこにカリナの声がかけられた。
「ケラブノス!」
声に気づいて振り向いたケラブノスは片膝を突いて頭を垂れた。
「聖剣の巫女様――合流が遅れ申し訳ございませぬ」
彼の口から最初に漏れたのは謝罪だった。
「敵の騎馬襲撃部隊の攻撃密度と、さらなる増援の魔獣部隊が手堅く、時間を取られてしまいました。ですが――」
ケラブノスは顔を上げてカリナを見つめ返す。
「巫女様がお送りくださった英霊の助力とお力添えにより形勢を逆転させることが出来、敵部隊を撃ち倒してまいりました」
「重畳です! 任務の達成と再合流――牙狼騎士団のゲオルグともども、誠に見事です!」
「恐悦に存じます」
そう答えてケラブノスは立ち上がる。だが、カリナは一つだけ居ない者に気づいた。
「英霊のナハル・ニヴ様は?」
「蛇神様は役目を終えてお還りになられました。現世勇者によしなに頼むと申しておられました」
「そうですか」
最後まで挨拶を残していったケルヴェロス・スタールと異なり、ナハルは馴れ合いを好まないようだ。そのサバサバした人柄に思わずカリナの口元に笑みが漏れた。
そして、ゲオルグとケラブノス、両人並び立つとカリナの声を待った。
「両名とも任務達成見事です。現況をお願いします」
「は――」
ケラブノスが更に言葉を紡ぐ。
「先行して魔王城周辺に直行、周辺一体に潜伏する伏兵や通常の警備部隊は完膚無きまで討ち果たしております」
ゲオルグも牙を向いて答える。
「残るは魔王城内の残党のみ! 姐御! ご命令を!」
更にそこに他のアルカナヴァンガードたちも駆けつけてくる。
「カリナ! アルカナヴァンガードの後続も集結! いよいよだ!」
「ええ! まさに――」
牙狼騎士団とリザードマン兵団の生き残りも加わり、魔王城本城攻略には十分すぎるほどの手勢である。
「今こそ機は熟しました。総員覚悟を決めてください!」
「はっ!」
一斉に声が返り、
勇者カリナ・ウィングスは聖剣レギオンブレイドを握り、漆黒の魔王城ダークフォージを睨む。
側近のエルリック、ソフィア、ミリアが周囲を固め、進軍準備を整える。
ドラゴン種族を束ねるマルセウスも
ドラゴンはその巨躯ゆえ、人との交流に難があるが、霊的な分離体を作ることで交流を用意にしているのだ。
マルセウスは、まるでいにしえの時代の青年貴族のようなチュニックスタイルで現れると、カリナに向けて報告を始めた。
「聖剣の巫女様、翼竜ドラゴンにより、周辺地域に、さらなる守備部隊の展開は皆無とのこと、各軍は魔王城周辺の支城攻略を進める旨、ご報告申し上げます」
「重畳です! 今こそ、魔王城に向けて一気に駒を進めます!」
戦いは流れと勢いだ。総指揮官たるものは、その流れと勢いを読み取ってこそ役目が果たせる。
「ご武運を」
そう、言葉を残して、マルセウスは再び大空のドラゴンの本体へと還っていった。
カリナは覚悟を決めて自ら進み出ると抜剣する。そして、剣を魔王城へと突きつけながら高らかに叫んだ。
「進め! 残るは魔王城ダークフォージただ一つ! 今こそ、魔王の牙城を切り崩すぞ!」
「おおおおおっ!」
「進軍!」
そして、カリナたち魔法剣士騎士団アルカナヴァンガードと、リザードマン及び牙狼騎士団の連携部隊は魔王城の領域へとなだれ込んだのだった。